14歳の忘れられない夏を描く、柄本時生&篠山輝信「チック」開幕

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8月13日に「チック」が開幕した。

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生。(撮影:細野晋司)

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世田谷パブリックシアター「チック」より。左から柄本時生、篠山輝信。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から柄本時生、篠山輝信。(撮影:細野晋司)[拡大]

本作は、少年2人のひと夏の冒険を描いた、ドイツの作家ヴォルフガング・ヘルンドルフによる児童文学作品が原作。2011年にドイツで初演されたのち、2016年には映画版が制作され、今年2017年9月には日本での公開を控えている。日本初演版の翻訳・演出を務めるのは、ドイツ出身の小山ゆうな。またロシア移民の転校生・チック役を柄本時生が、ドイツの少年・マイク役を篠山輝信がそれぞれ演じる。

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生。(撮影:細野晋司)[拡大]

物語は、マイクのモノローグによって展開する。舞台上には冷蔵庫や洗濯機、ソファやスタンドライト、そして無数の洋服と帽子のほか、何に使うのかよく分からないものが雑然と置かれ、中央には傾斜し回転する四角い盆。マイクはその盆に置かれた椅子に縮こまって座り、彼の頭越しに両親が怒鳴り合いを続けている。その怒声を聞きながら、マイクの思いはチックとの忘れられない数日間へと遡り始める。2人は2010年の夏、おんぼろ車のラダ・ニーヴァに乗ってベルリンを飛び出し、旅に出ることにしたのだった。

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生、土井ケイト。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、柄本時生、土井ケイト。(撮影:細野晋司)[拡大]

小説が原作ということもあってか、マイクのセリフ量は膨大だ。しかし篠山はエネルギーを途絶えさせることなく、客席に向かって表情豊かに語りかけ、観客を作品世界にいざなう。一方、どこか影のある風変わりな転校生役を柄本は飄々と表現。しかしマイクと旅を続ける中で、14歳らしい率直さや優しさ、あどけなさ、さらに芯の強さを見せ始める。彼らを軸に、土井ケイトあめくみちこ大鷹明良は彼らが旅の途中で出会う、さまざまな人物を次々と演じていく。中でも土井演じる家出少女イザ・シュミットの瑞々しさ、酩酊の中で突如人生哲学を口にする、あめく演じるマイクの母親の孤独、大鷹演じる元活動家フリッケの隠遁者ぶりが深い印象を残す。またあめくが母親、土井が9歳くらいの女の子、大鷹が6歳くらいの男の子を演じるフリーデマン一家のシーンは、大鷹のあまりにキュートな“少年っぷり”に客席も大爆笑だった。

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、あめくみちこ、大鷹明良、土井ケイト、柄本時生。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「チック」より。左から篠山輝信、あめくみちこ、大鷹明良、土井ケイト、柄本時生。(撮影:細野晋司)[拡大]

さらにカメラを使って舞台を別角度からフォーカスしたり、ラジコンカーを走らせ、彼らのドライブを俯瞰的に見せたり、客席の中央最前列2席に運転席と助手席を作り、観客がマイクとチックと“同乗”している感覚にさせたりと趣向を凝らした多彩な演出、文学座・乘峯雅寛が手がける遊び心に富んだ舞台美術にも注目だ。

公演は8月27日まで、東京・シアタートラムにて行われたのち、9月5・6日には兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールでも上演される。なお小山と出演者たちの初日コメントは以下の通り。

小山ゆうなコメント

『チック』の原作者ヘルンドルフは、自身に脳腫瘍が見つかった後に、死を強く意識しながらこの14歳の少年二人の物語を書きました。登場人物たちの背景にはドイツの重い歴史がありながらも、若者たちはそれを悲観せずに、ただ生まれつきそうだった現実として受け入れています。その中で人々が生きている姿を描き、ユーモアいっぱいにきっと誰もが共感できるエピソードを積み重ねていったことが、他にありそうでないこの作品の魅力となったのだと思います。
今日はお客様からたくさん笑いや反応をいただいて、それと呼応するように役者たちもさらに生き生きとしていました。柄本さん、篠山さん、土井さんの若者3人がとても可愛らしく、また大鷹さんとあめくさん演じる大人たちが彼らの世界を大きく包み込んでいます。毎日稽古で見ていたのに、今日も新たな発見があり、魅力の尽きない作品だと感じています。

柄本時生コメント

疲れました。でも僕より疲れているのは、台詞の多い篠山さんだと思います(笑)。「何かが壊れたらいい」ということをずっと考えながらやっていて、今日は良い初日でしたが、でも初日ということで構えてしまった自分もいて悔しい思いもあるので、これからも日々試して、壊していきたいです。
この作品の魅力は“14歳”というところで、やっぱり思春期って面白いです。ちょうど人の琴線に触れるような年齢ですよね。ドイツが舞台の作品ですが、どの国でも14歳って同じなんだなと思います。

篠山輝信コメント

登場人物たちは、マイク君もチック君もみんな色々なものを抱えていますが、でもそこには常にユーモアがあって、寓話的で、素敵なお話だと改めて感じました。マイク君はお客様に語りかけながら舞台を進めていくのですが、今日の初日では笑いが起きたり、真剣に聞いてくださって深い沈黙になったり、問いかけたら「うん」ってうなずいてくれた方もいました。お客様一人一人とキャッチボールをしながら、劇場という同じ空間で時間を過ごして、お芝居を一緒につくっていける楽しい役なので、これからも一期一会のお客様との出会いを楽しみたいです。

土井ケイト コメント

本当に面白いけど不思議な台本で、演出プランも今までに経験したことのないものだったので、どうなるんだろうと思っていたら、お客様の反応がいいこといいこと! 小山ゆうな流石! って思いました。この作品に出てくるキャラクターはみんな孤独や偏見の中で必死に生きていて、チックとマイクを取り巻く一人一人にもストーリーがあるので、感情移入できる人物が観る人によって違うと思います。私は、マイクのお母さんが言う「他人なんてクソくらえ、大事なのは自分が幸せかどうか」という台詞に、いつもハッとさせられますし、励まされます。

あめくみちこコメント

この独特な戯曲の、独特なユーモアと愛を、お客様が入って緊張感もあるなかでどれだけ伝えられるだろう、伝わったらいいなぁと思っていました。そして今日、お客様が楽しんでくださっているということがだんだんと伝わってきて、背中を押してもらったように感じました。一人の役者が色々な役を演じるのもこの舞台の面白いところです。
お父さんが子どもとして出てきたり、マイクの母役の私がアイスクリーム屋さんや“カバおばさん”を演じて、でも結局アル中の母に戻ったり。そのバランスが絶妙な作品だと思います。

大鷹明良コメント

皆さんには「芝居をつくりに来ませんか?」と言いたいです。今日改めて実感したのですが、このお芝居は舞台上だけで完結するものではなくて、どういう芝居になるか、最終的な道筋はその日のお客様次第です。
チックとマイクはこの社会からはみ出したアウトローで、誰からも理解されないと自分たちでは思っていますが、実は色んな人から興味を持たれています。僕が演じる6歳から100何歳までの役も、それを伝えるためにあると思っています。心を閉ざしてしまった人の交流を通して、最後、人間のるつぼというか、大きなことを言ってしまうと、世界の縮図、生と死の縮図が舞台の上に立ち上がれば最高だと思っています。

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「チック」

2017年8月13日(日)~27日(日)
東京都 シアタートラム

2017年9月5日(火)・6日(水)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
作:ロベルト・コアル
翻訳・演出:小山ゆうな
出演:柄本時生篠山輝信土井ケイトあめくみちこ大鷹明良

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