和久井健が描き下ろしたコラボイラストを持つHYDE。

HYDE×和久井健 特別対談

リアル“マイキー” HYDEと「東京卍リベンジャーズ」作者がついに邂逅

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僕、マンガ家になりたかったんです

この日が初対面だったにもかかわらず、対談が進むにつれて距離感が縮まっていったHYDEと和久井。和やかにトークが進む中で、HYDEは自身がかつてマンガ家を目指していたことを語り出した。

HYDE 僕、昔はマンガ家になりたくて。高校くらいまでずっとマンガを描いていたんです。

和久井 マジですか?

HYDE ホントホント! 「サンデー」とかに原稿を送ってましたよ。

和久井 えー! 自分も最初少年誌に持ち込みをしてました。でも作風が合わなくて採用されず。でも、そのときに「もっと自分に近いものを描いたほうがいいよ」とアドバイスを受けて、ホストを主人公にしたマンガ(「新宿ホスト」)を描いたら「面白いね」と言ってもらえたんです。

HYDE それがいくつのとき?

和久井 26歳くらいかな?

HYDE マンガ家のデビューとしては遅いほうですよね。それまでは何を?

和久井 スカウトマンとか「新宿ホスト」や「新宿スワン」の世界に近い仕事をしてました。

HYDE 昔からマンガを描いていたんですか?

和久井 いや、仕事を辞めて、突然描き始めた感じです。

HYDE すごい! 何かきっかけはあったんですか?

和久井 安野モヨコさんの「働きマン」を読んだことですね。当時は精神的にも肉体的にも疲れる仕事をしていて、「もう嫌だ」と思いながら毎日働いてたんです。そんなときにラーメン屋に入って、「モーニング」(講談社のマンガ誌)を開いたら「働きマン」が載ってて。確かマンガ誌の編集長が出てくるエピソードで、その編集長がすごくカッコよかったんですよ。それに感動して、僕は頭悪いし編集長になんてなれないけど、マンガでだったら人の心を動かすことはできるんじゃないかって。

HYDE ラーメン屋で「モーニング」を手に取ってよかったですね……。

和久井 本当にそう思います(笑)。絵はもともと得意ではあったんですが、仕事を辞めて1年くらい家にこもって描く練習をしたんです。マンガ家になるつもりで、背景も含めて1人で仕上げた作品を毎週「ヤングマガジン」編集部に持ち込んで。

HYDE 26歳で描き始めて、ここまで描けるようになるんだ……。そう言えば、和久井先生の絵はアナログですよね。デジタルへの移行は考えてないんですか?

和久井 考えてないですね。手で描くのが好きなんで。

HYDE 手描きだからこその味がありますよね。デジタルだと出ない絶妙なニュアンスがある。

和久井 デジタルだと間違った線を直したくなっちゃうと思うんですよ。

HYDE 直せないのがいい?

和久井 そうですね。それも含めてのライブ感がいいんです。

HYDE (和久井が描いた原画を見ながら)すごくリアリティがありますよね。

和久井 ポージングについてはHYDEさんがジャンプしている写真を参考にしながら、どれだけ絵でもカッコよくできるか意識して描いてみました。お腹を出してほしいというリクエストもいただいて。

HYDE え!? それは僕は言ってない。そういう趣味のスタッフがいるのかな(笑)。

和久井 でも気持ちはわかりますよ(笑)。HYDEさんはセクシーに描きたくなるんで。

HYDE この絵は何回ペン入れをしてるんですか?

和久井 1回ですね。

HYDE (緩急がついたラインを指しながら)ここの太い線と細い線も1回で?

和久井 はい。途中で止めてから、太さを変えてます。

HYDE へえ……勉強になるなあ。

和久井 HYDEさんは絵を描いているだけあって、見るところが違いますね。うちの担当編集にそんなこと言われたことないですよ(笑)。

HYDE このイラストを使ったコラボグッズは僕自身も欲しいな。海外の読者にも響きそうですよね。

「HYDE VS マイキーfrom東京卍リベンジャーズ」グッズのラインナップ。

「HYDE VS マイキーfrom東京卍リベンジャーズ」グッズのラインナップ。

和久井 担当編集者によると、コミックがフランスやスペインで売れているみたいで。ヤンキーの世界ってギャング文化に近いものがありそうだし、例えばフランスだと騎士道文化と通じる部分もあるのかもしれないです。

音楽に魅入られた

和久井が20代後半からマンガを描き始めたというエピソードにHYDEは興味津々。なぜそんなにも彼はマンガというエンタテインメントに惹かれるのだろう。

HYDE 例えば、映画を作るとしたら人手が必要ですよね。マンガはアシスタントの力があって完成するところもありますけど、たった1人で宇宙を作ることができる。それが1冊の本に凝縮されているところ……そういう魅力に惹かれてマンガ家になりたかったんです。

和久井 そういう意味では音楽も1曲の中に宇宙が詰め込まれているわけで、手法は近いと思うんですが、なんでHYDEさんはマンガではなく音楽の道を選んだんですか?

HYDE 生まれつき目が色弱なので、マンガやアートの道に進むうえで将来が不安だったんですよ。マンガは基本モノクロだから描けるかもしれないけど、カラーのイラストはどうしても描けないなとか。そうやって悩んでいたときに音楽と出会って。音楽であれば僕が見ている景色、思い描いていることを表現できそうだなと思ったんです。自分では絵を描いているほうが楽しいし、絵描きの才能も少しはあるとは思うけど、音楽に魅入られた感じ。向いているのは絵だけど、天職は音楽っていう。

和久井 僕ら世代に限らず、音楽の道に憧れる人の多くがHYDEさんみたいなボーカリストになりたいと思うんですよ。でも、その中で実際になれる人なんてひと握りで。HYDEさんが音楽に向いてないなんて、そんなわけないでしょ!?と思っちゃいますけど。

HYDE (笑)。でも僕としては絵を描いたり、手を動かして何かを作ったりしているほうが好きなんですよ。描いてるときはごはんを食べることも忘れちゃうし。これが音楽だったら、僕はどれだけいい作品を作れるんだろうとか考えちゃう。

和久井 いやいや、これまで十分すぎるほどいい音楽を作っていらっしゃいますよ!

HYDEさんはモテますよ!

多くの人たちを楽しませ、ときには人生を変えるほどのエンタテインメントを生み出してきたHYDEと和久井。彼らが世に放ってきた作品には、人の心を動かす力が確かに宿る。では2人がもの作りにおいて心がけていることはなんなのか?

HYDE 基本的にはポップであること。作品の完成度を上げていくときに何が基準になっているかというと、ポップであるかどうか。ポップと言っても歌謡曲的な要素ではなくて、自分の心がつかまれるようなキャッチーな部分があるかどうかというのがけっこう重要で。自分が作った曲や歌にそれがあると感じられたら成功だし、そうじゃなかったら永遠に完成しない。

和久井 HYDEさんに少し引っ張られるような意見ではあるんですが、僕の場合は共感性があるかどうかですね。それがないと読み手には届かないので大事にしているところです。その点を踏まえてすごく暗いストーリーとか、明るすぎる展開になりすぎないようにバランスを考えてマンガを描いているところはあります。

HYDE そのバランスはどうやって保ってるんですか?

和久井 担当編集者に意見をもらって、もし極端なところがあったら調整していくようにしてます。自分の世界観をそのまま世の中に出しても売れないという自覚があるんですよ。

HYDE 編集者の方と意見がぶつかったりは?

和久井 デビュー作の「新宿スワン」を描いていた頃はありましたね。ケンカもしたし。大人げなかったなと思います(笑)。今はもう何を言われても怒らないようにしています。言うことを素直に聞いて。

HYDE ははは(笑)。

和久井 自分の作品がいろんな人に届いたのは編集のおかげですし、もう頭が上がらないですね。

HYDE 和久井先生はマンガが売れて、アニメ化もされて、実写映画も公開されて……マンガ家の夢を叶えまくってますよね。ぶっちゃけ通帳の0の桁が増えていってるのでは?

和久井 (笑)。0が増えるというのは大袈裟ですけど、お金を使う機会があまりないんですよ。ほとんど遊びにも行かないですし。

HYDE そうなの?

和久井 買い物ではないんですが、お金を使ったことと言えば、最近事務所を引っ越したくらいですね。あとは服が好きなので嫁と買いに行ったり……ところでHYDEさんは普段どんなところで服を買ってるんですか?

HYDE 原宿のお店とか普通に行きますよ。

和久井 お店の空気が「HYDEさんが来た!」ってなりません?

HYDE なっちゃうんですよね(笑)。マスクもして、メガネもあんまり似合わないタイプのものをかけて、髪も帽子で隠して僕的には完璧な変装をしてるつもりなのに、店員さんには気付かれちゃう。これでバレるなら週刊誌に撮られてもしょうがないなあって(笑)。

和久井 アーティストの方は本当に大変ですよね。常に見られるし、完璧な姿を求められるし。

HYDE コロナ禍のときはちょっと気が楽だったんですよ。帽子をかぶってマスクをしてても、みんなそうだから不自然がられずに済んで。和久井先生は世間に顔出ししてないですよね。今さらだけど、僕も顔出さないほうがよかったかな、なんて。僕はタイムリープできないんで、もう過去には戻れないですけど。

和久井 (笑)。

HYDE その代わり、顔が知られているんで飲み屋に行ったらモテますよ!

和久井 飲み屋に限らず、HYDEさんはどこにいても性別問わずモテますよ!

HYDE そう言ってもらえるとうれしいなあ。男性のファンはあんまりいないんじゃないかと思ってたけどね。

和久井 誰だってカッコいい人には憧れますし、HYDEさんはその最たる存在なわけで。ラルクはデビューした頃から曲もメンバーの皆さんも立ち振る舞いも、アートワークもすべてがカッコよくて……そのカッコよさや表現には自分がマンガを描くうえで確実に影響を受けてますね。

HYDE こっちは和久井先生の描くカッコいいキャラクターに魅せられてますよ。特に女の子はメロメロになってるんじゃないかな。今回のことをきっかけに、また違う形でもコラボしてもらえたらうれしいな。

和久井 ぜひよろしくお願いします。

HYDE その前に「東京卍リベンジャーズ」を読み返さないと! 何回も読み返したくなるマンガって、いいマンガですよね。

対談時間は45分。決して長い時間ではなかったが、すっかり意気投合し、別れ際に再会を約束するように力強く握手を交わしたした2人。HYDEと和久井健が再びタッグを組むのは、そう遠い日ではないのかもしれない。

HYDE

L'Arc-en-CielVAMPSのボーカリスト。2001年からソロ活動をスタートし、日本のみならずワールドワイドに活動している。ツアーの一環でアメリカ・Madison Square Gardenや東京・国立競技場などで単独ライブを行い成功を収めている。2022年6月より対バン形式のライブハウスツアー「HYDE LIVE 2022 RUMBLE FISH」を開催。ソロ活動20周年を迎えた2021年に開催した「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」「20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU」の模様を収めた映像作品を2022年7月にリリースした。2023年6月に新曲「TAKING THEM DOWN」を配信リリース。同月よりワンマンツアー「HYDE LIVE 2023」を開催中。

和久井健

2004年9月期の「ヤングマガジン月間新人漫画賞」にて「新宿ホスト」で佳作を受賞。2005年に同作が「別冊ヤングマガジン」に掲載され、マンガ家デビューを果たす。同年より歌舞伎町で生きるスカウトたちを描いた「新宿スワン」の連載を開始。2013年10月に完結し、2015年春には綾野剛主演で実写映画化される。2013年12月より連載第2作目となる「セキセイインコ」をスタートさせる。2015年には「週刊少年マガジン」に活動の場を移し、「デザートイーグル」を連載。2017年に「東京卍リベンジャーズ」の連載を開始する。同作は2020年に「第44回講談社漫画賞」の少年部門を受賞。2021年にテレビアニメ化、実写映画化、舞台化され話題に。2022年11月に完結したあとも幅広い世代の読者に支持され続けている。

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(c) 和久井健/講談社

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