椎名林檎がミューズたちとお祭り騒ぎ、6年ぶりアリーナツアー「(生)林檎博'24 -景気の回復-」

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椎名林檎のアリーナツアー「(生)林檎博'24 -景気の回復-」が12月15日に福岡・マリンメッセ福岡 A館で閉幕した。この記事では11月21日に埼玉・さいたまスーパーアリーナで行われた公演の模様をレポートする。

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:太田好治)

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:太田好治)

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地球の皆さん、ごきげんよう

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:太田好治)

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2018年の「(生)林檎博'18-不惑の余裕-」以来約6年ぶりに「(生)林檎博」を冠したアリーナツアーは青森、新潟、大阪、静岡、埼玉、福井、福岡の全国7会場で計10公演行われた。椎名はこのツアーで名越由貴夫(G)、伊澤一葉(Key, G)、鳥越啓介(B)、石若駿(Dr, Per)、そして斎藤ネコ(Cond)率いるピット内の一軍オーケストラ、ダンサー姉妹のSIS、3人のミューズとともに120分の音楽による物語を紡ぎ上げた。

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:太田好治)

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椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:太田好治)

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宇宙船のエンジン音が場内に轟き、その音がプツリと途絶えると、入れ替わるように「鶏と蛇と豚」の始まりを告げる永平寺の般若心経が聞こえてくる。そこへ銀河帝国軍楽団が奏でる重々しいアンサンブルが重なると、舞台上には両手を合わせた5人の僧が姿を現した。僧たちが手を開いたかと思えば、その両手から放たれたのはレーザー光線。初めは無作為に伸ばされたかのように見えた五本の光線は、次第につながって何かを象っていく。その光景に目を奪われていると、次の瞬間には4人の僧に囲まれる形で1人の僧が宙へ浮き上がる。四角錐のレーザー結界が作られ、その向こうに侘しい庵が現れた。するとどこからともなくひんやりとした無機質な歌声が降り注ぎ、天井から王冠と赤い外套を身に付けた椎名が未確認飛行物体に乗ってゆっくりと降りてくる。空気が振動するような猛々しいビートとオーケストラを背に、地球外生命体に扮した椎名はゆっくりと地上に降り立った。

椎名林檎(撮影:太田好治)

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「宇宙の記憶」では楽団が奏でる絢爛なスウィングジャズに乗せて椎名がささやくような歌声を響かせ、「地球の皆さん、ごきげんよう」と観衆に告げる。このような態度や歌詞の内容から、彼女が今俗世の人々の暮らしを学びに来ていることが窺い知れる。真っ赤なリップスティックを弾丸に見立てた「永遠の不在証明」では人間の性を独り言のように歌った。赤いマントと王冠を脱ぎ捨て、一瞬で都会の女へと変貌した椎名は娑婆世界へと飛び込んでいく。けばけばしいホーンセクションが「静かなる逆襲」を始めると、アレッサンドロ・ミケーレやミウッチャ・プラダのコレクションに身を包んだ椎名とSISが太々しい所作で夜の街を闊歩。どれだけきらびやかな日常を送っていても、心の奥は満たされないと言わんばかりに、椎名は確かな熱を求めて艶やかに声を震わせた。「秘密」では椎名の熱っぽい歌声と楽団のスウィングが自由奔放に煽り合う。機械的なビートが打ち鳴らされた「浴室」では椎名が包丁を手にし、虚ろな表情で一点を見つめながらトントンとひたすらに何かを切り刻んだ。途中で椎名はピンクのドレスを剥ぎ捨て、そっけない肌着一枚に。最後には崩れ落ちて地べたに倒れ込み、今にも消え入りそうに「命の帳」を振り絞り始めた。やがて椎名はすっくと起き上がり、自身を奮い立たせるように語気を強めると、肌色のGibson SGを豪快にストローク。「TOKYO」で切実さに満ちた剥き出しの歌声を響かせると、最後には青白いレーザーの大波に飲み込まれ姿をくらました。

2曲で描いた“母と娘の物語”

椎名林檎(撮影:太田好治)

椎名林檎(撮影:太田好治)[拡大]

目の前に広がるのは海の深い底。「さらば純情」のみずみずしいアンサンブルがたゆたい、舞台に大きな貝殻が現れる。その中には可憐なマーメイド姿でそっと横たわる椎名の姿があった。貝殻の中で椎名が歌い始めたのは、斎藤ネコ率いる弦カルテットを中心とした室内楽による「おとなの掟」。心の内にある秘め事をそっと口にするように歌い切ると、こてんと寝転んだ。ここで「皆様、本日はお忙しい中、母の催しへお越しくださり、ありがとうございます」という、小学2年生の黒猫屋・新若旦那のかわいらしいナレーションが始まる。若旦那は普段そばで見ている母の作詞中の様子を明かしつつ、このあと椎名が昔のヒット曲の歌詞に感じ入って作った二次創作的な楽曲を披露すると説明した。引き続き室内楽の様相で奏でられたのは、REBECCAの曲「MOON」。椎名はヒステリックな弦の刻みに乗せて情感豊かな歌声を響かせる。そして「MOON」からインスパイアを受けて書いたという「ありきたりな女」をいつもとは異なる、深く落ち着いた調で届け、母と娘の間にある繊細な心情と物語を生々しく描いた。

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)

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一転レオパード柄のレオタード姿で現れた椎名は、最新アルバム「放生会」に収録されたAIとのコラボ曲「生者の行進」を、映像に映し出されるAIとともに歌唱。ほとんど雄叫びと言ってもいい。BPM250の壮絶なアフロビートの中、SISの2人を引き連れて激しく攻め立てる。太陽を覆い隠す月を背に、ドラムフィルで幕を開けたのは「芒に月」。椎名は歌いながら黄色いスーツを着込んで見せ、スーツケースとのパドドゥを見せ、かつてないほど広い声域で、ミュージカルを展開。管弦が奏でるメロディやパーカッションの弾むようなアクセントと連動しながら、ステージ前に作られた花道もフル活用し、SISとともに軽やかに飛び跳ね、転げ回った。「人間として」を勇ましく歌い上げた椎名がステージを去ると、フォルティッシモのティンパニーを合図に、楽団の演奏はクルーのテーマ曲「望遠鏡の外の景色」へとなだれ込む。アンサンブルを書いた村田をはじめ、ピット内の演奏家全員が、楽屋入りする姿をとらえた映像付きで紹介された。

天井から降り注ぐ紙幣、猫神は景気回復ビーム

左から椎名林檎、中嶋イッキュウ。(撮影:太田好治)

左から椎名林檎、中嶋イッキュウ。(撮影:太田好治)[拡大]

喪服姿で番傘を手にした椎名は、アルゼンチンの言葉とフィールが取り入れられた「茫然も自失」を物憂げに歌う。会場が暗転し、再び明かりがつくと、そこには同じく喪服姿の中嶋イッキュウ(tricotジェニーハイ)の姿が。「ちりぬるを」でもやはり故人への呪詛は続き、2人の感傷的な歌声が故人への愛着を一層物語る。そしてけたたましいサイレンが場内に広がり、黙祷の時間を生み出した。その後、舞台は球場へ。グリーンのユニフォームを身にまとった椎名は、新しい学校のリーダーズとのコラボ曲「ドラ1独走」でGibson RDをかき鳴らす。「代わりまして、センター、ボーカルDaoko」という球場アナウンスは、同じくユニホーム姿で登場したDaokoによるもの。Daokoは「タッチ」をチャーミングに歌い、最後は三三七拍子に乗って、椎名とデュエットを繰り広げた。Daokoが去り、1人取り残された椎名は、雨が降りしきる夜の球場で「青春の瞬き」を歌い始める。物寂しさを感じさせる球場に青春を慈しむような歌声が高らかに響き渡り、夜空には激しい稲妻が走った。

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)

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ジャケットにスカートという、先ほどの喪服姿とは打って変わって軽やかな装いで登場した中嶋が拡声器を手に叫んだのは「自由へ道連れ」。ピンク色の巻き髪を肩に揺らし、ナポレオンジャケットを羽織った椎名も同じく拡声器を持って加わり、旗を振りながらオーディエンスを扇動した。客電が明るいまま舞台中央へ慌ただしく2本のマイクスタンドが置かれると、プリンセスのシルエットにドレスアップしたDaokoが姿を現す。2人は息ぴったりの身振り手振りを交えながら「余裕の凱旋」で力の抜けたキュートな歌声を届けた。盛大なファンファーレとともにステージ後ろの幕が左右に開くと、巨大な招き猫が登場。ミュージックビデオと同じく垂れ幕も舞台を華やかに彩った。

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)[拡大]

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」の様子。(撮影:ヤオタケシ)[拡大]

Daokoと入れ替わってステージに飛び出したのは、ビーハイブヘアをハイトーンカラーに染めたもも(チャラン・ポ・ランタン)だ。2人はパワフルなエネルギーを放ちながら「ほぼ水の泡」を生き生き歌い、売り子に扮したSISからビールを受け取り乾杯、そして一気飲み。天井からは “五万円札”が降り注ぎ、金管や木管は思い思いに歌い上げ、歌詞通りのお祭り騒ぎとなった。最後は、この日登場したミューズたちがステージに勢ぞろい。「私は猫の目」の毒々しい管と弦の掛け合いに乗って、花道へと躍り出る。途中でDaokoが「やや、あれはなんだ?」と何かへ気付くと、中嶋が招き猫のほうを振り返り、「景気回復ビームだ!」と畏怖したように述べる。2体の招き猫の眼から勢いよくレーザービームが放たれ、大混乱の中で公演は大団円を迎えた。

40年後、荒廃した街

アンコールでは椎名がウイニングのボクシンググローブを着け、のっち(Perfume)とのコラボ曲「初KO勝ち」を歌唱。ボクサーとなった椎名は舞台から延びる花道に進み出て、決死のコンビネーションを繰り出す。相手の右ボディをもらい、倒れ込む場面がありつつも、椎名は観客の声援を受けて立ち上がり、最後には勝利宣言のごとく拳を突き上げる。ラストナンバー「ちちんぷいぷい」で盛大な「RINGO!」コールを巻き起こした椎名は、「ARIGATO」と叫ぶやいなやすぐに舞台から消えていった。

エンドロールに用いられたのは、millennium paradeから椎名へ贈られた楽曲「2◯45」。スクリーンには砂漠と化した街が広がっていた。見ると、ついさっきまでの本編に登場したモチーフばかりである。建物は崩れ落ち、貝殻も、球場も何もかもが廃れ切っている。その片隅へ、椎名によく似たロボットが1人、無表情で佇んでいた。ロボットの口ずさむのは、本公演の演目全体を要約した歌詞。人間らしい苦楽から逃れた怠け者には、この朽ち果てた街のような、無味無臭の未来が待っているのかもしれない。

セットリスト

椎名林檎「(生)林檎博'24 -景気の回復-」2024年11月21日 さいたまスーパーアリーナ

01. 鶏と蛇と豚
02. 宇宙の記憶
03. 永遠の不在証明
04. 静かなる逆襲
05. 秘密
06. 浴室
07. 命の帳
08. TOKYO
09. さらば純情
10. おとなの掟
11. ご挨拶~MOON
12. ありきたりな女
13. 生者の行進
14. 芒に月
15. 人間として
16. 望遠鏡の外の景色
17. 茫然も自失
18. ちりぬるを
19. ドラ1独走
20. タッチ
21. 青春の瞬き
22. 自由へ道連れ
23. 余裕の凱旋
24. ほぼ水の泡
25. 私は猫の目
<アンコール>
26. 初KO勝ち
27. ちちんぷいぷい

※文中「(生)」は丸囲み文字が正式表記。

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