ももいろクローバーZと共演するマーティ・フリードマン。(撮影:増田慶)

2010年代のアイドルシーン Vol.11 [バックナンバー]

海外から見た日本のアイドル(後編) ~ マーティ・フリードマンが掘り下げる「日本アイドルの特殊性」

「言葉の壁を越えてみたら、宝石まみれだった」

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2010年代のアイドルシーンを複数の記事で多角的に掘り下げていく本連載。この記事では前回に引き続き、2010年代においてBABYMETALを筆頭に日本のアイドルと海外のリスナーの距離が縮まったことを背景に、「日本のアイドルは海外からどのように見られているのか?」というテーマを掘り下げる。前編では海外のアイドルファンおよび関係者に日本のアイドルに魅了された理由を話してもらったが、後編では世界的に活躍するギタリストであり、日本のアイドル楽曲について造詣の深いマーティ・フリードマンにインタビュー。K-POPなどと比べると、まだ世界的にガラパゴス状態とも言える日本のアイドル文化の特殊性について語ってもらった。

取材・/ 小野田衛

なぜ日本のアイドルはK-POPのように世界的なブームにならないのか?

日本のアイドルは音楽的にどのような特徴があるのか──このテーマを語るうえで、もっとも適任なのはマーティ・フリードマンを置いてほかにはいないだろう。Megadethのギタリストとして一世を風靡し、その後もヘヴィメタルの枠にとらわれずマルチに活躍し続ける世界のトップアーティストである。演歌に出会ったことで日本の音楽に目覚めたというマーティは、日本に移住して数多くの仕事をこなす中でアイドルという音楽ジャンルの持つ特異性に気付いたという。

なぜ日本のアイドルはK-POPのように世界的なブームにならないのか? その中でなぜBABYMETALが大ブレイクしたのか? ともすると「ガラパゴス」「時代遅れ」などと揶揄される日本のアイドルだが、専門家の目にはどう映っているのか? 楽曲構造、アレンジ、パフォーマンス、プロモーション手法で感じる独自性とは……? 聞きたいことは山ほどあったが、まずは単刀直入に「日本アイドルの特徴」という観点から語ってもらうことにした。

マーティ・フリードマン

マーティ・フリードマン

「ひと口にアイドルソングと言っても、いろんなスタイルがありますよね。だけどそのうえで共通点を挙げるとすれば、覚えやすい、歌いやすい、そしてハッピーになるメロディがあるということ。トップレベルのソングライターが作っているような、みんなの心をつかむメロディセンスが特徴じゃないかと思っています。では、洋楽のポップスと比べてどこが大きく違うのか? それはメロディがしっかり決まっている点。つまりアドリブ性が少ないんです。キャッチーだし、ちょっとベタなメロディが多い。これは今に限った話ではなく、昔から日本の歌謡曲に共通するポイントでしょうね」

アイドル音楽の世界的トレンドとして、現在、K-POPが隆盛を極めているのはご存知の通り。K-POPと比較することで、日本のアイドルソングが持つ特殊性がより浮き彫りになるという面もあるかもしれない。マーティは「個人的には完全にJ-POPや日本のアイドル派」と前置きしつつも、K-POPが世界を制した理由を次のように定義している。

① 言葉の問題……最初から世界市場を意識している。英語が堪能なメンバーも多い。
② ダンスを主軸とした楽曲構造……どの国の人も真似したくなる振り付けとテクニック。

そもそも日本よりも人口が少ない韓国では、アイドルソングも最初から海外を意識して制作されているという実情がある。逆に国内マーケットの大きい日本の場合、歌詞はもちろんのこと、メロディやリズムなどの楽曲構造もドメスティックな要素によって成立させることが可能なのだ。何もこれは「だから日本のアイドルはダメなんだ」という話ではない。むしろ独特の進化形態をたどっているからこそ、ユニークなサウンドとして世界から注目されるという側面もあることを忘れてはいけない。

「レディー・ガガがBABYMETALをアメリカツアーの前座に抜擢したじゃないですか(参照:ガガ、BABYMETALに大興奮でキツネサイン)。その気持ち、非常によくわかるんです。僕自身もJ-POPの名曲をメタル流にリメイクしたアルバム『TOKYO JUKEBOX』を発表していますけど、これも結局は『もっと日本の音楽の面白さを世界に知ってもらいたい』という思いから。レディー・ガガだけじゃなく、ミュージシャンって“変態”なんですよ。すべてを犠牲にしてまで、『面白いサウンドはないか?』って常にアンテナを張っている音楽オタク。だから一般人が聴かないようなほかの国の音楽も、ミュージシャンはどんどん聴いていく。そういう変態……というか音楽的にマニアックなオタクが広めたくなる魅力があるんですよね、日本のアイドルの曲には」

1曲の中に詰められた情報量の多さ

ここからマーティは、日本のアイドル音楽の特殊性についてさまざまな角度から切り込んでいった。まず作曲やプロデュースの面では、“特別な存在”として2人の名前を列挙。つんく♂と前山田健一(ヒャダイン)である。

「僕が日本のアイドルに目覚めたのは、つんく♂さんの存在が大きかったんですよ。なぜハマったかというと、とにかくプロデュースのセンスが楽しすぎた。それまで聴いたことがない音楽だったんですよね。ボーカルの合いの手とかを含め、次から次へと面白い要素が入ってくる。僕から言わせると、ヒャダインさんの音楽というのは、つんく♂さんにステロイドを打ったようなもの。でんぱ組.incやももクロ(ももいろクローバーZ)を聴いたときは『何これ!?』という、つんく♂さんと同じような楽しさや驚き、それに未来的な感覚があった。ヒャダインさんの腕は本当に見事。宝石のようなプロデューサーですね。次から次にセンスが抜群のものを出してくるから、全然飽きないです」

つんく♂

つんく♂

前山田健一(ヒャダイン)

前山田健一(ヒャダイン)

おそらくここで指摘されているのは、1曲の中に詰められた情報量が多いという両者の特徴だろう。一般的にヒットチャートに乗るようなポップソングは、余計な贅肉を削ぎ落してシンプルに仕上げたほうがキャッチーに届きやすいとされている。事実、マーティ自身も「音楽的な情報量が多すぎるのは決して褒められることではない」としつつ、「でも、なぜかつんく♂さんやヒャダインさんの異常な情報量はたまらなく素晴らしいと感じてしまうんですよ」と首をひねった。

「改めて松浦亜弥さんの『Yeah! めっちゃホリディ』を聴いてほしいんです。メロディ自体はすごくシンプルじゃないですか。その強くシンプルなメロディを、どうやってしつこく人に聴かせるか……ポイントはそこなんです。僕はつんく♂さんとは一緒に仕事をしたことはないけど、ヒャダインさんとはももクロの曲を作ったことがありまして(2012年3月発売のシングル「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」。参照:ももいろクローバーZ「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」インタビュー )。とにかく音の重ね方がエクストリームなんですね。100人の合唱団を入れるとか、本当にエクストリームな考え方。シンプルなメロディをエクストリームで豪華な解釈で磨くというアプローチ。僕は大好きです」

ともすると“デコレーション過多”とも受け止められない大胆なアレンジは、つんく♂や前山田健一の楽曲にインパクトを与えている。そのさじ加減が絶妙なのだとマーティは手放しで絶賛する。

「日本のアイドルはダンスミュージックやメタル、ジャズの解釈も取り入れるし、和の雰囲気や中華のモチーフの曲もある。BEYOOOOONDSの『激辛LOVE』という曲は、めちゃくちゃ中国モチーフなんですね。だけどガチの中国音楽かというと、それは違う。あくまでも遊び心として中華のエッセンスを入れているわけで、冷静に分析すれば普通のポップなストラクチャーで成り立っているわけだから。いい悪いは置いておいて、K-POPにはそういう音楽的な遊びがあまりないですね」

アレンジの話が出た以上、やはり世界的なギタリストであるマーティにはギターサウンドについても触れてもらいたいところ。折しも最近、SNS上では「サブスクで音楽に触れる若者はギターソロを飛ばす」という話題が盛り上がり、マーティも議論に“参戦”した(参照:「若者がギターソロ飛ばす問題」が提示するものとは?)。確かに今どきディストーションの効いたギターソロをお約束のように挟み込んでくる日本のアイドルソングは、世界基準からすると特殊なのかもしれない。

「僕はギタリストなので、曲の中でギターソロを弾くのは大好きですよ。頼まれたら喜んで弾きます。だけど、つまらないギターソロは大嫌い。ありがちなギターソロを入れるくらいだったら、ほかの要素を入れてもらいたい。ただ日本のアイドル曲って、基本的にはギターソロが合っていますよ。日本人は何百年も前から三味線を弾いたり聴いたりしてきたでしょ? 遺伝子的に弦楽器の音を聴くと落ち着くようになっていると思うんです。でも、アメリカって歴史が短いじゃん。ギターなんてジミヘン、もしくはヴァン・ヘイレンあたりで終わったと思っている。日本だと曲の質が優先されるから、ギターの音を聴いて古臭いなんて意識にはならないはずです」

アレンジ面に続き、楽曲構造についてもマーティは舌鋒鋭く持論を展開する。アイドルに限らずJ-POPと呼ばれるジャンルは「Aメロ」「Bメロ」「サビ」「落ちサビ」など展開がはっきりしており、コード進行も凝ったものが多い。2~4つ程度の循環コードや、1つのリフで延々と展開されることが多いR&B的アプローチのK-POPと比べて大きな違いとなっている。

「アイドルの世界というのは、結局、聴くお客さんのことを第一に考えている。日本のアイドルファンは年齢層が幅広いけど、本当のミュージックファンが多いと僕は考えています。つまりアイドルのリスナーというのは、音楽をたくさん聴いている層なんですよ。だからこそ、Aメロ、Bメロ、サビというストラクチャーを心の中で期待しているんだと思う。一方、K-POPはダンスミュージックの要素が強いから、『踊れる曲かどうか?』『どんな振り付けができるか?』ということが最優先。求めているものが違うんです。人気がある日本のアイドルで、『いい持ち曲がない』なんてグループは聞いたことがないですから。『めちゃくちゃかわいいんだけど、曲はよくないね』ということはほぼない。嵐だって信じられないほどいい曲を次から次に出していましたし。とにかく楽曲が最優先で、ファンもソング自体を楽しんでる。逆に言うと、日本のアイドルファンはK-POPファンほど踊りに興味はないのかもしれないね」

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