コロナ禍でスタートしたブロードウェイの2021 / 2022シーズン。その総括となる第75回トニー賞授賞式が、アメリカ・ニューヨークで6月13日(日本時間)に開催される。WOWOWではその模様を今年も、ライブ配信と生中継でお届け。昨年9月に行われた第74回トニー賞授賞式と比べ、今年はノミネート作品数も増え、コロナ禍において公演の中止と再開を繰り返しながら歩んだシーズンながらも、にぎやかな様相を呈した。また、今年は授賞式が、長年の本拠地だったラジオシティ・ミュージックホールに戻ってくることも、舞台ファンの気分を盛り立てる。
ステージナタリーでは、開催間近のトニー賞授賞式とブロードウェイの特集を展開。“ミュージカルファン”を公言する大野拓朗と甲斐翔真が魅力を語るほか、今年は東京のWOWOWスタジオで共に「生中継!第75回トニー賞授賞式」のナビゲーターを務める井上芳雄と宮澤エマが、案内役としての意気込みを明かす。特集後半では、ミュージカル部門作品賞にノミネートされた6作品を解説。第75回トニー賞授賞式をより深く楽しむために、本特集を読んで備えよう。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 川野結李歌[大野拓朗・甲斐翔真]
大野拓朗×甲斐翔真
ブロードウェイに魅了された2人が語る
海外を視野に入れて活動の幅を広げている大野拓朗と、数々のミュージカル作品に出演し、今年初めてニューヨークを訪れた甲斐翔真。2人が憧れのブロードウェイを語り合う。
何はともあれブロードウェイ!それぞれのニューヨーク体験
──大野さんはハリウッドで活動することを目標に、2019年末にニューヨークに留学されましたが、なぜ滞在先にニューヨークを選んだのですか?
大野拓朗 まずはアメリカの文化と習慣、英語を習得するために、ニューヨークを選びました。そして、僕はミュージカルが大好きなんですね。もともとお客さんに元気や夢、笑顔を与えられたらという思いで俳優をやっているので、エンタテインメントの塊である「ブロードウェイだろう!」と(笑)。でも渡米してすぐにコロナ禍が始まったので、4カ月くらいはステイホームで座学の毎日でしたけど。
甲斐翔真 僕はミュージカルデビューした頃(編集注:2020年1月に「デスノート THE MUSICAL」で初舞台 / 参照:新生「デスミュ」開幕!村井・甲斐が互いを称賛、高橋は“横田塾”で奮闘)にちょうどコロナ禍が始まったので、プレイヤーとして海外にミュージカル作品を観に行くという経験ができていなくて。先月初旬に無理やり行ってきました(笑)。僕もミュージカル好きを公言しているので、待ち望んだ瞬間でしたね(と、うれしそうな表情)。
──大野さんは今年3月にもニューヨークへ行かれたそうですが、初ブロードウェイの甲斐さんに今期ご覧になったオススメの作品は伝えましたか?
大野 いくつか挙げたよね!? 「MJ」とか「バースデー・キャンドルズ」とか。でも……。
甲斐 僕はニューヨークに行くのが初めてだったので、不動の人気がある作品の秘密が知りたくて、限られた時間だったのでロングラン作品を観劇してしまいました(笑)。一番印象的だったのは「ハミルトン」! ラップで物語が進むので、新しいミュージカル作品の在り方に衝撃を受けましたし、お客さんの雰囲気も日本とは違って、その場所や文化が劇場の中に現れるんだなって。
大野 僕も「ハミルトン」はロサンゼルスで観ましたが、1曲終わったあとの「フウー!」みたいなアメリカのノリは、盛り上がりますよね。今回ブロードウェイでは、「MJ」「SIX」「ザ・ミュージックマン」「パラダイス・スクエア」などを観てきたんですが、ミュージカルでは「MJ」がダントツで良かったです! マイケル・ジャクソンの半生を3人の俳優が年代別に演じていくんですが、主演のマイルズ・フロストさんがダンスも芝居もセリフも抜群で、その圧倒的なパフォーマンス力に、悔しくて涙が出るくらいでした。“僕には一生無理だ”という感覚を初めて味わいましたね。マイケルの首の角度から立ち方、仕草までに専門的な指導が入っていて、とにかく力強いパフォーマンスなんです。あと、「ザ・ミュージックマン」も良かった! 子役たちがいっぱい出てくるんですが、みんなダンスやアクロバットが達者で。主演のヒュー・ジャックマンの人柄の良さが演技にあふれ出ていて、観ている人に元気を与えてくれるような、温かい作品でした。
甲斐 ……あと3日あればなあ! 「MJ」と「ザ・ミュージックマン」の劇場の前には、ディズニーランドかっていうくらい大勢のお客さんが並んでいました。
大野 ニューヨークの街はどうだった?
甲斐 ハマりすぎました。24年間、日本で生きてきたので、こんな暮らしをしている人がいるんだとか、人種や国籍、文化が混ざり合っているのが街並みに見て取れて、まるで博物館や美術館のよう。ひたすら街を歩いていました(笑)。
エンタメの底力、トニー賞という圧倒的な存在をうらやむ
──お二人のトニー賞のイメージはどのようなものですか?
甲斐 うらやましいです。舞台ファンだけでなく、国民にまで知れわたっているような賞があることが。
大野 賞の行方には世界中が注目していますし、授賞式自体がショーのようになっていて、アメリカにおけるエンタメの底力というか、圧倒的な存在であるということを表していますよね。トニー賞があることで観光の促進にもなる部分があるし。
甲斐 クリエイターや役者にとっても1つの目標にできるし、オフブロードウェイからオンブロードウェイへ駆け上がっていって賞を獲るなんていう夢のような話もある。TKTSという当日券売り場に並んでいたときに、言葉はわからなかったんですけど、衣裳を着た若い役者たちが今やっている作品を、目をキラキラさせて次々に営業していたんです。何かに本気で打ち込んでいる人たちがこんなにたくさんいるというのは、良いなと思いました。彼らがいるからトニー賞は特別なんだろうと。だからこそ、うらやましいんです。もっと魂を燃やしてやりたいと思う自分がいました。
大野 僕自身、まずはハリウッドで活動することが目標なので、現状ではブロードウェイは視野に入れていませんが、もしチャンスをいただけるのであれば、(ブロードウェイの舞台に立つことにも)チャレンジしたいです。そして、僕はミュージカルファンの1人として、翔真のように実力のある若い人には、ブロードウェイでメインキャストを張るというところを目指してほしい。将来的に僕の培った人脈を使ってそういう人をサポートするのもちょっと良いなと考えています。
──今年のトニー賞授賞式はご覧になる予定ですか?
大野 はい、WOWOWさんで拝見します!
甲斐 絶対に観ます!
大野 3月にニューヨークに滞在したときに観た作品にも素晴らしいものがたくさんあったのに、それ以外にもこんなに多くの作品がノミネートされている。よっぽど面白い作品に違いないですから、その一部がパフォーマンスで観られると思うと楽しみです。
今だからこそ響く「クラウディア」に向けて
──お二人は「Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス」(以下「クラウディア」)への出演が控えていますが、劇中で歌う楽曲「真夏の果実」を、「WOWOWオリジナルミュージカルコメディ 福田雄一×井上芳雄『グリーン&ブラックス』」で披露されたそうですね(参照:グリブラで朝夏まなと講師の“宝塚男役の極意”再び!大野拓朗&甲斐翔真は「真夏の果実」披露)。収録はいかがでしたか?
大野 緊張しました。テレビ番組の収録で歌うという経験がこれまであまりなかったですし、何より僕は翔真の歌が大好きなので、収録日に初めて間近で翔真の「真夏の果実」を聞いて「うう、めっちゃカッコいい」と思って、より緊張感が高まりました。
甲斐 ありがとうございます(笑)。僕はとても楽しかったです! もともと“カラオケ大好き人間”から僕の歌は始まっているので、J-POPを皆さんに聞いてもらえてちょっとうれしかったです。
──「クラウディア」は地球ゴージャスが2004年に初演した作品で、劇中では根國と幹國という2つの民族の物語が展開します。お二人は根國の剣豪・細亜羅(ジアラ)役をWキャストで務めますが、見どころは?
甲斐 まだ自分の中でも言語化できないところがあるんですが、愛を取り上げられた世界が舞台になっています。人から愛を取ってしまうと、どうなるのか。考えたこともなかったのですが、登場人物たちの人生を通して、愛って実はこんなに尊いものなんだなと感じられる作品かなと思います。
大野 そういった素敵な内容を、日本人のDNAに刷り込まれているであろうサザンオールスターズさんの名曲と激しいダンス、殺陣、和製シェイクスピアこと岸谷五朗さんの脚本で、二重三重のエンタテインメントに紡ぎ上げる。観終わったあとに考えることもたくさんあるでしょうし、悲しいことだけど、今だからこそお届けする意味がある作品なのかなと。それに、サザンオールスターズさんの曲の力が、やっぱりすごいんですよ。聴きなじみのある曲のイントロが流れると、自分でセリフを言いながらも鳥肌が立ちますし、お客さんもテンションが上がるのではないかなと思います。
甲斐 桑田(佳祐)さんの曲は遊びがあって軽やかなところが衝撃的で、年越しライブを生で拝見し、学ぶところが多いなと感じました。今、その魅力を誰よりも身体に入れようと稽古に励んでいるので、本番ではしっかりとお届けしたいです。
大野拓朗・甲斐翔真 出演情報
WOWOWプライム・WOWOWオンデマンド「福田雄一×井上芳雄『グリーン&ブラックス』」#63
2022年6月24日(金)22:00~
ミュージックショーコーナー
「真夏の果実」(「Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス」より)
出演:大野拓朗、甲斐翔真
「Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス」
2022年7月4日(月)~24日(日)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
2022年7月29日(金)~31日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
脚本・演出:岸谷五朗
主題歌:サザンオールスターズ「FRIENDS」
出演:大野拓朗、甲斐翔真 / 廣瀬友祐、小栗基裕 / 田村芽実、門山葉子 / 美弥るりか / 上山竜治、中河内雅貴 / 平間壮一、新原泰佑 / 湖月わたる / 一色洋平、塩田康平、蒼木陣、健人 / (以下男女別五十音順)岡崎大樹、小山銀次郎、内木克洋、中西智也、矢内康洋、山科諒馬、大久保芽依、織里織、神谷玲花、小林由佳、佐伯理沙、Sarry、杉山真梨佳、田口恵那、堂雪絵、山花玲美
プロフィール
大野拓朗(オオノタクロウ)
1988年、東京都生まれ。2010年に映画「インシテミル~7日間のデス・ゲーム~」で俳優デビュー。2019年12月からは俳優修業のため単身渡米。現在は日米に拠点を置き、ハリウッド進出を目指す。主なミュージカル出演作は「エリザベート」「ロミオ&ジュリエット」「プロデューサーズ」「エニシング・ゴーズ」など。7月に「Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス」、9・10月にはミュージカル「シンデレラストーリー」が控える。
大野拓朗 (@takuro.ohno) | Instagram
甲斐翔真(カイショウマ)
1997年、東京都生まれ。特撮ドラマ「仮面ライダーエグゼイド」のパラド / 仮面ライダーパラドクス役でテレビドラマ初出演。2020年に「デスノート THE MUSICAL」で初舞台を踏み、近年はミュージカル「ロミオ&ジュリエット」「October Skyー遠い空の向こうにー」「ネクスト・トゥ・ノーマル」などに出演。7月に「Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス」、10月から2023年1月にかけてミュージカル「エリザベート」が控える。
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井上芳雄&宮澤エマが語る、今年のトニー賞に向けて