「さんピンCAMP」とその時代 第2回 前編 [バックナンバー]
ブッダとシャカの邂逅から生まれた伝説のユニット、大神とはなんだったのか
NIPPS&CQ(BUDDHA BRAND)×IGNITION MAN aka ヒデボウイ(SHAKKAZOMBIE)対談
2025年12月25日 19:00 9
DEV LARGEはTSUTCHIEを認めていた
──1996年に12inchのアナログ盤で発売された「大怪我」には、“Side大”にTSUTCHIEがリミックスした「大怪我(輸血MIX)」、“Side神”にDEV LARGEが手がけた「大怪我(ILL JOINT STINKBOX)」が収録されています。バージョン違いを作ろうというアイデアは最初からあったんですか?
ヒデボウイ 2人で話してグループごとにバージョンがあったほうがいいんじゃない?っていう話になったんじゃないですか。トラックは両方とも作れるんだからって。
ヒデボウイ 変な雰囲気で伝わらないで欲しいけど、そういうのはあったかもしれない。シャカの「SHAKKATTACK」を作ってたとき、まだコンちゃんと出会ったばかりだったけど、コンちゃんて絵を描くじゃん? そしたら突然、
全員 あはははは(爆笑)
ヒデボウイ その時点でパッケージ周りの制作も進んでたんだけど、急いでレコード会社の人に頼んで、そのステッカーをパッケージに封入してもらいましたから。当時コンちゃんが住んでた家には、自分で描いた絵が壁に大量に貼ってあったんですよ。その中に勝手に描いたシャカのロゴもいっぱい貼ってあって(笑)。「これもいつか使えばいいから」って。
──結果、「SHAKKATTACK」のジャケットのイラストはDEV LARGEが手がけているし、コーラスにはDEV LARGEや
ヒデボウイ 大神もその流れですよ。僕たちの中では、仲がいいし、お互いのマキシシングルに「大怪我」のバージョン違いを入れたっていうだけの話。そのあと「さんピンCAMP」のコンピに収録されて、「さんピンCAMP」でトップバッターとして歌ったから、「大怪我」は、さんピンのために作った曲だと思われてるんですよ。
──CDでは、96年4月に発売されたSHAKKAZOMBIEのcutting edge移籍第1弾マキシシングル「手のひらを太陽に」に”輸血MIX“が、96年5月に発売された
CQ そこはもう完全にDEV LARGEが企んでたんだと思う。DEV LARGEが全部計算してやってたのか、俺たちはイマイチわかってなかったけど、結果的にいろんなことがうまくいったところもあると思う。
ヒデボウイ そもそも「大怪我」のサビのリリックは全部コンちゃんが書いてるしね。
CQ でも、大神がきっかけで、うちらとシャカがライブによく一緒に行くようになったから。シャカとブッタで大阪とか。
NIPPS でも「大怪我」を歌うことってあんまなかったよね?
ヒデボウイ ほとんどなかったですね。
NIPPS ブッダはブッダ、シャカはシャカでライブして、大神として歌うことはなかった。
CQ ブッダは(シャカのパートを)飛ばして歌ってたからね。そういうバージョンをあとから作っちゃったしさ(「大怪我3000」)。
アーティスト写真は浅草で撮影
──ジャケット写真の話をすると、大神「大怪我」の12inchシングルと、SHAKKAZOMBIEの「手のひらを太陽に」、BUDDHA BRANDの「人間発電所~プロローグ」のブックレットやバックカバーで同じ衣装の写真があります。ということは、この3つのプロジェクトは同時進行だったということでしょうか。
ヒデボウイ あれは浅草で撮ったんですよ。
本根誠 最初に渋谷で集まって(「人間発電所~プロローグ」のジャケ写になった)Mandrillの「Just Outside Of Town」風の写真をBUDDHA BRANDで撮ったんですよ。Mandrillをオマージュしてるのがわかったから、僕が「やってるね」ってDEV LARGEに言ったら、うれしそうに「わかってるな、このオヤジ」みたいな顔をして。そのあとバンみたいなレンタカーで上野に行ったら、NIPPSさんの友達の革ジャン屋さんから4人分の革ジャンが借りてあって。
NIPPS それ、友達じゃなくて、俺が働いてたんだよ。上野商会。
本根 そうだったんですね。で、まずはBUDDHA BRANDで革ジャンを着て撮って。それが終ったらいつの間にかSHAKKAZOMBIEの3人が来てたんだよね。で、最後にお寺で7人横並びになっているカットを撮った。
ヒデボウイ そのときに(「手のひらを太陽に」の)シャカだけの写真も撮ってるから、僕らは別行動してから行ったんでしょうね。浅草で合流して、大神で撮ろうってなったんだと思う。
NIPPS でも、前から打合せしてた気がする。とりあえずみんな軍服で行こうって話してた気がするんだよ。
ヒデボウイ なんかそんな記憶もありますね。
CQ 俺はそれさえ知らない。なんのジャケット写真を撮ってたのかも俺はわかってなかったから。なのにどんどん進んでいく(笑)。全然わからないんだよ、DEV LARGEは教えてくれないから。
──革ジャンということは寒い季節に撮影しているだろうし、ひょっとしたら95年の年末の時点で大神のプロジェクトは動いていたということになりますか?
ヒデボウイ かもしれないですね。夜寒かった日に撮影していたような記憶があります。「CHECK YOUR MIKE」に出たときのBUDDHA BRANDは、確かDJがヒロシちゃんだったんですよ。「CHECK YOUR MIKE」で1回帰って来て、そのあとに本格的に帰ってくるから、そのタイミングで写真を撮ってると思うんです。
CQ MASTERKEY (BUDDHA BRANDのDJ)は1年くらい遅れてニューヨークから帰ってきてるからね。
「大怪我」レコーディング秘話
──「大怪我」は全員で同じ日にスタジオに集まってレコーディングしたんですか?
NIPPS 一斉に録った。シャカのバージョンも両方。
ヒデボウイ Rinky Dink Studioでね。
NIPPS それで困ったのがシャカバージョンとブッダバージョンでラップするメンバーの順番が逆なんですよ。
──まるっきり逆ですよね。
NIPPS シャカバージョンは俺が最初にラップするんだけど、リリックで「まずはILLなイントロ~」って書いちゃったから、まったくリリックを変えなきゃいけなくなって(笑)。
ヒデボウイ あはは!
NIPPS それでブッダバージョンは、「これがILLなアウトロ」にしたんですよ。もうアウトロにしちまえって(笑)。
──どっちのバージョンからレコーディングしたか覚えてますか?
NIPPS レコーディングは「ILL JOINT」が先だった。
CQ 石田さんも、その日スタジオにいたんだよね。ってことは、レコーディングは石田さんから始まったんじゃねえか?
──「ILL JOINT」ではECDさんがイントロマンとして冒頭でシャウトアウトしています。
ヒデボウイ そう。でも、石田さんはラップで入る予定だったんですかね? その場のノリでやったんじゃないかな。
CQ 石田さんは(曲に)入りたくて「来たんだけど、どう?」って言ったんじゃない?(笑) 俺の勘ではDEV LARGEは石田さんを使おうと思ってなかったと思うよ、たぶん。俺もまったく知らなかったから。
──ということは、「ILL JOINT」のほうを全部作ってからリレー順をひっくり返していったんですか?
NIPPS それはDEV LARGEのアイデアだね。マイクリレーの順番もDEV LARGEが決めてるから。
CQ 俺は与えられたビートに乗せてラップしただけだしね。大神ってちゃんとしたグループっぽく思われてるみたいだけど、自分たちは全然そんなふうに思ってなかったんだ。
「輸血MIX」と「ILL JOINT」
──2バージョンできあがった「大怪我」を、お互いどう聴いていましたか?
NIPPS 俺は「輸血MIX」のほうが好きだね。
ヒデボウイ あはは。そう言われることは、けっこう多いですね。
NIPPS なんでかっていうとDEV LARGEは狙ってあれ(ILL JOINT)を作ったんだよ。
──大ネタ使いのことですか?
NIPPS そう。狙ってあれをやってる。
──A Taste of Honeyのヒット曲「Rescue Me」をサンプリングしたNice & Nasty 3の「The Ultimate Rap」(1980年)をトラックに引用していますよね。
NIPPS 俺たちはニューヨークにいた頃からそういう話をしてたんだけど、ビギー(ザ・ノトーリアス・B.I.G.)の「Juicy」みたいにA面をラジオフレンドリーな曲にして、B面をゴリゴリのハードコアアンダーグランドみたいな曲調にしてっていうのを取り入れたんだよ。
──キャッチーなほうは俺たちが担当すると。だとしたら、オールドスクールのクラシックという大ネタ使いでいこうと。
NIPPS そう。あいつの好みでもあったけど、そういうパーティチューンにしたかったんじゃない? 日本で何が流行ってるかとか、何がウケるかとか、ものすごい研究してたから。あれは意図的だよ。
CQ 俺はシャカバージョンもブッダバージョンも両方聴いてたな。光と影じゃないけど、うまい具合に対比になってるから、あれ1枚で成立したんじゃないかって思う。
ヒデボウイ 僕も両方聴いてましたけど、パーティチューンな感じがしてブッダバージョンのほうが好きでした。ライブでもあのバージョンをやることが多かったですね。
CQ 俺たちも歌ったことがあるのは「ILL JOINT」のほうが多いかな。
ヒデボウイ 当時「輸血MIX」でライブをやったことはあまりないですよね?
NIPPS いや、俺たちはあるよ。
CQ というか、シャカでライブやるときは「輸血MIX」でやらなかったの?
ヒデボウイ やってたかもしれないけど、全然覚えてない(笑)。
──ライブといえば、「大怪我(ILL JOINT STINKBOX)」のミュージックビデオでインストアライブの映像が使われていますよね。
ヒデボウイ あれはタワーレコード渋谷店のインストアです。ウチとブッダ、お互いのマキシシングルが出て、そのリリースイベントだった。あのときは「輸血MIX」をやったんじゃなかったでしたっけ?
CQ 全然覚えてないよ(笑)。
ヒデボウイ 「輸血MIX」なのにブッダバージョンでビデオ作ってるんだって思った記憶があるんですよ。だから、よく見ると口が合ってない。光嶋(崇)くんに聞いた記憶がありますから。リップシンクみたいに編集するのが大変だったって(笑)。
──10月25日に北千住Juice Bar Rocketで開催されたCQさんの還暦お祝いパーティでも「輸血MIX」のほうを歌ってましたよね。
CQ 今はシャカバージョンのほうがやりやすい。というか、DEV LARGEがいないから「ILL JOINT」のほうはできないんだよね。そもそも「ILL JOINT」はDEV LARGEが歌ってるパートがすげえ多いから。
ヒデボウイ 正直やりづらいんですよね(笑)。
CQ そう。あいつが目立ちたいだけだもん。「奴等がシャカ」とか歌ってて。シャカが「俺等がシャカ」ならわかるけど「奴等がシャカ」だからさ。上から目線すぎるだろって(笑)。
<後編に続く>
プロフィール
CQ(シーキュー)
BUDDHA BRANDのMC。ニックネームは「赤目の達磨の叔父貴」「クーリーシャン」など。1998年以降は、MAKI THE MAGIC(MC)、ILLICIT TSUBOIとのユニットキエるマキュウのメンバーとして活動。2015年、NIPPSとヒップホップユニットBUDDHA MAFIAを結成した。
NIPPS(ニップス)
BUDDHA BRANDのMC。ニックネームは「HIBAHIHI(飛葉飛火)」や「緑の5本指」など。2007年以降は、TETRAD THE GANG OF FOUR、The Sexorcistのメンバーとして活動を展開している。2015年、CQとヒップホップユニットBUDDHA MAFIAを結成。
IGNITION MAN aka ヒデボウイ(イグニッションマンアズノウアズヒデボウイ)
SHAKKAZOMBIEのMC。1993年にOSUMI(MC)、TSUTCHIE(DJ)とグループ結成。1995年、1st EP「SHAKKATTACK」をNatural Foundationよりリリースする。翌96年、cutting edgeから「手のひらを太陽に」でメジャーデビューを果たす。
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