のっちはゲームがしたい! 第7回 [バックナンバー]
モルガナにドッキリ! アトラスで「ペルソナ」のビジュアルとサウンドの秘密を聞いてきました
魅力的なキャラクターって何? 飽きずに聴けるゲーム音楽にする方法とは?
2021年5月20日 19:00 63
画面がまぶしいって、開発スタッフからよく言われます
のっち 今日お二人の仕事場を見させていただいて、「あ、会社の中の人なんだな」って思ったんです。
目黒将司 会社員っぽいかもしれないですね、確かに。
のっち 意外でした。お二人の名前は「ペルソナ」関連で何度も目にしていたけど、社員というよりもアーティストという印象だったので、けっこう驚きました。
副島成記 普段アーティスト扱いされることは1mmもないですね(笑)。
のっち 私が「ペルソナ」シリーズをプレイしたのは「P5(ペルソナ5)」からで、それまで「メガテン(真・女神転生)」シリーズもやったことがなかったんです。でも私は声優さんが好きで、宮野真守さんや水樹奈々さんとかが声を演じられるという話を聞いて気になって。あと、ゲームやアニメが好きな周りの人たちが「P5」の発売をすっごい楽しみにしていて、「のっちも絶対やったほうがいいよ!」って薦められたんです。実際にやってみて面白いなと思ったのが、敵のボスに対して100%の嫌悪感を持って挑めるところ。最近のゲームは悪役にも“そうなってしまった理由”が設定されていて、それをわかったうえでの葛藤がありながらプレイすることが多いんですけど、ここまで本当の嫌悪感を持って敵と戦うゲームってあんまりないなと思って(笑)。プレイしていて正義感を持てるゲームで、すごかったです。
副島 確かに「P5」については正義感が強いキャラクター像だったので、敵をどれだけ腹立たしく感じるかを考えてましたね。「プレイヤーが『許せない!』って思ってくれないと困るね」みたいな話をしながら。のっちさんのように、声優さんを入口に「ペルソナ」に興味を持ってくれる方々が「P4」「P5」から増えてるのは実感としてあります。
目黒 オカルト臭がだんだん薄れていってるからかな?
副島 うん、昔は今よりもマニアックで重苦しい雰囲気だった。
のっち そうだったんだ!「P5」は楽しい学園生活!って感じで、みんなで海水浴に行ったりしたけど。
目黒 以前まではもっとドロドロしたゲームでしたね。高校生が大人になる“学園ジュブナイル”というテーマは変わらないんだけど、「1」はコックリさんをするところから物語が始まるし。
副島 「P4」から明るくなるんですよね。
目黒 でも「P4」も猟奇殺人の話ですけどね(笑)。
のっち ははは(笑)。
副島 時代によって求められているものが違うんだと思います。「1」や「2」が発売された1990年代後半は、社会的にそういう空気があったので。
のっち 作品ごとのアプローチは意識してどんどん変えているんですか?
副島 ゲームの舞台設定とかを考えてたのは主にプロデューサーを務めた橋野(桂)なんですが、そうですね。
目黒 音楽に関して言えば「P3」から曲調をおしゃれにしたんですけど、「P4」は田舎が舞台で明るい雰囲気だったので、ポップロックっぽい曲にしました。ゲーム中のキャラクターも頭が大きめなデフォルメされたデザインだったので、音楽も少しデフォルメした感じで。
副島 「P4」ではチビキャラが動いてたんですよね。今はリアル頭身ですけど。
目黒 だから「P4」は“デフォルメしたおしゃれ”に仕上げたんですけど、「P5」はキャラクターの見た目にリアリティがあるから、こっちは“ちゃんとしたおしゃれ”を目指したんですよ。
副島 キャラクターデザインに関しては、「P3」が暗くてシリアスだったので「P4」はちょっと雰囲気を変えて楽しい感じにしました。そこから「P5」が出るまで8年も経ってしまったので、あんまりのんびりした雰囲気を出すのもなと思い、リブートして勢いを付けるために、少し押しの強いイメージのイラストに仕上げました。「ペルソナ」というタイトルの通り、キャラクターにはそれぞれ表の顔と裏の顔があるので、必ず表向きの絵と裏向きの絵を描いているんです。あまりデフォルメしすぎると一辺倒なものになってしまうので、表裏をちゃんと書き分けられるように描こうというのは心がけてますね。
のっち 「P3」だったら青、「P4」は黄色、「P5」は赤、みたいにテーマカラーがあるじゃないですか。このテーマカラーを決めてるのはどのセクションですか? 副島さんですか?
副島 自分ですね。「P3」は結果的にどのイラストも青っぽくなっただけなんです。でもそれが思いのほか皆さんの記憶に残ったようで「青いゲーム」と言ってくれたので、じゃあ「P4」は楽しい感じだから明るい黄色にしてみようかなと(笑)。
のっち わ! そうなんだ!(笑)
副島 牧歌的な田舎が舞台だから「幸福の黄色いハンカチ」みたいなイメージもありつつ。あと、殺人事件の現場に張られる非常線も黄色ですし。そしたら「ペルソナ」には毎回イメージカラーがあると思われてしまって(笑)、「次は何色なの?」って聞かれるようになっちゃったんですよね。
のっち 「じゃあ今回は赤でいきます!」ってことになったんですね。
副島 もう赤しか残ってなかったので(笑)。情熱的な感じを出したいというのもあったから、自然と赤になりました。でも赤とか黄色って強い色なので、操作中の画面に使うとまぶしいから厳しいって、開発スタッフからよく言われます。
のっち そんなふうに言われるんですか!
副島 アトラスはプレイヤビリティを優先してるから、見た目優先というわけにもいかないので。でも「そこをなんとか……!」ってお願いしてます(笑)。
のっち キャラクターデザインをされるときは「この子はこういう性格で、こんな裏の顔があって」みたいな設定が先に決まっているんですか?
副島 例えば「P5」であれば「高校生たちが怪盗団になって“腐った大人”に反逆する話」ということで、まず3、4人分のキャラクターを「活躍するのはだいたいこんな連中」って感じで絵にするんですよ。で、そのイメージをもとに坂本竜司とか高巻杏のようなキャラクターを描き始めます。細かい設定とかはその後にストーリーを作り込んでいく過程で少しずつ考えてますね。主人公だけはちょっと特殊で、プレイヤー自身ということであまり設定がないので、ゲームタイトルのイメージを体現するような絵にしてます。
のっち へえ! 先にゲームの顔としてキャラクターを描くんですね。私、怪盗服が好きなんですよ。「表では優等生だけど、実はそんな願望があったんだ!」みたいな(笑)。
副島 怪盗服は最初の案では、ストリートギャングみたいな感じだったんですよ。リアルな若者っぽさを出したいと思って。でも「もうちょっとキャッチーなほうがいいかな」という話になり、いろんなアウトローっぽい衣装をかき集めて考えて、最終的にこうなりました。
のっち 怪盗服になるときは毎回ワクワクしましたね。主人公のマスクがかわいくて。まつげみたいなのが描いてあって「盛れそうだなー」って(笑)。
副島 あれ、全然正体隠れてないんですけどね(笑)。
のっち 喜多川祐介の怪盗服にしっぽが付いてるのもかわいかったです。気になってたんですけど、このしっぽって筆ですか?
副島 筆ではないです。なんなんでしょうね(笑)。
のっち そうなんだ!「画家志望だから筆なんだあ!」と思ってました(笑)。「P5」はどのキャラクターもそれぞれ大事にしてるものがあって、ゲームをプレイしてると1人ひとりに共感して全員好きになっちゃうんですよね。だから、この取材前にナタリーさんから「どのキャラクターが好きなんですか?」って聞かれて、なんて返そうかなと思ったんです。みんな好きですし。よく考えた末、モルガナかな?って。すっごくかわいいですよね。モルガナはどうしてこういうデザインになったんですか?
副島 プレイヤーにはゲームをしながらキャラクターに共感してもらいたいので、ディテールを複雑に描き込んでいるんです。でも複雑なものってなかなか覚えづらいので、パっと見てこのゲームタイトルだってわかるアイコニックなキャラクターが欲しくなったんですよ。「P4」にもクマというキャラがいましたが、そういうマスコットの存在は必須案件みたいな感じで、最初から織り込まれてました。
のっち 私、このゲームで何百時間も一緒に過ごしてるうちに、本当にモルガナが欲しくなっちゃって(笑)。結局その後に猫を飼い始めるんですけど、実際に猫と暮らしてみると、副島さんのイラストは動物のディテールがすごく細かいなって気付いたんです。例えばパンサーのお面の耳のところとか。「もしかして副島さんって猫好きなのかな?」って思ってました。
副島 僕も猫飼ってます(笑)。確かにそういうところは絵に表れてるかもしれないですね。
「ペルソナ」の音楽をおしゃれだと感じる理由はなんなんだろう?
のっち 目黒さんも先ほどおっしゃっていたように、私も「ペルソナ」の音楽ってすごくおしゃれだなって思うんですけど、前に「ゲーム音楽における“おしゃれ”って、どういうことなの?」って聞かれたことがあって、私それに全然答えられなかったんです。「私が『ペルソナ』の音楽をおしゃれだと感じる理由はなんなんだろう?」「そもそも、ダサいゲーム音楽ってどういうものなんだろう?」と悩んじゃって。目黒さんはこれについてどう思いますか?
目黒 作品のテイストに合わせて変えているところはありますが、「ペルソナ」シリーズの音楽は基本的に「主人公のような高校生の世代が『背伸びして大人の音楽を聴いている』と感じるような音楽ジャンル」を狙って作ってるんです。
のっち 例えば「P5」だったら、ジャンルで言うと何になるんですか?
目黒 アシッドジャズですね。30年くらい前に流行した音楽なので、開発当時はあまり耳にしないようなジャンルだったんですが、「P5」が発売された2016年はSuchmosがヒットした時期と丸かぶりで、タイミングよくアシッドジャズが注目されてたんですよね。
のっち へー! すごい! 私は戦闘曲が好きで、朝に仕事の準備をするときに延々ループで聴いてました。最終決戦の音楽の、正義感を掻き立てられる感じはすごいですよね。ゲーム音楽って、プレイヤーは同じ曲を何時間も繰り返し聴くことになるじゃないですか。飽きずに聴けるように意識していることはあるんですか?
目黒 ザコ戦はだいたい、ミスなくプレイすれば4、50秒くらいで終わるように調整しているんですが、その直前に曲のサビが始まるようにしてるんです。これはシリーズを通していつもやってますね。
のっち え? サビが聴けないようにしてるってことですか?
目黒 そうすると、簡単なバトルだと「ちょっと物足りなかったな」と感じるんです。逆に苦戦しているときはサビの盛り上がってる部分を聴けるという。何回も同じバトルをしてもらうために、音楽面でも工夫をしてます。
のっち サビに入るまでの秒数にこだわりがあったとは……!
目黒 その時間は毎作ちょっとずつ違ってて、「P5」はわりと短いです。開発の途中までは想定通りに進んでたのに、難易度とかを調整してバトルの時間がどんどん短くなっちゃって、「曲のタイミングがイメージしてたのと違ってる!」みたいになることもありますね(笑)。
のっち 面白い! サビのタイミング以外に戦闘曲でこだわってることは何ですか?
目黒 今までの音楽は基本的に短いフレーズのループだったんですけど、「P5」はほぼ全部、ブリッジや大サビもある4分くらいの曲を作ってるんです。プレイヤーが飲み物を取りに行ったときとかに、今まで何時間もやってるのに聴いたことがなかった3番の歌詞に初めて気付く、みたいな体験をしてもらったら面白いかなと思って。
のっち フィールド、バトル、リザルト画面でそれぞれ別の曲が流れますけど、例えばそこで変な転調をしちゃったりとか、曲のつながりが気持ち悪くならないように意識したりもしてるんですか?
目黒 調は気にしますね。フィールドからバトルに変わって、リザルトを経てまたフィールドに戻る、という循環を全部きれいに転調させていくのは難しいので、バトルを基準にしてほかの曲の調を決めてます。Dメジャーを使うことが多いですね。なぜかと言うと、Dメジャーの明るさと、平行調のBマイナーの暗さとで明暗が際立つので、印象を変えやすいんです。
のっち えっ、そんなのあるんですか? メジャーとかマイナーってDでもCでも全部一緒だと思ってた(笑)。Dを基準にするのは、「ペルソナ」に限らずどのゲームでもそうなんですか?
目黒 作品によって変えますね。「P5」はDが多いんですけど、「P4」でもかなり多用しています。
のっち 戦闘曲にボーカルが入った曲があるのも珍しかったと聞きました。
目黒 もともと「変わったことをやってみたい」というのがあって、ボーカルを入れてみたんです。キャラクターの声とぶつかってもわけがわからなくならないように、歌詞を英語にして。ゲームではボーカルの音量を少し下げてるので、発売されてるサントラはミックスのバランスを変えてるんですよ。
のっち 私は英語わかんないんですけど、口ずさんじゃいますね(笑)。こういう曲を作ってるゲームって、ほかにあんまりないんじゃないですか?
目黒 たぶんゲーム開発に携わってる音楽家は、皆さん本当はボーカル入りの曲を作ってみたいんじゃないかと思います。きっと周りの反対とかでやれなかったんじゃないかなと。でも橋野は文句を言わずに自由にやらせてくれるので。周りの人からは「大丈夫なの?」ってすごく言われますけどね。「大丈夫です!」と返してます(笑)。
家族が寝静まるのを待って、自分の部屋にこもってVRゲームを作ってます
のっち お二人は普段どんなゲームされますか?
副島 昔は1人で部屋にこもってPCでFPSとかをガンガンやってたんですけど、子供ができてからはそれやると怒られちゃうんで、最近は子供と一緒に「マリオカート」です(笑)。
目黒 同じですね。家族でNintendo Switchやってます。ちょっと前までは、VRのゲームにハマってよくやってたんですけど。
副島 VRなんて家族から怒られません? 完全に1人きりの世界だし(笑)。
目黒 みんなが寝静まるのを待って、自分の部屋にこもってやるんですよ。で、それに飽き足らずに自分で作り始めて。
のっち え? VRのゲームをですか?
目黒 そうです。例えばボクシングのゲームをやってて「ここはもうちょっとこう殴りたいな……」と感じた部分を自分で組み立てたり。
のっち そんなことできるんですか。私も「Oculus Quest」(VRヘッドセット)を持ってて、ボクシングのゲームをちょっとだけやったことがあります。
目黒 そう、その「Oculus Quest」をPCにつなげて「Unreal Engine」(Epic Gamesが開発した3Dゲームエンジン)でいろいろやるんです。あと、小学2年生のうちの子が九九の勉強をしていて、ある日「九九大学に入学したい」と言ったので、「Unreal Engine」で「九九大学入学試験ゲーム」を作って、クリアしたら入学証明書を印刷して渡しました。
のっち めっちゃいいパパ! ゲームって自宅で作れるのか。私にも振り付けを覚えるゲームとか作れるのかな(笑)。あと、さっき仕事場を見せていただいたときに、息抜きのグッズみたいなものはなかったなと思ったんですけど、お仕事に行き詰ったときにどんなことをしてリフレッシュしているんですか?
副島 車やバイクで外に行きますね。乗り物が好きなんで。
目黒 えっ? 就業時間中に?
副島 就業時間中じゃないですよ!(笑) 最近はコロナが怖いので電車に乗らずに車に乗ることが多いんですけど、車の中にいると考えごとができていいですね。同じところに座って考えていると、同じことばかり考えちゃうので。
のっち そういえばお二人とも、作業スペースにちっちゃい車が飾ってありましたね。
目黒 僕も車は好きですね。おじさん世代はしょうがないですよ(笑)。
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田中天(公開用) @tanakaten
Perfume・のっち(大本彩乃)さんがアトラスさんを訪問する記事。
本文を楽しく読み進め、のっちさんの取材後記で「うおっ⁉︎」と驚きの声が出た。
あわわ……む、無限未来……!
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