「世田谷パブリックシアター新芸術監督就任イベント―公共劇場における芸術監督の役割を考える―」が去る4月19日に東京・世田谷パブリックシアターで開催された。
これは、4月1日に東京・世田谷パブリックシアターに就任した
世田谷パブリックシアター開場25周年の記念ロゴが大きく映し出された舞台に、まずは成河が登場。続けて芸術監督4人が姿を現し、各劇場の簡単な紹介と、座談会の主旨が説明された。その後、座談会は成河が質問を投げかけ、4人がそれに返答する形で進行。最初の質問で成河が「率直に……芸術監督になりたかったですか?」と尋ねると、芸術監督たちは「誰から話す?」というように笑顔で視線を交わし、小川が「立候補ではないですし……『なんで私?』と思いました」と口火を切った。近藤は「芸術監督って何をやる仕事なのか、バイト情報誌にも載ってないので(笑)」と続け、長塚は「実は、別の劇場に呼ばれるのではないかと勝手に感じていたんです。でも神奈川からお話をいただいて」と明かす。
白井も「佐藤信さんや串田和美さん、蜷川幸雄さんたち諸先輩方が芸術監督を務められる姿を見てきたので、(世田谷パブリックシアターの前に務めた)『KAATの芸術監督に』と言っていただいたときは光栄と思う反面、実際に何をしたら良いかわからなくて、眞野(純)館長に『芸術監督って何をするんですか?』と聞きに行きました」と振り返る。成河が「館長は何と言われたのですか?」と尋ねると、「『それをみんなで一緒に考えていこう』と。なので、それを実行しました」と答えた。
続けて話題は、芸術監督の“任期”について。白井は「新国立劇場では任期がはっきりしているところが素晴らしい」と言い、長塚は「任期(を決めること)は必要だと思います。任期があると、その期間の中でプランが立てられるので」、小川は「新陳代謝は必要。1つの代では成し得ないことが、積み重ねていくことで実現する場合もあります」と話す。3人の口ぶりがどんどん早くなっていく様に、近藤は「早口すぎて(会話に)入るタイミングがないんだよなあ」と笑顔を見せつつ、「最近取材の場で、僕より記者の人のほうが『これからこうなると良いですよね』っていろいろと話してくれることがあって。みんなが期待を持ってくれているんだなと感じます」と話した。
次に成河は、芸術監督として上演作品を決める際に、“より多くの人に作品を届ける”という公共事業としての使命と、集客に対する目線、さらに自身のクリエイターとしての思いについて、どのように考えているかを尋ねる。白井は劇場運営費がどのように成り立っているかに言及しつつ、「公共劇場としてより多くの人に開くことも必要だし、『今これをやるべきだ』という演目にすぐに取り組むことも必要。その一方で、劇場が“自家発電”するには黒字になる公演も必要ですし、作品を発信力あるものにすることも必要です」と話す。
小川は就任以来実践している、「こつこつプロジェクト」やフルオーディション企画を例に挙げながら、「客席をいっぱいにすることだけを意識して作品を作るのは不健康。やりたいと思ったものを、それに適した形でやれる環境にしていきたい」、近藤は多くのダンス公演が2・3日で終わってしまうことに触れ、「達成した形(作品)をみんな観たがるけど、どの作品もクリエーションに多くの時間がかかっていて、過程でも面白いことが起きている。もしその過程も観てもらえるようになったら、現在のような“観る / 観られる”ではない関係が観客と作り手の間で生まれてくるのでは」と話した。長塚は「劇場には非常に芸術性が高いものと同時に、大衆的なものも必要」と指摘。さらに自身がイギリス留学時代にナショナル・シアターで観た「War Horse」のように、高いクオリティの作品をKAATでも作れたら、と語った。
また近藤が成河に、「あの話をしてほしい」と話を向け、成河が俳優の社会参加についての展望を語る一幕も。成河は「ダンサーは介護スキル、俳優はコミュニケーションスキルが高いとよく言われます。例えば劇場が俳優を雇用して、必要な場所へ俳優を派遣する、というような仕組みができれば」と自身のアイデアを明かした。それに対し白井は、解決すべき課題はありつつも、何をやりたいかというパッションがあればできないことはない、と答え、実際にノゾエ征爾が長年手がけている移動劇場「@ホーム公演」を先行例に挙げた。
最後に、3人の芸術監督が白井へエールを送った。長塚は「KAATでの経験を生かして、暴れ回ってください」、近藤は「白井さんが演出され、僕が振付で参加した『星の王子さま』で、白井さんがダンスも演劇も音楽もとても好きなんだと話してくださったのが印象的でした。その思いで、白井さんが創作を続けてくださることに僕も勇気付けられます」、小川は「演劇の先輩として、白井さんを敬愛し続けています。白井さんがのびのびと楽しく芸術監督のお仕事ができると良いなと思います」と話す。それを受けて白井は「今日お話しする中で、自分の中でもやっとしていたことにもヒントをもらいました。劇場が元気な場となるようにがんばりたいです」と力強く語った。
「世田谷パブリックシアター新芸術監督就任イベント―公共劇場における芸術監督の役割を考える―」
2022年4月19日(火)※終了
東京都 世田谷パブリックシアター
登壇:
進行:
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