パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022 (後編) [バックナンバー]
明確なメッセージが込められたOMSBのアルバム、Fuji Taitoの全年齢対象ヒット曲、独自の言語を作り出した志人
言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会
2023年5月28日 21:00 15
それぞれの課題と向き合ったパンチライン
二木 ヒップホップアーティストの円熟という点で言うと、
MINORI このアルバムは今までのISSUGIよりも少しパーソナルなリリックが多かったですよね?
渡辺 ラップしたいトピックも変わってきてるのかなと感じました。
MINORI “生活感”がチラ見えしてますよね(笑)。
YYK “生活感”ブームですね(笑)。
二木 そういう円熟味のある世代のラッパーが増えてきたっていうのはあるんでしょうね。
渡辺 それは絶対にあると思います。
二木
YYK C.O.S.A.はストリートっぽい曲もあるし、“生活感”もあるし、音楽的な新しさもちゃんと取り入れててバランスがいいですよね。
渡辺 C.O.S.A.の「5PM」という曲は共働きの家のパパが保育園に子供を迎えにいくストーリーで、1stヴァースではC.O.S.A. が娘さん、2ndヴァースでは
渡辺 ここでもう1つ挙げたいのが
二木
渡辺 Daichi YamamotoはBAKU、Shingo02とコラボした「PLAYER」でラップしている「黒人山本アジア人」というラインもすごくいいと思ったし、こんなことはほかの人には言えないと思ったんですよね。こういうトピックについて同情するのも違うし、ただの興味本位で質問するのも違うと思うんですけど、こうした思いを曲にして伝えてくれて、ありがたいなと感じます。
地方のラッパーならではの“生活感”
二木 生活感ということで言うと、名古屋を拠点に活動するラッパーのMIKUMARIのアルバム「CONVERSATION」が素晴らしかったです。この中の「Freaky」という曲の「何かに依存しているヤツはみんな友達」というラインが最高で。これは言うまでもなく、「Grateful Days」の「悪そうな奴は大体友達」っていうZeebraのリリックをアレンジしているわけですが、そう来たかと(笑)。ドラッグにしろ、買い物にしろ、それぞれが依存してるものを「何か」として、「みんな友達」って言い切っちゃう懐の深さがいいなと。
YYK METEORとかそっち系ですよね。
二木 「Drunk」という曲の「肩を組んで千鳥足、家に帰りゃ忍び足」も面白くて(笑)。
渡辺 うまい、サラリーマン川柳ですね(笑)。
二木 名古屋のストリート上がりの人ですけどね(笑)。
YYK やっぱり“生活感”ですよね。
二木 さらに、生活感と言えば、Yin And Yang「いなかもん feat.NAZAL & Lil Mesh191」から「俺らいなかもん / ずっといなかもん / 忘れない味ママの煮卵」というNAZALが歌うフックを選びました。そこに至るフックのリリックは、「周り見渡しゃ稲穂か田畑 / 俺の地元じゃイナゴを食べます / ここのFragrance / 家畜の / いなたい土地で生み出したこのFlow / 俺らいなかもん / 洒落たいなかもん / いつかどこかのブランド牛もいただこう」ですね。
MINORI 「イナゴを食べます」の部分もいいですよね(笑)。
渡辺 本当にこういう環境で暮らしてないと書けないリリックですよね。
YYK そんなに田舎なんですか?
二木 僕もまだそこまで詳しくわからない部分も多いのですが、栃木出身で、茨城の水戸を中心に活動しているということです。「田舎」や「地方」をユーモラスに表現した点で、山梨のstillichimiya、それと山口県岩国のHIGH5を思い出しましたね。
渡辺 いたいた! 方言丸出しな感じがめっちゃ好きでした。
二木 ですよね! あとYin And Yangが面白いのは、田畑や農道を舞台にミュージックビデオを撮影しているんですけど、独特のストリート感があるところ。ネリーみたいになってくれたらいいなって勝手な妄想もしました(笑)。
YYK みんなラップがうまくて素人感がないですよね。初めて観たとき驚きました。
二木 その名も「いなかもん」というアルバムの中には特定の誰かに対するディスソングとかも入ってるんですよ。
渡辺 へー!
二木 そういえば今回みんなが選んでいるパンチラインに、東京のラッパーのものは少なくないですか?
YYK 実際、僕は東京のラップがあんまり好きじゃないですね。カッコよくておしゃれなんですけど、やっぱり生活感が出にくいじゃないですか。関西のラップはやっぱり面白いし、最近は仙台も熱い。
二木 東京出身で、いま京都に住んでいる志人と
二木 なぜここを選んだかと言うと、人間や人類を相対化している象徴的なラインだからですね。DJ KRUSHと共作した「結-YUI-」(アルバム「軌跡」収録)とそれに続くこの共作曲を、僕は「人新世ラップ」と勝手に呼んでいまして。さらに日本語表現を突き詰めているのもすごいですね。彼のホームページに行くと、日本語の歌詞だけでなく、英語に翻訳した歌詞も読めます。行間とかスペースにもこだわって、フリガナやルビも独特で。詩人の吉増剛造からの影響を感じますね。
渡辺 ギャル文字みたいですね(笑)。
YYK ネクストすぎますね。「云/鬼 呼 生 - たま よび いく - 」の「たま」っていうのは?
二木 これはたぶん魂ってことだと思うんですけど。英語のタイトルが「SOUL/CALL/FORTH」で「魂を呼んで前に行く」を意味していると思われるので。
社会現象になったWatsonか、名盤を作り上げたOMSBか
二木 全部挙がったところで、「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」を選んでいきましょうか。僕は
渡辺 自分で選んだし、私もAwichにしたいんだけど、2年前に選ばれたのもAwichの「バカばっかだなまったく」でしたよね。今回、私はOMSBかなと。「巻いているcannabis」が社会現象になったことを考慮すると
二木 なるほど。WatsonかOMSBになりそうですね。
YYK 大人部門でOMSB、キッズ部門はWatsonみたいな。
渡辺 ただWatsonは今年またすごいのを出しそうな気もするんですよね。
MINORI 確かに。
YYK Watsonはずっと同じ感じでやってますからね。アルバム的にもOMSBかな。
二木 そうですね。アルバムが素晴らしかったし、普遍的なメッセージが入っているし。
二木信が選んだパンチライン
今は可愛いより可哀想が流行ってる
MIKUMARI「Freaky」何かに依存しているヤツはみんな友達
Yin And Yang「いなかもん feat.NAZAL & Lil Mesh191」俺らいなかもん / ずっといなかもん / 忘れない味ママの煮卵
JNKMN「一方通行(feat. SQUASH SQUAD)」悩んだらとりま韻を踏む / やっぱりweedを吸う / おまけにもう一本吸う / パクられたら刑執行中
邦Kuni &ジェロニモR.E 「Shower feat.MaRI」Recしながらもかかってくる 保育園からの電話
プロフィール
1981年生まれの音楽ライター。単著に「しくじるなよ、ルーディ」、編著書に「素人の乱」(松本哉との共編著)、「ヒップホップ・アナムネーシス ― ラップ・ミュージックの救済」(山下壮起との共編著)など。漢 a.k.a. GAMI著「ヒップホップ・ドリーム」の企画・構成を担当。
二木信 (@shinfutatsugi) | Twitter
渡辺志保が選んだパンチライン
DJ TATSUKI「TOKYO KIDS feat. IO & MonyHorse」遊んでるだけ昔から
Awich「44 Bars」マイク持てば不安消せた / 時間無いの分かる12月でもう35 / 怖い全て間に合わなくなってしまう事
C.O.S.A. 「5pm ft.田我流」午後5時昔と同じこの路地 / 迎えに行くMy Son / 先生にする挨拶 / Backsheetで歌い出す / 自由な歌はガイダンス / 我に返るスマイル / 今日もStay Alive
Daichi Yamamoto「EVERYDAY PEOPLE」どうして黒人として生まれたのか / まるで世界が俺に向けてる刃 / 母に尋ねたあの時は小学生 / 周りとの違いに怯えて隠した長袖 / 二十年蓋をした気持ちが / 不意に問いかける / 突然ドアがノック / だから俺は髪を切ってアフロにした / 自分のありのままを愛せなくて / 何がラッパー / 何がアーティスト / ふざけてるよ / 遠くまで届くように
HAIIRO DE ROSSI「Revelation Intro.」元首相が凶弾に倒れた / 後に問題は教団に問われた / それはそれとして俺が言いたいのは / ウィシュマさんや赤木さんの時喪に服したか
プロフィール
広島市出身。音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳などに携わる。これまでにケンドリック・ラマー、エイサップ・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビューも経験。共著に「ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門」(NHK出版)などがある。現在、ポッドキャスト番組「渡辺志保のヒップホップ茶話会」配信中。
渡辺志保 (@shiho_wk) | Twitter
渡辺志保 (@shiho_watanabe) | Instagram
YYKが選んだパンチライン
Money on, money on, money on me / この上ないよ描いた未来図はずっと虹色の信号機
Watson「ASOBI Remix」ジャンケンいっつも負けないチョキ / なのに財布からなってる遊び
Young Zetton, Watson「本音」あの子大好きcoco / だけど切れ目で寒い外 / またもあいつが誘惑するけど俺は一線引けてるとこ
18stop「7ice cool」忘れてった甘い匂いシュシュ / 似てる気するあの子と同じ感じのチュー
¥ellow Bucks「Shut Up feat. MaRI」中身のないDickはMacaroni
プロフィール
インターネットA&R
Y²K わいわい系 (@sorenasugimasu) | Instagram
MINORIが選んだパンチライン
OMSB「大衆」誰にもなれないし / 自分の普通をやる毎日 / 仲間はずれじゃなくて そこにいなかっただけ。だろ?
ゆるふわギャング「MANDRAS NIGHT PART2鎮座DOPENESS」手短にクリアするこの時代 / ここがクソパンデミックしょうもない
Cholie Jo(CHOUJI & Olive Oil)「kamasereba」好きなだけじゃ足りない / やる気だけじゃダメだ / 条件はひとつ勝負は自分 / 俺もそう君もそう仲間も / 要はカマセレバ
Watson「OTAKARA」どうしようもない俺みたいな奴でも / 人生かきだしゃお宝の山
STUTS「Expressions(feat. Daichi Yamamoto, Campanella, Ryugo Ishida, 北里彰久, SANTAWORLDVIEW, NENE, 仙人掌, 鎮座DOPENESS)」魂の話、電卓は無しで / 汗水垂らし稼ぐんだ脚で / 「ダメかももう」って落ち込むなよ だってエヴァに乗れるか? お前ならどう?
プロフィール
1997年東京生まれ、川崎育ち。音楽ライター。主にヒップホップ関連のレビュー、イベントレポート、インタビューなどを執筆。
MINORI YATAGAI (@minorigaga) | Instagram
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渡辺志保( @shiho_wk )参加!
明確なメッセージが込められたOMSBのアルバム、Fuji Taitoの全年齢対象ヒット曲、独自の言語を作り出した志人 | パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022 (後編) https://t.co/eXuMtsuHmS
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