小林亜沙美

2.5次元、その先へ Vol.9 [バックナンバー]

「DMM STAGEの色を作りたい」小林亜沙美プロデューサーが描く未来予想図

いつかは野外公演を

6

95

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 44 46
  • 5 シェア

日本のマンガ、アニメ、ゲームを原作とした2.5次元ミュージカルが大きなムーブメントとなって早数年。今、2.5次元ミュージカルというジャンルは急速に進化し、洗練され、新たなステージを迎えている。

今回登場するのは、舞台「炎炎ノ消防隊」や「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」などを手がけるDMM STAGEの若きプロデューサー・小林亜沙美。DMM STAGEにて次々と話題作を世に送り出している小林に、久保田唱や品川ヒロシらクリエイターとのエピソードや、今後の展望について話を聞いた。

取材・/ 興野汐里

舞台好きが高じて…

「PERSONA5 the Stage」より。(c)ATLUS (c)SEGA (c)SEGA/PERSONA5 the Stage Project

「PERSONA5 the Stage」より。(c)ATLUS (c)SEGA (c)SEGA/PERSONA5 the Stage Project

2019年7月、2.5次元ミュージカル業界に新たな風が吹いた。オンラインゲーム、動画配信、電子書籍など、幅広いサービスを提供している合同会社DMM.comが、舞台事業を中心としたエンタテインメントレーベル・DMM STAGEを設立。同レーベルでは、DMMグループで展開されているゲームやアニメ、音楽、オリジナル作品の舞台化を実施することがアナウンスされ話題となる。同年12月には、DMM STAGEの船出となる第1弾作品「PERSONA5 the Stage」が大阪と東京で上演された。さらに2020年には舞台「炎炎ノ消防隊」、昨年には「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」が誕生。この2作品のプロデューサーを務めたのが小林プロデューサーだ。

舞台好きが高じて劇場で案内係を務めたこともあるという小林は、もともとストレートプレイの作品を好んで観ていたが、劇場に勤務するうちにオペラ、バレエ、歌舞伎にも興味が広がり、さまざまな劇場へ通うシアターゴアーに。その後、劇場付きの制作を経て、「若いうちに公演をプロデュースできるような会社に行きたいと思っていた」ところで、舞台制作会社に就職。劇場付きの制作時代に出会った2.5次元ミュージカルの世界に本格的に携わることになる。そして2019年、創設間もないDMM STAGEのプロデューサーとなった。

人を惹きつける、品川ヒロシの演出

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

小林のDMM STAGEでの初仕事は、2020年7月から8月にかけて上演された舞台「炎炎ノ消防隊」。大久保篤による人気バトルファンタジー「炎炎ノ消防隊」を舞台化するにあたり、小林は、自身と同年代のクリエイター・企画演劇集団ボクラ団義の久保田唱に演出を依頼した。小林いわく、久保田は「ものすごいアイデアマンで、静かな情熱家」。「口には出さないのですが、久保田さんからは『公演を絶対に成功させたい』という強い気持ちが伝わってくるんです。そんな久保田さんの思いが伝わって、役者さんたちのボルテージがどんどん上がっていったのを覚えています」と久保田に全幅の信頼を寄せる。この縁がつながって、今年1月に上演された「舞台『炎炎ノ消防隊』-破壊ノ華、創造ノ音-」で、小林と久保田は再びタッグを組むこととなった。

舞台「炎炎ノ消防隊」より。(c)大久保篤・講談社/舞台「炎炎ノ消防隊」製作委員会

舞台「炎炎ノ消防隊」より。(c)大久保篤・講談社/舞台「炎炎ノ消防隊」製作委員会

続いて小林が担当したのは、昨年6・7月に上演された「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」。同作は、石田衣良の代表作の1つ「池袋ウエストゲートパーク」をもとにしたテレビアニメ「池袋ウエストゲートパーク」を舞台化したもので、“池袋のトラブルシューター”真島マコト役を猪野広樹、カラーギャング・Gボーイズのヘッドである安藤タカシ役を山崎大輝が演じた。

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」の制作に際して、小林は「ドロップ」「漫才ギャング」など不良をテーマとした作品の作者である品川ヒロシにオファーした。「DMMに来たからには、今までご一緒したことがないクリエイターやプランナーの方々とお仕事したいと思って。品川さんならきっと、新しい形の2.5次元を作ってくださるのではないかと思ってお声がけしたんです」。気心の知れた演出家との関係性を深めるだけでなく、小林は挑戦することを忘れない。そんな小林からのラブコールを受け、品川はラップ、アクション、ダンスを駆使して、名作をパワフルなエンタテインメント作品に仕上げた。が、品川が舞台の演出を手がけたのは本作が初めて。実際、現場ではどのようなクリエーションが行われていたのだろうか。

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

「ご自身が『池袋ウエストゲートパーク』世代ということで、1990年代後半から2000年代初頭の空気感を若い俳優たちが理解できるように、品川さんは『あの頃の池袋はこういう街で、カラーギャングというのはこういう存在だった』と作品のバックボーンを熱心に説明してくださいました。ある種のファンタジーである『池袋ウエストゲートパーク』の世界観をどのようにしたらリアルに感じられるか、理論的に追求してくださっていましたね。『こういうミザンス(立ち位置)をつければセリフがよく聞こえるし、お客さんに顔が見えるかもしれないけど、“普通の人間”だったらこう動くはず。稽古場ではまず登場人物の気持ちを大事にしながら動いてみよう』という方向性で稽古を進めていって、キャラクターの生き様が見えてくるような演出をつけてくださいました」と小林。さらに、「品川さんの言葉1つで役者さんのお芝居が変化して、日を追うごとに作品が進化していったのを覚えています。人間力というか、人を惹きつける力がものすごくある方だなと感じました」と演出家・品川ヒロシの魅力を語った。

まっすぐに向き合う心

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

小林は興行に携わるスタッフの中でも年齢的に若く、年上のスタッフと関わることが多い。しかしプロデューサーとして、常に現場の先頭に立ち、さまざまな判断を行わなければならない。「プロデューサーは脚本を書くこともできないし、音響や照明のプランニングもできないけれど、第一線で活躍されているクリエイターやプランナーの皆さんの意見をまとめて、ジャッジする必要があります。そのために、各セクションの方々と密にコミュニケーションを取りながら、自分が疑問に思ったことを素直に聞くようにしています。プロデューサーというのは、とにかく信頼してもらわないといけない仕事。自分がどれくらい明確なビジョンを持って、どれくらい作品への愛があるのか、キャスト・スタッフの皆さんに少しでも伝われば良いなと思っています」。その思いから、小林はすべてのキャスト・スタッフとまっすぐに向き合うことを心がけているという。

また、プロデュース論を語ってもらう中で、小林はある演出家との印象的なエピソードを明かしてくれた。「自分の企画書が初めて通った公演での出来事でした。そのとき携わってくれた演出家の方が『この企画は小林さんが立ち上げたんだから、稽古を観てどうだったかをみんなに伝えてほしい』と、私が話す時間を設けてくれたんです。それまで、演出家の方やプランナーさんに『ここをこうしていただきたい』とご相談することはあったんですけど、完成したものに対して『こういうところが素敵だった』とお伝えする機会がなかったと気付いて。不安に思っていることだけでなく、良かったと思う部分をしっかり伝える大切さを、その方から教わりましたね」。当時を思い返しながら、小林は笑顔で語った。

そのように、日々のクリエーションの中でキャスト・スタッフとの関係性を大切にする一方で、彼らと新たに作る作品を探すこともプロデューサーの重要な仕事の1つ。小林は「基本的には自分の好きな作品を舞台化したいという思いが根底にあるので、まずはいち読者として楽しむことが多いですね。その次の段階で『どの作品を舞台化したら面白いか』という目線で観るようにしています」と、舞台の原作となる作品との向き合い方を明かした。

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」より。(c)石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会 (c)IWGP STAGE製作委員会

DMM STAGEの色を作りたい

舞台「炎炎ノ消防隊」より。(c)大久保篤・講談社/舞台「炎炎ノ消防隊」製作委員会

舞台「炎炎ノ消防隊」より。(c)大久保篤・講談社/舞台「炎炎ノ消防隊」製作委員会

2020年以降、新型コロナウイルスの影響によって、小林の担当作品をはじめ、DMM STAGEの公演も不測の事態に見舞われた。そんな中でも小林は「演劇という文化が失われることはない」と信じて試行錯誤を続けた。「ただ演劇を作って上演するだけではなく、配信を観てくれているお客様に、実際に劇場へ足を運んだときのような気分を味わってもらう試みだったり、公演以外のものも楽しんでもらえる工夫を業界全体で行うことが大事。遠方のお客様は気軽に劇場へ来られなくなってしまっている状況ですが、そういう方々にも楽しんでいただきたいと思っています」と観客のことを第一に考えて、行動を起こしている。

そんなときに鍵となるのが、2.5次元ミュージカルの特色である観客との距離の近さだ。「2.5次元って、上演に至るまでの過程も含めて楽しんでくださるお客様が多いと感じていて。例えば、キャラクタービジュアルを公開したときに反応をくださったり、ブロマイドをトレーディングして盛り上がってくださったりと、『みんなで楽しんでいこう!』『みんなで作っていこう!』という思いをビシビシ感じます。そのたびにお客様と一緒に作品を作っているんだなという気持ちになりますし、こんなに楽しいお仕事はほかにないなと思います」。小林自身もまた、観客の熱い思いに支えられていた。

そして、小林には大きな野望がある。まずは、「DMM STAGEの“色”を作ること」。「今までご一緒してきた方々、これから出会うクリエイターの方々に『DMM STAGEを選んで良かった』と思ってもらいたいですね。また、コロナが落ち着いてお客様が戻ってきてくださった際には、野外公演に挑戦したり、劇場以外のところでも作品を作ってみたいと思っています」。客席で観ていた頃の夢をかなえるため、小林は一歩一歩着実に歩みを進めている。

プロフィール

合同会社DMM.com ライブエンターテインメント事業部所属。舞台「炎炎ノ消防隊」、「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」などのプロデューサーを務める。

関連公演・イベント

「舞台『炎炎ノ消防隊』-地下からの奪還-」

2022年9月17日(土) ~25日(日)
東京都 サンシャイン劇場

2022年9月29日(木) ~ 10月2日(日)
京都府 京都劇場

バックナンバー

この記事の画像(全8件)

読者の反応

  • 6

さくら🌸 @icg15632

「ブロマイドをトレーディングして盛り上がってくださったりと、『みんなで楽しんでいこう!』という思いをビシビシ感じます。」
↑楽しくないし交換すると怒るじゃん

「DMM STAGEの色を作りたい」小林亜沙美プロデューサーが描く未来予想図 | 2.5次元、その先へ Vol.9 https://t.co/H8pMvNFlw2

コメントを読む(6件)

関連記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャのステージナタリー編集部が作成・配信しています。

ステージナタリーでは演劇・ダンス・ミュージカルなどの舞台芸術のニュースを毎日配信!上演情報や公演レポート、記者会見など舞台に関する幅広い情報をお届けします