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佐々木敦、さらにアイドルにハマる 第2回 [バックナンバー]

ポストモダン時代、到来

アイドルソングの未来を語る

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ノスタルジーからの脱却

南波 これもまた言葉を選びますけど、“楽曲派”みたいなものって、僕のような人間を含め、若い頃から音楽をたくさん聴いてきた人の蓄積された記憶を刺激するものが多かったと思うんです。

佐々木 そうなんだよね。

南波 自戒を込めて言うんですが、それがアイドルソングの進化を止めているような気もしていて。

佐々木 うん、その通りだと思う。要するにオマージュやパスティーシュになっちゃうんだよね。

南波 オマージュを繰り返して、聴く側の大人もそれをポジティブに享受していくうちに“楽曲派”とは名ばかりに、曲は最先端を行っているのではなく、懐かしさを呼び起こす装置になってしまいがちで、そこにモヤモヤした気持ちを感じることもあります。

佐々木 ある型にハマってしまっている。そうだね、確かに。

南波 抗えない魅力があるのもわかるんですけどね。実際、面白いものも多かったし。でも、時が経つにつれて、フレッシュな音楽に出会いたいという気持ちがより強くなってきているんです。そもそも歌うのは今を生きる若い人なわけで。だから神宿みたいな人たちが今の時代のムードみたいなものにフォーカスして、楽曲制作やビジュアル展開をしてるのがすごくいいなと思うんです。なんか神宿の話ばっかりになっちゃってますけど(笑)。

佐々木敦

佐々木敦

佐々木 作家に関して言うと、BEYOOOOONDSの曲を作ってる星部ショウさん、あとは宮野弦士さんやヤマモトショウさんとか、あのへんの人たちは20代の後半ぐらいから30代頭ぐらいの人が多くて、彼らの作る曲って基本的に何かしらの過去のポピュラー音楽の定式、マナーに則っているんだよね。そのマナーが彼らの世代とは全然一致していないところが俺はすごく面白いと思うわけ。フィロソフィーのダンスが一番わかりやすいかもしれないけど。ほかにも例えば小西康陽さんが提供したMELLOW MELLOWの「最高傑作」は素晴らしい楽曲だと思うけど、個人的にはカップリング曲の「メインストリートは朝7時」のほうが面白いと思う。

南波 作編曲は宮野弦士さんが手がけていますね。逆にものすごく渋谷系を意識した曲で。

佐々木 あのへんの人たちが作るアイドルソングってすごく既聴感をくすぐるんだよ。しかもその既聴感は下手すると俺にとってさえもオンタイムじゃないようなものだったりするわけです。たぶん隔世遺伝みたいな感じで、過去の音楽の要素が受け継がれているんだろうね。で、彼らがどうやってそれを学習したかというと、ネットや録音物、つまり一種のアーカイブからに間違いない。つまりむちゃくちゃいろんな音楽を聴いていて、そのうえで戦略的にというより感覚で作った曲がああいうふうになってる。ある意味ではいわゆる“企画もの”なんだけど、新しいタイプの企画ものだと思う。

南波 新しいタイプの企画ものですか?

佐々木 そう。つまり作ってる側にノスタルジーの要素が全然ない。だがリスペクトはある。それってほかのジャンルではなかなか起き得ない面白いことだと思っていて、それに彼らが自分自身の音楽活動をやるときにああいう曲をそのままやれるわけでもないと思う。アイドルおよびアイドルソングの歴史が数十年にわたって積み重なってきた結果、かつての素晴らしい音楽の数々のエレメントを、現在形のアイドルがメディウム(媒体)的な役割を果たして、今のリスナーに伝えているということだと思うんだよね。

本格的に試されるのはセンス

佐々木 あと今日は、なんちゃんにどうしても言っておきたいことがあって。

南波 なんですか?

佐々木 俺最近、リルネードの「もうわたしを好きになってる君へ」って曲にすごいハマっちゃって。

南波 あははは(笑)。リルネード、最高ですよね! 虹のコンキスタドールというグループにいた奥村野乃花さんがプロデュースしているんですよ。

佐々木 へえ、そうなんだ!

南波 吉田豪さんと一緒にやっているイベントに出てもらったんですけど、グループの方向性も全部奥村さんが考えてるみたいですよ。彼女は最年長のメンバーと1歳ぐらいしか違わないし、演者の気持ちもわかるので、メンバーとの関係性もすごくいいみたいで。メンバーも伸び伸びと楽しそうにやっているのが伝わってきて、見ていて穏やかな気持ちになります(笑)。曲もことごとくいい。

南波一海

南波一海

佐々木 リルネードの「もうわたしを好きになってる君へ」はヤマモトショウさんが作詞・作曲・編曲を手がけているんだけど、彼の才能が炸裂してるよね。やっぱりあの曲も、ものすごい既聴感があるわけ。でもノスタルジーだけじゃない新しさみたいなものもちゃんと感じられる。それがいいんだよね。つまりノスタルジーなきリサイクルみたいなモードと、なんちゃんがさっき話したようなナチュラルに最先端を目指していくみたいなモード、その2つは俺どっちもすごく支持できるんだよね。「こういう感じが好きでしょ?」みたいに、変に狙っている感じの曲はちょっと引いちゃう。

南波 そこが2020年代は変わってくといいなと思ってるんですよ。「こういう感じが好きでしょ?」みたいなものもそうですし、あと「ここは今まで誰もやってなかった」みたいな隙間を突く感じとか。そういうのはもうしんどいなと思うことが増えてきちゃったので。

佐々木 ていうか、大体のジャンルがやり尽くされちゃってるでしょう。つまり何もかもがやり尽くされてしまった状況の中で、ついにアイドルソングの世界もポストモダン時代に突入するということだよね。

南波 ポストモダン時代(笑)。

佐々木 今や音楽的な情報とか知識みたいなものはいくらでもネットから引っ張ってこれるようになっていて、だからこそ今後、本格的に試されるのはセンスだと思うんだよね。この場合のセンスっていうのは発想や発明だけでなく、着眼点とか編集力とか、調理やブレンドの仕方みたいなこと。そういう意味でのセンスさえよければ、時代やジャンルに関係なくグッと来る音楽を作れるだろうし。そういう曲がもっと増えてくれたら僕のアイドル熱も維持されるんじゃないかと(笑)。

南波 ぜひとも維持していってほしいです(笑)。

佐々木 今日はリルネードの話ができてよかった(笑)。

<連載第1回はこちら>

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月には78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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