
パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024 (中編) [バックナンバー]
ralph、ZORN、Watson、Kohjiya、5lack、仙人掌、ISSUGI……まだまだ続くパンチライン座談会
言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会
2025年3月26日 12:30 2
ローカルなプライドが表出したラップ
──ボースティングやワードプレイでいうと、Isaacさんが選ばれた
ralph「Assassin」ミュージックビデオ
Isaac Y. Takeu 「媚びない分スキル磨いた / 925 ナイフみたいだな / 尖ってるのはエイリじゃないから」というラインすごくて。「媚びない分スキル磨いた」から「925」って、たぶん銀のことだと思うんです。銀は磨くときれいになりますよね。あと9 to 5、つまり9時から5時まで働く人という意味もあると思う。さらに「磨いた」はスキルとナイフにかかってて、ナイフの尖りはralphの媚びない活動姿勢ともつながってる。「エイリ」は営利と鋭利のダブルミーニングで、「営利目的じゃないから尖ってる」ということだと思うけど、“鋭利じゃない”だとどういう意味なんだろう?
渡辺 ralphくんってゲーマーのイメージもあるから、エイリっていう名前のゲームキャラか何かがいるのかなとすら思ってた。ただ、私たちが考えすぎてる可能性も否めない(笑)。
Isaac (笑)。こんだけ重なっちゃうと考えちゃいますよね。
──二木さんが選ばれた
AKLO「221 feat. ZORN」ミュージックビデオ
二木 AKLOとZORNがそろったら、当然すごいラップをしますよねっていうさすがの曲です。ZORNの「仲間を見りゃあのままなメンツ / 変わったと言やパトカーからベンツ」も説明不要のうまさですよね。あと、面白かったのは、ZORNの「俺がウィル・スミスなら殴んのはグー 」。
渡辺 ウィル・スミスのラインもすごいですよね。
二木 はい。これはもちろん、2022年のアカデミー賞で、ウィル・スミスが、妻のジェイダ・ピンケット・スミスを司会者のクリス・ロックにジョークのネタにされたことに怒って平手打ちした一件ですね。このラインに続いて、「顔面蒼白になるバースを書く / でも嫁さんもともとガングロギャル」と来る。「顔面蒼白」と「ガングロギャル」の対比でも韻を踏んでいる。
──あ、白と黒で。
二木 そう。「221」って曲名は、神社で参拝するときの二礼二拍手一礼から来ています。だから、AKLOが神様つながりで、エミネムの「Rap God」って曲名を引用していますよね。ほかにも面白いところがありますが、まだ気付けてないポイントもありそう。
渡辺 初詣に行くと、いつもお賽銭のところで「どうするんだっけ?」となるんだけど、今年はこの曲のおかげでちゃんと二礼二拍手一礼でできました(笑)。
MINORI 日本っぽさで言うと、二木さんが挙げた
二木 「阿波弁」ですね。徳島といえば阿波踊りが有名ですけど、阿波弁はあまり聞いたことがなかったです。「解散の事をカーしよか / 仕事を休むときはヤーしよか / おじさんはミスればゆうしもた / 軽トラ流れるラージオが」ってラインがコミカルですね。
Watson「阿波弁」ミュージックビデオ
Isaac 阿波弁だと「解散しようか」は「カーしよか」って言うんだ。
二木 そうみたい。あと「軽トラ流れるラージオが」もあの訛りで聴くと風景が浮かんでくる。地域の魅力を生かしているラッパーといえば、Watsonだけなく、福島県相馬市のYELLASOMAや去年紹介した岩手県山田町のPAZUもいますね(参照:パンチライン・オブ・ザ・イヤー2023)。偶然に両者とも太平洋沿岸の町ですが。YELLASOMAの「よーいとな」と「いごーよ」も方言をうまく使っています。
渡辺 今って地元にいてもカッコよく成り上がれますもんね。さかのぼるとTOKONA-Xさん、
Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO「RASEN in OKINAWA」ミュージックビデオ
MINORI 確かに沖縄の人、みんなエイサーを踊れますよね。
Isaac 地元愛が強いのは素晴らしいと思います。
渡辺 渋谷の真ん中で、OZworldのラップでエイサーを踊っている女の子を見て、感極まりました。そのエイサーにローカルなプライドの表出を見たんですよね。すごく美しいなと思ってずっと観ちゃいました。
若くして完成されたラッパーは今後どんどん出てくる
渡辺
Isaac 僕がKohjiyaさんの「Talk 2 Me」から「辛いことが辛いままじゃ / ムカつくよだから / 金に換える過去の話」を選んだのは、けっこういろんな理由があるんです。Kohjiyaさんは10代前半からヒップホップにどっぷりハマって、それしかやってこなかった人らしくて。自分たちでMVも作ってるんですけど、10代で曲はおろかMVまで作っちゃうって、冷静に考えるとものすごいことだと思うんですよ。でもUSでは16、17歳のラッパーがどんどん出てきているし、日本でもKohjiyaさんのように若くして完成されたラッパーはこれからもどんどん出てくるんだろうなって感じたんです。
Kohjiya「Talk 2 Me」
──Kohjiyaさんは、作品を聴いているとすでに完成されたラッパーのイメージがありますが、実際は話を伺うと僕らの知らない引き出しや伸びしろがまだまだあるように思えましたね。
Isaac Kohjiyaさんは「ラップスタア」に出場するちょっと前に「KJ SEASON」というミニアルバムをリリースしたじゃないですか。あの頃って、僕らがやってるポッドキャストが過去一ヤバい時期だったんです。シンプルにものすごくお金がなかった。だから2024年はがんばっていっぱいMVを撮ったんです。弟と2人で、生きるのに必死でした。その時期に「KJ SEASON」に収録された「DREAMIN’ BOI ISSUE」をレンタカーでめちゃくちゃ聴いてたんですよ。で、12月に「KJ SEASON 2」が出ましたよね。僕らがそのアルバムを聴いていたのは、加湿器とハンガーラックを買いに行く途中の車の中だったんです。
──Isaacさんの2024年とKohjiyaさんの活動が重なった?
Isaac そうなんです。僕らも加湿器を買えるくらいまでには、生活水準が上がったんですよ(笑)。「KJ SEASON 2」はめちゃくちゃエモい気持ちで聴いてましたね。あと彼って、英語を話せるわけじゃないけど、ヒップホップで使われてる単語はめっちゃ知ってるじゃないですか。そういうところもすごく好き。曲も聴きやすいし、いい意味でメインストリームとヒップホップの中間にいる気がする。日本のヒップホップがどんどん大きくなるときの導入になれる存在なんじゃないかな。
──なるほど。「Talk 2 Me」の選出理由がわかってきました。
Isaac この「辛いことが辛いままじゃ / ムカつくよだから / 金に換える過去の話」という歌詞にはヒップホップが詰まってると思うし、まんま自分の活動にも当てはまるんですよね。僕らみたいな境遇の子って今もいると思います。だからこそ、僕らは黒人や移民のリプレゼンテーションを自分たちの番組でしっかり伝えることで、そういう子たちが僕らみたいなつらい経験をしなくて済むような社会にしたいっていうのがゴールなんです。
MINORI ……素晴らしいですね。私、今ものすごく感動してます。
<後編に続く>
※記事初出時、リード文の選者の名前に誤りがありました。お詫びして訂正します。
バックナンバー
二木信 @shinfutatsugi
じぶんは、5lack「gambling」、AKLO「221 feat. ZORN」、Watson「阿波弁」、YELLASOMAの「よーいとな」と「いごーよ」などについて語ったり、触れたりしてます
https://t.co/Dz4G9RRwoy