anoが1万2000人の前で見せた復讐、武道館の真ん中で語った「これからは絶対大丈夫」という言葉

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anoが9月3日に、自身初となる東京・日本武道館でのワンマンライブ「呪いをかけて、まぼろしをといて。」を開催した。翌4日が彼女の誕生日であり、ソロデビュー曲「デリート」の発売から5周年という記念すべきこの夜。チケットはソールドアウトとなり、会場を埋め尽くした約1万2000人の観客が、アリーナ中央に設置された円形のセンターステージで繰り広げられるライブを見届けた。

ano(撮影:横山マサト)

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特殊なフォーメーションにより、たった1人で1万2000人と対峙

「ちゅ、多様性。」を歌うano。(撮影:横山マサト)

「ちゅ、多様性。」を歌うano。(撮影:横山マサト)[拡大]

開演時刻を過ぎると、ステージの上に鎮座した巨大な八角柱のLEDに、過去のライブ映像が次々に映し出され、エフェクトのかかったanoの声がサウンドコラージュのように流れる。やがてそのLEDがゆっくりと上昇していくと、中からミニ丈のドレスの背中に骨の翼を生やしたanoが登場。ステージの外縁で炎が吹き上がる中、8人のダンサーに囲まれながら「ちゅ、多様性。」を披露した。そして間髪を容れずに「許婚っきゅん」に突入し、開幕から早くも連発されるヒット曲に、会場は一気にヒートアップ。

「呪いをかけて、まぼろしをといて。」の会場の様子。(撮影:横山マサト)

「呪いをかけて、まぼろしをといて。」の会場の様子。(撮影:横山マサト)[拡大]

センターステージは中央がせり上がったり、その周囲がぐるぐると回転したりと、楽曲の世界観に合わせて多彩な表情を見せる。そしてそのステージの周囲には、バンドメンバーのTAKU INOUE(G)、真部脩一(B)、西浦謙助(Dr)、永山ひろなお(Key)が散り散りに立ち、強靭な生演奏でライブを支える。曲によってダンサーが参加することはあるものの、バンドメンバーがステージ上にいないこの特殊なフォーメーションは、anoがたった1人で1万2000人の観客と対峙する構図を生み出していた。

「呪いをかけて、まぼろしをといて。」の会場の様子。(撮影:横山マサト)

「呪いをかけて、まぼろしをといて。」の会場の様子。(撮影:横山マサト)[拡大]

「F Wonderful World」では床から吹き上がる白煙とド派手な照明に囲まれ、anoはステージせましと走り回りながらハイテンションに歌い上げる。そのままノンストップで「Bubble Me Face」が始まると、アリーナに大量のシャボン玉が舞う。満員のオーディエンスに360°囲まれた状況を心から楽しむように、anoは笑顔を浮かべていた。

回転する床を何周もしながら歌った「スマイルあげない」、無数のミラーボールが放つ光の中で踊った「愛してる、なんてね。」と、ライブ序盤はポップチューンを中心とした構成で進行。これまでにないほどに作り込まれたステージ演出とは対照的に、anoはあくまでも衝動的で生々しいパフォーマンスを叩きつけていく。「涙くん、今日もおはようっ」では、満員の観客が一斉に右腕を振り、アウトロでは「らららららん らんらんららん」という大合唱が武道館を包み込んだ。

弾き語りで空気が一変

「SWEETSIDE SUICIDE」を歌うano。(撮影:横山マサト)

「SWEETSIDE SUICIDE」を歌うano。(撮影:横山マサト)[拡大]

「涙くん、今日もおはようっ」を歌い終えたanoが一旦ステージから去ると、LEDにはまるで夢を見ているかのような、幻のように不安定でどこか不気味な映像が流れ、それまでのポップな会場の空気が一変。狂騒が嘘だったかのように静まり返ったアリーナに、シンプルな白のワンピースに着替えたanoが、裸足でアコースティックギターを抱えて再び登場した。ピンク色の光に下から照らされながら、「SWEETSIDE SUISIDE」を切々と弾き語りで歌い上げる彼女の繊細な歌声を、観客は息を呑んで見つめていた。

「ハッピーラッキーチャッピー」を歌うano。(撮影:横山マサト)

「ハッピーラッキーチャッピー」を歌うano。(撮影:横山マサト)[拡大]

これを皮切りに、ライブはバラードパートへ。アニメ「タコピーの原罪」のオープニングテーマ「ハッピーラッキーチャッピー」では、ステージに置かれた学校の机と椅子に座り、anoはアコースティックギターを弾きながら熱唱。アニメのワンシーンを彷彿とさせる雰囲気の中で感情を爆発させた。さらに「YOU&愛Heaven」「AIDA」とバラードを続け、観客の心を深く揺さぶり続けたanoは、再び天井から降りてきた八角柱のLEDの中に姿を隠した。

「ざまあみろ! バーカ! なめんじゃねんぞ!」

ここで始まったのは、バンドメンバー4人によるインストセッション。単なる転換のための時間稼ぎでは決してない、個々の高い技術を見せつけるスリリングな演奏に、観客は固唾を飲んで聴き入る。そしてそのまま「デリート」のイントロへと展開し、水色のジャージを着てGibson SGを構えたanoがステージ中央に現れた。疾走感あふれるバンドサウンドに乗せ、彼女はギターをかき鳴らしながら熱唱。2番のAメロの歌詞を丸ごと差し替えて、今その瞬間の感情を叩きつけるようにアドリブで叫ぶ。「“あのちゃんは1人で武道館なんかに立てないよ”って言ってきたアーティストども! ざまあみろ! バーカ! なめんじゃねんぞ!」。その勇ましい姿に、日本武道館は興奮のるつぼと化した。

アンチコメントが舞う中で「普変」を歌うano。(撮影:横山マサト)

アンチコメントが舞う中で「普変」を歌うano。(撮影:横山マサト)[拡大]

続く「普変」では、SNSに投稿されたanoへのアンチコメントが書かれたウィングハート形の紙吹雪が天井から大量に舞い落ちるという演出も。「猫吐極楽音頭」では、ネズミのお面を被った和装のダンサーたちとともにお祭り騒ぎを繰り広げ、客席に向かって「誰が一番気持ち悪くて狂えるか、僕に見せてくれ!」と煽った。

「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」を歌い終えて寝転ぶano。(撮影:横山マサト)

「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」を歌い終えて寝転ぶano。(撮影:横山マサト)[拡大]

高くまで勢いよく炎が吹き上がる中、「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」で強烈なグロウルを響かせたano。開演からここまで、ほとんど休むことなく全力で突っ走ってきた彼女は、曲が終わると力尽きたようにステージの真ん中で仰向けに。しかしその表情は晴れやかで、「ここで寝るのめっちゃ気持ちいい!」と無邪気に笑っていた。

「絶対小悪魔コーデ」を歌うano。(撮影:横山マサト)

「絶対小悪魔コーデ」を歌うano。(撮影:横山マサト)[拡大]

「絶対小悪魔コーデ」ではさまざまなファッションに身を包んだダンサーが登場し、anoの周囲をマネキンがぐるぐる回転。そして間奏の間に、anoは着せ替え紙人形のような、ドレスが描かれた絵を身にまとう。「ロりロっきゅんロぼ♡」ではミラーボールヘルメットを被ったロボットダンサーたちを従えて、ポップにデコレーションした拡声器で熱唱。anoらしいポップな世界観のパフォーマンスを経て、いよいよライブ本編はラストを迎える。「絶絶絶絶対聖域」で彼女は、残されたすべてのエネルギーを出し切るようにステージ上を転げ回りながら絶唱。曲が終わった瞬間、日本武道館は割れんばかりの大歓声に包まれた。

anoが最後のMCで語ったすべてのこと

アンコールでのano。(撮影:横山マサト)

アンコールでのano。(撮影:横山マサト)[拡大]

会場中からアンコールを求める声が響く中、キラキラ光るパジャマに着替えてanoがまたステージへ。ここで、翌4日にリリースされたシングル「呪いをかけて、まぼろしをといて。」より、この日本武道館公演のために書き下ろした新曲「ミッドナイト全部大丈夫」が初披露された。それぞれの痛みや傷を肯定するように、周りを囲む観客に向けて語りかけるように「大丈夫」と歌ったano。歌い終えた彼女は、満員のオーディエンスをゆっくりと見渡し、静かに語り始めた。

「人がたくさんいてうれしいです。でも、会場の大きさじゃないなって今日やっていてすごく思いました。誰と一緒に同じ景色を見るかとか、どう生きてきたかとか、何を歌うかとか、なんかそういう大切なことを改めてライブやってて感じることができました」

そう述べたあとで、彼女は自身が抱え続けてきた内なる“呪い”について、赤裸々に言葉を紡いでいく。

「別に武道館にめっちゃ立ちたいとか、思い入れがあるわけじゃなかったけど、しいて言うなら『あのちゃんは1人じゃ武道館には立てない。厳しいと思う』って、武道館に立ったことがある人からも言われたことがあって。それが現実ということもわかりつつ、そういう自分自身が、いろんな呪いにかかっていました」

ano(撮影:横山マサト)

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もともと、自分の活動の原動力は“復讐”だったというano。この仕事を始めたときから、「誰かを笑顔にしよう」「誰かを救おう」「誰かのヒーローになろう」「誰かの希望になろう」といったことは一切考えず、ただただ「見返してやりたい」という気持ちをモチベーションに活動を続けてきたという。しかしそんな彼女の復讐に、ファンの存在が新たな意味を与え始めた。

「たくさんの人が僕を見つけてくれて、音楽を好きになってくれて、ライブを観に来てくれて、気付いたら僕もそんな1人ひとりのことを考えることが多くなった。『一緒に呪ってくれてるな』って。みんなからしたら『何見せられてんだ』とか思うかもしれないんですけど、僕は人生をかけて復讐をしているんです。今日それが、少しでも果たせたかなと思うと気持ちいいです」

そしてanoは、目の前の1万2000人に向けて、こう呼びかけた。

「僕が僕の敵を倒していくように、あなたを傷つけているもの、あなたを呪っているもの、そいつを僕が呪ってやりたいなと思います。これからは僕が呪うし、あなたはあなたの敵を自分で倒します。それは絶対です。必ず倒せるので、大丈夫です。自分の力で倒してください」

「あなたたちが死にたいと思ったとき、消えたいと思ったとき、逃げたいと思ったときに、死ぬことを諦めてくれたから、僕がここで君と一緒にいることができてるんです。あのとき諦めてくれて本当にありがとう。よくがんばりました。これからは絶対大丈夫です」

ano(撮影:横山マサト)

ano(撮影:横山マサト)[拡大]

万雷の拍手に包まれる中、最後の力を振り絞るようにanoは「Past die Future」を熱唱。叫び声のような激情的な歌声が、その場にいるすべての人々の心と共鳴し、会場に不思議な一体感が生まれていた。曲が終わり、anoが「ありがとうございました!」とシャウトした瞬間、ステージから客席に向けて青い銀テープが発射されてライブは終了。LEDにはスタッフロールとともに、この日、この場所で繰り広げられたばかりのライブ映像が映し出された。

終演後、anoが著書「哲学なんていらない哲学」を12月24日に刊行することと、自身初となる全国ホールツアーを2026年3月から5月にかけて開催すること、そしてアパレルブランド・HELL BLAUを立ち上げて、オンラインストアで「school」をテーマにしたコレクションを販売することが発表された。なおU-NEXTでは、この日本武道館公演の模様が10月25日から独占配信される。

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セットリスト

ano「呪いをかけて、まぼろしをといて。」2025年9月3日 日本武道館

01. ちゅ、多様性。
02. 許婚っきゅん
03. F Wonderful World
04. Bubble Me Face
05. スマイルあげない
06. 愛してる、なんてね。
07. 涙くん、今日もおはようっ
08. SWEETSIDE SUICIDE
09. ハッピーラッキーチャッピー
10. YOU&愛Heaven
11. AIDA
12. デリート
13. 普変
14. 猫吐極楽音頭
15. 骨バキ☆ゆうぐれダイアリー
16. 絶対小悪魔コーデ
17. ロりロっきゅんロぼ♡
18. 絶絶絶絶対聖域
<アンコール>
19. ミッドナイト全部大丈夫
20. Past die Future

※記事初出時、バンドメンバーのパート名に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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あの STAFF @ano_staff

【MEDIA】
9/3(水)開催
初の日本武道館公演のライブレポートが掲載されています!
是非ご一読ください!✍️

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■OTOTOY
https://t.co/cNRoKPaKwG

#ano武道館

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