ベッキー・モードが脚本を手がけた本作は、オフブロードウェイで1999年に初演されたコメディ作品。今回は
レンガが露出した壁を背景とした舞台は、書類やメモがびっしりと貼られた黒板、積み上げられた椅子と段ボール、床に散らばった新聞や雑誌、お菓子のゴミなどで雑多に埋め尽くされている。ツリーの電飾やサンタクロース人形が奏でるクリスマスソングが和やかに季節感を表す一方、舞台下手の「Answer the Phone within 2 calls!」という貼り紙からは、電話係がいつもせわしなく業務をこなしていることがうかがわれた。
ステージの上にはレストランの予約用電話2台のほか、シェフのオフィスや厨房、ホールとつながる内線3台が設置されている。電話のベルがひっきりなしに鳴り響く中、成河は電話と電話の間を全力疾走で行き来し、汗だくになりながら全38役を担当。成河はサムを演じながら、同時に彼の電話相手である社交界の夫人、日本人観光客、ゲイの美容師、マフィア、さらには猫など多種多様な役柄を、口調や表情をめまぐるしく変えて演じ分ける。サムが陽気な客と一緒にクリスマスソングを歌う場面では、2人分の声色を切り替えながら高らかに歌声を披露し、客席を大きな笑いで包んだ。
ストーリーは、サムと電話の相手による会話を軸に進行する。サム自身が心情を吐露するセリフは登場しないものの、彼の父や兄、父の旧友、自慢ばかりする俳優仲間とのやり取りを通じ、俳優としてうまくいかず苦しんでいること、予約係の仕事に不満を抱きつつも日々忙殺されていることなどが明かされていく。成河は豊かな表情と仕草で、サムの喜怒哀楽を表現した。
ゲネプロ前に取材に応じた成河は、開幕に向け「まだ全然現実感がない」と明かしつつ、「一人芝居ですが、お客さんが共演者だと思う。実はもう体ボロボロなんですよ(笑)! でもお客さんから活力をいただいて、一緒に作品を作っていけたら」と意気込む。また本作を「ひっきりなしに電話に出続けることは、都会の暮らしを象徴していると思う」と分析し、「電話に出たことがない人はいないと思うので、サムが電話に出続けることで観客の皆さんと感覚を共有できたら。電話の恐怖を乗り越えて、なんでもないものに感じられるようになるというお話だと思うので、僕もそうなれることを目指しつつ演じたい」と抱負を述べた。
38役を1人で演じる本作のハードさについて、現在37歳の成河は「この歳で今、自分ができる無茶をさんざん詰め込んでいただきました」「何があっても“ショーマストゴーオン”」と語り、「肺がもう1つ欲しい」とつぶやいて場内の笑いを誘う。また役柄の演じ分けについて記者から問われると、「僕が演じるのは、あくまでも主人公のサム。38人を使ってサムを表現する作品だと考えています」と言葉に力を込め、「一人芝居であることを忘れて観ていただけたらうれしい」とアピールした。
さらに成河は、「このくらいの劇場で1カ月くらい公演をするのって簡単ではありませんが、ずっと夢だった」と劇場を見回しながら述懐。「実現できたのは皆さんのおかげ」と場内のスタッフたちに視線を送って謝辞を述べつつ、「ふらっと観に来てくれる人を増やしたいです。1人でも2人でも、そういうお客さんが来てくれたらいいな」と笑顔で呼びかけた。上演時間は休憩なしの約2時間。公演は7月22日まで。
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