中島健人が2ndシングル「IDOLIC」を10月29日にリリースした。
「IDOLIC」とは“IDOL”と“HOLIC”を掛け合わせた造語。「これまでアイドルとして貫いてきた人生を背負い、アイドル以上の存在へと進化していく」という中島の決意と、「ファンタジーの世界を超えて毒々しいまでの中島健人の魅力に囚われてほしい」という思いが詰まった楽曲だ。「We are Hyper Sexy Sexy」という、“Sexyのリフレイン”がリスナーの心をつかんで離さないこの曲のミュージックビデオは、発売日時点ですでに945万回再生を突破している。
シングルにはそのほかカップリング曲として、夢への思いをグルーヴ感たっぷりに歌う「Can't Stop」、2022年に中島が初めて作詞作曲した楽曲「Celeste」、ライブの光景を彷彿とさせるアッパーチューン「Symphony」、チルな雰囲気のミディアムナンバー「モノクロ」を収録。タイトルトラックを含めた4曲の作詞に中島が携わっている。
ソロアーティストデビューから1年を迎えようとしている今、中島が見据える景色とは? 音楽ナタリーでは彼にインタビューし、“アイドル”に対する思いや今後のビジョンについて話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 映美
“Sexy”のリフレインから生まれる中毒性
──シングルのタイトルトラック「IDOLIC」が先行配信されましたが、その直後から大きな反響を呼んでいます(取材は10月中旬に実施)。
そうみたいですね。うれしいです。
──タイトルトラックの制作プロセスを教えていただけますか?
去年、ラジオツアー(1stアルバム「N / bias」のリリースを記念して行われた、全国のラジオ局での公開収録イベントツアー)をやっている頃から、チームの皆さんから「リスナーにとってインパクトのある楽曲を出しましょう」という話があって。つまり「もっと多くの方に受け入れてもらえるきっかけになるような曲」ということなんですけど、僕としてもそれは必要だよなと思って。今年に入ってから有明アリーナでソロライブ「KENTO NAKAJIMA 1st Live 2025 "N / bias"」をやって、そのあと全国ホールツアー「KENTO NAKAJIMA 1st Tour 2025 "N / bias" 巡」、そして台北での公演があって、確かホールツアーの最中に「これでいきましょう」という曲が決まったんですよ。最初はどなたが作ったのか知らなかったんだけど、あとからMONJOEさんの曲だとわかって。MONJOEさんは「THE CODE」(昨年12月発表の1stアルバム「N / bias」収録曲)を一緒に作った方だし、ここに自分の歌詞を付けてみたいなと思いました。今回はディレクターの方から「アイドルとしてのケンティーを表現したらどうか?」という提案があって。ホールツアーの最後に披露した「JUST KENTY☆」もそうですけど、ステージの上で輝いている姿をもっと伝えるべきだと。
──なるほど。
僕自身、今年の1月の有明アリーナでこれまで以上の充実感やキラメキを感じたし、ホールツアーではステージに立つことの責務みたいなものがさらに強くなって。光が当たる者には、多くの責任が降りかかる。それをまっとうしながら、新たな自分を作っていかないといけないなと。「IDOLIC」の歌詞にも書きましたけど、「偶像を超える ver2.0」ということですね。僕にとってアイドルという職業は立ち止まるとダメになる生き物だと思うんですよ。常に上を目指してないと輝きは減衰する、というのかな。どんどん更新していかないと置いていかれるし、自分自身で新たなアイドル像を作っていかないと。それは自分の過去、大切にしていたことも連れて、未来に進むということでもあるんです。意思の継承、アイデンティティの越境ですね。それが今年のツアーの中で学んだことです。ただ、“アイドル”というのは命題として大きすぎて。
──確かに。
YOASOBIの「アイドル」もそうですけど、アイドルをテーマにした曲はたくさんあるじゃないですか。今、中島健人がそれをやるとしたら、それにふさわしい言葉を持ってくる必要があるなと思って。そこで出てきたのが“Sexy”だった。僕の必殺技みたいなフレーズですけど(笑)、“Sexy”をリフレインすることで中毒性を生み出して、「アイドルに夢中になってる」という曲にしたらどうだろう、と。そこから「IDOLIC」というタイトルにつながりました。僕はほとんどタイトル先行で歌詞を書くんですけど、今回もそうでしたね。
──それを象徴しているのが「IDOLIC」の「Cause We are Hyper Sexy Sexy」というフレーズなのかも。
最高ですよね(笑)。歌っても気持ちいいし、気に入ってます。実は最初は「Super Sexy」にしようと思ってたんですよ。ニューヨークに行ったときに、みんなやたら「Super」を付けてしゃべってたから、歌詞に入れてみようと。ただ、このフレーズはサビの頭なので、小節の頭にくる言葉の母音は“A”のほうが発音しやすくて。「Super」だと口がすぼむので、「Hyper」にしました。
“アイドル”って芸術だよな
──「Sexy」を超えていく意思表明も、今の中島さんにふさわしいと思います。中島さん自身、アイドルである自分と改めて向き合うきっかけになったのでは?
そうかもしれないですね。アイドルは……天職すぎる。
──おお! それをはっきり言えるのはすごいです。
自然に出ちゃいました(笑)。2、3年前の自分だったら、こういうことを言うのを渋ってたかもしれないですね。これからもアイドルとして、自分がイメージしていることをどんどん具現化してきたいと思っています。やりたいことが明確にあって、それを形にしてくのが今の時代のアイドルだと思うんですよ。もともと僕は決められた線路の上を走るのがあまり得意じゃなくて。やっぱり“Made by Nakajima Kento”は気持ちいいし、自分の健康にもよさそうじゃないですか。
──メンタルヘルスも大事ですからね。
「アーティストという職業は心の健康には悪い職業ではあるんです」って、ちゃんみな氏も「No No Girls」で言ってましたからね。僕自身も以前心の健康と向き合うタイミングがありましたし。自分としっかり向き合ったうえで、内なるものを表現することこそが美しいんだろうなと。
──「IDOLIC」には「Arty」という言葉が使われてますね。
これも語感のよさで選んだワードですけど、いろいろ考えていく中で、「偶像(=アイドル)って芸術だよな」と。僕の中で“偶像”のイメージは、ルーブル美術館の「サモトラケのニケ」みたいなものだったんです。石像を見るときはいろんな思いを巡らせるし、大仏様やイエス・キリストの像を前にすると、願うじゃないですか。アイドルもそういう存在だと思うし、もしかしたら芸術、つまりアートかもしれないなと。
利き顔の最大出力
──中島さんのパフォーマンスを堪能できるミュージックビデオも話題を集めています。
みんな中毒になってくれてるみたいですね(笑)。実は最初、まったくMVのイメージが浮かばなかったんですよ。1人で悩んでいても仕方ないから、チームの皆さんと一緒に考えて。そこから出てきたのが「ステージの上のケンティー」だったので、そのアイデアを受け入れました。そこから衣装のデザインを考えたり、アメリカの音楽番組っぽい演出を加えたり。かなりタイトな撮影スケジュールだったので、ライブのあとなどにも打ち合わせしてましたね。楽屋に戻ってきて、まだ息が上がってるときに「MVのことなんですけど……」ってスタッフに話を切り出されて。「この人たち、ワーカホリックすぎない?」と思ったりしたけど(笑)、ステージの感触が残っているときのほうが、いろんなアイデアが浮かんでくるんです。僕のこだわりもちゃんと反映されて、いいMVになったと思います。監督の石井英之さんは僕と同世代の方なんですよね。
──パフォーマンスの撮影はどうでした?
まず「ダンサーは2人で、ケンティーを含めて3人でパフォーマンスしてほしい」という意見があって。リファレンスの1つがビヨンセの映像だったんですけど、ビヨンセのオフィシャルダンサーは双子(フランス出身のLES TWINS)なんですよ。シンクロ率がすごく高くて、「できたらこれくらいのまとまりが欲しいよね」という話をして。ダンサーは「N / bias」のツアーから参加してくれているKoji、「ヒトゴト」のMVにも出てくれたShiryu、コレオは僕と同じ大学出身のKANUさんに頼んで、首筋をなでる振付が生まれました。かなり難しい振付で、途中で戦意を喪失しかけたんですけど、チームのみんなで乗り切りました。「Hyper Sexy Sexy」の振付、最初は顔の向きが右だったんですよ。僕は利き顔が左なので、「やっぱり左のほうがいいかな?」ってスタッフに聞いたら、「左だと、マイクを持って踊るのが大変ですよ」と言われて。実際めっちゃ大変なんですけど、左にしてよかったです。いや、どっちの顔もいけるんですよ(笑)。いけるんだけど、“利き顔の最大出力”というか、「本気で口説きにいくときはどっち?」と言われたら、やっぱり左かなと。





