次々と新たな作り手が頭角を表す演劇界。数ある劇団の中から、ジャケ買いならぬ“劇団名買い”で観劇に行った経験はないだろうか。チラシやニュース、SNSなどで目にする劇団名は、シンプルなものから不思議な音の響きを持つもの、「どういう意味?」と目を引くものまでさまざまだが、それには名づけ主の希望や願い、さらには演劇的活動戦略が込められているはず。このコラムでは多彩な個性を放つ若手劇団たちの、劇団名の由来に迫る。劇団名が持つ秘密と共に、未来の演劇界を担う彼らの活動の軸を紐解いていく。
49番目に登場するのは、関西を拠点に活動し、2021年に旗揚げされた
餓鬼の断食
Q. 団体名の由来、団体名に込めた思いを教えてください。
冒頭から失礼なのですが、団体名を決める当時の僕は「マジで、大人って全員おもんない」と本気で思っていまして、「絶対大人になんてならん、ガキンチョのままでいたいし、」と息巻きながらGoogleで「餓鬼 ことわざ」と検索したところ「餓鬼の断食」がヒットしました。
それまでは一切知らなかったことわざなのですが、意味を読むと
あたりまえのことなのに、特別なことをするかのように言い、うわべを繕うことのたとえ。「餓鬼」は餓鬼道におち飢えと渇きに苦しんでいる亡者。飢えのために断食状態にある餓鬼が断食をしていると言い立てる意から。
とあり、僕の演劇に対する認識や、当時抱えていたどうしようもないさもしさから来る衝動と近似していたことから団体名にしました。
略すと「ガキダン」となり「ゲキダン」と1文字違いで可愛い。というのも、当時は気に入っていたポイントだったように思います。
今は素敵な大人たちとの接点も増え、「大人になってたまるか、ガキのままでいたい」というよりも、「ガキのような好奇心を忘れぬ人でありたい」というポジティブな個人的憧憬も含むようになりました。
Q. 団体の一番の特徴は?
旗揚げ当時は「モラトリアムを拗らせたガキの溜まり場」をコンセプトとしていました。
しかし、現在の特徴としては作風の異なる3つのシリーズを保有していることにあると思います。
- vol.シリーズ:主に関西弁の話し言葉やスラングを多用した戯曲を、速度感のある演出で上演する会話劇。人間の営みのみを描くことにより、逆説的に社会構造を抉り出す作風を特徴とした本公演にあたる公演。
- 戯れシリーズ:既製戯曲を他ジャンルのアーティストとコラボレーション(戯れ)を行い創作する、領域横断企画。毎回異なるアーティストと協働を行う。
- 企みシリーズ:演技表現の延長線上にある身体 / ダンス表現を獲得することを目的とした実験企画。ゆくゆくはブラックボックス(劇場)とホワイトキューブ(美術館)を行き来したいと、舞台芸術領域の拡張を企んでいる。
……長々とそれっぽいことを書きながら気付きましたが、結局は僕が友達と本気で遊ぶ期間を延長したいが為の悪あがきなので、全ては「モラトリアムを拗らせたガキの溜まり場」に収束する気がします。
Q. 今後の目標や観客に向けたメッセージをお願いします。
うれしいことに、最近集客も増えつつあるので公演の規模 / 形式などを拡張していきたいです。
それは例えば、純粋に規模を大きくすることかもしれませんし、小さくして回数を増やすことなのかも、それ以外なのかもしれません。
兎にも角にも、お客様に楽しんでいただくためには、先ず自分自身が“楽しさ洪水”に溺れねば!というのがモットーなので、とにかく自由に楽しいことをやり続けたいです。
素敵な人生を歩みたいですね。
餓鬼の断食
2021年に川村智基により旗揚げ。関西弁を多用した若者たちによる会話劇を得意とする。近年は身体性を意識した創作にも力を入れている。WINGCUP2021最優秀賞、奈良学生演劇祭2022審査員賞・観客賞、第8回全国学生演劇祭 審査員賞、関西演劇祭2023ベスト演出賞を受賞。
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