甲斐翔真

ミュージカルの話をしよう 第14回 [バックナンバー]

甲斐翔真、「これはヤバい!」“道”の途中でたどり着いたミュージカルの世界(前編)

初舞台で、このうえない幸福感を味わった

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生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第14回は、現在23歳の俳優・甲斐翔真が登場。サッカー少年だった甲斐は、2016年にスタートした特撮ドラマ「仮面ライダーエグゼイド」で注目を浴びる。そして昨年、「デスノート THE MUSICAL」で、初舞台にして主役の夜神月役を担当。その後も「RENT」「マリー・アントワネット」「ロミオ&ジュリエット」と立て続けに人気ミュージカルに出演し、確かな演技力で存在感を示している。そんな甲斐が「怒涛の勢いで」ミュージカルにハマるきっかけになった観劇体験や、“コロナ禍デビュー”の思い出を語ってくれた。

取材・/ 中川朋子

“ヒトカラ”に通い詰めた中高生時代

──甲斐さんは小学1年生から高校3年生までサッカーを続けたそうですね。人生の約半分をサッカーと共に過ごしていますが、何かきっかけはあったのですか?

自分から始めたわけではなく、父がサッカーをやっていたこともあり、母に勧められたんです。初めは「いやだ!」と逃げたんですが、「アイス買ってあげるから、体験に行こう」と言われて。いざ行ってみたら、そこからなぜか12年も続きました。実はサッカーは、内心では嫌々やっていた記憶しかありません(笑)。だけど振り返ると、スポーツをやり抜く経験ができたのはすごく良かった。チームスポーツで得られる精神力は、今の仕事にも生かせている気がします。

──舞台を観たり、音楽やダンスを習ったご経験は?

舞台との接点はあまりなかったです。小学生のとき、家族と一緒に劇団四季の「ライオンキング」を2・3度観たかな?というくらいで。サッカー以外では、母が子供の頃から通っていた絵画教室に、小学4年生から6年生頃まで行っていました。ただそれも母の趣味なので、自分からやりたくて始めたものではなかった。ピアノを習うという選択肢もあって、実際妹はやっていたんですよ。だけど子供だった僕は惹かれず……今はピアノを弾ける男性ってすごくカッコいいと思っていますし、やっておけば良かったなあ! あのとき人生が分岐した気がします(笑)。

──(笑)。甲斐さんのプロフィールの特技欄には、サッカーと共に歌も挙がっています。歌が好きになったきっかけは?

中高生の頃、EXILEさんが大好きになったんです。ファンクラブに入って、ライブにもたくさん行きました。それで「EXILEのように歌いたい」と思って。中学3年生の頃、周りがみんな高校受験で忙しい時期、僕はスポーツ推薦で進学先が決まっていたので、ひたすらカラオケに通い詰めました。それから3年後、高校3年生の受験シーズンのときも、僕は進学しないと決めていたので、またたくさん1人カラオケをしました(笑)。それが、歌を好きになるきっかけでしたね。

笑顔が愛らしい、幼い頃の甲斐翔真。

笑顔が愛らしい、幼い頃の甲斐翔真。

「エグゼイド」で踏んだ場数が“俳優・甲斐翔真”の原型に

──甲斐さんは高校在学中にスカウトされますが、芸能界デビューを果たしたのは高校卒業後ですね。

僕はスポーツ推薦で高校に入りました。でも芸能のお仕事を始めるためには、サッカーを辞めなきゃいけない。さっきもお話しした通り、僕はサッカーがすごく好きだったわけではありません。だけど1度始めたことを中途半端なところで投げ出したくなかったし、高校の先生たちを裏切りたくなかった。だからサッカーを納得できるところまで続けて、それから芸能活動を始めようと思いました。

──なぜ芸能活動を始めようと思ったのでしょう。

実はこれも最初は乗り気ではなくて、「お芝居なんて恥ずかしい」と思いながらレッスンに行く日々でした(笑)。今後も芸能のお仕事を続けたいと思ったのは、初仕事で映画に出演したときです。作品ができあがる過程が面白くて「ああ、これが俳優の仕事なのか!」と思って、このお仕事を続けようと決めたんです。

──甲斐さんはドラマデビュー作となった「仮面ライダーエグゼイド」のパラド / 仮面ライダーパラドクス役で、一躍有名になりました。約1年半もの間、1つの役柄に向き合うのは初めてのご経験だったと思います。「エグゼイド」に出演してみて、お仕事に対する意識に変化はありましたか?

「エグゼイド」に出演している間は、全然実感が湧きませんでした。放送が始まったばかりの頃なんて「え、自分がテレビに映ってる。恥ずかしい!」みたいな感じで(笑)。「エグゼイド」が始まったとき僕はまだ芸歴数カ月くらいで、とにかく白紙でした。初仕事の映画では「等身大で良い」と監督さんに言われていたので、本格的に役作りをしてカメラの前に立つのは「エグゼイド」が初めてだったんです。パラドは独特な雰囲気を持つキャラクターで、彼を演じ続けた経験は僕にとって大切なものになりました。演技をするうえで一番の“敵”はやっぱり、変な緊張をしてしまうことだと思う。だけど1年半もの間、カメラの前でお芝居をしたり、映画が公開されるたびに日本全国を飛び回って舞台挨拶をしたりすることで、場数を踏むことができました。おかげで人前で何かすることに、物怖じせずに挑めるようになった。それはとても大きな収穫だったと思います。「エグゼイド」以降もいろいろと、面白いと思えるものを知ることができました。僕はまだまだ模索している最中。今はその“道”の途中で出会えたミュージカルに一生懸命向き合っている、という感じです。

サッカー少年時代の甲斐翔真。

サッカー少年時代の甲斐翔真。

これはヤバい!ラミン・カリムルーと「ジキル&ハイド」に憧れて

──「エグゼイド」のあとにもたくさんの映像作品に出演した甲斐さんは、昨年「デスノート THE MUSICAL」の夜神月役で、初舞台にして初主演を務めました。なぜ舞台に興味を持ったのか、ターニングポイントになった出来事があれば教えてください。

「ミュージカルってすごい!」と思ったきっかけは、2015年に観劇した「プリンス・オブ・ブロードウェイ」でした。その作品に出演していたラミン・カリムルーさんの歌声を聴いて、「なんてすごいんだ」と衝撃を受けたんです。それ以前にもミュージカルを観た経験はありましたが、「プリンス・オブ・ブロードウェイ」を観てからさらに強く関心を持ちました。

──近年は、韓国でよくミュージカルを観劇していたそうですね。

はい。数年前、プライベートで韓国旅行に行ったときにマネージャーさんから「せっかくだから観劇してきたら?」と勧められて、「笑う男」を観劇しました。そこに出演していたパク・ヒョシンさんの歌が素晴らしかったのを覚えています。そのあとまた韓国を訪れたときに観た「ジキル&ハイド」で、ラミンさんを初めて観たときと同じくらい圧倒されて、「これはヤバい!」と心に火が点き、韓国のミュージカルにハマりました。コロナ禍の前年は1年で4回くらい韓国に行き、そのたびに1・2本観劇して。怒涛の勢いでミュージカルにハマりましたが、まさか自分がミュージカルに出られるとは思いませんでしたね。

日本から近い韓国であれほどハイクオリティな作品が観られるなんて、素晴らしいことだなと思います。ブロードウェイやウエストエンドにも行きたいのですが、「もっといろいろな国で観劇してみたい」と思ったその矢先に、コロナ禍になってしまいました。ミュージカルとひと口に言っても、歌や演技、ビジュアルなど、舞台のどの要素が前面に出てくるかは国や文化によって違ってくると思うんです。その違いに興味があるので、コロナが収束したらいろいろな国で観劇してみたいですね。

“死生観”を考えて夜神月に挑んだ

──「デスノート」の初日前のインタビューで、甲斐さんは「『稽古って、何?』というところからスタートしました」と話していました。大変だったと思いますが、初舞台で特に印象的だったことは?

ミュージカルの大舞台で主演を務めるには、相応のオーラをまとっている必要があると僕は思います。初舞台の自分がそこまで到達するためには、稽古で試練を経験しなくてはいけなかった。だからすごく苦しい稽古でした。でも一番記憶に残っているのは、人生初の舞台が本当にめちゃくちゃ楽しかったということ。最初のナンバーが終わって拍手をいただいたとき、このうえない幸福感で満たされたことを覚えています。

──演出の栗山民也さんのご指導はいかがでしたか?

非常に印象的だったのは、栗山さんの「自分なりの死生観を身に付けなさい」という言葉でした。僕は身近な家族を亡くした経験がなく、ペットを看取ったこともありません。死を間近に感じたことがないので、栗山さんの言葉にすごく悩みました。だから夜神月を演じるにあたって、僕自身の人生から引き出すのではなく、他人の人生から学ぼうと思ったんです。歴史上、大虐殺を行った人たちは実際にいます。ユダヤ人虐殺については「どうしてこんなことが起きたのか」と、虐殺行為をやってしまった人たちのことを特によく調べました。僕がそれらのことを知って最初に抱いた感情は、お客様が月に対して抱く気持ちときっと似ていると思うんです。実際に舞台を観る方にその気持ちを味わってもらうにはどうしたら良いのか?と考えたとき、虐殺を行った人たちがどんな人たちだったのかを知りたいと思った。あくまで資料から読み取れるレベルのことではありますが、彼らにも自分たちなりの正義や何らかの“愛”があったことを知ることができ、僕なりの月像を作り上げるのに役立ちました。

僕は舞台に関しては“コロナ禍デビュー”で、残念ながら「デスノート」は途中で公演中止になりました。さっきお話しした通り、コロナが収束したら海外に行きたいのですが、そのときはポーランドのアウシュビッツに行きたいんです。それ以外にも、これまで出演したミュージカルに関連する場所を訪ねてみたい。「マリー・アントワネット」のベルサイユ宮殿や、「RENT」に出てくるニューヨークのイーストビレッジ、これから出演する「October Skyー遠い空の向こうにー」の舞台になったウェストバージニア州の田舎町で、実際にその場の空気を味わってみたいですね。

「デスノート THE MUSICAL」チラシ画像 (c)大場つぐみ・小畑健/集英社(提供:ホリプロ)

「デスノート THE MUSICAL」チラシ画像 (c)大場つぐみ・小畑健/集英社(提供:ホリプロ)

前編では甲斐が、芸能界との出会いや衝撃的だった観劇体験、初舞台での奮闘の記憶を語ってくれた。後編では甲斐の“自分をだます”役作りや、次回作となるミュージカル「October Skyー遠い空の向こうにー」への思い、舞台から目にした忘れられない光景などについて聞く。

プロフィール

1997年、東京都生まれ。特撮ドラマ「仮面ライダーエグゼイド」のパラド / 仮面ライダーパラドクス役でテレビドラマ初出演。その後「花にけだもの」「覚悟はいいかそこの女子。」「いつか、眠りにつく日」などの映像作品に参加したほか、映画「写真甲子園 0.5秒の夏」「君は月夜に光り輝く」「シグナル100」「君が世界のはじまり」にも出演。昨年「デスノート THE MUSICAL」で初舞台を踏み、以降は「RENT」「マリー・アントワネット」「ロミオ&ジュリエット」といったミュージカルに出演。今年12月には出演映画「偶然と想像」の公開が控える。

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haruka @harumanuma

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