夏はアイドルにとって勝負の季節──大型アイドルイベントや野外フェスはもちろん、学生たちが自由に活動しやすい夏休みのシーズンは、とりわけアイドルシーンが活況を呈する。観客はもちろんメンバー自身も学生であることが多いアイドルにとって、夏は大きな収穫期。新作リリースに伴うイベントなどもこの時期に組まれることは多く、ショッピングモールやCDショップで元気いっぱいに歌い踊るアイドルを目にする機会も多いだろう。
昨年冬に結成されたHAPPY CREATORSにとっては、これが初めての夏。彼女たちはこの1年あまりの活動の集大成と言える1stフルアルバム「make happy」を7月15日にリリースし、次の一歩を提示するニューシングル「じゃじゃじゃじゃーん!!」を7月29日に発表した。そして8月9日には、日向坂46、私立恵比寿中学、アンジュルム、=LOVE、FRUITS ZIPPERほかさまざまなアーティストが集う野外フェス「LuckyFes'25」初日にオープニングアクトとして出演する機会を得た。紛うかたなき勝負の夏。ハピクリのメンバー7人にその心境を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 臼杵成晃
初のツアーで感じた手応えと悔しさ
──HAPPY CREATORSは今年3月から4月にかけて、初の全国ツアー「-Magical Adventure♡-」を実施しました。このツアーは皆さんにとって学びの多い期間になったかと思いますが、それぞれどんな手応えがありましたか?
橘あや 前回の全国ツアーでは初めて行く地方も多かったですし、もっとたくさんのファンの方を増やせたらいいなと思っていたんですけど、ファイナルのヒューリックホール東京は満員にすることができなくて。そういう悔しさもありましたが、7月13日から始まった新しいツアー(「夏の全国ツアー2025 ~ハッピーサマーバケーション!~」)へ向けてよりがんばろうと思えたので、結果的にはよかったのかなと思っています。
夏目りこ 春ツアーは初日からファンの方々の熱量がすごく高くて、終わってみるとファンの人に支えられながら成長できたツアーだった気がします。
小鈴かれん 春のツアーではライブで訪れた地方を、メンバーがそれぞれナビゲートするコーナーがあって。メンバーがその地域を下調べして、ファンの皆さんにその土地のお土産とかオススメスポットを説明したんですけど、その企画を通して私たちもライブで行った地方のことをより好きになれたし、ファンの人たちも私たちに対してもっと興味を持ってくれるようになったと思います。お互いに幸せな時間を作れたかなって。
松本せりな 全国ツアーと並行してリリースイベントもさせていただいて、そのリリースイベントでは各地の新しいお客さんや、通りすがりの方も集まってくださって。そこで「このあとに(全国ツアーの)ライブがあります!」って告知すると、皆さんそこにも来てくれたりしてうれしかったです。
楠森しゅり 個人的には最後のヒューリックホールで、ハピクリのその時点での集大成を見せられたと思っていたけど、ファンの皆さんは「集大成じゃなくて、ここからまた新しい始まりだね」と言ってくれたんです。その言葉が本当にうれしくて、ここからさらにもっとがんばろうと思いました。
逢川あい 遠方に行かなければ出会えなかったファンの皆さんとも出会えましたし、中には東京でのツアーファイナルにまで足を運んでくださった方もいて。それっていろんな場所でライブをしなければ実現しなかったことですし、その結果予想もできなかった景色をファイナルで観ることができたので、すごく貴重な経験をさせていただいたなと思っています。
七瀬こあ デビュー間もないタイミングで全国ツアーが決まったので、正直「お客さんが来てくれるのかな?」と不安でした。全国8カ所9公演を埋めるのって相当大変なことだなと思っていましたし、しかも東京を拠点に活動しているグループなので、地方公演にどれだけの人が集まるのか未知数だったんです。でも、初日の仙台からファンの皆さんの「これからハピクリを一緒に作っていくぞ!」という意気込みが伝わってきましたし、残念ながらファイナルのヒューリックホール東京を満員にすることは難しかったけれど、また新しい目標や自分たちの課題も見つけることができるツアーになりました。
──橘さんや七瀬さんがおっしゃるように、ファイナルのヒューリックホール東京公演はソールドアウトには至りませんでしたが、橘さんは公演中のMCでも「(満員にできず)悔しい」と発言していましたよね。「ハッピーを届ける」というグループのカラー的には、そういう感情的な部分を出さないほうがいいのかなと思ったんですが、あの言葉を素直に発することができたのは間違いなく、その後の成長につながっているのではないでしょうか。
橘 ツアーファイナルの最後のMCで、メンバー1人ひとりが今までの感謝を伝えたんですが、私はそのときに抱えていた思いを正直に語らせていただきました。もちろん、ライブ自体すごくよかったことに変わりはないんですけど、それでも「悔しいです」という本音を伝えたくて。ライブが終わったあと、ファンの方々も「俺も悔しいよ!」と言ってくださって、その声をいただけたことで「次にチャンスが来たときは、もっとがんばって絶対に夢を叶えよう!」とより強く思えたので、思ったことを正直に発言できてよかったです。
初のCDアルバム
──思えば、結成されてからまだ1年にも満たない状態でヒューリックホール東京という大舞台にチャレンジしたわけですものね。そんな中、7月15日に1stアルバム「make happy」がリリースされました。ハピクリはこれまで配信を中心に楽曲を発表してきましたが、CDリリースは今年1月発売の1stシングル「きみのせいではっぴーです!」に続いて2作目。皆さんはCDを購入するよりサブスクなど配信で音楽を楽しむ世代かと思いますが、改めてCDでのフルアルバム発売についてどんな印象を持っていますか?
七瀬 私はアイドルになる前は普通のアイドルファンだったので、リリースイベントに行ってCDを予約してから実際に自分の手元に届くまで、「どんなジャケットなんだろう? どれくらいの重さなんだろう?」っていつもワクワクしていたんです。で、実際に届いてパッケージを開くと、中にブックレットが入っていたり生写真が入っていたり、時にはDVDが付いていたりして。そういうのって配信では味わえない、実際にCDを買わないと体験できないことじゃないですか。なので、アイドルにとってCDって絶対に欠かせないアイテムだと私は思っています。
──この中では松本さんが最年少ということで、CDとは最も縁遠い世代なのかなと思いますが。
松本 普段音楽を聴くときはスマホですし、CDというとお母さんがよく聴いていたイメージがあって。なので、ハピクリで初めてのCDシングル「きみのせいではっぴーです!」が発売されることが決まったときも、正直「CDってどんな感じなんだろう?」と思っていたんです。でも、実際に完成したCDを手にしたときはその重みに感動しましたし、ジャケットとかブックレットの写真のきれいさに驚いたりと、配信で感じたことのなかった感情を得られたことをよく覚えています。それに、リリースイベントもたくさん経験できて、そういう思い出も作品と一緒に増えていくので、自分にとってより大切なものになっています。
──となると、アルバムはシングルのとき以上の重みを感じることになりそうですね。本作にはこれまで発表した配信楽曲に新曲を加えた全12曲が収録されていますが、アルバムにテーマなどは用意されているのでしょうか?
七瀬 このアルバムはお菓子をコンセプトにしていて、12曲それぞれ色が違っているんです。これ1枚でいろんな味が楽しめますし、そんなお菓子を食べたらハッピーな気持ちになれる。そういう思いを込めて、「make happy」というタイトルが選ばれました。
真剣な表情でメッセージを届ける「Life is Olympic」
──収録曲のカラフルさに関しても、デビュー時からお世話になっている谷のばらさん以外の作家さんが手がけた楽曲が加わったことが大きいのではないでしょうか。せっかくなので、ここでは初音源化となる3曲についてお話を伺っていきます。まずは、「Life is Olympic」について。こちらは谷さんの作詞作曲ですが、これまで谷さんが提供してきたものとはまた違ったタイプの楽曲ですね。
橘 ハッピーというよりはエモい曲調ですよね。歌詞は人生をオリンピックにたとえた、メッセージ性の強い内容になっていて。1人ひとりが違う人生を生きていく中で、時には仲間と一緒に支え合ってその人生を生き抜いていくことの大切さを歌っています。
夏目 ハピクリのライブは「みんなで笑顔を届けるぞ!」という明るくポジティブなオーラに包まれていると思うんですけど、この曲のときは、歌詞も相まって雰囲気がガラッと変わるんです。私たちもメッセージをちゃんと届けたいという思いから、歌うときは真剣な表情になりますし、そういう思いをファンの皆さんもしっかり受け取ってくださって、特典会のときに「伝わったよ!」と言ってくださるのが本当にうれしいです。
──夏目さんはグループの中でもポジティブの象徴みたいな印象がありますが、そんな夏目さんでもこの曲になると歌詞の世界に入り込んでしまうと。
夏目 私、メンバーのことを見ているだけでニコニコしてしまうので、この曲のパフォーマンス中はできるだけメンバーを見ないようにしていて。
楠森 そうだったの?(笑)
夏目 なので、できるだけ遠くを見て、強い意思を示そうとしています(笑)。
楠森 でも、私もそんな感じかも。ただ、「ひとりひとり」というフレーズではちゃんと1人ひとりの目を見るようにしているので、できるだけ歌詞の世界に沿ったパフォーマンスや表情をお届けできるよう臨んでいます。
橘 実際、1人ひとり目線を合わせたりするときも、その目からしっかり力強さが伝わってきますし。ただ声を出したり笑顔で踊ったりすることだけじゃなくて、こうやって強いメッセージを受け取ってもらうこともライブにおいて大切な要素だと思うので、「Life is Olympic」はここからさらに大切な曲になっていくのかなと思います。
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アイドルは必ず終わりが来るから、強い輝きを放てる