ドイツの弁護士であり作家のフェルディナント・フォン・シーラッハの初戯曲である本作は、日本では2016年に橋爪による朗読劇として上演された。裁判長を中心に弁護士と検察官、証人、被告人が登場する“法廷劇”が繰り広げられる。日本初演となる今回、演出を
テロリストによってハイジャックされた民間旅客機が向かったのは、約7万人が熱狂するサッカースタジアム。空軍少佐のラース・コッホは、より多くの命を救うため、独断で旅客機を追撃し、164人の乗客の命を奪ってしまう。彼は7万人の命を救った英雄か、それとも罪人なのか、本作でそれをジャッジするのは“参審員”に見立てられた観客たちだ。全2幕の法廷劇が終わると、観客は有罪か無罪か、どちらかのボックスに1枚の赤いカードを投票する。ラストの判決シーンで投票結果が明かされ、有罪か無罪かによって物語の結末が異なる。
弁護士・ビーグラー役を橋爪、検察官・ネルゾン女史役を
橋爪はどこか間が抜けつつも、被告人を熱く弁護し、彼の無罪を主張し続けるビーグラーを熱演。神野は有罪を主張するネルゾン女史を冷静沈着に言葉を投げかけながら表現した。
また今井は裁判長として法廷を取り仕切り、参審員である観客に語りかけながらストーリーを牽引する役目を担った。検察官による論告と弁護士による最終弁論を経て、自らの1票が裁判の結果を左右することもあり、客席は緊張感に包まれる。
16年に上演された朗読劇では、全4回のすべての公演が有罪判決となったが、今回の公開ゲネプロでは、無罪という結果に。東京公演は1月28日まで行われ、2月17・18日には兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演。その後、愛知、広島、福岡を巡演する。
橋爪功コメント
年明け早々おつき合いいただくには、「TERROR」に込められた想いとテーマは、少々大きく、重きに過ぎるものかも知れません。何せ、ドイツの辣腕弁護士にして小説家であるシーラッハ氏が、長年温めた題材を初めて戯曲にしたためた作品ですから。けれどテロは遠い外国のことではなく、日本の私たちにとってもすぐそばに迫っている脅威だと思うのです。
不特定の膨大な情報が流れ込んでくる、種々の報道やネット環境とは違い、演劇は精査された知識と思索に対して開かれた「窓」です。普段は目を背けがちな、世界と人間の抱える問題について劇場でひと時、私たちと一緒に心を傾けていただくお客様に深く感謝致します。
今井朋彦コメント
この作品の主役は事件そのもので、主体は参審員であるところのお客様です。裁判長は証言を引き出す、参審員に結論を導く役回りだろうと意識しながら稽古してきました。舞台上の登場人物が話しを聞かせている相手は、参審員である客席です。稽古場でも常にそのことを意識してきましたが、実際に客席空間を前にすると稽古場とはまったく違った感覚で、稽古場で想像していたより芝居の“アテ”が見つかった気がしています。初日を迎えれば、さらに感じ方や芝居そのものも変わるかもしれません。作品の最大のポイントは、有罪か無罪かの判断を最終的には観客が下さなければならないという点。登場人物たちの台詞や仕草の一つ一つが、有罪に傾いたり無罪に傾いたりと、見る側の気持ちを変えていくのを楽しんでいただければと思います。
松下洸平コメント
これまでの自分の演劇経験の中では最高に難しい作品でした。今回のコッホ少佐は超優秀な軍人という設定ですし、声を荒げたら負け、という裁判の中で毅然としていなくてはならない役です。厳しい質問に誠実に回答しながらも、感情は動きます。でも、それを表せない。感情を表したらダメな役というのは本当に大変で……(笑)。先日の稽古では、じっと手を組んでいた腿のあたりに手の跡がついてしまうくらい汗をかいていました(苦笑)。客席の皆さんは芝居を観ているのか、参審員として本物の裁判を観ているのか、しばしば錯覚する局面があると思います。緊張感のある舞台なので、そこを楽しんでいただきたいですね。自分としては今回の作品に参加できたこと、今回いただけた役を演じるのは大きなチャレンジなので、全力で明日からの本番と向き合っていきます。
神野三鈴コメント
不器用な私に、台詞の一語一音まで緻密な演出をつけて下さった森新太郎さんや、橋爪功さんを始めとする頼もしい共演陣に支えられ、稽古の日々を走り切ることができました。
劇場は本来、束の間日常を忘れ、心を解放するために足を運ぶ場所。けれど「TERROR」は、お客様に「命」や「罪」についての深い思索と大きな決断を迫ります。だからこそ、お客様と私たちの間には想像を共有したことで壮大なドラマの伽藍が築かれ、終幕には互いの健闘を讃え合う拍手が響くはず。この舞台はきっと、そんな奇跡のような時間を生み出してくれると信じています。
森新太郎コメント
研ぎ澄まされた作家シーラッハの強靭な台詞と、そこに宿る思い問いかけに導かれ、余分なものを全てそぎ落とした、人間と言葉だけが息づき・ぶつかり合う、まだ誰も見たことのない舞台が誕生しました。これを実現するため、過酷な要求に応えてくれた俳優陣に心から感謝しています。
でも作品を完成させるには観客が席に着き、裁判に参加して下さることが不可欠。「TERROR」における一番の主役。結末を左右し、作品の持つ意味合いを変える力を持つのは観客なのですから。テロの暴力と不条理に向き合い、“演劇を越える演劇”をお客様に体験していただけたら幸いです。
「TERROR テロ」
2018年1月16日(火)~28日(日)
東京都 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2018年2月17日(土)・18日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2018年2月20日(火)
愛知県 名古屋市芸術創造センター
2018年2月21日(水)
広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
2018年2月23日(金)
福岡県 福岡国際会議場 メインホール
作:フェルディナント・フォン・シーラッハ
翻訳:酒寄進一
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最終的に観客が有罪か無罪かを決める。内容的に難しそうだけど、ちょっと気になるね。