ありぼぼの脳裏から離れない星野源の水飲みシーン
ありぼぼ またニッチな話をしますね。星野源さんの「アイデア」のミュージックビデオに星野さんが水を飲むシーンが一瞬入るじゃないですか。あの意図って何なんですか?
星野源 - アイデア【Music Video】
関 あれは星野さんと話していて急に客観的な映像が入ったら面白いかなとなったんですよ。「アイデア」のミュージックビデオの中で唯一彼がフレームアウトしているシーンなんですけど、ダンサーにフォーカスしたシーンの裏で星野さんは何をしていたのかが入ったらどうかなと。それで休んでたら面白いとなって入れました。
ありぼぼ そうやったんですか。ずっとワクワクさせてくれるミュージックビデオなんですが、最後観終わったときにあのシーンのことが頭に残っていて。
関 確かに違和感を感じさせるシーンですよね。あとあのミュージックビデオは三浦大知くんが1カットだけ登場するのもポイントなんですけど、三浦くんはこの曲の振付を担当してくれたから、そういうポジションで出演しているんです。ずっとつながっていた時間軸が急に別の時間軸に変わったときってすごく違和感が出ますよね。星野さんって、カッコつける部分とそうじゃない部分の両方を見せてほしいタイプだと思うんです。だからああいうシーンを入れたんだと思います。
平成って深いですね
ありぼぼ 私は今ソロでも音楽活動をしていて、「令和時代の視点で、平成というカルチャーを守りたい」というテーマでミュージックビデオを撮りたいなと思ってるんです。でもなかなか難しくて……関さんだったらこういうテーマでどんなビデオを撮りますか?
関 僕も平成時代を過ごしてきたけど、平成っぽさを形にするのってすごく難しいんですよね。ミクスチャーの時代だったと思うんですよ。だから今のところそういうテーマには手を出してないんですけど(笑)。でもやるならとことんやりきりたいですよね。自分が生きてきた時代を、自分たちより上の世代や若者にわかりやすく提示するというのがいいんじゃないかな。平成対令和の構図にするんじゃなくて、とにかくいいところも悪いところも平成の全部を提示する、みたいな映像は観てみたい。そう考えると、昭和っぽいってわかりやすかったですよね。
ありぼぼ そう思います。
関 平成時代のほうが長く生きているのに昭和のほうがみんなの中に共通するわかりやすい“ぽさ”があるんですよね。一方でみんなが持ってる平成のイメージってバラバラで、例えば小沢健二さんみたいな渋谷系を指すのか、安室奈美恵さんとかSPEEDみたいなものを指すのかとか。ラジオを聴いていたら青春の曲を紹介する企画をやってたんですよ。それで僕も若い頃に聴いてた音楽を書き出していったらNirvana、Radiohead、Oasis、Underworldとジャンルもバラバラで、音楽的にもいろんなものが出てきた時代だったなと思ったんですよね。
ありぼぼ 平成の頃に表現している人たちって、みんなが同じものを観て聴いていたところからいろいろジャンルが細分化されてきて、その細分化されたものを摂取してきた世代……いわば孫的なポジションというか、ルーツがわかりにくくて、その分がちゃがちゃしてたんじゃないかなと思うんですよ。
関 あー、確かに。平成って深いですね。そうなってくると平成を1つのビデオで表現するのは難しいんじゃない? どう? 平成三部作とか(笑)。
ありぼぼ ははは(笑)。確かに。それがいいかもしれないです。
MV監督に向いているのは
ありぼぼ この連載は音楽業界を目指す人に読んでもらいたいと思っているんですが、ミュージックビデオの監督にはどんな人が向いていると思いますか?
関 自分のこだわりを持ってものづくりができる人ですかね。あと音楽が好きな人。音楽に興味ない人が作っているミュージックビデオって、音楽が好きな人にはバレちゃうと思うから。こだわりを持っている人って言ったけど、ある種の諦めも肝心で、尺も予算も限りがあるから、その中でフレキシブルにやれて、こだわれる人が正しいかも知れない。これを捨てる代わりにこっちを膨らましてみたら、元のアイデアよりすごくよくなったとか、よくあるから。
ありぼぼ ありがとうございます。ちなみに関さんは締切ギリギリまで粘るタイプですか?
関 毎回ギリギリまでやって、次からは余裕を持ってやろうって反省するタイプです(笑)。10時から打ち合わせなのに9時45分までずっとなんか考えたり書いたりして。「もう1案ないかな? 残り5分でもう1案決めたい」ってずっと考えてる。締切がないと完成しないからあるに越したことはないんだけど、最終チェックでも本当にギリギリまでよりよくなればと考えちゃいますね。音楽だってそうでしょう?
ありぼぼ 同じです(笑)。
関 音楽と違って映像に関しては“降りてくる”ようなものでもないんですよ。なのに散歩とかしちゃう。結局机に向かって考えた1時間でできるのに(笑)。昔、自分の仕事に密着取材が入ったことがあるんですけど、考えてるときって画的には何もしてないようにしか見えないんですよね。だからなんかやらなきゃなと意味もなく紙にぐるぐる丸を書いてましたよ。結局その映像は使われませんでした(笑)。
関和亮(せきかずあき)
1976年長野県生まれの映像監督。代表作にサカナクション「アルクアラウンド」やOK Go「I Won’t Let You Down」、星野源「恋」、Perfume「ワンルーム・ディスコ」、藤井風「燃えよ」などがある。1998年より株式会社トリプル・オーに所属、2017年に独立し、株式会社コエを設立。2025年5月には監督を手がけた、永野芽郁と大泉洋が出演する映画「かくかくしかじか」が公開された。
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