動画コンテンツから生まれる新たなチャンス
──ロフトがチケット制でイベントの配信をやってみたら、演者によっては箱のキャパ以上の閲覧数を記録したみたいで。現状大赤字なのは間違いないんですけど、そっちに活路を見出すかもしれないんですよね。
俺はまったく現場に行くことなく、ほぼほぼYouTubeだけでここまでハロプロにハマったわけですよ。数カ月前までは興味ゼロだったのに。
──それがくじ引き動画を観るまでになって(笑)。
同じ加入動画を何度も観て、セリフを覚えるくらいになってるから(笑)。前に加賀楓の話をしたけど、
──苦難のときだからこそ新しいチャンスが見えてくるというのもあるのかなと。それこそ、
そうだと思うし、そう考えるべき。動画コンテンツをうまく使って化けてくるアイドルがこのタイミングで出てくる可能性だってある。そういう意味では、ある種のチャンスかもしれないよ。俺、最近、YouTuberの動画もわりと観るんだけど。
──YouTuber!
といっても有名なのは知らないんだけど(笑)、ほら、
──メイク動画まで(笑)。
顔がめちゃくちゃ変わるのが面白い、というかスゴい。アイドルも、もちろんできるだけかわいくなろう、かわいくありたいと思ってるわけじゃん。そういう意識を持つことはすごくいいことで、俺は全然整形したって構わないと思ってる。整形を隠しててもカミングアウトしても、どっちでもいいと思う。だって本人がしたくてやったんだから。「あれ、顔変わった?」とか言いたがる人がネットって多いけど、それがどうした、好きにさせてやれや、と思ってしまう。YouTuberもアイドルも最近はすっぴんで動画に映ったりしてることがけっこうあるよね。
──ビフォーアフターみたいな感じで見せてますよね。
で、すっぴんの顔が全然違ったりする。でも、それをあえて出しちゃってるっていうのは、たぶん運営も含めて、あるアイドルが客前に出るときとか写真を撮られるときはこんな感じだけど、でもメイクを落としたらこうなんですっていう、そういうのを全部込みで見せてもいい、むしろ見せたいと思ってるってことじゃん。俺は、裏表があるのに裏がないふりをすることとかが好きじゃないから、そういう意味でもYouTubeはテレビと全然違うと思う。俺がテレビを観なくなった理由は、この日本をこんなふうにしたのは安倍政権以上に芸能事務所なんじゃないかって思っちゃうくらい、いろいろなものが見えてしまうから。まあYouTubeにもそういう部分がないわけではないんだけど。今年に入ってから芸能人がどんどんYouTuberになっていってるじゃない。だから芸能界的な論理がYouTubeにも入ってくるようになっちゃうんじゃないかと思って。俺が不安がる必要もないのに勝手に憂慮してる(笑)。あと最近は、野球に全然興味ないのにプロ野球の解説動画を延々と観てたりする。
──ダルビッシュ有とか?
観てるね。あと里崎(智也)のチャンネルとか。どんな選手だったかも全然知らないんだよ、動画観てからWikipediaで検索したんだから(笑)。とにかく、人がカメラに向かって何かを一生懸命しゃべるってると観ちゃう。自分でもなんでかよくわからないけど。内容の問題じゃないんだよね。まあ逃避なんだけど(笑)。
──もう誰かがしゃべってさえいれば落ち着くくらいの(笑)。
今は単純に楽しいから、これでいい
俺、ずっと批評家を名乗ってきたんだけど、思うところあって批評家として仕事をするのを辞めようって考えて、実際に“批評家やめる宣言”もしたんだけど、俺が批評家を辞めてYouTuberになるんじゃないかっていう疑惑を持たれたことがあって(笑)。でも、やってみようかなという気持ちもなくはない。
──実際にそういう気持ちもあるんですね。
まあ、今のところ頭の中で思ってるだけだけどね。でも小説を書くのだって、ずっと長い間、妄想でしかなかったのに実際に書いたから、これは自分でもわからない。もともと文章だけでなく、このインタビューもそうだけど、方々でいろんなことについてしゃべるのも仕事の一部になってるわけだし。
──でも、本当にそう思いますよ。文章にするよりも動画配信のほうが知ってもらえるのかなと思うことはよくあります。
小説家の高橋源一郎さんがYouTubeチャンネルを開設したんだけど、その1回目が自分の昔の本を朗読するという内容だった。やっぱり作家だとそういう感じになりがちで、それはファンに向けてるからだと思う。でもYouTubeってやっぱり人がしゃべってるのが面白いわけで。「エガちゃんねる」がなんであんなに化けたかといったら、「エガちゃんの芸はテレビではできないから」とかみんな言ってるけど、テレビでできるできないの問題じゃなくて、あれは間違いなくエガちゃんがしゃべったからだよね。
──確かに。
「こんなにこの人ってしゃべれるんだ!」っていう驚き。お笑い芸人ってさ、これもテレビのせいで基本やたらとキャラ付けされて、飽きられるまでは同じパターンしか求められなくなるじゃない。キングコング梶原のカジサックが自分のチャンネルでいろんな芸人と対談してるんだけど、品川庄司の庄司(智春)としゃべってるのがあって、あれ観ると庄司ってすごくしゃべりが面白いんだよね。でもテレビでは「ミキティー!」しか言わせてもらえないわけじゃん(笑)。YouTubeで初めて彼がどんな人間なのかわかった。ああいうのがいい。俺はしゃべり仕事もしてるけど、実は他人のトークを聞くのはちょっと苦手だったの。前はしゃべり動画を観るのも苦手だった。なんかじれったくなってくるんだよね。だからラジオも苦手なんだよ。自分で時間をコントロールできないのがダメなの。だから書き起こしがいい。でもYouTubeって1つの時間が長くないし、いつでも止められるからね。それで動画を観ることが増えていった。お笑い、犬、アイドルが3大要素だったけど、最近はアイドルの比率が増してる。しかも同じ動画(笑)。アディクトされまくってる。あとでこのインタビューを読み直して、「あの頃の俺ってこんなヤバい感じだったんだ!」って思う日が来るのかもしれないけど。
──本当に楽しそうだなあ。
今後ハマれるアイドルを南波くんにどんどん教えてもらおうと思ってるから。俺も大森望さんみたいに「南波くん」から「南波さん」に変わるかもしれない。
──やめてくださいよ(笑)。それにしてもハマるタイミングが意外すぎます。
いつもそうなんだけど、なんか僕って、すごく早いかすごく遅いかのどっちかなんだよね(笑)。まだほとんど誰も気にしてないうちに好きになるか、全員が忘れた頃になって急にハマるみたいな。アイドルブームって、以前に比べて落ち着きかかってるじゃない? それはわかってるんだけど、そういうことと自分が興味を持ったプロセスは全然関係ないから。世の中の趨勢とは無関係に、まあ偶然というか、偶然を運命だと思い込むのが俺の人生に臨む姿勢なので。でも、ずっと音楽批評をやってきたから、音楽はどうでもいいとか、そういう感じにはどうしてもなれない。今後も曲さえよければ新たなアイドルに興味を持つ機会はたくさんあると思う。歌は下手でもいいけど、歌えるようになりたいとは思っていてほしいよね。だって自分の歌なんだから。
相手が何を考えているか想像すること
佐々木敦 @sasakiatsushi
音楽ナタリーの南波一海君によるインタビュー、第4回にして最終回がアップされました。
もはやアイドルの話題でさえ無いところもありますが笑、よろしくお願いします。
https://t.co/HbizQSwnrF