後藤正文と「アップルビネガー音楽支援機構」代表理事の小林亮介氏。

「MUSIC inn Fujieda」ができるまで~ゴッチのスタジオ設立奮闘記~ 第2回 [バックナンバー]

「俺たちの世代の仕事」後藤正文と小林亮介がスタジオ「MUSIC inn Fujieda」設立に懸ける情熱

「藤枝が面白くなっていくことと、日本の音楽が面白くなっていくことは両輪として考えられる」

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クラファンで本当に支援が集まるのか?

──現在小林さんはNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」の代表理事を務められているわけですが、それはどのような経緯で決まったのでしょうか?

小林 実は最初は代表理事をやるつもりはなくて。僕、今は市役所を辞めちゃって、もともとやりたかった仕事を始めて、事務所に所属して修行中なんです。スタジオを作る場所が決まって、僕の中ではひと段落の気持ちだったんですけど、僕がいない会議室で「小林がいいんじゃない?」みたいになったらしくて(笑)。でも僕も人生を賭けて転職したタイミングだったから、逆に迷惑をかけちゃうと思って、どうしようか悩んだんですけど、説得された部分もあり引き受けることにしました。

後藤 最終的にNPOは地元に渡さないといけないと思うんです。今は小林くんが代表理事ですけど、将来的には若い世代にパスしなければいけないし、ちゃんと地域のものにしていきたい。そうなると、地元にいる小林くんが適任だったんですよね。現地で何かあったときに、江崎新聞さんもそうですし、役所の皆さんもそうですし、近隣の方もそうだし、パッと連携が取れる。そこが重要なポイントでした。

2025年2月14日時点の工事写真。(写真提供:渡辺建設株式会社)

2025年2月14日時点の工事写真。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

小林 引き受けたものの、最初はまだ自覚がなくて、「これはゴッチのNPOで、僕がそれを地元でサポートする」みたいな、あくまで裏方のイメージだったんです。でもクラファンが始まったくらいのときには表に出てやらなきゃいけないことが増えてきて、これは本腰を入れてやらないと大コケしてしまうぞと思うようになりました。地元の人は何をやってるか知りたいから、講演会の依頼が増えたりもして、そのときに「インスタを教えてください」と言われて、代表理事のアカウントを作ってみたり。だんだんと自分から情報発信をするようにもなったし、途中から気持ちが切り替わりました。

──連載の1回目で後藤さんに取材をさせてもらったのは11月だったので、クラファンもまだ途中でしたが、12月に入って100%を達成して、終盤でさらに伸び、結果的に5000人以上が参加して、約7560万円が集まりました。この結果をどう感じていますか?

後藤 感謝しかないですよね。本当にありがたいという気持ちと、別に性善説とかには立ってないですけど、世の中にはちゃんと善意があって、集まると力になるんだなと思いました。こういう力をもう少し信じて、高めていきたい。大阪の若い子たちの食料支援とか、目標額に達してないファンディングとかもあるけど、みんなが少しずつ寄付をするだけで、大きな助けになるのは間違いなくて。5000人という人数を多いと取るか少ないと取るかは人にもよると思いますけど、平均で1人1万円以上の額を支援してくれてるわけで、これはとても大きいなと思います。

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

──アジカンであったり、音楽であったりをとっかかりにして、初めてクラファンに携わった人の「こういうことができるんだ」という気付きになって、ほかのクラファンにも参加してみたり、そういう広がりのきっかけにもきっとなるでしょうからね。

後藤 そうなってくれたらいいですよね。常日頃からみんなが少しずつでもパスを回すだけで、世の中には面白いものがいっぱい出てくるし、困ってる人を助けることもできる。そういうことが自分たちのプロジェクトで可視化されたから、プロジェクトの主体としてはとにかく感謝の気持ちですけど、客観的な視点から見ても本当に意味のあることだし、勇気付けられるというか、まだまだ俺たち助け合えるんだ、みたいな気持ちになるっていうかね。

──小林さんはどう感じられましたか。

小林 NPOの仲間といろんな準備をずっとしてきましたけど、クラウドファンディングで本当に支援が集まるかというのは、僕は半信半疑だったというか、もしかしたら大コケしちゃうんじゃないかと心配してたんです。でもクラファンが始まった時間に僕は現場で測量をしてたんですけど、「支援がありました」みたいなメールがずっと鳴り止まなくて、そのときにちょっとホッとしました。最後のラストスパートで一気に伸びたときも本当にありがたいなと思ったし、支援額もそうですけど、支援者が増えていくことが一番うれしかったですね。あとは寄付口座を作ったら、そこでも寄付をしてくれる方がたくさんいて。海外に比べて寄付文化は日本にはあまり根付いていないと思ったけど、捨てたもんじゃないなと思いました。もちろん、この額はすごく大きいので、責任をしっかり果たしたいですね。

「受益者は誰?」「何をもって成功?」

──スタジオ工事の進捗に関しては、現在はどんな状況でしょうか?

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

後藤 今は揚げ屋という工事をやっています。土蔵を一度持ち上げて、土間を解体して、このあと基礎をやり直す。まずは土蔵の補強が行われるということです。

小林 昨年12月に、藤枝でアジカンが公演をしたんです。その日に渡辺建設さんと工事の請負契約を締結しまして、宮司さんを呼んで着工式をやり、それから調査解体が始まりました。1月からは本格的な工事が始まっていて、7月30日を工期の完了として、今進めている状況です。

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業完了の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

揚げ屋作業完了の様子。(写真提供:渡辺建設株式会社)

──「MUSIC inn Fujieda」はミュージシャンに対する支援が第一義としてありつつ、それだけではないいろいろな可能性があるプロジェクトだと思います。最後に、小林さんはこのプロジェクトにどんな未来を期待していますか?

小林 スタジオができることによって、誰が受益者になるのかよく考えるんです。お金がないミュージシャンが安価に使えるプロユースのスタジオができるというのは、確かに一義的にはミュージシャンが最大の受益者かもしれないですけど、そこで生まれた音楽を聴いて、勇気付けられたり、元気をもらったりすることを考えると、僕らのようなリスナーも受益者だし、そういったみんなを豊かにするものが藤枝から発信されることは地域のみんなの誇りになると思うんです。あとは途中でも言ったように、東海道の風景を変えずに街作りをしていきたくて、僕らが蔵を残すことで、その価値が地元の中でも見出されるといいなって。藤枝が住みやすい街であることは地域のみんなが認識してると思うんですけど、もっと価値のある街だと気付いてもらえるかもしれない。僕らが街を変えようなんてことはおこがましくて思ってないですけど、それを一緒に考えてくれる仲間が1人ずつ増えていってくれれば、最終的には成功かなと思ってます。

藤枝大祭りの様子。(提供:藤枝大祭り写真コンクール [藤枝大祭連合会] / 財津瑠歌「お披露目」)

藤枝大祭りの様子。(提供:藤枝大祭り写真コンクール [藤枝大祭連合会] / 財津瑠歌「お披露目」)

藤枝大祭りの様子。(提供:藤枝大祭り写真コンクール [藤枝大祭連合会] / 手塚光次「活気に満ちて」)

藤枝大祭りの様子。(提供:藤枝大祭り写真コンクール [藤枝大祭連合会] / 手塚光次「活気に満ちて」)

後藤 藤枝は調べると面白くて、実はしっかりと芸能の街なんですよ。商店街の人たちがやってる「藤枝大祭り」には三味線奏者や長唄の歌い手さんが来て、そういう意味では日本の邦楽を守っている祭りの1つでもあるわけで、そこにはすごく縁を感じます。そういう歴史とのつながりを見直すことは藤枝に限らず、僕たちがやっていかないといけないというか。洋楽に憧れてやってきた僕らだけど、じゃあ日本の音楽はどんなところに立脚してるのか、私たちのユニークさってなんだろう?みたいなことをちゃんと問うてきたかというと、そうでもない気がしていて。そこをもう1回見直していくことが、文化の幹を太くするには必要なんじゃないかと思うから、藤枝が面白くなっていくことと日本の音楽が面白くなっていくことは、全然両輪として考えられるんじゃないかな。「受益者は誰なのか」っていう話もあったけど、ただ黙っててポロンと落ちてくるものが利益じゃなくて、みんなで「これは価値があるよね」と話し合って、認め合っていくと、それがちゃんと社会や地域の利益として受け入れられていく。そうやってみんなで文化の流れが作れたらうれしいですね。

「APPLE VINEGAR -Music Support-」最新情報

滞在型音楽スタジオ「MUSIC inn Fujieda」設立に向けてのクラウドファンディングが終了。支援者数5169人、目標金額5500万円を大幅に上回る7560万円の支援額が集まった。

アーティストを支援する、地域と音楽をつなぐ滞在型音楽スタジオを作る。#AVMS - CAMPFIRE

プロフィール

後藤正文(ゴトウマサフミ)

1976年生まれ、静岡県出身。1996年にASIAN KUNG-FU GENERATIONを結成し、2003年4月にミニアルバム「崩壊アンプリファー」でメジャーデビュー。2004年にリリースした「リライト」を機に人気バンドとしての地位を確立させる。バンド活動と並行してGotch名義でソロ活動も展開。the chef cooks me、Dr.DOWNER、日暮愛葉らの作品にプロデューサーとして携わるなど多角的に活躍している。文筆家としても定評があり、これまでの著作に「ゴッチ語録」「凍った脳みそ」「何度でもオールライトと歌え」などを刊行した。ASIAN KUNG-FU GENERATION の活動としては2025年2月に最新シングル「ライフ イズ ビューティフル」をリリース。2025年5月から6月にかけて、2014年以来11年ぶりとなる主催ロックフェス「NANO-MUGEN FES.2025」を日本とインドネシアの2カ国で開催する。

APPLE VINEGAR -Music Support-https://www.applevinegarmusicsupport.com/
Gotch / Masafumi Gotoh(@gotch_akg)|X

小林亮介(コバヤシリョウスケ)

1976年生まれ、静岡県出身。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(G, Vo)とは高校時代の同級生。元静岡県藤枝市職員で、後藤が創立したNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」の代表理事を務める。

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APPLE VINEGAR -Music Support- @applevinegar_ms

#AVMS 創設者で理事の #後藤正文 と代表理事の #小林亮介 の対談記事です。これはとてもレアな記事だと思います。ぜひご一読ください。
@gotch_akg @kobayashi_avms
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