Worldwide Skippa

排外主義や差別に音楽でどう抗うか? Worldwide Skippaが目指すのはクラブで流れる“サブリミナルポリティカル”

「皆も気を付けろよ自分の内なる林原めぐみ」のパンチラインで注目浴びた新鋭ラッパーの戦い方

165

1173

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 324 810
  • 39 シェア

面白い歌詞とつまらない歌詞の違い

──歌詞を書くうえで、ほかに意識していることはありますか?

意識しているのは、歌詞に固有名詞を入れるということ。固有名詞を入れるだけでも簡単にほかと違う歌詞ができるので、量を作るためにも意識して入れてますね。特に数えてはいないけど、僕の曲って多分8小節取り出したらどこかに1つは固有名詞が入っていると思います。Watsonとかは地元の友達の名前を入れたりしてますよね。僕はもっとミーハーで、アニメ関係の言葉を歌詞に入れたりしてるんですけど、行きすぎてナード感が出ないようにビート選びには気を使ってます。

──作詞で参考にしている人はいます?

ラッパーだともちろんWatsonなんですが、ライターのLilPri(USB)さんにめちゃくちゃ影響を受けていて。

──7の楽曲「Boss Bitch」のリミックスでElle Teresaが「私を褒めるUSBエゴサしてるX」とネームドロップしていた人で、ナタリーの「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」座談会記事にもYYKという名義で登場していた方ですよね。

LilPriさんがたまに言うラップ理論みたいな投稿はぶっ飛んだ内容が多いですけど、僕は信者と言っていいレベルで真に受けています。歌詞について、LilPriさんは「固有名詞が入っていたらよくて入っていなかったら悪い」ぐらいの言い切り方をしていたと思います。

Kohjiyaの名前を出した理由

──ネームドロップと言えば、「ダサくて助かる」の林原めぐみもそうですが、「WWS FOR PRESIDENT - Song Wars」(2025年6月リリース「I ♡ クランク.」収録)の「つまんない歌詞でも売れる例えばKohjiya」というディスも大きな話題になってましたね。Kohjiyaは、オーディション番組「RAPSTAR 2024」で優勝し、今最も活躍しているラッパーの1人です。

WWS FOR PRESIDENT (Song Wars)

正直言って、僕の曲をいつも聴いてくれてる人たちは、Kohjiyaのネームドロップについては、別になんとも思っていない人が多いと思います。あれはただの軽口でしかなくて、あんなことはほかにもいっぱい言ってるので。だから「ディス」って表現されること自体に違和感があります。

──センセーショナルに受け取る人も多いけれど、Skippaさん的には大したことを言ったわけじゃないと。

ネームドロップに過剰反応するのはつまらない歌詞ばかり聴いているからだよ、とは思ってます。KohjiyaだけでなくKANDYTOWN周辺もそうですけど、ほとんどのラッパーは1曲に1、2個の固有名詞が出てきたら多いぐらいだと思います。それが悪いとは言わないですが、僕の基準ではそれはいいラップじゃない。もし「つまらない歌詞」をディスるなら、売れている人に絞ってもKohjiyaの下に100人くらいいますよ。そもそもKohjiyaは嫌いじゃないし、ぶっちゃけKohjiyaの名前を出したのは、ただ韻を踏むためですね。

ヤーレンズにも届いて癖になった

──最初のシングル「WORLDWIDE INTRO」 (2025年2月リリース)に入っている「JAPANESE CRANKA」で「騒ぎ方がDJ TY-KOH」とネームドロップしたらDJ TY-KOH本人とリミックスを作ることになりましたが、あれもなんとなく出してみたらああなったという感じですか?

JAPANESE CRANKA (feat. DJ TY-KOH & SiX FXXT UNDXR) (Remix)

あれも本当に軽口ですよね。日本のヒップホップシーンで騒ぐといったらタイコーさんでしょ、くらいのノリでネームドロップしたんです。

──芸人のヤーレンズも、この曲の「出井楢原マジでファイト」という歌詞に反応して「ヤーレンズのオールナイトニッポン0(ZERO)」で流してくれてましたね。

そういうので多分癖になっちゃったんですね。名前出したら届くんだみたいな(笑)。

ダサくないビートへのこだわり

──先日リリースされた新曲「海賊王 freestyle」は曲の出だしに面食らっていると、最初に「俺はこのシーンで一番自由だ」って歌詞が出てきて、その通りだなと唸らされました。

海賊王 freestyle

マジで自由じゃないですか?(笑)このビートもそうなんですが、僕が使ってるDMV Crankというジャンルのビートの多くはnainsutaというアメリカのビートメーカーが作ってくれてるんです。サンクラにある「2025大阪万博中止」という曲で、nainsutaのビートを初めて使って彼をメンションしたら、「You are Japanese Cranka!!」っていうDMが届きました。それが「JAPANESE CRANKA」って曲名の由来です。それ以来ビートを提供してくれています。

2025大阪万博中止 (p k9)

──「Skippa Diary」(「Skipping Tape Vol.1」収録)の「遅い日本の流行り追いつかせるUSの現行」という歌詞はビートのトレンドの話もあるのかなと思いました。「ダサくて助かる」では「団結前夜」のビートも批判していましたが、SkippaさんはDMV Crankというジャンルのビートにどうして注目したんですか?

DMV Crankは、ワシントンD.C.とかバージニアあたりから生まれたジャンルで、スライムゲッテム(SlimeGetEm)とかが代表的なラッパーです。ハードなんだけど、サンプリングの大ネタ使いもあるので、いろんな人の耳にもとっつきやすさがあると思ったのと、日本で何かのパイオニアになりたくて、まだ全然知られていないものを選びたかったのもあります。

ラッパーのしがらみから自由でいたい

──「海賊王 freestyle」にはストレートな自民党批判がありつつ、「日本のラップシーンはお互いの顔色窺ってるから平行 俺みたいに好きに言えよ 言ってる場合じゃないよエイヨー こんだけ言っても変わらん日本のラップと政治 悲しいAkon」という歌詞があります。日本のラップシーンにも村社会的な側面があるんでしょうか。

お互いの顔色を見ながらやってるなっていうのは「団結前夜」周りの一連の流れでも感じました。

──「ダサくて助かる」でも「売れてるラッパーはしがらみや立場あるだろうし サンクララッパーはまだ若くて分かんないだろうし 失うものも少ない俺が丁度いいから言うよ」とラップしていましたね。

ただ「日本のラップシーンはお互いの顔色窺ってるから平行」とは言いつつ、僕も正直周りの顔色をうかがっちゃいます。側から見ていてくだらないと思っていても、実際自分が渦中にいたら自由でいるのは無理だろうなとも思います。

──これから徐々にしがらみが出てくるわけですね。

僕の拠点は名古屋なので、名古屋出身のメンバーがいるXgang周りにお世話になってるんですけど、YOKOSQUAD(※Xgangと過去に対立のあった横須賀のクルー)も好きなんです。一緒に曲を作ったり遊んでもらってるのはXgang周りの人だけど、こないだYOKOSQUADと一緒にイベント(2025年6月17日開催「DAWN」)に出ちゃったりして。めっちゃうれしいけど気まずいなって。僕だけがそういうしがらみを無視してもただ輪を乱すだけなので、「(窮屈な立場のことを)みんなわかってくれないかな?」って思います。好きに動いていたいから、そういう雰囲気をみんなで作っていこうよ、みたいな感じですね。

──名が知られてくるとしがらみが出てくるのは宿命ですよね。「あいつは自由人だから仕方ない」と思われて、周りからある意味あきらめられるといいですよね。

その立ち位置に行きたいですね。あいつはいろんなところを行き来してるけどいいんだよ、みたいな。一番おいしい立ち回りですね。

エゴサしてうれしかったこと

──もともと熱心なリスナーだった自身がラッパーとしての声を得た今、どうしていきたいですか?

僕のポリティカルな歌詞は、党派性は多分全部一緒なんですが、言及する問題はその時々のマイブームで言っていて、それはこれからも絶対に続けます。どうなりたいかっていうと、もちろん売れたい。でも売れたときにこのスタイルは変えたくない。急に政治的なことを言い始めても変だから、売れても言うために今やっています。

──売れるために考えていることはありますか? 「ダサくて助かる」のスピード感もすごかったですし、「Re:Hello Hater」(「Skipping Tape Vol.1」収録)に「令和曲出しても持って二晩」というラインがあるように、リリースのスピード感はかなり意識しているのかなと。

Re: HELLO HATER

リリースのペースは一番意識していますね。今の日本語ラップってめちゃくちゃいい曲が1週間に何曲も出てると思うんです。「こんなにいい曲なのにそこまで売れてないのはなぜ?」と思うこともあるんですが、僕自身も次の週にはその人の曲はもう聴いていない、なんてこともよくある。リスナー目線だと正直みんなそうだと思うんですけどね。ラッパー目線でそこをどう解決するかと考えたら、やっぱり今はリリースの頻度を増やすしかない。もちろんこれが続けられるとは思っていないし、正しいかどうかもわからない。正直めちゃくちゃ無理してます。だからある程度ファンベースができて落ち着いたところでアルバムを仕上げたりしたいですね。とりあえず今は話題を絶やさず、毎日どこかで名前が出るようにしたいです。

──Skippaさんは現在23歳ですが、自身の曲をどういう人に一番届けたいですか?

同年代か自分のちょい下くらいですね。実際自分の政治的なリリックについてDMで共感してくれるのは10代の子とかが多くて、それがめっちゃうれしいです。あと、エゴサしていてうれしいなって思ったことがあって。「Skippaはめっちゃ曲いいけど、左寄りなのかよ」みたいなこと言ってる人がいたんです。僕に対して「左寄りなのかよ」って不満に思ってはいるけど、その人は僕の新曲もチェックして聴いてくれてるわけで。実際その人の考え方が変わらなくても、僕の言葉がサブリミナル的に入り込んでいることには意味があるかなと思います。と言っても今はまだ限られた人にしか届いていないと思うので、これから名古屋のクラブ行ったら人に囲まれすぎて、まともに通れないみたいな感じになりたいですね。

Worldwide Skippa(ワールドワイドスキッパ)

愛知・名古屋を拠点に活動するラッパー。2025年2月に1stシングル「WORLDWIDE INTRO」 をリリースしたのち、DJ TY-KOHを招いた「JAPANESE CRANKA Remix」、ミックステープ「Skipping Tape Vol.1」、シングル「LALALA」「I ♡ クランク.」と立て続けに作品を発表し、ウィットに富んだリリックや音楽性でシーンをざわつかせている。
Worldwide Skippa | TuneCore Japan
Worldwide Skippa (@worldwideskippa) | X
Worldwide Skippa (@worldwideskippa) | Instagram
Worldwide Skippa (@worldwideskippa) | SoundCloud
Worldwide Skippa - YouTube

この記事の画像・動画・音声(全17件)

読者の反応

神奈川県人権啓発センター(公式) @K_JINKEN

排外主義や差別に音楽でどう抗うか? Worldwide Skippaが目指すのはクラブで流れる“サブリミナルポリティカル”
https://t.co/R3yFPWyIX8
人権ラップです

コメントを読む(165件)

Worldwide Skippaのほかの記事

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 Worldwide Skippa / 林原めぐみ / 輪入道 / 宇多田ヒカル / 徳利 / Moment Joon / Candee / Watson / 7 / Elle Teresa の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。