sumika×WOWOW|“ゼロ距離”の「Vermillion's」さいたまスーパーアリーナ公演を振り返る

sumikaが6月29日に埼玉・さいたまスーパーアリーナで行ったライブツアー「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」のファイナル公演の模様が、8月9日(土)20:30よりWOWOWにて放送・配信される。またツアーに密着した特別番組「Documentary of sumika 2025 ~Vermillion's~」も9月に放送・配信されることが決定。2本の映像を合わせて「Vermillion's」ツアーの全貌がわかる、ファンには見逃せないプログラムだ。

音楽ナタリーでは、33公演におよぶ充実のツアーを終えてすでに夏フェスモードへ突入しているsumikaのメンバーをキャッチ。多彩な演出の楽しさと、エモーショナルな感動にあふれた、過去最大規模のツアーの模様を振り返ってもらった。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / YOSHIHITO KOBAライブ撮影 / 後藤壮太郎、山川哲矢

初めて3人で完走できたツアー

──「Vermillion's」ツアーのコンセプトはどういったものでしたか?

片岡健太(Vo, G) 同名のアルバムを携えてのツアーだったので、作品が持っている力をそのまま解像度高く、来てくださる方に伝え切ろうというのが軸としてありました。そのためのセットリストと演出をメンバーとスタッフチームで話し合いながら考えていきましたね。

──ストレートにアルバムの世界観を表現しようということですね。

片岡 それが軸としてありつつ、せっかくライブに来てくださる方のためにも、「人の縁に生かされている」というアルバムのテーマを以前の曲も含めて伝えられたらいいなと。「Vermillion's」という作品に引っ張ってもらって、もともとあった曲の新しい可能性が見えたらいいなという思いもありました。

片岡健太(Vo, G)
片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

──荒井さんと小川さんはツアーが終わって、どのような感想がありますか?

荒井智之(Dr, Cho) すごくいいツアーだったと思いますし、楽しかったです。初めて3人で完走できたツアーで、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないですけれども、やっぱり簡単ではないことなので、それができることがすごく幸せなことなんだなということを噛み締めています。

小川貴之(Key, Cho) 「何がなんでも33公演回り切る」という意識のもと、初日から挑んでました。「Vermillion's」が完成した瞬間からその気持ちが体に宿っていたので、難しいことを考えず、ひたすら最後まで走り抜けることだけを100%考えていましたね。回り切れて幸せでしたし、なおかつツアー自体がとても楽しいものになったので、本当によかったなと今振り返って思います。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

前日に決まった“客席ダッシュ”

──ツアーファイナルのさいたまスーパーアリーナ公演では、ステージセットも含めて、いろんな楽しい演出がありましたね。片岡さんは客席に降りてアリーナを1周していましたが、あれはファイナルだけの演出ですか?

片岡 そうです。それまでのホール公演は、花道があったら両サイドに行ってスライディングとかしていました(笑)。あの熱量をさいたまスーパーアリーナで見せるなら「客席ダッシュかな」と。

──自分から提案したんですね。

片岡 できたらいいなぐらいの話をスタッフチームにしていて。前日に会場入りしたときに「やれそうだけど1回確かめておく?」と言われて、客席を見に行きました。そのときに初めて「これぐらい走るんだ」ということがわかって、「言わなきゃよかったかな」って(笑)。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

──けっこうな距離がありましたもんね(笑)。

片岡 でもライブが始まったら、アドレナリンが出ていたので意外と大丈夫でした。もともと今回は特に客席との距離感を縮めて「ゼロ距離でやりたい」という気持ちがあったんです。客席ダッシュをやったことでお客さんとの物理的な距離も近付いたと思うし、結果的にやりたいことができてよかったなと思います。

──荒井さんと小川さんも客席に行っていましたよね。バズーカも使ったりして。

荒井 もともとバズーカを打つ演出はやろうと言っていて、当初はステージ上でやる予定だったんですよ。でも、「健太がアリーナを1周する」という話を埼玉の初日のリハーサルのときに聞いて。健太が降りるんだったら、僕とおがりんは両サイドから降りて、客席の後ろからバズーカを撃てば、メンバー全員がお客さんの近くに行けるからいいんじゃないかなと。

──リハーサル初日に決まったんですね。

荒井 そうですね。そこでみんなで話して、「じゃあお立ち台をここに持ってきて」とか、いろいろ調整していただいて。リハでやってみたら「行けそうだね」ということになりました。

小川 バズーカ、ものすごく気持ちよかったです。リハーサルのときにはガスが足りなくて2mぐらいしか飛ばなくて、本番でこうなったらどうしようと思っていたんですが。

片岡 不発弾(笑)。

小川 もしそうなっても、カメラはちゃんと撮っていてねと(笑)。けっこう緊張していたんですけど、結果的にうまくいってよかったです。客席に降りるとみんなの表情がよく見えるし、すごく喜んでくれていたので、本当にいい演出だったなと思います。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

ゼロ距離で、“1対1”の関係性を意識できた

──ほかに印象に残ったシーンで言うと、3人だけで数曲演奏するシーンがありました。あの場面で片岡さんはベースを弾いていましたよね。

片岡 弾きました。

──ツアー中、どの会場でもベースを弾いていたんですか?

片岡 そうですね。初日からやってました。

──これは毎度のことなんですけど、sumikaのファンは口が固くて、SNSとかでセットリストや演出には絶対に触れないんですよね。だから片岡さんがベースを弾いているのも埼玉で初めて知って「おお!」と思いました。人前で弾くのは初めてですか?

片岡 いえ、高校の軽音楽部のライブ以来でした。ベーシストとして、どれくらい弾けたら合格みたいなものもないし、メンバーとも特に技術に関する会話はしていなくて、「楽しくやれたらいいよね」ということをゴールにして。正解はわからないけど、楽しかったです。音楽としてちゃんと聴けるものじゃないとお客さんに失礼だろうとは思っていたところ、幸いなことにうちにはゲストメンバーで素敵なベーシストが2人もいて。プレイ面で悩んだときは相談に乗ってくれたり、アドバイスをしてくれたりしたので、すごくぜいたくな教育体験を味わわせてもらいました。

──前回のツアーでは荒井さんがサックスに挑戦していましたが、毎ツアー、新たな見せ場がちゃんとあるのがいいなと思います。

片岡 どんどんハードルが上がっていくから、次は1回飛ばして、何もないかもしれない。

小川 何もないのが普通なんですけどね(笑)。

小川貴之(Key, Cho)
小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──そういえば片岡さん、別の曲でドラムもちょこっと叩いていましたよね。ドラムロールみたいな。

片岡 ディズニーシーの「ビッグバンドビート」(園内のブロードウェイ・ミュージックシアターで行われているショー)みたいなイメージでしたね。あれも埼玉の初日のリハーサルで決まったんです。

荒井 健太がドラムを叩くのは、ツアーの最初のほうでもやっていたことがあったんですよ。メンバー紹介のときに、本当にアドリブで、音がなくなってもいいやと思ってドラムから離れて前に出て行ったら、健太がバッと来てバーン!と叩いてくれた。あれはまだ本当に序盤だったよね?

小川 そうそう。

荒井 そのあと、毎度恒例でやっていたわけではなかったんですけど、記憶に残っていたので、ファイナルのときに「またあんな感じでやれないかな」と思って。そういうのが全部つながって、埼玉公演はツアーの集大成的な演出になったのかもしれないですね。

荒井智之(Dr, Cho)
荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

──アリーナツアーってガチガチに演出が固められて、演奏も映像とシンクロしてみたいな、そういうイメージがあったんですけど、意外と自由なんですね。

片岡 今回のツアーファイナル、さいたまスーパーアリーナの2公演は非常に肉体的というか、アリーナの規模感ではやらないようなことをやりました。メンバーもゲストメンバーもあまり気構えず、ホールの延長で「これ、アリーナでやったらよくない?」みたいなことをシームレスに考えられていた気がします。スタッフチームもそれに応えてくれて、いい意味で会場の規模感を考えずに、こっちが提案したり動いたりしてもちゃんと成立させてくれました。それはツアーでこれだけの本数を回ったからなのか、そもそもsumikaチームの土台のスキルが上がってきているのか、いろんな理由があったと思うんですけど、そういうものが全部噛み合って演出や演奏や空気感に生きたんだろうなとは思います。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」の様子。

──それは確実にお客さんにも伝わっていたんじゃないですか。

片岡 関係者挨拶のときとか友達とごはんを食べに行ったとき、異口同音に「ライブハウスっぽかった」という感想があって。そういう感想を抱いてくれたのは、すごくうれしかったです。

小川 やっぱりお客さんとの距離感が近かったなと思いますね。今までホールツアーなどで積み上げてきた「広い会場でも距離感を近付けたい」という思いがつながりました。アリーナだろうがどこだろうが、お客さんとゼロ距離で、“1対1”の関係性を意識できたと思っています。