
前川知大の「まな板のうえ」 第9回 [バックナンバー]
こだわり派もなんでも派も、イキウメ劇団員の“食”事情
体調重視の前川・浜田・大窪、味が大事な盛、腹持ち気になる森下、安井は食事の時間を楽しみたい
2025年5月3日 13:00 4
劇作家、演出家で
今回は番外編として、イキウメの稽古場を編集部が訪問。
取材・
ツアー先での思い出など“イキウメと食”で思い出すことは?
安井順平 最近、ツアーは大阪が多いけど、新潟とかにも行ったことがありましたね。
前川知大 「関数ドミノ」(2014年)だね。
盛隆二 「図書館的人生 Vol.3 食べもの連鎖」(2010年)で広島にも行きましたよね。
浜田信也 1日公演だったから、“通り過ぎた”感覚だけど……。
安井 でも一応、お好み焼きとか食べたんじゃない?
大窪人衛 お店の人に広島焼きを焼いてもらって。そのとき僕と前川さんは隣に並んでたんですけど、「弟さんですか?」って聞かれたんです。
前川 本当? 全然覚えてない(笑)。
安井 よく、「顔が似てる」って言われていたよね。
大窪 「全然違います」って否定したんですけど。
一同 あははは!
浜田 以前はよく、前川さんの家で前川さんが作ったご飯を食べたりしましたよね。
盛 “ビストロ前川”ね!
前川 かなり初期の頃ね。
盛 (食材を一品持参がルールで)食材はなんでもよくて、スーパーで買ってもいいし、八百屋で買ってもいいんだけど、それで前川さんが何かしら料理を作る。でもだんだん普通の物を持って行くのも面白くないなと思って、俺は1回、ミミガーを持って行ったことがあって。
浜田 あ、それ覚えてるかも(笑)。
盛 「豚の耳まるっと1個持って行ったら、前川さんはどう料理するんだろう」と思っていたら、普通に美味しい料理にしてくれて、「なんでもできるわ!」って思った(笑)。
前川 硬そうだったからゆがいて、炒め物かなんかにしたら、意外と美味かったよね。でもみんなが持ってくるものが炭水化物ばかりだったこともあるし、野菜が全然なくて肉肉肉!みたいになったこともあった。
安井 劇団に入ったばかりの頃、前川さんの家に行って「まだご飯食べてない」って言ったら、ラタトゥイユが出てきたことがあって。ラタトゥイユって名前だけはかねがね聞いたことがあったけど、食べたのはそのときが初めてで、美味しかったですね。
盛 ラタトゥイユは舞台にも出てきたよね?
森下創 「図書館的人生 Vol.3 食べもの連鎖~“食”についての短編集~」のときじゃない?
盛 (演出部の渡邊)亜沙子さんが作ってくれた。
安井 本番後楽屋で食べるのが美味しかったんだけど、ラタトゥイユだけで食べるのがだんだんしんどいってなってさ。
森下 カレー味にしてくれて、あれが美味しかった! ニンニクを使ってるから、劇場全体にニンニクの匂いが漂っていて、お客さんも舞台上にいる俺も一緒に、この美味しそうな匂いを嗅いでるってことにちょっと笑っちゃった(笑)。
浜田 あと「天の敵」(2022年)で作ったゴボウの炒め物と混ぜご飯!
前川 炒り豆腐の混ぜご飯ね。
浜田 混ぜご飯はけっこう衝撃的に美味しかった。ネギと豆腐を胡麻油で炒めて、ご飯に混ぜるんだけど、あれは気に入って、いまだに作って食べることがあるな。
前川 俺もあれに似たものをよく作るよ。(池谷)のぶえさんが自分で作って、「イキウメ飯」ってXに上げてくれてた(笑)。
普段から料理はしますか?
安井・森下 全くしないですね。
浜田 基本、自分で食べるものは自分で作ります。
大窪 僕もけっこう作ります。スマホでレシピを見ながら肉、魚を中心に。
前川 (大窪に)ずっと自分で作ったお弁当を持って来ていて、稽古前に食べているよね?
大窪 稽古がないときもお弁当にしてます。
浜田 すごい美味しそうなんだよね。いいなあと思って横から覗いています(笑)。
盛 俺は自分が美味しいと思うのは作るけど、自分が食べられればいいっていう感じで、人に振る舞うほどのものは作れないです。振る舞うものを作れるのは、やっぱり前川さん。
安井 いやいや、謙遜してますけど、盛も料理うまいですよ。まあ前川さんはお店で作っていたから別格かもしれませんけど。
前川 盛はその場でぱっと作れるタイプなんですよね。
盛 ずっと居酒屋で働いていたので、酒のあてになるものだったら(笑)。
安井 だからみんなで持ち寄ってやる忘年会の厨房は、大体この2人。
前川 持ち寄りで忘年会をするときは、キッチン付きスペースを借りて、半分くらいの料理はこちらで用意して、あとは忘年会に来るお客さんに1品持ってきてもらうスタイルでした。ゲストは好きな時間に来てよくて、だから会も後半になってくると、こちらも疲れてきたり酔っ払ったりで、だんだん雑な料理になっていって……。
一同 あははは!
森下 スタートして最初の1時間ぐらいはね、まだお客さんも来ないから劇団員だけで飲むんだけど。
浜田 そうそう、準備しながら飲み始める。あの時間がいいんだよね。
安井 あの1時間が俺たちの忘年会の時間って感じだったね。
皆さんの、食べるものへのこだわりは?
盛 (浜田に)一時期、じゃがいもやさつまいもだけ食べてることあったよね?
浜田 そうそう、主食を米じゃなくていもにする試みをやっていて。健康管理っていう側面もあるにはあるんですけど、それよりも俺の場合は、好奇心を満たすためにやっているみたいなところが強かったですね。「主食は米じゃなくてもいいんじゃないかな」とふと思って、だったらほかに主食にできるものはないかなと考えて、いも。実際良かったですよ、お腹の調子が良くなって。俺は今でも、家で食べるときの主食は半分は芋で、さつまいもや蒸したじゃがいもです。
安井 人衛もやってたよね?
大窪 はい。僕はさつまいもとバナナですね。
前川 糖質制限が流行ったとき、稽古場でみんなサラダチキンを食べてたときもあったよね?
一同 ああー!
浜田 2014年ですね。
前川 俺もそのときチキンばっか食べてたけど……あれ、なくなったね(笑)。
浜田 俺の口には合わなかったんだよね。
安井 最初は美味しいけど、毎日食ってられないよね。何種類かあっても結局は同じ味だし、食感も一緒だから。
森下 俺は普段、食べるものについてはあまり考えないほうで、それよりも自分のお腹が一番満たされるもの、腹にたまる感じのものがいいなと思って食べます。というのも稽古中、けっこう腹が鳴っちゃうんですよ。腹が鳴らない食べ物は何かって考えたときにまずはおにぎり。あと最近食ってるのは魚肉ソーセージ。魚肉ソーセージってけっこう腹持ちがいいですよ。
安井 魚肉ソーセージ、似合うよね(笑)。ちょっと画になるっていうか。
浜田 でもそう思うと、食事をして空腹が満たされることが大事なのか、食事をした後に体調が良い状態が維持できるほうが大事なのかっていう観点でけっこう違うよね。俺と人衛くんは多分後者で、その食事がそんなに美味しくなかったとしてもその後体調が良い状態が維持できるならそのほうがいいと思うタイプ。続けてるとそれは実感できるし、たまにいつも食べないようなものを食べたり、外食が続いたりする期間があると調子が悪くなることがある。
安井 胃がびっくりするんだろうね。油ものを採ってないのに急に油が入ってきて「おお!」ってなるとか。そう思うと、俺や盛のようにラーメンも魚もなんでも食べていると、胃がなんでもいいんだって思う……って説もある(笑)。
前川 俺も今、割と食べてるものが極端だから、この間生クリームたっぷりのケーキをもらって、「今日はいいか」って思って食べたら、美味しいのにそのあと具合が悪くなった。ずっと乳製品を採ってないから、胃が受け付けない!ってなったのかも。
盛 気持ちは普通に食べられるのに、身体は裏腹なんだね(笑)。ここ(頬)では美味しいって思ってるのに。
一同 あははは!
浜田 俺も旅行に行ったりするとき、そこがいちばんのネック。普段と違うものを食べるとお腹の調子が心配で、だから旅行に行くといつもちょっと緊張してる。
安井 逆に普段と食べるものが変わって快便になるっていう人もいますけどね。俺は食に関してあまりこだわりはないので、出されたものを食べるし、同じものでも別に何回でも食える。それよりは食事って、シチュエーションとか誰かと食うかみたいなことが重要というか。
浜田 安井さんはあれだよね、コミュニケーションが主食みたいな感じだよね。
大窪 うまいこと言いますね!(笑)
一同 あははは!
新作「ずれる」には食に関する話はありますか?
前川 ちょっと入っています。食べ物のちょっとした話題で会話が回る、というようなところはあるかな。
盛 今回の内容に関しては正直まだわからないけど、普段は稽古が始まってからしばらくは舞台セットの模型を僕ら見せてもらえないんですが、今回は早々に見せてくれて、それはいつもと違う感じ。ただ最終的にどういう話になるのかは、まだ全然想像できないです。
前川 いつもは演出込みの美術で、役者のみんなに動いてもらってからどういう空間にするかを考えて美術家にフィードバックするんだけど、今回は時間が行き来せずほぼ一直線に進んでいくので、リビングという1つの空間でやりたいと思っていて。また、これまではできるだけ“出はけ”が少なくなるような見せ方や空間を意識してきたのですが、今回はあえてみんなが出たり入ったりする演出にしているんです。それがイキウメとしては新鮮だし、面白いですね。
安井 本当に、信じられないくらい出たり入ったりしてます(笑)。今回は劇団員5人だけだし、(以降不定期になる)区切りの公演でもありますから、観る方はノスタルジックな気持ちになってしまうかもしれませんが、我々は我々らしく平然と、でもいつもとは違うものをお見せする感覚で、まっさらな状態でチャレンジしたいと思っています。
前川 まあ、ストーリーとしては、ひたすら安井さんが困るだけとも言えるかな(笑)。
安井 そう、おかしな人たちが1人ずつ出てきて俺を困らせていく。5人が部屋の中でてんやわんやするという話ではあります。
前川 過去作品とのつながりでいえば、イキウメのコンセプト通り、人間以外の存在からこの社会を見てみましょうという観点で、これまで宇宙人、ノクス、妖怪、幽霊を通して社会を見てきたけれど、今回はそれが動物というだけ。動物を人間社会から追い出された存在と考えれば、その中間にいるのが家畜やペットで、今回はその視点で人間世界を見る、という話です。
浜田 宇宙人や妖怪、人外から今回は家畜とペットって、ちょっとずつ人間に近い存在になってきているね(笑)。
一同 あははは!
ちなみに、劇中の“食エピソード”から影響を受けることはありますか?
一同 ないな。
浜田 でも確かにイキウメの芝居は、携帯電話よりも食べ物の話が出てくる率が高いよね。今や携帯電話で何かするっていうシーンを使わないと厳しいことは多いけど、携帯電話は出てこなくても食べ物の話は出てくる芝居は、けっこうある気がします。
前川 そうだね。
浜田 かといって、もし芝居から直接的に影響を受けるとしたら、例えば“血を飲む”とかってことでしょ?(笑) そこはやっぱり、芝居と現実を切り離して考えているんだろうな。(編集注:「天の敵」では不老の健康法として“飲血”する料理研究家の物語が描かれた)
安井 でももし合法的に血液が売られるようになって、それがある程度流通していて、ただそれを飲む人はまだ少ないという状況があったとして、1本15000円くらいだとわからないけど、ネット通販でサンキュッパくらいで買えるようになったら、前川さんは試してみたくなっちゃうんじゃないかな……そういう冒険心みたいなものはあるんじゃないかなと思う(笑)。
浜田 それはもう、狂気と言っていいね(笑)。
安井 そうだね(笑)。でもそういう“行き切り方”みたいなこと、前川さんはしそうだなあ……でもそういうところ、俺はちょっと面白いと思ってしまうんだよなあ……。
前川 うーん(苦笑)。
一同 あははは!
- 前川知大
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1974年、新潟県生まれ。劇作家、演出家。目に見えないものと人間との関わりや、日常の裏側にある世界からの人間の心理を描く。2003年にイキウメを旗揚げ。これまでの作品に「人魂を届けに」「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」「関数ドミノ」「天の敵」「太陽」「散歩する侵略者」など。2024年読売演劇大賞で最優秀作品賞、優秀演出家賞、2025年最優秀演出家賞を受賞。
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前川知大 Tomohiro MAEKAWA @TomoMaekawa
食と創作の連載エッセイ、今回は特別編で、劇団員のみんなと稽古場で座談会です。 https://t.co/HA4lD9YoW0