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細野ゼミ 9コマ目(前編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

シンガーソングライターはいつ生まれたのか? その歴史とともに定義を考える

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活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。

ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。毎回さまざまなジャンルについてそれぞれの見解を交えながら語っている。昨年秋よりコロナ禍で休講していた本ゼミだが、半年ぶりに復活。第9回では「シンガーソングライター」について考えていく。全3回にわたる記事の前編では、“シンガーソングライターの誕生”を起点に議論が繰り広げられた。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

シンガーソングライターが生まれた背景

──ひさびさの細野ゼミ開講ですね。今回のテーマは“シンガーソングライター”です。広義の意味でいうと、ハマさん以外のお二人はご自身で曲を作って歌われているということで、シンガーソングライターということになるんですかね。

ハマ・オカモト お二人にはその側面があると思います。そもそもシンガーソングライターの草分けって誰になるんですか?

細野晴臣 僕はinterfmで毎週「Daisy Holiday!」というラジオ番組をやっているんだけど、月1で特定のジャンルを特集する「手作りデイジー」という企画があるんだよ。先日そこで1960年代から70年代あたりの音楽を特集したんだけど、要するにはっぴいえんどを中心に、当時のミュージシャンがどういう音楽を聴いてきたかっていうのをやったわけ。でも、いざ手を付けたら終わらなくなっちゃった。とにかく密度がすごいじゃない。60年代初頭からスタートして、69年あたりからやっとLittle Featとか、みんなが知ってるバンドが出てくる。で、ちょうどその頃、バンドよりもシンガーソングライターの人気が高まってくるんだよね。

──60年代後半に“シンガーソングライター”が台頭してきたということですか?

細野 そう。シンガーソングライターは、フォークシンガーとはまた違うからね。

安部勇磨 ボブ・ディランとかは“シンガーソングライター”というより、“フォークシンガー”ですか?

細野 ああいう人は別格(笑)。

ハマ いちジャンルだよね(笑)。

安部 なるほど。

──シンガーソングライターって、そもそもなんなんですかね?

細野 もともとは自分で曲を作って歌うのがシンガーソングライターなんだけど、そんな人はいっぱいいたから。ただブームとして67、68年くらいに一番ヒットしたのはジェイムス・テイラーかもしれない。あと、代表的なところでいえばジャクソン・ブラウンとか。好きなシンガーソングライターはいっぱいいるけど、今の若い人たちに言っても知らないと思うんだよね。あとは、数枚アルバムを出している中で、1、2枚がすごくよかったり。そういう人も多いね。

ハマ ちなみにキャロル・キングはもともとバンド(The City)出身ですよね?

細野 キャロル・キングは特殊だよね。彼女は14、15歳の頃から作曲を始めて、いわゆるブリル・ビルディング(ニューヨークのマンハッタンにあるオフィスビル。戦前からたくさんの音楽出版社やスタジオなどが入居し、ヒット曲を数多く生み出した)系の音楽出版社に勤めてプロのソングライターとして活動していた。そこにはすごい才能がいっぱい集まっていて、作家チームがいてそういう連中が世の中のヒット曲を全部作ってたの。中でも彼女はすごく才能があったんで、ジェリー・ゴフィンという人とコンビを組んでのちに夫婦になるんだけど、作曲家として大ヒット曲をたくさん残してる。2人が作った曲では、日本ではリトル・エヴァの「The Loco-Motion」が一番有名なのかな。あとはジェイムス・テイラーも歌った「You've Got a Friend」。あの曲が大ヒットしたことで一躍名前が知られることになった。

ハマ それが年代的にいうと、70年代初頭くらいですか?

細野 そう。だから69、70年あたりってすごい時代なんだよね。

ハマ 激動だったでしょうね。全ジャンルが。

──シンガーソングライターと呼ばれる人たちが出てきたのには、どのような背景があったんですか?

細野 そういう作家が作るシーンに対抗する考えがあったのか、“自分で作って自分で歌う”っていう……デザインして作り上げていくポップミュージックじゃないものっていうか。新しいスタイルができたっていうそれだけのことなのかなって。つまり「シンガーであり、ソングライターだ」って言いたかったんじゃないかな。

安部 カウンター的な側面もあったのかもしれませんね。

細野 その前の60年代中期から67年くらいまでは、いわゆるフォークロックの時代だったんだよね。60年代の中盤からニューヨークでフォークブームがあって、そのときはみんなギター1本。そういう人たちはみんなフォークシンガーっていうんだよね。でも70年代前後に出てきた人たちはみんなリズム隊を持っているわけだよ。その音がロックにはなってるんだけど、サウンドよりも歌詞が前面に出てきたりなんか違う感じでね。ちなみにその頃は、The Byrdsが出てきて一世風靡して、それがThe Beatlesにも影響してサイケが広がっていった。最初のサイケと呼ばれているのはThe Byrdsが作った「霧の8マイル(Eight Miles High)」という曲なんだ。

ハマ The Byrdsがサイケの先駆けだったんですね。

細野 ほかにもガレージっぽいバンドはいっぱいいたけど。その前はみんなサーフィンバンドをやっていた。それがみんなサイケに行っちゃって。サイケの特徴はエフェクティブなギターとライブの照明、あとは歌詞だね。サイケは歌詞が重要だった。

──サイケにとって歌詞が重要というのは、少し意外な気がします。

細野 サーフィンバンドは基本的にインストだったから、みんな言葉ではなく音で世界観を表現していたんだ。でもThe Beach Boysあたりから歌詞が大事になってきて。Jan and Deanというサーフ系デュオのプロデューサーだったテリー・メルチャーがThe Byrdsを手がけることになるんだけど、彼が活動していた西海岸のシーンがサーフィン一辺倒だったのに対して、東海岸のシーンからはボブ・ディランとかPeter, Paul and Maryとか、ニューヨークを中心にフォークシンガーと呼ばれる人たちが出てきて。そこで「おや?」と思ったんじゃないかな。

──The Byrdsもディランの「Mr. Tambourine Man」をカバーしていますね。

細野 当時はボブ・ディランよりもThe Byrdsのほうが有名だった。だって僕はディランを作曲家だと思っていたから。

ハマ安部 へえ!

細野 ヒット曲のクレジットを見たら、どれもボブ・ディランって書いてある(笑)。「すごい作曲家だな」と思って。

ハマ キャリアの初期はシンガーよりも、ソングライターとして稼いでいたんですかね?

細野 アルバート・グロスマンっていうやり手のマネージャーがいたんだよ。彼がPeter, Paul and Maryを売り出してディランの曲を歌わせたりして、そういうちょっとしたプランを実行していった。それでディランの名前が広がっていったんだと思う。

ハマ いよいよシンガーとして知られることになるわけですね。

細野 だって「風に吹かれて」とかPeter, Paul and Maryのカバーを聴くと、すごく洗練されていて「なんだ、このいい曲は!」って感じだけど、ディランの原曲を聴くとすごいからね。「なんという朴訥な歌なんだろう」って思う。いずれにしても、 「風に吹かれて」はいろんな人がカバーした。それでディランが有名になって。どのカバーもヒットしちゃうから。

ハマ 当時はヒット曲をみんなすぐにカバーするという時代ですよね。

細野 そう。“ヒット曲=いい曲”という時代だったんだよね。

ハマ 下手したら原曲が世に出た数カ月後にはカバーが発売されたり。

──あとから聴いたら、どっちが原曲かわからないみたいな。

ハマ そうそう。「オリジナルがわからない」ってなる(笑)。

細野 当時はニューヨークとカリフォルニアの音楽シーンは違うモードだったんだけど、フォークブームの影響でだんだん一緒になってきた。でも元はというとThe Byrdsもアメリカの各地から来たフォークシンガーの集まりなんだよね(笑)。

ハマ へえ!

細野 でもテリー・メルチャーは彼らに演奏をさせなかった。The Wrecking Crew(1960年代から70年代にかけ、ロサンゼルスで活動した敏腕スタジオミュージシャンの通称)に任せて。メンバーはそれが嫌だったんだよね。それでデヴィッド・クロスビーが1人で歌い始めたりして。

ハマ 自我が爆発したんですね。

細野 うん。そういう流れがあってフォークロックと呼ばれるものが世に出てきた。それまではギター1本で歌っていたのが、フォークをバンドスタイルで演奏するという。

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シンガーソングライターのイメージって?

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🟢ハマ・オカモト🟢

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