ミュージカル「ア・ストレンジ・ループ」より。(Photo by Marc J. Franklin)

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Broadway! 2021 / 2022シーズンのまとめ

第75回トニー賞を振り返る

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去る6月13日(日本時間)に、第75回トニー賞授賞式がアメリカ・ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催された。昨年はコロナ禍での劇場再開のタイミングとなる9月に行われたトニー賞授賞式だが、今年はこれまでの恒例だった6月に開催。コロナの影響による公演の中止・再開はありながらも、ブロードウェイの日常の風景が戻りつつある状況が伺われた。

ステージナタリーでは、第75回トニー賞を振り返るコラムを展開。ブロードウェイ事情に詳しい演劇ライター・兵藤あおみが、独自の視点で受賞作・受賞者のポイントを解説する。受賞結果は既報の通り。

/ 兵藤あおみ

演劇作品賞に輝いた「リーマン・トリロジー」の魅力

「リーマン・トリロジー」より。(Photo by Julieta Cervantes)

「リーマン・トリロジー」より。(Photo by Julieta Cervantes)

「リーマン・トリロジー」は、世界的な投資家リーマン一族の栄光と衰退を3幕、3時間にわたって描いた超大作。イタリアの劇作家ステファノ・マッシーニの長編戯曲をイギリスの気鋭ベン・パワーが翻案し、2018年にイギリス・ロンドンのナショナル・シアターで初演された。舞台中央に据えられたガラス張りのオフィスのセットの中で繰り広げられる、150年にわたるリーマン一族の物語。それをたった3人の俳優たちで演じ切るのが見どころだ。リーディングやワークショップを重ねるうちにキャストがどんどんミニマムになっていき、最終的に3人で演じる形式になったという。53もの役柄を衣裳やヘアメイクはそのままに自在に演じ分ける役者たちの力量と、そこに全幅の信頼を寄せた演出家サム・メンデスの名采配が見事に結実したプロダクションといえる。

ミュージカル作品賞は手堅く「ア・ストレンジ・ループ」に

ミュージカル「ア・ストレンジ・ループ」より。(Photo by Marc J. Franklin)

ミュージカル「ア・ストレンジ・ループ」より。(Photo by Marc J. Franklin)

ミュージカル「ア・ストレンジ・ループ」は脚本・楽曲を手がけたマイケル・R・ジャクソンの自叙伝的な作品で、2019年にオフ・ブロードウェイで初演。翌年ピュリツァー賞に輝いており、トニー賞の大本命と目されていた。ミュージカルライターを目指す主人公の“アッシャー”(劇場の客席案内係)は、黒人でゲイで太ってもいる。社会の主流から外れた彼の孤独感や葛藤に共感を覚え、最後にはありのままの自分で生きて良いのだと背中を押される観客も多いことだろう。“アッシャー”役のジャクウェル・スパイヴィーの奮闘はもちろん、主人公の心の声やそのほかの登場人物をテンポよく演じる分けた6人のアンサンブルの健闘も光る。そのうちの1人、L・モーガン・リーがトランスジェンダーとして初めてトニー賞(ミュージカル助演女優賞)候補に挙がったことも記憶に留めたい。

注目だった主演男優賞の賞レース

「リーマン・トリロジー」より。(Photo by Julieta Cervantes)

「リーマン・トリロジー」より。(Photo by Julieta Cervantes)

ミュージカル「MJ」より。(Photo by Matthew Murphy)

ミュージカル「MJ」より。(Photo by Matthew Murphy)

今年の演劇の主演男優部門はアツかった。通常5人の枠に7人がノミネート。うち3人は「リーマン・トリロジー」の出演者だったのだ。その昔(と言っても2009年)、ミュージカル「ビリー・エリオット」でタイトルロールをトリプルキャストで担った3人が同時受賞ということがあったが、「リーマン・トリロジー」では演じる役が違うからか、サイモン・ラッセル・ビール、アダム・ゴドリー、エイドリアン・レスターがそれぞれ候補者となった。トロフィを手にしたビールはリーマン一族で最初にドイツから渡米したヘンリーなどを熱演。母国イギリスでは3度ローレンス・オリヴィエ賞に輝く名優だが、意外やトニー賞は初受賞だった。また、ミュージカル「MJ」で“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの半生を体現したマイルズ・フロストがミュージカル主演男優賞に。本作が初舞台となる22歳。今後の活躍が楽しみだ。

私的にアツかった受賞結果

ミュージカル「カンパニー」より。(Photo by Matthew Murphy)

ミュージカル「カンパニー」より。(Photo by Matthew Murphy)

ヒュー・ジャックマン&サットン・フォスターという2大スターを擁して大人気の王道ミュージカル「ザ・ミュージックマン」を抑え、リバイバル賞に輝いたミュージカル「カンパニー」。昨秋亡くなった巨匠スティーヴン・ソンドハイムの1970年初演作で、35歳の誕生日を目前に控えた独身のニューヨーカーとその人間関係を通し、恋愛観や結婚観、人生観といったものを描き出す。同作がブロードウェイでリバイバルされるのは3度目で、前回(2006年)のジョン・ドイル演出版ではキャストが楽器演奏も担うスタイルが斬新だったが、今回のマリアンヌ・エリオット演出版は主人公ら登場人物の性別を入れ替えることによって、“現代の”価値観を鮮明にしてみせた。長い間、世界各地で愛され、上演され続けている名作でもまだ新しい解釈ができるのか!とうれしい驚きだった。これまでブロードウェイで手がけた4作品のすべてを作品賞かリバイバル賞に導き、うち3作品で演出賞を獲っているエリオットは「すごい」の一言。

第75回トニー賞を振り返って

「リーマン・トリロジー」(作品賞・主演男優賞・演出賞・装置デザイン賞・照明デザイン賞受賞)と共に演劇の作品賞候補に挙がっていた「ハングマン」、ミュージカルの作品賞候補に挙がっていた「ガール・フロム・ザ・ノース・カントリー」(編曲賞受賞)と「SIX」(楽曲賞・衣裳デザイン賞受賞)、そして「カンパニー」(リバイバル賞・助演男優賞・助演女優賞・演出賞・装置デザイン賞受賞)とロンドン発の作品の受賞が目立った印象。またミュージカル脚本賞に輝いた「ア・ストレンジ・ループ」のマイケル・R・ジャクソンや「SIX」で楽曲賞を獲得したトビー・マーロウ&ルーシー・モスら若手クリエイターの活躍も光った。さらにゲイであるジャクソンやノンバイナリーであるマーロウの受賞シーンは、ブロードウェイのインクルージョンと多様性を世界に示す瞬間でもあり、ブロードウェイの進化を感じさせた。

プロフィール

演劇情報誌「シアターガイド」編集部を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ前は1年に2・3度アメリカ・ニューヨークを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックすることをライフワークとしていた。NTLiveのトークライブでは司会進行を務める。

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