パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024

パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024 (前編)

千葉雄喜、BAD HOP、ACE COOL、VaVa、Hezron、Kvi Baba……2024年のシーンを振り返る

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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BAD HOPは若い世代と上の世代のつなぎ役

Isaac 僕はHezron&VLOT「YASUKE」から、Hezronの「雨が晴れそうだよあと少し、で / まるでSEEDA 空が曇っても晴れる日 / でも、傘で身を隠す なる有名人 / こんなオレもなれる 誰かの夢に」を選びました。

Hezron&VLOT「YASUKE」

──「YASUKE」とはどういう意味なんですか?

Isaac 織田信長に仕えていたと言われている黒人武士・弥助のことですね。

渡辺 Netflixで「YASUKE -ヤスケ-」というアニメが配信されていて、主題歌をサンダーキャットとフライング・ロータスが担当してました。海外のラッパーのリリックにもたまに出てきますよね。

Isaac 日本よりもアメリカで使われるワードかも。この曲が出る前にHezronとミュージックビデオを撮っていて、そのとき「僕らはブラックとして、ヒップホップのビジョンを出していきたいよね」みたいなことを話してたんです。この「YASUKE」はその流れで作ったのかなと思いました。

渡辺 Hezronくんは「ラップスタア」で流れた密着映像でも、お母様と2人で幼少期の話をしていましたよね。

Hezron【地元密着】| RAPSTAR 2024【HOOD STAGE】新曲パフォーマンス披露

Isaac Hezronは普段は明るい、いわゆる陽キャだけど、歌詞は繊細なんです。この曲ではSEEDAさんの「花と雨」を引用しつつ、雨と傘のモチーフで成功への渇望を描写しています。個人的には「こんなオレもなれる 誰かの夢に」というラインがすごく好き。今年は日本でも移民のニュースが話題になって、自分の動画にもたくさん批判コメントが付きました。自分は日本に住む、日本人のブラックです。そういう立場の人がいるってことも多くの人たちに考えてほしかった。そういう意味でも「YASUKE」はすごく自分にフィットしたんです。僕もいつかそういう人たちの夢になれたらいいなって。今一生懸命がんばってるからって。

──IsaacさんがピックアップされたBAD HOP「guidance feat. YZERR」の「大麻吸えないくらいで/ Fuck The Policeなんて歌わねえ / 平和な国で自分で道を選んだくせにくだらねぇ / 黒人達が貧困の中で肌の色で差別されて / 虐げられた歴史とでは比べ物になんねえ」は僕も共感しました。

BAD HOP「guidance feat. YZERR」ミュージックビデオ

Isaac これはもともとビーフのアンサーとして発表された曲だけど、特に「黒人達が貧困の中で肌の色で差別されて / 虐げられた歴史とでは比べ物になんねえ」というラインはすごく重要だと思いました。東京ドーム公演を成功させた人がこれを言ってくれたことに、僕は感動して泣いてしまったんですよ。

渡辺 YZERRくんはアトランタに行ったときにいろんな光景を目の当たりにして、このラインにつながったのかも。

Isaac 僕はOG(オリジナルギャングスタの略。元祖、本場の意味。先輩、先達といった意味でも使われる)をリスペクトしてるけど、共感はできない。そんな僕が好きなヒップホップのベースとなってるメッセージやバックグラウンドを、BAD HOPは体現している気がして。日本に住んでいて、日本人だという自覚があるからこそ、あえてこのラインを選びました。

渡辺 BAD HOPの東京ドーム公演、すごかったですよね。普通にチケットを買って夫婦で行ってきたんですけど、実は私、東京ドームでコンサートを観るのは初めてで(笑)。それくらいこれまで縁がなかった場所でした。いまや日本のヒップホップでも幕張メッセ規模でフェスをすることがスタンダードになっていて、数万人のお客さんが集まってるけど、それってフェスとして数十組のアーティストを観るために集まっている。でもあの日はBAD HOPだけを観るために3万人が集まっていた。だから、解散を惜しむ客席のエネルギーがすごかった。私が座った席の後ろには学生さんみたいな若い男の子が座っていて、マジで全曲一緒に歌ってたんですよ。

──「BAD HOP(THE FINAL edition)」も素晴らしいアルバムでしたよね。

渡辺 うん。Bonberoくんやeyedenくんみたいな若手から、ZeebraさんやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのようなベテランたちも参加したアルバムって、ほかの誰かでも作れるかもしれないけど、それを東京ドームを満員にしたBAD HOPがやったことに意味がある。この「guidance」に関してはIsaacくんが言ったように、ヒップホップの成り立ちや根底にあるアメリカの黒人たちの歴史を自分たちが発信するんだっていう、YZERRくんの責任感というか、使命感みたいなものを感じますよね。

Isaac 最近のヒップホップしか知らない若い人と、僕らよりも上の世代とのつなぎ役なのかなって思います。

ついに日本のポップスにこのテーマが出てきた

二木 Isaacさんが「自分は日本に住む、日本人のブラックです。そういう立場の人がいるってことも多くの人たちに考えてほしかった」と話されましたが、OUS BRIAN「JUMP FROM GHETTO」はまさにそのことについて考えるきっかけになる1曲だと思います。「職質ただの小細工そんなポリスにファッキュー / 見た目で決めてる時点で終わりだろさっべつー / まあいいよ俺ちゃん売れちゃんだもんねサンキュー」というラインは、警察のレイシャルプロファイリングへの批判と応答ですよね。僕は彼について詳しく知らないんですけど、彼のユーモアのセンスが大好きで。

OUS BRIAN「JUMP FROM GHETTO」ミュージックビデオ

Isaac あまり情報がないラッパーですよね。

二木 そうなんです。「ポリスにファッキュー」と言ったあとに「サンキュー」と韻を踏んで落とすのが秀逸ですし、「さっべつー」の茶化した感じのラップのデリバリー、発音がユーモラスで。その発音だけで彼がいろんな経験をしてきたことを聴き手に想像させます。

Isaac リズム感が超独特ですよね。たぶんまだ年齢も若いはず。同じ流れかわからないけど(笑)、僕はKvi Babaの「Friends, Family & God (feat. G-k.i.d & KEIJU)」の「ありがとう神様 / Friends&Family」を挙げたいです。「ついに日本のポップスにクリスチャン的な神様をテーマにした曲が出てきた」と思ったんです。ブラックカルチャーにおいて、教会ってめちゃくちゃ重要で。子供の頃に教会でゴスペルを歌ったり、ピアノを習ったりする中で、リズム感や音楽性を身に付けたりするんですね。アメリカのメインストリームでヒップホップやR&Bが受け入れられてるのって、ほとんどの人が子供の頃に教会に通った経験があるからだと思うんですよ。ギャングですら歌詞に“God”が出てくるし。僕が聴いてきた限り、日本のポップスでクリスチャン的な神様が出てくる曲は「Friends, Family & God」が初めてだった気がします。たぶんKvi Babaさんはクリスチャンだと思う。十字架のタトゥーも入ってるし。僕も中学の途中まで毎週日曜日に教会に行ってたんです。途中から部活が忙しくなって、行けなくなってきちゃったんですけど。なんか「教会に行ってる」って言いづらい雰囲気があって。

Kvi Baba「Friends, Family & God feat. G-k.i.d & KEIJU」ミュージックビデオ

MINORI それすごくわかります。私もクリスチャン系の学校に通ってたので、幼稚園の頃から16歳くらいまで毎週日曜日に教会に行ってました。実際にクリスチャンだったわけではなかったけど、友達に「クリスチャンなの?」って聞かれると、なぜかちょっと言葉に詰まることがあったんですよね。だからIsaacさんのその感覚、めちゃくちゃ共感できます。

──日本だとすべての宗教が一緒くたにタブー視されているところがありますよね。

渡辺 そうなってしまったのは、日本の社会とか報道に責任がある気がしますけどね。この曲にはG-k.i.dくんも参加してるけど、そういえばIsaacくんはドラマ「警視庁麻薬取締課 MOGURA」で共演してるんだよね?

Isaac 現場でG-k.i.dさんから話しかけていただいたんですよ! 

二木 話しぶりから愛が伝わってきます(笑)。

Isaac 本当にリスペクトしてるんです。同じ現場というだけで緊張してたのに、まさか話しかけていただけると思ってなくて。僕のYouTubeを観ていただいたようで、「KOLEを出してくれてありがとう」とおっしゃってくれました。KOLEはBAD HOPとアトランタで仲よくなって、日本へ引っ越してきた白人と日本人のハーフのラッパーなんですね。G-k.i.dさんはその回を観てくれていたらしくて。それがうれしすぎて、「ありが%$※%#¥*……」みたく自分でも何言ってるかわかんないくらい早口になっちゃってました(笑)。印象悪くなかったかな……2024年で一番緊張した瞬間でした。

<中編に続く>

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読者の反応

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二木信 @shinfutatsugi

田島ハルコとOUS BRIANの曲とリリックの素晴らしさについて語りました!!今年は前編中編後編という3部作とのこと。ぜひ!

<パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024 (前編)>
https://t.co/icksMPU3hR

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