センチミリメンタル「カフネ」インタビュー|“区切り”を経て紡ぐ愛のアルバム

温詞(あつし)によるソロプロジェクト・センチミリメンタルの2ndアルバム「カフネ」が8月6日にリリースされた。

彼がオリジナルアルバムをリリースするのは、2021年発表の「やさしい刃物」以来、約3年8カ月ぶり。今作には「過去と現在」「痛みと希望」「孤独と愛情」といった“対極にある感情たちの対話”をテーマに、新曲4曲を含む全13曲が収められている。

アルバムリリースを記念し、音楽ナタリーではセンチミリメンタルにインタビュー。アルバムの制作背景に加え、改めてそのルーツから現在までを振り返り、センチミリメンタルのアーティストとしてのユニークなスタンスを語ってもらった。

取材・文 / 柴那典撮影 / 梁瀬玉実

2ndアルバムの制作に踏み切った大きな理由

──約3年8カ月ぶりのアルバムですが、まずこの期間を振り返っての実感はどうですか?

長いようで、体感としてはすごく早かったです。デビューのタイミングから歩みをともにした「ギヴン」という作品の原作が完結して、アニメ作品も一緒に完結まで走り切れた。それは1つの区切りとしても大きな出来事だったと思います。

──「ギヴン」に携わってきたことにはどんな思いがありますか?

もともと「ギヴン」のプロジェクトではテレビシリーズの劇中歌1曲を作るだけの予定だったんです。でも、オープニングテーマとエンディングテーマも作る、そしてオープニングテーマは僕が歌って同じタイミングでデビューするというふうに、徐々にやることが増えていった。結局最後まで任せていただけたことで、自分の音楽を認めてもらった感覚もあります。最後の「映画 ギヴン 海へ」の主題歌である「結言」という曲は、僕が昔から歌っていた曲で。その曲を歌詞を変えずに使っていただけたことも含めて、僕の人生全体を肯定してもらえた感じもありました。

──では今回、オリジナルアルバムを作るにあたっては、まずどんなことを考えましたか?

前作からだいぶ期間が空いてシングル曲も溜まっていたので、「どのタイミングで出そうかな」とは考えていたんです。そんな中、僕自身としてもすごく大事な曲である「結言」という曲で「ギヴン」が完結した。オリジナルアルバムとして区切るにもふさわしいタイミングだと思ったのが、2ndアルバムの制作に踏み切った大きな理由ではありますね。

──「結言」を書いた頃はずいぶん前だったんですよね。

そうですね。10年前くらいです。

──この頃はセンチミリメンタルの将来像について、どんなことを考えていましたか?

この時期が一番絶望していた時期だったかもしれないです。先が見えない、苦しい時期で。でも、出会いも多かったし、キャリア的にもいろんなものが混じり合っている、カオスな時期だったと思います。「結言」の歌詞は「ねぇ、忘れないでね」という言葉から始まるんですけど、当時は「ねぇ、忘れないでね。」という名義でのソロ活動もしていて。人生においてもキャリアとしても、転換期でした。

──バンドなのかソロなのか、いろんな可能性を探っていた感じだったんでしょうか?

センチミリメンタルがバンドとして活動を始めてから、メンバーの脱退があったり、シンプルに人気が出なかったり、うまくいかない、日の目を見ることのない苦しみがあって。その迷いの中である種のカウンターとして、当時の自分がセンチミリメンタルとして表現しようと思ってなかったことをあえてやろうとしたのが「ねぇ、忘れないでね。」だったんです。そこでは楽曲だけでなく、ライブ衣装や見た目も含めて、すごくコンセプチュアルに作った。そのほうが周りの反響もよかったんですよ。ただ、自分が自分らしく素直にやっていることよりも、そのカウンターとして枠の中で作り上げたもののほうが評価されて、そのことにギャップを感じてしまった。苦しみの中で自分らしさを模索していましたね。

“プロデュースワーク”がキャリアに与えた影響

──さかのぼって、改めてご自身のルーツや影響源について聞かせてください。さまざまなインタビューで「レミオロメンが自分にとって大きな存在だ」ということをおっしゃっていますが、出会いはどんなもので、どういう影響を受けたのでしょうか?

もともと僕はクラシックピアノをずっとやっていたんです。クラシックは大好きだったけど、譜面通りに正確に弾くという文化にしっくりきていなくて。小さい頃から曲を作ったりもしていたんです。そういう中で、ある日家でテレビドラマを観ていたら、レミオロメンの「粉雪」が流れてきた。そのとき、歌の力というか……メロディに言葉が乗って、それを人間の声で力強く歌うことのシンプルなパワーに衝撃を受けたんです。撃ち抜かれるというか、まっすぐ届いてきた感覚があった。自分もこの感覚を音楽で表現したいと思ったのが大きなきっかけでした。出会った瞬間の大きな衝撃は今でも覚えていますね。

センチミリメンタル

──そこからリスナーとしての興味はどんなふうに広がっていきましたか?

まず、レミオロメンを1stアルバムからさかのぼって聴きました。レミオロメンは小林武史さんがプロデューサーを務めていますが、1枚目、2枚目、3枚目とプロデュースの濃度が変わっていって、サウンド感もどんどん変化しているんですよ。小林さんがレミオロメンのサウンドを作り上げて、その世界観を操縦していく。そういう推進力や表現の幅の魅力を学びました。

──小林さんのプロデュースワークにも惹かれていった。

そうですね。影響は強く受けたと思います。

──センチミリメンタルというアーティストには、いろんなレイヤーがあると思うんです。シンガーソングライターであり、ソロプロジェクトである。一方で楽曲提供もしていて、作曲家やサウンドプロデューサー的な裏方の仕事もする。「ギヴン」にはまさにプロデュースワーク的な関わり方でした。ご自身としては、そういう多彩なあり方が自分に向いているという感触はありますか?

自分が他者の音楽に介入する表現に対しての興味はありました。まさに小林さんの影響もあって、プロデュースの面白さや支配するパワーを意識していたので。インディーズの頃から周りのシンガーソングライターのアレンジや、ほかのアーティストへの楽曲提供もしていましたし。さっき話したように「ねぇ、忘れないでね。」はコンセプチュアルなものを自分で作って自分が歌うので、それを表現するにはプロデューサーとしての目線と演者としての目線をどちらも両立させなければいけない。そういう両面性を学べたというのもありました。プロデュースワークの面白さとその力は感じていたし、それをやりたいという気持ちは常にあったので、「ギヴン」という作品でそれを実現できたことは、キャリアにおいて大きなことだったと思います。

「矛盾を歌うアーティストである」ということ

──では、メジャーデビューはご自身にとってどういうターニングポイントだったと思いますか?

僕のメジャーデビューのきっかけは、オーディションでグランプリをいただいたことなんです。そのときの名義は「ねぇ、忘れないでね。」だったんですけれど、そこから改名したというか、「ねぇ、忘れないでね。」の世界観を中心にバンド名だけセンチミリメンタルに戻した、統一したような感じなんです。さらに「ギヴン」という作品と協力して、デビューのタイミングをともにすることになった。最初はサウンドプロデューサーとして関わる予定だったんですけど、急遽僕もアーティストとして一緒に世に出ることが決まった。デビュー曲の「キヅアト」も最初は僕が歌う予定じゃなかったんです。本来自分じゃない人に向けて作ろうとしていた曲が自分のものになった。そういうふうに、違う形で表現していたものが1つにまとまるタイミングだったんです。人生の中で経験してきたいろいろなものをすべて1つにまとめて、それを背負ってセンチミリメンタルとしてもう一度形にしていくんだという意識がありました。

──そこから約6年を経たわけですが、センチミリメンタルの価値観やメッセージ性の軸は変わってないという感覚もあるんじゃないでしょうか。「結言」がずっと大事な曲であったこともそれを物語っていると思いますが。

「結言」は自分のキャリアに大きな影響を与えた曲で。何かを大事に思ったときに、大事に思うからこそ、その裏側まで考えてしまう。出会うということはいつか別れるということで。そういったことを受け入れよう、受け入れなければいけないということをすごく感じる時期に作った曲だったんです。物事の両面性を認めなければいけないし、それが存在していることを自分は歌うべきだと感じた。それはいまだに大事にしている感覚ですね。「矛盾を歌うアーティストである」ということは、自分の核として持っていると思います。

センチミリメンタル

より近い部分でリアルな温度を

──ここからは新作について聞かせてください。まずコンセプトやテーマはどういうところに置きましたか?

このアルバムのコンセプトは、大きく括れば「愛」ですね。恋愛感情も、それ以外のものも、人と人とが強く結ばれるときに、一番大きくて根幹にあるものは愛だと思うので。それを強く表現できたらという思いが、このアルバムの大きな根幹です。

──「カフネ」というタイトルの由来は?

「カフネ」というのは、ポルトガル語で大事な人の髪に指を通す仕草を表している言葉なんです。とても距離感が近い情景ですよね。そばにある体温の温もりだったり、呼吸の感じだったり、より近い部分でリアルな温度を表現したい、そこにクローズアップしたいと常々思っていて。そういうニュアンスを音楽で表現すると同時に、それを聴いた皆さんにも近い距離感で寄り添える作品群であってほしいという願いを込めて付けました。リードトラックの「ゆう」も、そういう部分をフィーチャーした曲にしようと考えながら作りました。

──まさに「ゆう」は、「カフネ」というアルバムの象徴になるような親密な関係を描いた曲ですね。

今まで僕の曲の歌詞は、広い目線での言葉を使うことが多かったんです。細かい描写というより、もっと俯瞰的で多面的で、外から見る感覚を意識したうえでの詞が多かった。でもこの曲はより狭く、近く、リアルな言葉の表現に挑戦してみようと考えました。歌詞もほかの曲に比べてより映像が浮かぶような言葉になっていると思います。

──例えばアルバム2曲目に収録されている「スーパーウルトラ I LOVE YOU」はタイトル通り愛について歌った曲ですけれど、これは概念的な表現で。「ゆう」と対照的な表現になっていますね。

そうですね。感情も概念として捉えることが多かったなと思って。でも「ゆう」は、どちらかというと内側の目線から、クローズドな世界から見たものを大事にしています。