全公演が野外会場、セットリストを公演ごとに変えるというバンドにとって初の試みとなった今回のツアー。4月に神奈川・横浜スタジアムで行われたアニバーサリーライブが大雨に見舞われたことを受け、富士急公演には「爆弾低気圧はもうイヤだ! ~君は知っているかい?横浜スタジアムでの10周年記念ライブは引くくらいの大雨だったんだ…。~」というサブタイトルが付けられていたが、メンバーの願いとは裏腹に最終日は雨に見舞われる事態となった。しかし天候に恵まれなくとも、メンバーもオーディエンスもテンションは最高潮。シドの曲のみをノンストップで回す開演前のDJタイムも盛り上がりをみせ、ライブ本編に向けての期待を高めた。
雨脚が少し弱まった頃、ステージ両脇のスクリーンでカウントダウンがスタート。時間が経つに連れてオーディエンスの声は大きくなり、スクリーンに「00:00」の表示が現れた瞬間に壮大なSEが流れ出す。ゆうや(Dr)はガッツポーズを決め、明希(B)は引き締まった表情を浮かべてステージへ。Shinji(G)は走りながら登場するなど万全なコンディションであることをアピールする。そして白いスーツに身を包んだマオ(Vo)が登場すると空気は一変した。
一瞬の静寂ののち、二胡のオリエンタルな音色とともに始まったのは「走馬灯」。深遠なアンサンブルが涼しい風と溶け合い、オーディエンスを酔わせていく。続いて「林檎飴」「Room」と懐かしいナンバーが披露され、しっとりとした空気が会場を包み込んでいった。マオはMCでは「楽しんでいこうね」とファンに語りかけ、「10年走り続けてきてよかったなと心から感じられるツアーになってます」とツアーにかける思いを噛み締めるように述べた。
Shinjiの爪弾くアコースティックギターが哀愁たっぷりに響いた「落園」に続いて届けられた「ノイロヲゼパアティー」は、マオが曲紹介をした瞬間に悲鳴のような歓声が沸く。序盤では吐息が聞こえるほどのマオの歌声が観客を惹き付け、終盤では4人の繊細なハーモニーが紡がれ空気を艶めかせた。ライブ中盤に差し掛かるとステージ周辺を薄い霧が覆い、幻想的なムードに。Shinjiの奏でる繊細なアルペジオと狂おしい感情をにじませたマオの歌声が絡んだ「合鍵」や、ドラマチックな展開が魅力の「sleep」は天候が楽曲の世界を引き立てていた。特に「sleep」の最後では嗚咽のようなマオの歌声が響き、曲が終わったあとも緊迫した雰囲気がステージと客席に漂った。
その後のMCで「世界観ブチ込みすぎて空っぽになりそうだった。悲しくなってた、本当に」と曲に入り込んでいたことを明かしたマオだったが、おもむろにその日の朝食のエピソードに。ホテルのレストランでファンと遭遇した出来事を明かし、「みんなと一緒に朝食を食べた気分」と微笑む。続けて明希(B)は「いい天気ですね。皆さんの笑顔を見てると晴天に思えます」とファンを一瞬喜ばせるも、「……ウッソーン。雨です、どう見ても。でも雨を吹き飛ばすようなライブをします」と力強く宣言。ゆうやは「全会場セットリストが違くて、全会場ファイナルみたいだったから。今日もいいファイナルにしようね」とファンに語りかけた。そしてマオが「以上の3人で……」と言いかけたところでShinjiが「待った」とばかりに乱入。「山梨BABY!」と大声で叫び自分の存在をアピールした彼だったが、なぜかMCの内容はライブとは関係のない下ネタに終始。マオもそれに乗っかる形でトークが進行していったが、「ヤバい!これ長くなりそう」という我に返ったマオの一言でライブが再開した。
そして「懐かしいよ! 『Sweet?』」という紹介からライブは後半戦に。鮮やかな照明がアップテンポなサウンドを盛り上げ、曲の途中でマオが明希を背中から抱きすくめると悲鳴が響いた。「and boyfriend」ではマオの声が枯れる瞬間もあったが、それをカバーするように彼はチャーミングな振り付けでダンス。コンディションの悪さを感じさせないパフォーマンスを繰り広げていた。またこのあたりから再び雨脚が強くなり、メンバーもオーディエンスも再び濡れていく。本編のラストナンバー「サマラバ」では、強い雨が降る中でメンバーは懸命にそれぞれの楽器を繰る。そんな4人を前に観客はタオルを一斉に回し、爽快なサマーチューンを盛り上げていく。そして本編は「最高じゃん! めっちゃ気持ちいいけん!」というマオの叫びで締められた。
本編が終わると、アンコール代わりの「10周年コール」が起き祝福ムードに包まれる。アロハシャツに着替えて再登場したマオは、「ファイナルのアンコールはかんかん照りで、ハワイみたいになるかと思ったけど、なんでこうなるの?」と一瞬苦笑いするも、開き直った表情で「もう楽しいね。でも風邪だけはひかないようにね」とファンを気遣った。アンコールでは「あの曲いっちゃおうかな? 最後までとっておいたよ」という言葉から始まった「ミルク」や、シンプルな照明が4人の姿を浮かび上がらせ、マオの咆哮するようなボーカルと明希の激しいプレイが際立った「御手紙」、ライブ初披露の「絶望の旗」など新旧のナンバーが次々と奏でられていく。
ライブが佳境に近付くにつれて雨はさらに強くなり、メンバーのテンションもそれに比例して高まっていく。マオはわざと雨の中に飛び出し、「もっといけるか? ドMになれ!」とファンを挑発。激しくヘッドバンギングする観客を前に、4人は前のめりなパフォーマンスを繰り広げる。さらにマオは「ずぶ濡れのみんなにこれを送るよ!」と、自らを鼓舞するように「エール」を力強く歌い上げた。曲の終盤では合唱が起き、ステージと客席エリアの垣根がなくなる瞬間も。マオは「お前ら大好きだ!」と何度もファンに愛を伝え、「俺たちだから作れた最高のツアーファイナルです!」「雨降ってるけど別に帰りたくないもの。今日は盛り上がって帰ろうと思います。シドと恋しましょう。明希と、Shinjiと、ゆうやと恋しようか?」とラストナンバーの「夏恋」へとつなげた。
Shinjiは濡れた花道に寝転がってギターを奏で、マオは歌詞の一部を「疲れてもお前らに会いたかったよ」「隣にはシドファンがいいな」などに変えて笑顔で熱唱。ラストでは盛大な花火が客席脇から打ち上がりライブはクライマックスへ。マオの「なんかさあ、好きな人同士で花火観れるのってロマンチックじゃない?」という言葉が、シドとファンの絆の深さを表していた。
雨脚が弱まり、おなじみのSEが流れる中、ゆうやは「シドってこんないい曲もあったんだって改めて再確認した1カ月だった気がします。ちょっともう1回シド聴いてみて。めっちゃいいバンドだから」と語り、Shinjiは「とても素敵な夏の思い出ができました。しばらく会えないけど、百倍カッコよくなって帰ってくるよ」と誓う。明希は「愛してるぞ、お前ら。これからもシドと一緒に強く生きていきましょう」と呼びかけた。
最後に1人でステージに残ったマオは、「今までのライブの中で一番『最高』を連呼したかも」「結局雨も止んだしね。俺たち何か持ってるね」と笑う。続けて仙台公演で体調を崩して喉を壊してしまったこと、懸命に治療をしたものの医師から富士急での2日間連続のライブは絶望的な状況であると告げられたことを明かした。さらに初日はなんとか乗り越えたものの、2日目のライブを無事できるかの不安を抱えたままだったと涙声で語り、「歌を抜かなきゃいけないかもってところまでいっちゃって。でも、今日こうやって最後まで歌えたし、復活してきたんだよね途中から」「みんなのおかげで……みんなが今日、10周年ツアーを締められるボーカルにしてくれました」と改めて感謝を伝えた。最後はマイクを通さず、「愛してます!」と声を枯らしながら叫んだ。するとマオの思いに応えるように、ファンの大きな拍手と歓声が夜空に響いた。
なおシドは現在展開しているバンド結成10周年記念プロジェクトの一環として、11月6日にニューシングルを、12月11日にライブDVDをリリース。さらに12月27日に東京・日本武道館にてライブイベント「Visual BANG!~SID 10th Anniversary FINAL PARTY~」を開催する。
シド「SID 10th Anniversary TOUR 2013」
2013年8月25日@山梨県 富士急ハイランドコニファーフォレスト
01. 走馬灯
02. 林檎飴
03. Room
04. 落園
05. ノイロヲゼパアティー
06. 泣き出した女と虚無感
07. 合鍵
08. sleep
09. Sweet?
10. 罠
11. and boyfriend
12. ドラマ
13. サマラバ
<アンコール>
14. Caf'e de Bossa
15. ミルク
16. 御手紙
17. 絶望の旗
18. 隣人
19. S
20. エール
21. 夏恋
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