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ナタリー15周年記念インタビュー 第3回 [バックナンバー]

山口一郎(サカナクション)×カンタ(水溜りボンド)が見つめるインターネットシーンの未来

音楽家が一番YouTubeを使えていない? ミュージシャンとYouTuberが新たなコラボの可能性探る

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循環しながらも血を濃くしていく

山口 サカナクションもナタリーも今年で15周年だけど、これから15年先って全然違う世界になるわけじゃないですか。音楽もテクノロジーの進化によって新しいジャンルが生まれてきたわけだし、最近だとDTMの進化でソロミュージシャンが圧倒的に増えていて、顔を出さないアーティストも出てきた。カンタくんもYouTuberとして、未来に対しての希望と不安があると思うんだけど、そのあたりはどう考えているの?

カンタ 15年かあ……昔は長く続けていくことについてあまり意識的ではなかったんですけど、水溜りボンドも気付けば8年続いていて、少しずつそういうことは考えるようになりましたね。感覚が擦れてきちゃうって言うとネガティブに聞こえますけど、ファンの人も1回見た企画に対して耐性が付いていくし、歴史を重ねることで試される場面が増えてきているのかなとは思います。それにYouTuberの層が厚くなってきている分、新人の勢いみたいなものも感じるんですよ。今の子たちは僕らの動画を観て育っているので、「ドラゴンボール」で言うところの悟飯とか進化系が出てきた感じというか。

カンタ

カンタ

山口 カンタくんたちが若い世代のリファレンスになっているということだよね。

カンタ そうなんですよ。リファレンスがあるから、戦い方が上手なんですよね。僕らは開拓した側なので、周りと同じことをやるわけにはいかない。だからこそ自分たちらしさを突き詰めるしかないんですけど、下の世代は自分たちらしさを持ちつつ、いろんな人のいいところを参考にしている感じがあって。あとSNSの使い方も若い人は異常にうまいと思います。それもあって不安になっていた時期もありました。でも、これはこういう対談だから言うわけじゃなくて、先日サカナクションのライブを観させていただいたときに、新しい表現を追い求めているけど芯にある“サカナクションらしさ”は変わってないなと思ったんですよ。僕がトミーとYouTubeを始めたきっかけは面白いことをやりたいからであって再生数云々ではなかったはずなんだけど、すごい再生数が出ると「再生数が取れないものは面白くない」みたいな感覚に陥っていく。でもサカナクションのライブを観て、本質的に変わっちゃいけない部分はしっかり持たなきゃなと思ったんです。

山口 スポーツがうらやましく感じるときがあるんだよね。僕は野球が好きなんだけど、毎年順位が出るわけで。優勝する年もあれば最下位になる年もあるけど、どれだけ結果が悪くても好きな球団を応援しちゃってるんだよね。つまりファンというよりはサポーター。エンタテインメントは水物だから、流行りがすぎたらそのアーティストの時代が終わっていくようなムードがあった。でも今の時代はインターネットやサブスクリプションがあるわけだから、それらをうまく活用して、いいときも悪いときもリスペクトしてもらえるような存在を目指す、血を濃くしていくことがこれからのエンタテインメントには必要だと思う。ミュージシャンのファンクラブは普通、ライブがないと会員は減ってしまう。みんなチケットを取るために入会するからね。でも僕らはコロナ禍で有観客ライブを2年間やらなかったけど、ファンクラブの会員は結果的に増えていて。それはSNSで活動したり、YouTubeでライブ映像を無料配信したり、テレビでコロナ禍での活動について一生懸命話した結果だと思う。もちろん離れていった人もいたけど、循環しながらも血を濃くしていくこと、自分たちの武器を時代のツールに合わせて増やしていくことが大事なんじゃないかな。あとコロナ禍では、YouTuberが本当にうらやましかった。

山口一郎

山口一郎

カンタ それはなんでですか?

山口 みんなが家にいる状況だったし、YouTubeを観る機会がグッと増えたと思っていて。僕も実際あのタイミングでたくさんのYouTubeチャンネルを観たんだけど、その昔THE BLUE HEARTSや尾崎豊が救ってきたような層を、今はYouTuberが救っているんだなと感じた。音楽が救える部分は全然違うところになってきたなって。それをちゃんと理解したうえで音楽を作っていかないとダメだと思ったし、はっぴいえんどやユーミン(松任谷由実)さん、松本隆さんなどから長く続いてきた音楽の歴史を途絶えさせちゃダメだとも思った。それは絶対に自分たちの世代は死守しなきゃいけないなと。

ビジネスよりもリスペクト

カンタ 山口さんはキャッチーで売れ線の音楽を意識的に作ることも可能だと思うんですよ。さっきの血を濃くする話とは逆行するかもしれないけど、そういうことについて考えたことはないですか? YouTuberの場合、自分たちらしさは置いておいて数字が取れそうな企画があるんですよ。そこに対して迷う瞬間もあって。

山口 例えばめちゃくちゃデカいプールで泳ぐとなると、端から端まで使わなきゃとか、たくさんの人を呼ぼうみたいな発想になるけど、僕は小さいプールで十分だと思っちゃう。だって上を求めると際限がないから。大きい家に住んで高級車に乗ってみたいな生活を送りたいならがんばって広げていくべきだけど、自分の好きなことをやって、それを少しずつでも理解してもらうだけなら多くを求めなくてもいい。僕だったら音楽史にどうしたら爪痕を残せるかを考えればいいだけで、無理して活動の規模を広げる必要はないんだよね。さっきも言ったけど、広げるんじゃなくて濃くする必要がある。瞬間的に評価されるものよりも、10年後に評価されるものを作っておくほうが建設的だと思う。そういう考えで僕らは初めて「NHK紅白歌合戦」に出場してから、ある種ドロップアウトしたことで今があって。

カンタ ドロップアウト?

山口 テレビに出続けて知られ続けること、街を歩いて指をさされること、そういう音楽の発信の仕方をやめようと思った。クラスの10、20人に知られることを目指してがんばるのはやめよう、1人か2人に思いっきり好きになってもらえるようなスタイルでやっていこうと切り換えたんだよね。そこにちょうどインターネットの時代が来たから、僕らは一気にそっち側にシフトすることができた。たぶんタイミングが違ったら苦しい状況になっていたと思うけどね。それにコロナ禍もあってオンラインライブの面白さみたいなものがわかったから、またアクセルを踏めるんじゃないかと思っている。だから時代に合わせて柔軟に変化すること、莫大なものを求めないことは大事かな。

カンタ なるほど。

山口 僕にとってはビジネスよりもリスペクトされるほうが大事なんだよね。もちろん活動の規模を広げられる切符を持っているなら行使してもいいと思うけど、どちらに進んでも苦しい道なのは変わらないんじゃないかな。せっかく苦しい思いをするなら、自分の好きなことで苦しむほうがいいと思うんだよね。僕は今コンビニで好きなものが買えるし、同年代の人と同等か少し上くらいの家にも住める。普通でいられるというか、そうすることでファンの気持ちを代弁できるような音楽が作れるような気がするんだよ。そりゃあもちろん宝くじが落ちていたら拾うけどね(笑)。

左から山口一郎、カンタ。

左から山口一郎、カンタ。

カンタ (笑)。山口さんからそういう話を聞くと救われます。

山口 いいときも悪いときも応援してもらえるってことが大事なんじゃないかな。

カンタ 売れている音楽=いい音楽ってことではないですもんね。

山口 「新宝島」もMAD動画の存在であとからブレイクしたんだけど、リリース当初はオリコン8位くらいで全然売れなかったし。

カンタ そう考えるとサカナクションって不思議なバンドですよね。

山口 そう、あとから売れたりするんだよね。その瞬間瞬間で真剣に作った曲がすぐにヒットしなくても、サブスクリプションやYouTubeがあるから、あとで評価してもらえる可能性があって。だから自分たちの古い楽曲を今どうやって聴いてもらうかというプロモーションと、新曲をどうやって作っていったかを伝えるプロモーションの2つが大事だと思ってる。リリースタイミングで無駄に飛び出して行って「CDを買ってください」と言ったり、テレビ番組に出まくって「新曲が出ました」とアピールする必要はないんだよね。

世界を変えられる音楽も伝わらなきゃ意味がない

山口 そのほかのインターネット上での展開で言うと、僕のInstagramアカウントはレーベルのほうでホワイトリスト登録されていて、自分たちの音楽を流す分にはBANされないんです。だからインスタライブで旧譜の全曲解説みたいな企画をバッジ機能を使ってやりつつ、あとからサブスクで聴いてもらうみたいな新しいビジネスもできる。例えばカンタくんたちのYouTubeチャンネルをサカナクションの楽曲使用のホワイトリスト扱いにして、その代わり週に1回はサカナクションの音楽を流してくださいね、みたいな専属契約もできるかも。

山口一郎

山口一郎

カンタ 面白いですね。そのチャンネルの主題歌みたいな(笑)。

山口 そうそう。そういうこともできるんだけど、あまり知られていない。今の時代なりの抜け道を探って、みんなにいいなと思ってもらわないと次に進んでいかないんだよね。

カンタ 今日お話させていただいている中でも山口さんからどんどんアイデアが出ますけど、いつも意識的に考えているんですか?

山口 僕は音楽を作るのが仕事だけど、それを伝えるのも仕事なんだよね。例えば世界を変えられる1曲を僕が作ったとするじゃない? この瞬間に戦争を終わらせられる曲を作れたとしても、それが伝えられなかったら意味がなくて。伝え方というのはその時代ごとに進化してるわけで。僕はアウトプットを知らずに音楽は作れないし、こういう時代だからこそみんな考えるべきだと思う。

カンタ アーティストさんによっては音楽だけに集中する人もいますよね?

山口 僕の考え方ではそれは怠慢だと思う。1日は24時間だけど、音楽だけ24時間作ってる人はいないから。

カンタ (笑)。

山口 ミュージシャンは特別なんかじゃないし、音楽で食べていこうなんて考えるやつにろくな人間はいないよ(笑)。だから真面目なことを言うと、アウトプットまでを考えることは必要だし、それをいろんなミュージシャンが怠ってきたから音楽シーンはこういう状況にあるんだと思う。僕らはプロデューサーや編曲家を入れずに全部メンバー5人でやっているから、アウトプットまで考えるムードがバンド全体に自然とあるのかもしれない。

カンタ チーム力の時代になってきてますもんね。

山口 でも組織が大きすぎるとネガティブリサーチがあって、スピード感を持ってプロジェクトを進めることができなかったりする。僕らの場合、そんなに大きい事務所じゃないし、レーベルのビクターとも付き合いが長いから、「これ明日やろう」と言ったら本当に動けちゃったりする。そういうフットワークの軽さはあるかもしれない。

カンタ 山口さんは音楽を始めたての頃から、音楽史に爪痕を残してやるって考えていたんですか?

カンタ

カンタ

山口 僕は自分たちが作る音楽が日本一だと思っていたんだよ。けど地元の北海道でアルバムを2枚作っても全然売れなくて、「これは東京に行って耳の肥えた人たちに聴いてもらわないとダメだ!」と思って東京に行ったら、そっちのほうがミーハーだった(笑)。

カンタ (笑)。 

山口 パイは多いけど、その分ミーハーな人も圧倒的に多かった。だから他人に受け入れられるということは、まず自分たちが避けてきたものを理解しなきゃいけないと気付いた。そこからは好きじゃないものの中から好きなものを探す作業をやっていたんだよね。そうすると好き嫌いがハッキリしてくるというか、趣味趣向じゃなくて考え方の違いというか「そんなやり方はないだろ」「それは音楽を利用してるだけだ」とか、そういう感情が芽生えてきた結果、僕は音楽シーンにおいては過激派になったのかもしれない。別に敵を増やしたいわけじゃないんだけどね(笑)。

ミュージシャンとYouTuber、新たなコラボレーションの可能性

山口 YouTubeはコラボ文化があるけど、サカナクションと水溜りボンドがコラボする場合、今のところ僕がカンタくんのチャンネルに行ったり、カンタくんに僕の番組に来てもらうってとことまでしかないじゃない? そうじゃなくて、クリエイションでコラボできるんじゃないかなと思っているんだよね。さっき話に出たホワイトリストを使ったり。そしたら専属契約じゃないけど、「あのYouTuber、〇〇ってバンドと契約したんだぜ」みたいなことが広がっていくよね。

カンタ めちゃくちゃ面白いですね。

山口 僕らからするとカンタくんの動画の中でサカナクションの曲が1回流れて、その人たちがサブスクで聴いてみようかなと思ってくれるだけでいいわけよ。それでお金が欲しいとかも思わないし。

カンタ 僕らでよければぜひコラボしたいです。水溜りボンドのエンディング曲がサカナクションだったら最高です。

山口 きっとカンタくんのほうがいいアイデアが出てくると思うから、今度ごはんでも食べながら話そうよ。さっき15年後の話をしたけどさ、数年後にはきっとそういうコラボが広がっていると思っていて。それを見越して今何をするのか、正しいコラボの方法を一緒に見つけられたらいいよね。

左から山口一郎、カンタ。

左から山口一郎、カンタ。

山口一郎(ヤマグチイチロウ)

2005年に北海道・札幌で結成された5人組バンド・サカナクションのボーカル&ギター。2013年3月に発表した6枚目のアルバム「sakanaction」が、バンド史上初のオリコンCDアルバム週間ランキング1位を記録。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に出場を果たした。2015年8月にはこれまでに発表したシングルのカップリング曲や、さまざまなアーティストによるリミックス音源をまとめた作品「懐かしい月は新しい月~Coupling & Remix works~」をリリース。2015年公開の映画「バクマン。」では主題歌「新宝島」を書き下ろしたほか、初の劇伴にも挑戦。同作の劇伴で「第39回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2021年10月にアルバム2作にわたる大型プロジェクト「アダプト」「アプライ」の始動をアナウンス。2022年3月にニューアルバム「アダプト」を発表し、6月からは「アダプト」最終章となる全国ホールツアー「SAKANAQUARIUM アダプト NAKED」を開催する。

<衣装クレジット>
[スタイリスト]三田真一(KiKi inc.)
[ヘアメイク]根本亜沙美
ジャケット、パンツ:Graphpaper / シャツ、シューズ 、メガネ:スタイリスト私物
問い合わせ先:Graphpaper(03-6418-9402)

山口 一郎 (@SAKANAICHIRO) | Twitter
Ichiro Yamaguchi (@ichiroyamaguchi) ・Instagram
サカナクション公式サイト|NF member
サカナクション (@sakanaction) | Twitter
サカナクション sakanaction - YouTube

カンタ

動画クリエイター・水溜りボンドのメンバー。相方であるトミーとともに、ドッキリ、実験、検証、都市伝説、料理などの動画をYouTubeに投稿して注目を浴びる。活動開始した2015年から2020年までの丸6年間は、1日も欠かさず動画を投稿してきた。またニッポン放送「水溜りボンドのオールナイトニッポン0」でパーソナリティを約2年間務めるなど、幅広い分野で活躍している。
水溜りボンド - YouTube
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カンタ(水溜りボンド) @kantamizutamari

本当に最高すぎる時間でした!!!!
新しいアルバムの最高でした。。! https://t.co/cz2WXgmn4n

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