スミス

映像で音楽を奏でる人々 第14回 [バックナンバー]

人とは違う視点と切り口を求め続けるスミス

「演奏する人と聴く人の間の翻訳」に徹する映像作家としてのスタンス

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映像作家の仕事は「聴く人と演奏する人の間の翻訳」

MVの映像作家は、演奏する人と聴く人がいて、その間を翻訳する仕事だと思います。切ない曲だったら、どういう映像であれば聴いた人が切なく感じるかを考える。「お母さんが死んで娘が泣いてる」という具体的な映像だったら、そのエピソードに感情移入できる人しか楽しめないMVになってしまう。でも「すれ違った男と女が一瞬目を交わすだけ」といった映像なら、そこから聴き手のイメージが無限に広がる。MVを撮るときは、曲の世界を狭めずに物語を作ることを意識するようにしています。

僕の作品は踊らせることが多いと言われるんですが、踊ってる人がいると音楽が流れてることがはっきりわかるんですよね。リズムも表現できるし、どういう曲なのかを一番伝えやすい。あとは、踊ることは日常生活においては変わった動作だと思うんです。振付はコレオグラファーにお願いすることもあるし、自分でも振り付けます。ただ、ダンスビデオにするつもりはないんです。踊りというか“動き”というものにとどめておきたいところもあります。だって本格的なダンスを観たいんだったらMVで観る必要はないですし、音楽を聴かせたいというのが主だから。


キャスティングは、個性的な人が普通のMVにあまり出ていないなと思って、そういう人を積極的に起用したいと思っています。ほかの人が作るMVに出てくるのはいつも外国人だったり、ビジュアル的なカッコよさの延長でしかなかった気がして。違和感を生むために登場する人がいなかったので、そういう存在を出したいと思ったのが最初ですね。例えば制服の女の子でも「日本人にも見えなくもないけど、あまりこういう顔立ちの人はいないよね?」みたいな人をキャスティングする。

今までで一番うれしかったのはヒロトさんとマーシーさん(ザ・クロマニヨンズ)に会えたことですね。中学の頃にバンドブームがあって、その中でもTHE BLUE HEARTSの曲は一番聴いていたので、よもや仕事をすることになるとは思いませんでした。一番遠いところにたどり着いたという感じがありました。「お前、将来、わかってるか? がんばれよ」と中学時代の自分に教えてやりたいですね。

スミネムの相方・夢眠ねむのこだわりは“食べ物”

夢眠ねむちゃんとのユニット・スミネムは2012年に始まって、共同監督という形で活動してます。もともとはSILLYTHINGというバンドのMVを撮るときに、ねむちゃんをキャスティングした縁で知り合いました。その後、ねむちゃんがさよならポニーテールのMVを作らないかと打診されたときに、映像監督の知り合いが僕くらいしかいなかったみたいで、それを手伝うことになって一緒にやり始めた感じです。彼女には僕と違う視点があるので、アイデアをバーっと出してもらって、それをもとに構築していくのが楽しいですね。ねむちゃんは食べ物への執着が強くて。スミネムの打ち合わせはいつもロイヤルホストでやるんですけど、毎回結局「食べ物をどう出すか」になるんですよね。「まんじゅうを出したい」「肉まん出したい」とか。


スミネムではあまりねむちゃんの言うことを否定しないようにしてるんです。一緒にブレストをしていると、ちょっとプロっぽく「それは無理だよ」と現実的なことを言いそうになってしまう。でも、それを言ったら自分1人で作るのと変わらないから、まずはねむちゃんのアイデアを1回受け止めて考えていくようにしています。でもスミネムは今、活動が止まっているのでなんとかしたいんですよね。スミネムへのオファーお待ちしてます。

映像の世界はインディーズ化していく

今はYouTubeで当たり前のようにMVが流れていますが、MVが観られているというより曲が聴かれているという感じがするんです。だって音のない映像を何億回も観ることはおそらくないですよね? 100万再生くらいまでは観て面白いと思われているかもしれないけど、それを考えると悲しいなと思って。MVに興味があると言っても、凝った作品を観たいのかと言えばそうではない気がしますし。YouTubeで動画を観る前に出てくる15秒の広告と同じような扱いになってしまう危険性も感じています。作る側も音楽を宣伝する側も「ここが面白いんですよ、観てください!」とやってるわけですけど、観る側は本当に映像が必要なんだろうかという疑問が出てきてしまう。

ただ、音楽同様に映像の世界もこれからインディーズ化していくだろうから、変わってくるとは思います。レコード会社を挟まずに、アーティストとクリエイター同士で物事が進むことが増えていく気がする。今の若いアーティストはYouTubeを観て育ってきているのもあって「こういうのが作りたい」というイメージもあるし、映像に対する意識が違いますね。映像的な才能があれば自分で作ればいいし、ちゃんと信頼してる人に委ねるという方法も自分たちで選択できるようになると思います。

そのうえでどんな人が映像監督に向いているのかを考えると、今作られている映像に文句がある人ですかね。あとは自分のビジョンを人に伝えて、どうやって動いてもらえるか考えられる人。例えばMVを撮るときにイス1つ用意してもらうにも、スタッフに「どういうものを用意するんですか?」と聞かれたときに具体的に指示を出さなきゃいけない。自分の中にビジョンがあるかどうかが大事なんです。今はいろいろ発達しているので、1人で全部やれちゃうことも増えてはいます。監督、照明、美術、主演すべてを担って、自分の世界を作れるバイタリティのある人もいますし、それもいいと思います。でも、それだと自分の世界から抜け出すことはできない。そこから抜け出すには人を使うか、とんでもないアイデアを思い付くしかない。

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今、“最後の弟子”を募集してるんです。最近の若い人は自分で映像を作って、YouTubeにアップして成功する人も多いと思うんですけど、昔の自分みたいなクヨクヨした人もいるわけですよ。そういうやつを掬いあげたいなと。僕は竹内芸能企画に入って、この世界との距離が急にギュッと縮まった。入ってから活躍できるかは実力次第だし、もちろん大変だけど、即現場に入って仕事ができるチャンスを作ってあげようと。それと若い人と仕事をすることへの欲もあります。1人でやってると、どんどんどんどん世界が狭まってしまうので。

弟子募集要項

スミスが印象に残っている映像作品

THE BACK HORN「世界樹の下で」(2002年)

THE BACK HORN「世界樹の下で」ジャケット

THE BACK HORN「世界樹の下で」ジャケット

師匠の竹内鉄郎が撮った作品です。当時は僕もディレクターになっていたので別の仕事をしてたんですが、ロケの場所をいろいろ探していることを断片的に聞いて、「どうやって作るのかな」と思ってたんですよね。でも完成したものを観たらすごくよくて、こんな視点でMVが作れるのかと思いました。

くるり「ばらの花」(2001年)

これはカメラマンの佐内正史さんが撮ってるんですが、それこそ本当に“何もない”感じなんですよ。でもMVとしてちゃんと成立してて、すごいなと。

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tAk @mifu75

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