のっちはゲームがしたい! 第16回(後編) [バックナンバー]
吉田直樹さんが思う「FFらしさ」って?あの壮大な世界をどうやって作り上げたのか教えてもらいました
発売したゲームをみんなが楽しんでくれるときに感じる“脱力感”……その理由は?
2024年5月17日 12:30 141
スクウェア・エニックスが誇る“武器庫”を見せてもらった前編に続いて、後編ではのっちさんが吉田直樹さんにインタビュー。のっちさんがハマった最新作「FINAL FANTASY XVI(FF16)」や、全世界累計登録アカウント数3000万を突破した人気MMORPG「FINAL FANTASY XIV(FF14)」について話を聞きつつ、読者の皆さんから募集した吉田さんへの質問にも答えてもらいました。
取材
僕は基本的に「最初に本ありき」なんですよ
吉田直樹 会社を見学していただいて、どうでした?
のっち やっぱり大きな会社だなって思いました。モーションキャプチャーのお部屋に初めて入れていただいたんですけど、まさか社内にあんなに大きなスタジオがあるなんて……。
吉田 今日は何か撮影していましたか?
のっち やってなかったです。
吉田 空いてるのは珍しいんですよ。多数の大型タイトルを作ってるので、スタジオは常にスケジュールの奪い合いになってるので。
のっち 正直に言うと私、「FF」はそんなに詳しくないんです。「16」はやったんですけど、「10」は途中まで、「14」も序盤までしかできてなくて。だから私の中で吉田さんは「NieR Re[in]carnation」の公式生放送に「14」コラボの話をしにくる偉い人っていう認識で(笑)。基本的な質問ですけど、吉田さんは「14」のどこから携わっているんですか?
吉田 スクウェア・エニックスには「ドラクエ」の開発として入社したんです。もともと、今はなくなっちゃったハドソンという会社で「ボンバーマン」とかを作っていて、縁があって「オンラインの『ドラクエ』を作るから来ないか?」って声をかけていただいて。それでしばらく「ドラクエ」を作っていたんですが、「14」の最初のバージョンがリリースされたときに「遊べることが少ない」とか「ラグが大きくてちゃんと遊べない」みたいな問題が多くて、総指揮として入ってそれをなんとかしてくれって言われたんですよ。当時はプロデューサーをほぼやったことがないから、ディレクターとして入るつもりだったんですけど、「1人で両方やってくれたほうが早いから」って周りに言われて、どっちもやることになって。
のっち 両方って、具体的には何と何ですか?
吉田 予算管理、プロモーション計画、PR、マーケティングの総指揮などなど。全グローバルのそういったことを指示しながら、ゲームデザインをしてパラメーターも打ってという感じです。当時はそんな大変なことになるとは思っていなかったんですが……。
のっち えええ! 大変(笑)。ちなみにハドソンにいたときは「ボンバーマン」の何をやられていたんですか?
吉田 「爆ボンバーマン2」というタイトルで、ストーリーモードのディレクターでした。それまでの「ボンバーマン」と毛色を変えたいということで、「氷の爆弾」「炎の爆弾」みたいに爆弾に属性を付けたり。そういうアイデア出しからスタートして、ストーリーも書いて演出も考え、ボスの攻撃も企画して……と。なんでもやってました。
のっち システムも作りながらストーリーも作るって、めちゃめちゃ忙しそう。しかも「14」の仕事を続けながら「16」の開発も始めたってことですよね? 想像もできない(笑)。
吉田 もう二度とやりたくない、と毎回思います(苦笑)。どちらか1つに力を入れているというのはお客様に失礼なので、「16」を作ってるから「14」の作業量が落ちるということは絶対にないようにしてたんです。でも「16」と「14」を並走すると、「この週は全部『16』の作業で埋めるので、確認しないといけないことは全部終わらせてください」「翌週は今週できなかった分も含めて『14』の作業を詰め込んだのでこなしてください」みたいなおかしなスケジュールになるんです。結局、合算すると人の3倍くらい稼働していた気がします(笑)。
のっち 「16」が発売されたら、ひと段落できたんですか?
吉田 いや、「16」もダウンロードコンテンツを作ったり、PCでも遊びたいと言ってくださる世界中の方々の声に応えてPC版を作ったりしてるので、その確認があるんです。あと、何より今優先して決めないといけないのが「14」の次の拡張に向けての作業。さらに取締役としての、今まで手が回らずぶん投げていた全社のいろいろな調整を、新社長と一緒に取りかかっています。第三開発事業本部としても、「16」をリリースできたので次のゲームへのチャレンジを始動させたいですし。
のっち 吉田さんの仕事は「1個終わればまた次がある」じゃなくて「ずっと大量にある」。
吉田 まあこの仕事は、自分の中で趣味だと思っちゃってますからね(笑)。
のっち 先ほど吉田さんのお部屋で、「16」のイメージアートを描いてもらったのが7年前とおっしゃってましたが、ということは制作期間は7年ですか?
吉田 「14」の最初の拡張パック「蒼天のイシュガルド」を出したあたりで、会社から「吉田のところで『16』をやってくれないか」という話をもらったから、それが2015年くらい。でも「14」をさらに軌道に乗せようという時期で、さすがにいきなり全力で始めるのは無理なので一旦置いておいて、ディレクターの高井浩と脚本の前廣和豊と一緒に3人で作り始めたのが7年くらい前で、キャラクターのデザインもそのくらいからですね。
のっち うわー、そんなにかかるんだ。
吉田 でも、そう聞くと長くかかってるように感じますが、超大規模に一気呵成に入ってからは4年くらいです。初期はシナリオやキャラ構成、バトルなどをじっくりまとめてたので。
のっち じゃあ、本格的に開発に取りかかる頃には、もう設定とかは決まってたんですか?
吉田 最初に脚本がラストまで完パケしたのは、スタートして1年後くらいです。
のっち ええっ! そうなんだ。
吉田 僕は基本的に、ストーリーを書き上げないまま開発に入るのはあまり好きではなくて。運営とアップデートのある「14」はちょっと違いますが。RPGにおいてグラフィックとかバトルって、ストーリーのために存在してるところがあるので、バトルを作ってるときにまだストーリーが完成してないと、みんなどう進めていいかわからなくなっちゃう。「最初に本ありき」だと思っているんです。
のっち そっか、指針がある状態で作りたいですもんね。
吉田 特に最近のゲームのようにグラフィックのクオリティが高いと、もし手戻りになったら尋常じゃないくらいお金と期間をロスしてしまいますしね……。
「きっとクライヴを叩く人もいるだろう」なんて話までしたんです
のっち 「16」は「ストーリーがとにかく面白い」という評判を聞いて、発売後すぐにとりあえずダウンロードしたんですけど、なかなか時間が取れなくてそのままにしてたんです。でもツアーが終わって時間ができたときにやってみたら、そこから一気にのめり込んじゃって……最高でした。
吉田 実際にやってみてどうでした?
のっち 「なんてつらく悲しい体験をさせるんだ」って思いました(笑)。
吉田 ははは、すみません。
のっち めっちゃくちゃ面白かったですね。“新しいラスボス像”を見たというか。「いったい何が敵で、何と戦っているんだろう」と思いながら話が進んでいって、自分の役割みたいなものも二転三転して、最終的に出会う敵が自分と同じ姿形で……。
吉田 そうですね。自分が入るための器を待っていた、その器が主人公だった、という。
のっち 同じ見た目で、置かれている境遇も一緒だけど、それに対しての考え方の違いでぶつかるって、私にとっては初めてで、新しい設定だなと思いました。「人とは何か?」みたいなことをすごく考えさせられましたね。
吉田 深く感じ取っていただいてありがとうございます。
のっち あと、私はヒロインに感情移入しながらゲームを進めることも多いんですけど、ヒロイン像も新しかった。例えば「地元でお守りを持って主人公を待っているヒロイン」とか「主人公のそばで一緒に戦ってどんどん強くなるヒロイン」とか、いろんな設定があると思うんですけど、ジルは普通の女の子になることで救われるんですよね。主人公のことを助ける場面が多かった強いジルが、「私にできることなんて、こんなことしかないけど」って言って花冠を織る……あのときに私は「普通の女の子として幸せになってほしい」って気持ちになりました。
吉田 あれは、捉えようによっては主人公のエゴに見えるようにあえて作ってるんです。
のっち あー、そうなんですね。
吉田 本人はおそらく、最後までそばに立ち続けて、どんな結末になろうとも、ともにいようと思っていたはずなのに、そしてそのジルの気持ちを理解してたのに、クライヴはそれを良しとしない。シヴァの力を吸収してしまうんです。そこはクライヴのエゴだし、「女性は守られるもの」という考え方が出てしまっているようにも見える。でもそれは開発チームの主張ではないんです。クライヴという人間の生き様を描くときに「この人だったらそこでどう判断するのか?」というのをめちゃくちゃ議論して決めたことでした。「きっとクライヴを叩く人もいるだろう」なんて話までしたんです。それでもなお「今回描く主人公はそういう人間性なので貫こう」ということになって。
のっち だからジョシュアがクライヴを一発殴るんですね。「ジルはいつも兄さんの味方だから僕が言う。なんでも1人で背負い込むのは悪い癖だ」って言って。
吉田 そうです。そういう意見交換があったから、脚本の中で兄弟げんかをしっかり描いて、クライヴにはよくない面もあるという視点を入れてあります。その話をしていただけたということは、のっちさんが本当に隅々までプレイして感じ取っていただいたんだなというのが伝わってありがたいです。
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