ステージナタリー - 演劇・ダンス・ミュージカルのニュースを毎日配信

「初春大歌舞伎」夜の部、白鸚が初役の五斗兵衛役で魅せる「義経腰越状」

440

「壽 初春大歌舞伎」が去る1月2日に東京・歌舞伎座で開幕した。ステージナタリーでは、昨日6日夜の部の様子をレポートする。

夜の部は、松本白鸚が初役で五斗兵衛盛次役に挑む「義経腰越状 五斗三番叟」で幕開け。九郎判官義経(中村芝翫)は、悪臣の伊達次郎(市川男女蔵)・錦戸太郎(松本錦吾)兄弟にそそのかされ、遊興にうつつを抜かしていた。心配して屋敷にやってきた忠臣・亀井六郎(市川猿之助)の諫言にも聞く耳を持たない義経の姿を、見るに見かねた泉三郎忠衡(中村歌六)は、名軍師・五斗兵衛盛次(白鸚)を屋敷に迎え入れようとするが……。

白鸚が熟練した技で魅せる、おかしみあふれる舞が見どころの本作。伊達と錦戸に酒を勧められる場面では、最初は自制心を働かせるも、次第に心が揺らいでいく五斗兵衛の様子を、白鸚はコミカルな演技で表し観客の笑いを誘う。また酔っ払った五斗兵衛が奴に取り囲まれる場面では、白鸚は奴たちを餅つきやたこ、紙太鼓に見立てて軽くあしらうという、正月の演目らしい趣向を取り入れた立ち廻りで魅せた。

芝翫は、終始不機嫌な義経を気品をたたえながら勤め、歌六はそんな義経を側でサポートする泉三郎を、威厳のある佇まいで演じた。また亀井役の猿之助は、主人を案じる純粋さと、伊達の挑発に煽られる気の短さを持ち合わせた人物像として立ち上げる。今作の敵役である伊達・錦戸兄弟を勤める男女蔵と錦吾は、五斗兵衛を計略にはめる場面を息の合った掛け合いで巧みに表現。ユニークな悪役ぶりを見せつけた。

初世市川猿翁の当たり芸をまとめた“澤瀉十種”の演出で上演される「連獅子」では、猿之助が親獅子を、市川團子が仔獅子を勤める。振付の動きが多いことが“澤瀉十種”の特徴で、猿之助は派手な動きの中に間を取り入れることで、親獅子としての雄大さをにじませる。対する團子は、仔獅子のきびきびとした動きを高い身体性で表現し、はつらつとした若さを発揮。親獅子に置いていかれまいとする仔獅子を等身大で演じた。クライマックスで猿之助と團子が並んで見得を切ると、会場は大きな拍手で包まれた。

夜の部のラストは、三島由紀夫が手がけた歌舞伎作品「鰯賣戀曳網」。本作は、年明けに相応しい多幸感にあふれた喜劇作品だ。五條橋で偶然見かけた傾城の蛍火に一目惚れし、身分を偽って蛍火に会いに行く鰯売の猿源氏を中村勘九郎、とある秘密を持つ蛍火を中村七之助が勤める。蛍火への恋心に身を焼かれ、鰯売の掛け声に張りがなくなってしまった猿源氏を、勘九郎はどこか頼りなくも、愛嬌たっぷりに演じた。

蛍火として舞台に七之助が現れると、その立ち姿の美しさに客席からはため息が聞こえた。七之助は高位の傾城である蛍火を凛とした芝居で立ち上げつつ、猿源氏に惹かれていく様子をつややかに表現。猿源氏の父・海老名なあみだぶつ役の中村東蔵は、人生経験が豊富な老人を飄々と勤めた。なお、この日禿の蜻蛉を演じたのは、「八月納涼歌舞伎」の「伽羅先代萩」で千松を好演した中村勘太郎。蜻蛉が、蛍火に夢中になった猿源氏に蹴飛ばされてしまう一幕で、勘太郎は腕を組んで怒ってみせ、その愛らしさに場内は笑いで包まれた。

「壽 初春大歌舞伎」は1月26日まで。昼の部では、中村梅玉が豊臣秀吉役を勤める「醍醐の花見」、親子の悲劇が描かれる「奥州安達原 袖萩祭文」、中村吉右衛門が太郎冠者を演じる舞踊劇「素襖落」、河竹黙阿弥作「河内山」が上演される。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

「壽 初春大歌舞伎」

2020年1月2日(木)~26日(日)
東京都 歌舞伎座

昼の部

「醍醐の花見」
豊臣秀吉:中村梅玉
淀殿:中村福助
石田三成:中村勘九郎
智仁親王北の方:中村七之助
曽呂利新左衛門:中村種之助
大野治房:中村鷹之資
智仁親王:中村芝翫
北の政所:中村魁春

「奥州安達原 袖萩祭文」
安倍貞任:中村芝翫
安倍宗任:中村勘九郎
八幡太郎義家:中村七之助
浜夕:市川笑三郎
平ケン仗直方:中村東蔵
袖萩:中村雀右衛門

※平ケン仗直方のケンは異体字。

「新歌舞伎十八番の内 素襖落」
太郎冠者:中村吉右衛門
大名某:中村又五郎
太刀持鈍太郎:中村種之助
次郎冠者:中村鷹之資
三郎吾:中村吉之丞
姫御寮:中村雀右衛門

「河内山」
河内山宗俊:松本白鸚
松江出雲守:中村芝翫
宮崎数馬:市川高麗蔵
腰元浪路:市川笑也
北村大膳:松本錦吾
高木小左衛門:中村歌六

夜の部

「義経腰越状 五斗三番叟」
五斗兵衛盛次:松本白鸚
九郎判官義経:中村芝翫
亀井六郎:市川猿之助
伊達次郎:市川男女蔵
錦戸太郎:松本錦吾
泉三郎忠衡:中村歌六

「澤瀉十種の内 連獅子」
狂言師右近後に親獅子の精:市川猿之助
狂言師左近後に仔獅子の精:市川團子
僧蓮念:中村福之助
僧遍念:市川男女蔵

「鰯賣戀曳網」
鰯賣猿源氏:中村勘九郎
傾城蛍火実は丹鶴城の姫:中村七之助
博労六郎左衛門:市川男女蔵
庭男実は藪熊次郎太:中村種之助
禿:中村勘太郎(偶数日) / 中村長三郎(奇数日)
傾城春雨:市川笑三郎
傾城薄雲:市川笑也
亭主:市川門之助
海老名なあみだぶつ:中村東蔵

無断転載禁止

ステージナタリーをフォロー