「坂本龍一トリビュート展」をキュレーター真鍋大度が解説、坂本はメディアアートの何に興味を抱いたか

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今年3月に死去した坂本龍一の、メディアアート分野での活動にフォーカスを当てた展覧会「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」が、12月16日から東京・NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]のギャラリーAで開催されている。このプレス向けの内覧会および記者発表が、12月15日に開催された。

真鍋大度

真鍋大度

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単なる追悼企画ではない、未来に向けた坂本龍一像の提示の試み

毛利悠子「そよぎ またはエコー」(部分を本展のために再構成)

毛利悠子「そよぎ またはエコー」(部分を本展のために再構成)[拡大]

1995年にいち早くインターネットライブに挑戦し、作品へのメディアテクノロジーの導入を積極的に行なってきた坂本。2000年代以降はカールステン・ニコライ、高谷史郎ダムタイプ)、真鍋大度(Rhizomatiks)、毛利悠子といったアーティストとのインスタレーション制作など、現代美術やメディアアートの分野でも多くの作品を制作している。

左から、李禹煥「祈り」、李禹煥「遥かなるサウンド」

左から、李禹煥「祈り」、李禹煥「遥かなるサウンド」[拡大]

本展覧会は2部構成になっていて、1つは真鍋大度を共同キュレーターとして迎え、生前の坂本が残した演奏データを使ってリコンストラクションした映像作品を展示。もう1つはこれまで坂本と縁が深かった国内外のアーティストの作品で構成され、坂本がメンバーとして参加したダムタイプの作品、坂本がこのために楽曲を書き下ろした毛利悠子のインスタレーション作品のほか、李禹煥が描いた坂本の最後のオリジナルアルバム「12」のジャケットの原画や、李が坂本の回復を祈って描いたという初公開のドローイング「祈り」、そして坂本とICCの関わりと「音楽/アート/メディア」に関する年表などが展示されている。単なる追悼企画ではなく、坂本の活動を継承し、展開する、未来に向けた坂本龍一像の提示が試みられている。

トリビュート展でありながら「坂本さんが作ったかもしれない作品」という見方も

坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023―不可視・不可聴」(ICCヴァージョン)のワンシーン。

坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023―不可視・不可聴」(ICCヴァージョン)のワンシーン。[拡大]

坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023―不可視・不可聴」(ICCヴァージョン)のワンシーン。

坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023―不可視・不可聴」(ICCヴァージョン)のワンシーン。[拡大]

記者発表ではICC主任学芸員の畠中実氏と真鍋大度が登壇。本展のためにAIを活用した新作を作った真鍋は、今回の展示内容について「完成形ではなく、これからまだ発展していくような作品」「現時点でできるものと来年できるものは違うので、今の時点でできる表現になっている」「AIを使ったグラフィックは今は一部のアーティストだけが使っている表現ですけど、おそらく今後はどのアーティストにも関わりのある技術になる」と説明。「坂本さんはその時代時代の新しいテクノロジーと向き合って、ただツールとして使うだけでなく問題提起もされてきた方で。僕と坂本さんとの会話の中でAIの話が出てきたこともありますし、もし生きていたらAIを使って作品を作ることや、自身のデータをどう活用するのか、ただ残すだけでなくそれを使って何ができるのかに興味を持ったのかなと思うので、そんなことを考えながら今回の作品を作りました」と制作を振り返った。

畠中実氏

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畠中氏は真鍋がキュレートしたセクションについて「トリビュート展でありながら『坂本さんが作ったかもしれない作品』という見方もできる」と表現。一方で畠中氏は自身がキュレートしたセクションのインスタレーション作品について「単なる再展示ではなく、今回の展覧会のためにアップデートしたものになっています」とコメントした。

まだ眠ってるアイデアはけっこうあったので、坂本さんと生前話していたことをできる限り形にしたい

毛利悠子「そよぎ またはエコー」(部分を本展のために再構成)

毛利悠子「そよぎ またはエコー」(部分を本展のために再構成)[拡大]

Dumb Type + Ryuichi Sakamoto「Playback 2022」

Dumb Type + Ryuichi Sakamoto「Playback 2022」[拡大]

一般的に音や音楽を使った展覧会は、会場内でほかの作品の音が混じって聞きづらくなってしまうものだが、この展覧会では真鍋が会場全体にタイムシーケンスを作り、この問題を解消。映像作品の上映では合間にインターミッションが入り、その間に別の部屋で毛利悠子のピアノを使ったインスタレーションだけが聞こえる時間ができるようにしたという。坂本のディレクションにより世界各地のフィールドレコーディングが収録されたダムタイプのアナログレコード「Playback 2022」の17枚目「Tokyo 2021」が30分おきに再生されるという仕掛けも。真鍋はあえて隣同士の部屋の音楽やノイズが混ざり合う時間も作ったそうで、これについて彼は「坂本さんがこれまでやってきたことに通ずるものがあるのかなと思ってます」と語った。

真鍋大度

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記者からの「これまで一緒に作品を作っていた坂本さんがいないことで、作業的に何か違いはあったのか?」という質問に対して、真鍋は「坂本さんとは展示をするたびにアップデートのアイデアを議論していた。まだ眠ってるアイデアや、やりたかったけどできなかったことはけっこうあったので、生前話していたことをできる限り形にしたいなという思いで制作した」と回答。また「亡くなった方の、さらに言えば大きな存在である坂本さんの、生前の映像データを素材にするというの難しいことなのでは。どういう態度でアプローチしたのか」という記者の問いには、「今回使わせていただいた素材は自分が撮影も演出も担当しているので、そんなに予想外な使い方はしていないんですけど、一方ですでに『亡くなった方をAIで蘇らせて演奏させる』みたいな事例があって、そうなると話が変わってくる。それはやっぱり慎重にならなければいけない。坂本さんの場合はかなりテキストが残っているので、学習させて坂本さんが言いそうなことをしゃべらせることは技術的にはできるが、まだやるべきではないかなと思うし、準備も必要だと思う。ライセンスの問題も倫理の問題もある」と話した。

坂本さんは、不完全で何ができるのかわからないものの可能性に興味があった

内覧会に訪れていた「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」に参加した作家たち。

内覧会に訪れていた「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」に参加した作家たち。[拡大]

また、序盤で真鍋が話した「坂本さんは時代時代の新しいテクノロジーと向き合って、ただツールとして使うだけでなく問題提起もされてきた」という話について、具体的にどんなエピソードがあったのか記者から問われると、真鍋は「初期のインターネットに興味を持っていたときに、遅延が大きくてタイミングもバラバラになるので、普通に考えたらまだ使えない技術だったのに、あえてそれを使ってパフォーマンスをしていたのは印象的でした」と語り始めた。真鍋は坂本に、2017年にPerfumeが東京、ロンドン、ニューヨークの3都市に分かれて遅延なく同時にダンスしたプロジェクトの話をしたが、坂本は「昔そういうことをやったけれど、当時は本当に大変だったなあ。今だときっと問題なくできるよね」という反応だったそうで、真鍋は坂本が、技術的に完全にできるようになったら興味がなくなるのだと、不完全で何ができるのかわからないものの可能性に興味があるのだと理解したという。

イベントレポート

「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」は3月10日まで開催。毎週月曜日と年末年始、ビル保守点検日の2月11日は休館日となる。

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※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正します。

「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)

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Daito Manabe @daitomanabe

【会見レポート】「坂本龍一トリビュート展」をキュレーター真鍋大度が解説、坂本はメディアアートの何に興味を抱いたか(写真15枚) https://t.co/wbFEzWjNOI

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