ロンドン・コロシアム前にて大重です

大重わたる「トンネルをぬけるとロンドンにいました」 第1回 [バックナンバー]

演劇の街からこんにちは

笑いで会場が揺れる?築120年の劇場から「千と千尋の神隠し」をレポート

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2022年に初演され、今年3月に日本で3度目の上演を迎えた舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」(以下「千と千尋の神隠し」。ジブリアニメを演劇的な手法で想像力豊かに立ち上げた本作が、4月以降、二手に分かれて日本とイギリス・ロンドンで上演されている。初演より「千と千尋の神隠し」に出演している、夜ふかしの会のメンバー・大重わたるは、このたびロンドン・コロシアムでの公演に出演するために初渡英。このコラムでは、“演劇が生活に溶け込む街”ロンドンで日々舞台に立つ大重が、「千と千尋の神隠し」ロンドン公演出演への実感や、現地での観劇レポートを届ける。

毎日が夢のようです

ロンドンにて舞台「千と千尋の神隠し」に湯屋組アンサンブルとして番台蛙を演じています、大重わたるです。

今回で3回目になる「千と千尋の神隠し」では新たに油屋チーム、湯屋チームと分かれまして、油屋チームが日本公演、湯屋チームがロンドン公演として上演する事になりました!

僕は湯屋チームとして、日本から飛行機に揺られ14時間、長旅の末にイギリス・ロンドンにたどりつきました!

今、人生初のロンドン生活を送ってます。毎日が夢のようです(笑)。

本当に気持ち良い街で、

洋風でモダンなコンクリート造りの建物が、昔のまま建っています。

建物一つ一つに、格式高い雰囲気があり、教会やパブやカフェがいたる所にあります。

こちらでの生活が1カ月経ち、新しい環境に少しずつなれてきました。「千と千尋の神隠し」、舞台について色々レポートをしましたので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

ロンドン・ソーホー地区の裏路地

ロンドン・ソーホー地区の裏路地

「sprited away」を宣伝しているバスとビックベン

「sprited away」を宣伝しているバスとビックベン

まずは、公演を行っている劇場について

今、毎日通っているのが、ロンドン・コロシアムという劇場です。地下鉄でエンバンクメント駅近く、ソーホーという地区にある劇場です。

周りに劇場が沢山ある所で、タクシーやバスで連日賑わっているお芝居が宣伝されているのをよく見かけます。ミュージシャンや路上ライブをやる大道芸人がいて、シェイクスピアが沢山芝居を作った街でもあります。200年以上前にできた劇場があり、それだけこちらの人たちは演劇が好きなのだということがわかります。

ロンドン・コロシアムは120年の歴史があるオペラハウスで、120年前から残された客席は煌びやかで、大理石と石のオブジェがいたるところにあり、神々しい雰囲気を感じます。客席後ろにあるオブジェがたまにお客様と一緒に笑い出す事がある、という噂があるほどユーモアや笑いを愛する劇場みたいです。

120年前から建っているロンドン・コロシアム

120年前から建っているロンドン・コロシアム

客席上段

客席上段

バルコニー席

バルコニー席

「千と千尋の神隠し」、連日満員御礼です!

「千と千尋の神隠し」の客席数は約2300で、舞台の上手と下手の2箇所と、舞台上幕に字幕がうつしだされます。

ロンドンに来て感じた事としては、お客さんがとにかく笑い、リアクションをしてくれることです。笑いが起こる瞬間は、建物が揺れるかのようです。そして温かい拍手、歓声は役者にとって本当に力になります。

それだけお客さんが、作品とカンパニー全員を受け入れてくれてるんだ、ということを感じます。

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

帝国劇場とロンドン・コロシアムを比べると、アクティングエリアは帝国劇場よりも小さめな印象があり、小道具やパペットなども日本より重さが増した印象です。

日本で使っていた小道具を新しくこちらで作った物に馴染ませていく作業は、なかなか大変でした。

セットや衣裳について

場面が変わる際、日本公演でのセットチェンジを日本スタッフからUKチームに伝達する期間があり、今はUKスタッフの皆様が動いてくださってます。

特に印象的だったのは、セットで使う襖(ふすま)の取り替えです。

UKには襖という文化がなく、場面が変わる時に、一枚一枚、分けられた枠に襖をはめる作業が大変そうでした。

「千と千尋の神隠し」では衣裳が和物です。UKでは和物への感覚が日本に比べたらありません。そこをUK衣裳部のみなさんは親身になって考えてくださってます。和物の扱いや、どうやったら綺麗に見えるか、早替えや日々の衣装の直しなど、毎日本当にありがたいです。

衣裳部の皆様。左から、ジョン・マニオンさん、エリアナ・ルイズ・ヴェガさん、インマカルダ・クックさん、ハリエット・ウォーターフォールさん、アビゲイル・ハルスさん、柴望美さん。

衣裳部の皆様。左から、ジョン・マニオンさん、エリアナ・ルイズ・ヴェガさん、インマカルダ・クックさん、ハリエット・ウォーターフォールさん、アビゲイル・ハルスさん、柴望美さん。

UKチームにはユニオンという労働組合があり、ルールによって作業時間が決まっていて、その時間内に仕事をして、休みもしっかりと取ります。日本の労働環境では休みを返上して仕事をする方もいます。その点に関してはイギリスと日本の違いを感じました。

沢山コミュニケーションをとる方が多いので、現場が本当に明るく、よく笑い声が聞こえてきたり、UKチームの会話を聞いてると楽しそうな雰囲気が、伝わってきたりします。

ここで、舞台裏でUKチームの音響として働いているテスさんとソフィーさん、音響チームの通訳・徳丸ゆいのさんにインタビューしました。テスさんは舞台関係の仕事歴10年の音響さん、ソフィーさんは音響マイク管理、徳丸さんは渡英前、日本で大小さまざまな舞台を観ていたという方です。

音響チーム。左からテス・ダクルさん、徳丸ゆいのさん、ソフィー・ヤングさん。

音響チーム。左からテス・ダクルさん、徳丸ゆいのさん、ソフィー・ヤングさん。

テス・ダクルさん(音響チーム)

Q1. あなたの役職を教えてください

私のこのプロダクションでの現在の役割は“サウンドNo.2”です。

大抵、イギリスでのサウンドNo.2の役割は、“バックステージの中心になる”ということです。具体的には、

  • スタッフのインカムの管理
  • 舞台裏の音響チームの動きを管理する
  • 公演期間に消耗する音響の備品などを発注する
  • キャストのマイクを監視し、マイクの損傷など生音に問題がないことを確認する
  • オーケストラピットの中で問題が起こっていないか注意を向けておく(マイクの損傷、キーボードの問題、オーケストラへのモニターヘッドホンの問題、指揮者モニター画面の問題等)
  • 音響チーム、オーケストラチームが快適に仕事ができる環境を整える

これらに加えて、一般的にUKのプロダクションでは音響卓のポジションの“カバー”として、オペレーターの仕事も学びます。これは、UKプロダクションでは、公演中は最低2人のオペレーターが必要だからです。

今回の作品では、私が日本語話者でないため、音響のカバーとして努力しないといけないなと思っています。

Q2. これまで舞台ではどんな仕事をされてきましたか?

私は舞台関係で10年以上働いています。

2008年から2011年にかけてサウンドエンジニアリングとプロダクションについて学んだのですが、内容はシアターに関することではなくサウンド全般の仕組みや働きに関する勉強でした。

私の地元の劇場では研修生としての雇用機会がなかったため、2012年にロンドンに引っ越して、少しずつシアターのサウンドチームでの経験を積み、自分の道を確立していきました。

初めてサウンド No.2のアシスタントとして公演に携って以来、舞台の仕事に落ち着き、最近では「となりのトトロ」公演で自分が中心となってサウンドチームを指揮するようになりました。

Q3. 休みの日は舞台を観に行きますか?

この質問にはイエスと答えなければならないと思っているのですが、本当に観たい舞台がない限りあまり舞台を観に行きません。

劇場関係者に知り合いが多いので、観劇にさまざまな選択肢があることは幸運なことだとは思うのですが、普段仕事で長い時間暗闇の中にいることが多いので、休みの日は外に出て景色を見たり、友達や家族と過ごしたりするようにしています。

おかしなことに、当初はプレスナイト(初日)だった5月7日の私の誕生日にこの舞台(「千と千尋の神隠し」)のチケットを予約するつもりでしたが、結局素敵なカンパニーの皆さんと働いて、誕生日を過ごすことになりました。

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

ソフィー・ヤングさん(音響チーム)

Q1. これまで携わってきた仕事について教えてください

私はプロの舞台業界でのキャリアとしては比較的新人のほうです。1年半前、コロナのパンデミックの後に以前働いていたヘルスケア関係の仕事からキャリアチェンジしました。

ですので音響に関して形式的なトレーニングはしたことがありません。でも、ライブミュージックやキャバレーで音響の仕事を断続的に7年間ほどやっていた経験がありました。「千と千尋の神隠し」は私にとって4つ目となるプロの舞台の現場で、それ以前は「King and I(王様と私)」のUKツアー、Old Vicで「Groundhog Day」、「Death Drop: Back in the Habit」のUKツアーで働いていました。

Q2. 出演している日本の役者についての印象を教えてください

「千と千尋の神隠し」のキャストの皆さんは、言語や文化、業界のしきたりといった違いはあれど、私が今まで一緒に働いてきたキャストの中で一番素敵でプロフェッショナルだと感じます。皆さん常に時間に忠実で、自分のことは自分で管理するので、私の仕事を楽にしてくれていますし、私たちUKのサウンドチームが仕事を滞りなく行うための理解があります。コミュニケーションは難しいですが、皆さんとする会話はいつも興味深いです。

Q3. 「千と千尋の神隠し」で印象的な場面を教えてください

とても難しいですね。でも、一つ選ばなければならないとしたら、ドラゴンハクと千尋が湯婆婆の部屋の穴から落ちるシーンです。パペティアの役者さんたちが素晴らしい動きをされている上に、照明と音楽がとても感動的です。落下を舞台で表現するのは難しいと思いますが見事に美しいシーンが完成していると思います。

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

徳丸ゆいのさん(音響セクション通訳)

Q1. イギリスでは大きな作品でも、プロダクションごとにスタッフを募り、チームを編成すると聞きました。今いるUKスタッフチームもそうですか?

UKチームは人それぞれ所属が違います。劇場で雇われた小屋付きスタッフ、UK側のプロデューサーであるPW Productionsが雇った各技術部門専門の会社からこの公演に配属されたスタッフ、PW Productionsに直接雇われているスタッフなどです。

Q2. 「千と千尋の神隠し」メンバーの印象を教えてください

日本の初演から関わっていらっしゃる方が多いと聞いていたのもあり、皆さんのチームワークの良さが印象的でした。さらにイギリス側のスタッフとも言語の壁を越えて積極的にコミュニケーションされていて、現場をみんなでより良くしようという雰囲気を感じます。

イギリスでは定期的にティーブレイクが挟まれるなど仕事と休みを適度に切り替えながら、時間をかけて段取りや人同士のコミュニケーションを形成していく文化があるような気がしますが、日本のキャストさんもスタッフさんも長時間の稽古にも集中力を切らさず黙々とやられている印象があり驚きました。

Q3. イギリスの役者と日本の役者の違いがあれば、教えてください!

イギリススタッフのチームによく言われるのは、「日本の役者さんは他のスタッフに対して思いやりがあり、必要な身の回りの調整を各々でされていて驚く」ということです。たとえばUKのプロダクションでは音響スタッフがマイクを楽屋まで持って行ったり、一人一人に対してフィッティングを行ったりするそうですが、日本の役者さんはそれぞれのルールを自分たちで管理しているので、円滑にいく。そのことに感心するそうです。

逆に言えば、イギリスのプロダクションでは役職ごとの棲み分けが明確になっているところがいい点だと感じます。私がUKプロダクションに携わる時は、日本以上に組織的で明確なスタッフ構成になっていることが多く、一つ一つの仕事の責任の所在や管轄を明確にするための話し合いが何度も行われるので、役者さんもスタッフに多くのことを頼ります。

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

「舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』」イギリス・ロンドン公演より。(Photo: Johan Persson)

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

ロンドン公演は今年8月24日までで、全135ステージ。

3年前、初めて出演した「千と千尋の神隠し」の初演では、地方公演もふくめると102回のステージをやったので、今回は、初演を超えるステージ数です。

演出家のジョン・ケアードさん、その奥様であり通訳の今井麻緒子さんが、5月7日の初日を終えて

「これからがあなた達の旅の始まりです」と言った言葉が忘れられません。油屋チームも博多座公演を終えて、大阪、北海道と旅をしていきます。

僕たち湯屋チームも8月までどんな旅が待っているのか。毎日を、一瞬を感じ、長いトンネルを抜けたらどんな景色が待っているのか、本当に楽しみです。

最後まで悔いの残らないように一日一日を、ウエストエンドの空気を感じて、思う存分楽しんでみたいと思います!!

劇場正面玄関

劇場正面玄関

次回は、ロンドンといえば、シェイクスピア!

本場グローブ座の「から騒ぎ」を観に行ってみたいと思いますので、お楽しみに!!

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大重わたる

1982年、東京都生まれ。コントユニット・夜ふかしの会のメンバー。2010年R-1グランプリ準決勝進出、2012年キングオブコントファイナリスト。野田秀樹が立ち上げた東京演劇道場に参加。自身が主宰する大重組を旗揚げ、2023年に野原高原の名で構成を手がけた「昔、喰べた花」を上演した。舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」には2022年の初演より出演。そのほかの出演作に、舞台「モノノ怪~化猫~」など。11月27日よりかみむら文庫「御社のチャラ男」に出演する。

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