相手が何を考えているか想像すること
──自分も歌が下手なのが好きと思われがちなんですけど、そこがあんまり通じてなくて。下手でも全然いいっちゃいいんですけど、その先に見てるものがあって、そこに向かってがんばってるのがいいわけじゃないですか。
うんうん。
──決してアマチュアリズムばかりをもてはやしてるわけではないんですね。
結局、プロフェッショナリズムかアマチュアリズムか、どっちかしかないという考え方が間違っているんだと思う。プロ意識の高い人だって最初はアマチュアだったわけで、そこにはグラデーションがあって、そういう部分に意味があるわけだよね。あんまり歌がうまくならないでほしいとか、あんまりプロっぽくならないでほしいみたいなファン意識ってあるよね? その人の気持ちもわかるけど、その子がうまくなりたいんだったらしょうがないじゃんって俺は思うわけ。うまくなろうとしてない子は別として。
──本人もがんばってるのに「これ以上うまくならないでほしい」と言われたら決していい気はしないはずで。
もちろんこれは妄想も含めてなんだけど、コンテンツ文化やSNS文化など、近年の社会のメディア環境も含めた変化によって、我々日本人は、ともすれば他人にも心があるということがわからなくなってる部分があると思う。どんな人間にも心はたぶんあるわけだけど、それがわかりづらくなってるし、わからないほうがラクだみたいな風潮がある。他人の心は覗けないじゃない? でも、生きてる人は全員、おそらくは何かを考えたり、思ったりしてるわけだよね。だからアイドルを見るときも、表層的な、記号的な視点や、あるいは単に欲望の対象というか、愛でる対象としてだけではなくて、その子が十何年か生きてきて、生きている以上は、頭の中でいろいろなことを思ったり考えたりしてるんだということを想像する。そういう、誰しもが何かを考えてるということがわかるのは、突然泣いちゃったりとか、急に辞めることになったりとか、そういうときにわかりやすい形で出てくる。そのときに、そのアイドルの、しょせんは他人でしかないその子の気持ちを想像することが大事なんだと思う。これは別にアイドルに限らずで、だって我々は結局、それしかできないんだから。
──よくわかります。
男女問わず、だいたい小学校5、6年ぐらいから高校生ぐらいまでって、本当に心が激しく動く時期なわけじゃない。俺が大好きなマンガ家の阿部共実に「月曜日の友達」という作品がありまして。それは中学校1年の女子と男子が親友になる話なのね。中1ってすごく微妙な時期で、つまり中2になると恋愛になっちゃうんだよね。まだ小学生を引きずってる中1だからこそ、男女が親友になれるっていう、めちゃくちゃ泣けるマンガなんだよ。で、それくらいの年齢でアイドルになる子って多いじゃない。本当にたったの2、3年で見た目も性格も変わってしまう。まず、その変化を肯定する。でも今は、その不可逆的な変化が訪れる以前や、変化していく過程も、動画で何度でも観ることができる。
「赤いリップ事件」から見えたもの
例えば、さっきも話題に出たかっさーがアンジュに加入したときはまだかわいらしくて。
──加入当初は中1とかですもんね。
そう。すごい美少女なんだけど、彼女はその後グイグイ大きくなって、今ではグループでも一番背が高いぐらいになってるわけ。で、かつて「赤いリップ事件」っていうのがあったの。
──また、よく知ってますね(笑)。
ほかのメンバーがみんなお姉さんだから、自分も大人っぽくなりたくて赤いリップを使ったら、「かっさーには赤いリップは似合わない」みたいなことをファンに言われて、本人がいたく傷付いたっていう。
──ファンからメイクについての意見を受けて、「年相応目指します」とブログに書いたんですよね。
そこで当時アンジュのリーダーだった
「佐々木敦に見つけられた模様」
──いや、これ、延々と話せそうですよね(笑)。
でも、俺が今話してるようなハマり方をし得る人って案外いると思うんだよ。何かしらのきっかけがあれば誰しもがアイドルにハマる可能性があると思う。
──動画でさかのぼってハマっていくというのは誰もが体験していることで。ももクロ初期の「TIF」の動画を観て夢中になったりとか、Negiccoを好きになった人も「ヌキ天」(※アイドルオーディション番組「勝ち抜き!アイドル天国!!ヌキ天」の略称。Negiccoは2代目ヌキ天クイーン)までさかのぼって感情移入するとか、よくあることだと思うんですよね。
そうだよね。そういえば俺、実はもっと何年も前から、ちょいちょいアイドルに興味を持ってるっぽいツイートを実験的にしてみてたわけ。
──あれは実験だったんですか(笑)。
そうすると、何年か前までだったら「お前はこっち来るな!」みたいなことを言ってくるコワい人がいたんだよ。特にゼロ年代後半からテン年代初頭くらいまでは、そのパターンが多かった。でも少し前から、なんかみんなめっちゃ優しいの。俺が素人くさいことを言ってても温かく迎えてくれる感じがあって。
──本当に好きなんだと理解してもらえると皆さん優しいですよね。「拡散してくれるなら味方だ」みたいな。
そうそう。「
──そろそろ時間ということで、今回、僕も話したいことがいっぱいあったんですけど、佐々木さんの勢いに圧倒されてしまいました。
いやいや、なんかすみません(笑)。しかし自分でもここまでアイドルに興味を持つようになるとは想像もしていなかった。もしかしたら、これが俺の2020年代の幕開けなのかもしれない。新たなディケイドの始まりというか(笑)。でも南波くんと話してたら、そんなに変わったわけじゃなくて、自分の考え方や感じ方が、たどり着くべくしてアイドルにたどり着いたような気もしてきた。ありがとうございました!
佐々木敦 @sasakiatsushi
音楽ナタリーの南波一海君によるインタビュー、第4回にして最終回がアップされました。
もはやアイドルの話題でさえ無いところもありますが笑、よろしくお願いします。
https://t.co/HbizQSwnrF