加藤和樹

ミュージカルの話をしよう 第18回 [バックナンバー]

加藤和樹は“やればできる”を体現していくアーティスト(前編)

初舞台は“人にどう思われるかは二の次!”の精神で

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生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第18回に登場するのは、2005年にミュージカル「テニスの王子様」の初代・跡部景吾役で鮮烈な舞台デビューを果たし、翌年のアーティストデビューから今年で15年目となる加藤和樹。どこか達観したような、落ち着きのある佇まいの彼が、表現の世界に足を踏み入れたきっかけは、高校卒業後に上京し、挫折を味わったあとに出会った“歌の力”だった。

アーティストとしてライブ活動などを精力的に行う傍ら、山崎育三郎との出会いで本格的なミュージカルの世界にも興味を持った加藤。彼の核となっている“ライブ”の力が共通した舞台作品に携わるうちに、活躍の場は増えていき、ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」では小池徹平とWで東京・帝国劇場の主演も果たした。アーティストデビュー15周年を迎えた加藤が、これまでの舞台人生を振り返る。

取材・/ 大滝知里

目立つことが苦手な加藤少年、学芸会では照明係に

──加藤さんはジュノン・スーパーボーイ・コンテストをきっかけに芸能界へ進まれましたが、小さい頃から音楽に触れて育ってきたのでしょうか?

僕には姉と兄がいるんですが、姉がよくJ-POPのはやりの歌を聴いていたので、小学生や中学生の頃からカセットテープやMDウォークマンで音楽を録音してもらって、聴いたりしていましたね。高校のときはそれを聴きながら通学していました。

──どのような音楽が好きだったんですか?

中学生の頃にちょうど、KinKi Kidsさんがデビューされたりして、ジャニーズのアーティストの曲や、宇多田ヒカルさんといった、いわゆる音楽番組でランキングの上位に入ってくるような楽曲を主に聴いていました。僕が初めて買ったCDはGLAYさんのもの。その頃、クラスの中でGLAY派かL'Arc-en-Ciel派かっていう感じで分かれていたんですが、僕はカラオケではどっちも歌うタイプで(笑)。外で遊ぶときはたいだいカラオケに行っていたので、中学生の頃から歌うことは好きだったと思います。

──では、演じることの原体験はいかがでしょう。学芸会などで主役を任されるタイプの子供でしたか?

いや(笑)、確かに学芸会はやりましたけど……小学校の低学年でやった、“うさぎの作った大きなパン”みたいな題名のお芝居ではキツネ役を演じました。6年生でコロンブスを題材にした劇をやったときは、演じる側ではなくて、照明係でしたね。舞台に立つのがなんか、「嫌だな」と思って(笑)。目立つのがあんまり得意ではないというか、ほかにやりたい人がけっこういたし、僕は全然、裏方で良かったので。学校の行事だからやるという感じでした。

──演技に目覚めるには至らなかったと。

そうですね。どちらかと言うと、歌で、中学2年生と3年生のときに校内合唱コンクールのソロパートを任されたことはありました。その頃には、歌うことが好きだったので、それはうれしかったですね。

──ではやはり、昔から歌がお上手だったんですね。

うまいかどうかは別として、“マシ”だったんじゃないかなと。音楽って、記号が多いから筆記のテストは嫌いだったんですよ。そのぶん、実技のテストは張り切っていました(笑)。

オーディションで射止めた跡部景吾役では“俺様感”を研究

加藤和樹

加藤和樹

──アーティストデビュー15周年を記念して発表されたメモリアルフォトブック「K」で加藤さんは、赤裸々にこれまでの半生を語っています。その中にもあるエピソードですが、第15回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストのファイナリストに選ばれたことをきっかけに上京したものの、所属事務所が倒産し、いきなり大きな壁が立ちはだかったそうですね。

ええ、そうでした。

──そんな中、音楽の力に感銘を受け、音楽の道へ進みたいと決心され、ご自身で売り込みをしたり、さまざまなオーディションを受けたりする中でつかみ取ったのが、2005年、舞台デビュー作となる「ミュージカル『テニスの王子様』 / The Imperial Match 氷帝学園」(以下テニミュ)の跡部景吾役でした。

そのときにはもう、今のマネージャーを通して、新しい事務所に所属もさせてもらっていました。音楽をやりたいという思いが強くありながらも、これまで大勢の人の前で歌った経験もなかったので、一度、舞台上で歌うということをするべきだと感じていました。

──舞台度胸を付けたかった、ということですか?

時間をかけて活動の基盤を作っていこうとする中での第一歩、という思いはありました。特にこのテニミュの原作がもともと大好きでしたし、友人の相葉裕樹君が出演していたというのも、踏み出せる理由としては大きかったです。

──美形の跡部景吾を加藤さんが完璧に体現されていて、当時の加藤さんのブレイクぶりはすさまじかったですよね。

多くの人に知ってもらうきっかけにはなりましたね。僕は当時、周囲の反響に対して、うれしさよりも、驚きのほうが強かったんです。跡部の扮装ビジュアルが初めて少年ジャンプに掲載されたあと、事務所のホームページがサーバーダウンして、マネージャーとあわあわした記憶があります(笑)。それほど認知度の高い作品であると思い知りましたし、もちろん原作ファンなので、ある程度のプレッシャーは覚悟していましたが、想像以上の注目度にちょっと驚きました。

──実際にお客さんの前に初めて立った経験はいかがでしたか?

いや、めちゃくちゃ緊張しました!(笑) もともと緊張しいですし、当時受けていたオーディションなどでもアガっちゃって何もできないっていうことが多々あったので。テニミュではもう「やるしかない……」と。でも、役を演じる、キャラクターになりきるという点で救われた部分もありましたし、出演者の中には初舞台のメンバーも多く、仲間意識も強かったので、“やれることをやって、みんなで良い作品を作ろう”という気持ちでした。人にどう思われるかは二の次だ、今はそれどころじゃない!みたいな(笑)。

──音楽の道を見据えたうえでの舞台への挑戦でしたが、人前で歌うことについて、当時、どのような課題が見つかりましたか?

テニミュの楽曲はわかりやすくて、一度聴いたら耳から離れないようなものも多いんです。そういった楽曲を、自分ではなく役を通して歌うことが初めてだったので、どう歌ったらそのキャラクターが魅力的に観えるか、ということは考えていました。もちろん、当時はミュージカルの発声方法なんて知らなかったし、考えられなかったんですが、自分の素質にはない跡部の“俺様感”の出し方などを研究していましたね。跡部になれば、いつもより大胆になれるような感覚もありましたし。それは今、お芝居をする面白さにも通じるんですが、自分がやらないようなことや言わないようなことを、芝居を通して考えるのは、普段の生活ではあまりできない体験だと思うので。

──では、初舞台にしてお芝居の面白さを体感していたと。

そうですね。なので、映像で普通のお芝居を求められたときにとても困りましたけど。

“普通”って何……!? 白井晃が示した迷宮からの脱出口

「オセロ」より。(撮影:細野晋司)

「オセロ」より。(撮影:細野晋司)

──加藤さんはそのあと、2007年のテレビドラマ「ホタルノヒカリ」で才能あふれるイケメンデザイナー・手嶋マコト役を演じました。

それまでテニミュや仮面ライダー(編集注:特撮ドラマ「仮面ライダーカブト」に仮面ライダードレイク役で出演)など、キャラものが多かったので、「ホタルノヒカリ」で現代の青年を演じたときに、“普通”って何だろうとすごく考えてしまいました。自分では普通に演じたつもりでも、「それは普通じゃない」と言われて、お芝居はキャラクターを作るだけじゃないんだなと。というのも、個性を求められる役は作り込むのが正解で、ナチュラルな会話をする芝居では普通の感覚が大切。その使い分けをしなきゃいけないんですよね。

──“普通”を説明することが難しいように、“普通”を演じることも大変だと思います。その課題の突破口となった作品は何でしたか?

未だに悩むこともあるんですけど、僕は2013年の「オセロ」で初めて白井晃さんの演出を受けたときに、「自分の言葉としてセリフを言うためには、役を自分に近づけて役作りをしなさい」と言われたことがあって。その考え方は、それまでの自分にはなかったものでした。役を演じるうえで、“自分”という存在は消すべきものだと考えていたんです。でもそれを、「自分だったらこう言うかな」と、自分の言葉としてセリフを言ってみたときに、解決の糸口というか、「これが“普通”の感覚なのかな」と思えました。そのあとで、演出家が求める言い回しやキャラクターへの肉付けをしていけば良い。初めから作り込みすぎると、ちょっと痛い目に遭う、というのがわかったんですよね(笑)。余白を残しておくことが大事なんだなって。

淡々と話す口調の中にも、常に内省を怠らない知性と、突き進もうとする情熱を感じさせる加藤和樹。後編では、彼が目指す歌の道や、これまで出演したミュージカル作品について聞く。

プロフィール

1984年、愛知県生まれ。第15回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストのファイナリスト。2005年、「ミュージカル『新テニスの王子様』The Imperial Match 氷帝学園」で初舞台。2006年にアーティストデビューし、9月には15周年を記念し「K.KベストセラーズII」を発表した。現在も、ライブを中心に精力的なアーティスト活動を続ける。主な出演ミュージカルに「タイタニック」「1789 -バスティーユの恋人たち-」「フランケンシュタイン」「BARNUM」「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」など。1月28日に「Japan Musical Festival 2022」、2月に「冬のライオン」が控えるほか、4月2日には13年ぶりの東京・日比谷野外大音楽堂ライブとなる「Kazuki Kato 15th Anniversary Special Live ~fun-filled day~」を開催する。

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