デビュー17年目を迎えたクロスオーバーバンド・BLU-SWINGが、8月6日に7thアルバム「GOODTIMES」をリリースした。
2023年から年1作ペースで作品を重ね、海外ライブでの熱狂を経て進化したバンドの現在地を、中村祐介(Key, Programming)、田中裕梨(Vo)、小島翔(G)、蓮池真治(B)が語る。遠隔レコーディングや新たなグルーヴへの挑戦、変化する音楽観について、インタビューを通して紐解く。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ文中カット撮影 / 田中和宏
ハイペースなアルバム制作の背景
──デビュー15周年を迎えた2023年の「Spectre」、2024年の「Panorama」、そしてこのたび完成した7thアルバム「GOODTIMES」と、年に1作ペースでのアルバムリリースが続いていますね。
中村祐介(Key, Programming) 2015年に「FLASH」を出したあと、メンバーの産休やコロナ禍でちょっとリリースペースを落としてたんですよ。でも曲作りは続けていて、シングルを1、2曲ずつ出しているうちにストックが溜まってきて。で、15周年のタイミングで「Spectre」を作ったんですけど、アルバムを作るとどうしても未収録曲が倍くらいできちゃうんですよね。それを生かしたいから、すぐ次の「Panorama」の制作に入って、1年後にまたアルバムを出せたんです。
──永久機関みたいになっていると。
中村 またしても未収録曲が増えたんで、今年もアルバムを出す流れかなって。ただ、ペースが速すぎるとお客さんが追いつけなくなるんで、来年はちょっとインターバル置こうかなと思ってるんですけど……またストックが増えているので、どうなるか(笑)。1回ストップしちゃうと「また始めよう」と思っても助走が必要だけど、この3、4年はずっと作っているような状態で。せっかく“作る”マインドに入っているから、それを止めたくないという気持ちもあるよね?
田中裕梨(Vo) うん、止めたくない。私たちには「お客様に生で音楽を共有したい」という気持ちがあるので、作品を作るとライブが伴うんです。ライブをするとお客様からフィードバックがあって、それを受けてまた「こういうものを新しく作りたいな」というふうに自分たちの気持ちが膨らむんですよね。
中村 リリースもライブも活発になって、お客さんと触れ合う機会が増えました。2023年を皮切りに、僕らの活動の雰囲気はけっこう変わってきたように思います。あと、新しく海外でライブをやるようになりました。
小島翔(G) 僕は昔から海外で活動したいと思ってた人間なので、中国や台湾、ベトナム、韓国などにライブしに行けるようになってうれしかったですね。向こうの方々は僕らの曲をすごく知っていてくれて、毎回こっちが感動をもらっています。
蓮池真治(B) 去年、一昨年と2年連続で中国ツアーもさせてもらって充実していました。去年のツアーは2週間で9都市を回るというハードな行程でしたけど。
田中 しかも、お腹壊してなかった?
蓮池 氷に当たっちゃったんですよ。夜に1人でバーへ飲みに行ったら、翌日トイレから出られなくなって。今作のリリース後にアジアツアーがあるんですけど、氷には注意していきたいです(笑)。
活動17年目、変化する音楽との向き合い方
──海外でのライブはいかがでしたか?
中村 自分たちはジャズクラブのような会場で、大人相手にライブをするのが得意なバンドだと思っていたんです。だけど中国とかに行くと、みんなノリノリで僕らの曲を大合唱してくれたりして。「ああ、こういうことが自分らにもできるんだ」という新たな気付きを得ました。これからは日本でもスタンディングのイベントにもっと出ていきたいなという気持ちになりましたし、それは大きな変化でしたね。
──ライブでのお客さんの反応を受けて、制作の際に思い描くイメージが変わったり広がったりすることはありますか? 例えば「みんなで歌えるような曲を作ってみよう」というところから制作がスタートするとか。
中村 そんなに意識してないですね。今まで通り、お客さんが面白がってくれるような曲、「なんだこれは」と思わせられるような曲作りを引き続き意識しています。だけど「合唱してもらえたらうれしい」という曲も小出しにはしているかもしれない。
蓮池 「Spectre」に入っていた「We'll Be Right Back」とかそうだよね?
中村 ああ、そうだね。
蓮池 スタジオでドラムの宮本(“ブータン”知聡)と「この曲はお客さんが歌っている姿が見えるよね」という話をした覚えがあります。
田中 「We'll Be Right Back」は国内外問わず、ライブで披露したときにお客様が歌ってくださって。
中村 自分が思い描いていた通りの状況になったのがうれしかったです。だからといって、次の作品でも同じようなことをやるわけにはいかない。同じ雰囲気の曲ばかり作っていても自分たちが飽きちゃうので、お客さんからフィードバックをもらいつつ、BLU-SWINGの音楽は自然にいろいろと変化してきましたね。
田中 今年で活動17年目だけど、20代の頃と今じゃ価値観が全然違うんです。結婚や出産を経て、体力も見た目も社会的な立場も変わって。20代の頃は「音楽にまっしぐら」だったけど、今は「人生の一部に音楽がある」って考え方に変わりました。それで、BLU-SWINGの音楽も自然と変化してきたんですよね。音楽が好きということは変わらないけど、音楽の捉え方が変わると発信するものも変わってくる。お客さんもその変化を寛容に受け入れ、楽しみ、一緒に歳を重ねてくれてる。そして新規のお客さんには新鮮に感じていただいていて。そういうふうに、私たちの音楽は変化とお客さんとの循環を重ねてきたんだと思います。
初めての遠隔制作
──ここからはアルバム「GOODTIMES」について聞かせてください。
中村 聴いてくれている人に楽しんでもらいたい、よき時間を演出したいという意味を込めて「GOODTIMES」という直球のタイトルにしました。バンドってみんなでスタジオに入って一斉にレコーディングをするイメージがあるかもしれないですけど、今回はそうではなく、遠隔で作りました。アンサンブル性を重視した曲はスタジオに入って録ろうという案もあったんですが、ハス(蓮池)がインフルエンザにかかってしまい……。
蓮池 レコーディングの前日に「ごめん!」って連絡しました。僕は当日行けなかったんですけど、ギターとドラムはその日にレコーディングをして、僕はお家でバンドメンバーを想像しながら弾きました。
中村 なので、結局一斉に録った曲は1曲もないという。それは今回が初めてです。遠隔で素材を集めてそこからブラッシュアップしていく制作スタイルは、コロナ禍以降スタンダード化しつつあるのかなと思っていて。ついにそれだけでアルバム1枚完成しちゃったなと。
蓮池 僕がインフルエンザにかかったおかげで?(笑)
中村 そう(笑)。「バンドだからレコーディングスタジオに入ってみんなでやらなきゃ」という思い込みから解放されつつある気がしますね。
──さまざまなジャンルの楽曲を収録したカラフルなアルバムだと感じました。小島さんと蓮池さんは、プレイヤー目線での手応えはいかがですか?
小島 今回はいつも以上に、曲によって求められるプレイスタイルが全然違っていて。ジャジー、ブルージー、ラテン……いろいろなスタイルのギターを弾きました。それに、エレキギター、ガットギター、フォークギターといろいろな種類のギターを使いましたね。
蓮池 今回のアルバムに派手なベースのプレイはないけど、“地味難しい”というか。例えば、打ち込みチックな曲で、あえて人力でフレーズを弾いて、リズムのやや後ろをひたすらキープする。そういう地味だけど難しいことをいろいろやりました。
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