大重わたる「トンネルをぬけるとロンドンにいました」 第2回 [バックナンバー]
“屋外劇場”グローブ座でシェイクスピア劇を観る
演出家のショーン・ホームズに突撃インタビュー
2024年10月2日 13:00 2
2022年に初演され、今年3月に日本で3度目の上演を迎えた舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」(以下「千と千尋の神隠し」。ジブリアニメを演劇的な手法で想像力豊かに立ち上げた本作が、4月以降、日本とイギリス・ロンドンの二手に分かれて上演された。初演より「千と千尋の神隠し」に出演する夜ふかしの会のメンバー・
グローブ座でシェイクスピア!
ロンドンにて舞台「千と千尋の神隠し」に出演していました、大重わたるです!
第2回のコラムは“グローブ座でシェイクスピア!”ということで、テムズ川沿いにある、グローブ座にてシェイクスピア劇「Much Ado About Nothing(から騒ぎ)」を観劇してきた様子をお伝えします!
舞台「千と千尋の神隠し」で通訳をされている河井麻祐子さんの計らいで、演出家のショーン・ホームズさんとお話しする機会もいただきました。そのことも書きましたので、ぜひ最後まで読んでください!
まずはグローブ座について。
ロンドン・サザーク、テムズ川沿いに立つグローブ座はアメリカ人俳優兼映画監督サム・ワナメーカー氏によって設立されたそうです。野外グローブ座(1997年に設立)とキャンドルライトを照明に使用するサム・ワナメーカー・プレイハウス(2014年に設立)の2つの会場があります。両会場で、年間を通じて新しい作品(シェイクスピア劇新作を含む)を上演しているそうです。
最初は今とは別の場所にあり、1599年に初代グローブ座ができたそうです。1613年に火災が起き、時を経て、400年前の劇場に近い形で再現され、造られたのが今のグローブ座です。
どこを見ても、うっとりとしてしまう劇場です!!
まず驚いたのは、立ち見席はなんと8£(約1600円)から観劇できるということ。これは本当にすごい。日本だとなかなか考えられない料金! シェイクスピア劇を誰でも気軽に演劇を楽しんでほしい、という想いが伝わってきます。
この物語は二組の恋人同士を中心に話が展開していきます。
ベネディックとベアトリスが策略にかかって互いに対する愛を告白するようになる一方、クローディオが恋人ヒーローを不実だと思い込んで結婚の祭壇で拒絶する。ベネディックとベアトリスは協力してこの間違いを正し、最後は二組が結ばれるのをダンスで祝って終わります。(簡略)
想像を掻き立てる舞台
400年前にタイムスリップ!
劇場に入ると、まるで昔の舞台の空間に居るかのように感じました。
柱や天井など構造に使われている木々たちの佇まいが素晴らしく、劇場の装飾が芸術作品のようです。
見渡すかぎり清楚で、おしゃれで、趣きがあり、落ち着きがあって、そしてまるで当時の匂いが漂ってくるかのようです。
舞台上を照らすのは自然光、そしてマイクは無し(地声)、役者はお客さんに語りかけるようにセリフをしゃべります。
役者1人がしゃべるとお客さん全員の視線が役者に集まります。
観客はセリフを聞きのがさないよう、食い入るように役者がいるほうを向き、役者は場面の合間に客いじりをします。アドリブなんじゃないかと思うくらい、その客いじりがまたうまい! 役者は、使っていた小道具をお客さんに平気で渡したりします(笑)。
しばらくすると、また別の役者が客席を通って入ってくる。子供にハイタッチをしたり、ステージ前にある立ち見席のお客さんの中に隠れると客席が木や草にも見えたり、もはやお客さんは出演者で舞台の一部、1人の役者的な存在になるわけです。
この仕掛け、演出がたまらない!!
そして出演者全員、お客さんの注目を自分に集めるのが本当に上手なんです!
また、芝居途中に楽団が演奏をする場面があります。その楽団の奏でる音楽がとにかく心地が良いんです。1人ひとりが違う楽器を奏でますが、その絶妙な旋律がまるでセリフを語っているかのようにも感じました。
音楽についてパンフレットにも書いてあり、とても印象的だったので一部抜粋して載せておきます。
観客は皆、劇中の音楽の断片が持つ直感的な力を知っている。
その役割が、元気づけること、味覚をリフレッシュすること、物語を語ること、または単に観客に楽しい時間を与えることであろうと、歌とダンスを通して前面に押し出される音楽と音の力がよく理解されており、その理解度は決して否定できません。
しかしおそらくさらに強力で、より気まぐれで、より不安定なのは、音があまり目立たない瞬間かもしれません。会話の中にある単調でかすかな単音のようなものでも、物語に色を添える驚異的で薄れない力を持っています。簡単に言えば、それは観客が起こっていることに対する感じ方を変え、完全に意識的であるかどうかにかかわらず、緊張、勢い、動機、方向に対する私たちの認識を導きます。そしてさらに重要なことは、単音はいつ静かになるか? そしてどのように静かになるか? 突然か、徐々にか? 音が止まる瞬間は、必然的にそれ自体が劇的な瞬間を形成します。意図的であるかどうかにかかわらず、物語への介入である音楽と音は強力です。
「Much Ado About Nothing(から騒ぎ)」パンフレットより。
公演終わりに、演出家のショーンさんにインタビューさせていただきました!
ショーンさんはイギリスの演出家で、グローブ座のアソシエート芸術監督であり、リリック・ハマースミス劇場の元芸術監督です。近年ではPARCO劇場開場50周年記念シリーズ「桜の園」、「セールマンの死」「リア王」など、日本の演劇界でも演出を手がけています。
Q. シェイクスピア劇を演出をするうえで意識していることはありますか?
常に400年前と今に橋をかけようとしています。役者たちは、現代のロンドンにいるわけですが、舞台上では当時の人のようでもあります。つまり、空間が求めているものを演じてもいるわけです。400年前の役者もきっと同じことをしていたと思います。
Q. 衣裳についての意図を教えてください。
僕は、現代の衣裳や設定でやることが多いのですが、今回の「間違いの喜劇」は社会的コメディなので、観てすぐに、これとわかる世界を提示しなければなりません。昔は、主人と召使い、金持ちと貧乏人、夫と妻などの関係性が一目見てわかるほど明確でしたが、現代ではカジュアルな格好をしている億万長者もいますし、カジュアルな格好をしている貧乏な人もいます。そのため、服装でその人の社会的地位がわかるように意識しました。
Q. シェイクスピア劇をやるうえで、特別なメソッド(演技方法)はありますか?
シェイクスピア劇に特にメソッドはありません。ただ、英語で(原作を)読むと、シェイクスピアはたくさんのヒントを残しています。例えば韻を踏んでいるところはしっかり韻を踏ませなければなりませんし、「To be, or not to be」や「黒か白か」「暑いか冷たいか」といった、相反するものを並べている部分が常にあるので、それを探します。また、韻文は弱強五歩格書かれています。だからといって、役者が皆、常に弱強五歩格のリズムでセリフを言っているわけではありません。ただ、戯曲の中で弱強五歩格が途中で切れている部分があれば、役者はここは止まるところなんだなということがわかります。
また、シェイクスピアの戯曲は階級社会の概念とも強く結びついているので、シェイクスピアは自分のものではないとか、シェイクスピアをやるには学術的でなければいけないと思う人もいます。でも、さまざまなバックグラウンドの役者がいるこのカンパニーの「間違いの喜劇」をご覧になって、役者それぞれがシェイクスピアを自分のものにしていると感じていただければうれしいです。
この劇場で作品を上演すると、まるでミュージカルをやっているかのようだと気付きました。ミュージカルでは決められた音符を歌い、ステップを踏むために、客観的でいなければならない部分がありますよね。でも、芝居は往々にして主観的で、何が良くて、何が悪いかという判断が難しい。確実に言えるのは、この舞台上で演じるには、身体ができていなければならないし、頭脳が明晰でなければいけないし、声がしっかり出なければならない。そのうえで、飛行機が上空を飛んだり、お客さんが拍手したり、大きな声で叫んだりする中でも“生きて”いる必要があります。そのために客観的である必要があるんです。そのライブ感で言うと、ベネディクトを演じるエコーさん(Ekow Quartey)にはいつも驚かされます。長ゼリフ(独白)の演じ方が、基礎的な部分は変わらないのですが、毎回色合いが違うんです。僕が渡したノートはしっかりとやってくれているのに。どうしてそういうことができるのだろう?と不思議に思います。
そして劇場にいる全員の人に毎回語りかけます。シェイクスピア作品の鍵となるのは、登場人物がお客さんに話しかけているときは、それが彼でも彼女でも、登場人物はお客さんは自分と同じような人間だと思うことです。例えば自分が「オセロ」の悪役イアーゴだとしても、いかにも悪役として、悪いことを演じるわけではなくて、「僕はこれからこういうことをします。なぜならばそれが論理的なこと、筋の通ったことだから」というふうに演じます。それで、お客さんも「そうか」と思うわけです。つまり、観客はその登場人物の頭の中に入っていっているのです。
Q. 舞台を観て、この空間とお客さんと役者の一体感は日本ではなかなか味わえないと思いました。観客いじりがアドリブのようにも感じましたが、実際にアドリブの部分はありましたか?
アドリブ的なところはほとんどありません。正確さと自由さが混ざり合ったところに何かがあるのではないかと思います。そのために僕がやらなければならないのは、しっかりとした枠組みを作ること。その物語がどんな世界なのか、登場人物たちがどういう道筋を歩んでいるのかを提示しながらも、枠組みの中に余白があるように作って、役者に渡す。大事なのは、役者に自信を持たせてあげることです。この作品をご覧になった観客が、この作品が僕だけで作ったものではなく、出演者全員がこの作品を“自分のものにしている”と感じてもらえたらうれしいです。
本場グローブ座の匂いは伝わったでしょうか?!
僕も最初シェイクスピアの劇は難しくて、自分には理解できないかもしれないと思っていましたが、2017年にジョン・ケアードさん演出の「ハムレット」に出演した際に、シェイクスピア劇は、とても自由で、笑いが起き、本当に豊かな時間だったことを感じました。今回観劇した「から騒ぎ」も未体験なことばかりで、とにかく楽しくて見られて幸せでした。ショーンさんの演出も聞けて大満足の公演でした!
次回は古典劇としても有名で、イギリスを代表する女優イメルダ・スタウントンさん主演の「ハロー・ドーリー!」を紹介したいと思います!
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- 大重わたる
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1982年、東京都生まれ。コントユニット・夜ふかしの会のメンバー。2010年R-1グランプリ準決勝進出、2012年キングオブコントファイナリスト。野田秀樹が立ち上げた東京演劇道場に参加。自身が主宰する大重組を旗揚げ、2023年に野原高原の名で構成を手がけた「昔、喰べた花」を上演した。舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」には2022年の初演より出演。そのほかの出演作に、舞台「モノノ怪~化猫~」など。11月27日よりかみむら文庫「御社のチャラ男」に出演する。
大重わたる @5MtsDxFNwLrRDrc
本日第二回のナタリーが掲載されました!!!
ナタリー様ありがとうございました!!どうぞ、みなさまよろしくお願いします🙇
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