ナキボクロとは何者か?歌声が無限に存在するアーティスト、その秘密の一端を明かす

ナキボクロ、という名のアーティストが存在する。2022年末より少しずつオリジナル楽曲が公開され、活動開始と同時に発表された1stシングル「シネヨイキロ」はわずか1カ月足らずでSNS総再生数100万回を突破。2024年5月にリリースされた「抜刀」はミュージックビデオに芸人・キンタロー。が出演したことも話題を呼んだが、どのようなメンバー構成で、誰が歌っているのか、そのパーソナルは依然として一切明かされていない。ナキボクロの首謀者は誰で、どのような意図を持って活動しているのか?

そんなナキボクロが新曲「ワカッテル」「ヒトリゴト」の2曲を10月30日に同時リリースするにあたり、インタビューでその秘密の一端を明かしてくれるのだという。指定された日に指定された取材現場に向かったが、そこにいるのは誰なのか?

取材・文 / 西廣智一

ナキボクロとは、誰なのか?

──今、僕の目の前にいる、あなたがナキボクロなんですか?

私はナキボクロであり、ナキボクロではないとも言える。もしかしたら、あなたもナキボクロかもしれません。

──どういうことですか?

誰か特定の人物を指す名称ではなく、そこに関わるすべての人々を指してナキボクロだと、私は捉えています。だから、今こうして私とナキボクロについて話しているあなたも、ナキボクロの一部と言えるでしょう。

──では質問を変えます。あなたはナキボクロにおいて、どんな役割を担当しているのですか?

まず、ナキボクロが始まった経緯を説明しつつ、私の役割についてお話したいと思います。昨今、レーベルや事務所に所属しなくても、誰もが手軽に自分の曲を世に発表することができるようになりました。ちゃんとレコーディングした音源でなくても、アコギ1本でカバー曲を弾き語りした音源や映像を、SNS上にアップすることができる。そういう動画を観ていると、「この人、普通にデビューしていてもおかしくないのにな」と思うような実力や個性を持つ人たちを、たくさん見つけることができます。中には、すでに数万フォロワーを獲得している方もいらっしゃる。そういう人たちを見るにつれ、「この人たちが目指しているものは何なんだろう?」と疑問を持ったことが、ナキボクロのスタートラインでした。

──といいますと?

SNSにカバー曲の音源や動画を公開している方の多くは、プロのアーティストになることを目標としておらず、単純に楽しむことを重視している。もしくは、自身の承認欲求を満たすために、多くの人の目や耳を惹くカバー曲を歌っているんじゃないか……もしそういう人たちが、自分の声に合ったオリジナル楽曲を用意してもらって、それをレコーディングした音源をちゃんとしたアーティスト名のもとで世の中にどんどん出していったら面白いんじゃないかと思ったんです。

──ナキボクロという名の“アーティスト”を、無名の新星たちのために用意したと。

そうです。加えて、SNS発のアーティストの場合、楽曲にファンが付くことが多く、それがアーティスト自体の人気の高さとイコールとは限らない。要は、ライブに人が入らないことが多いんです。昔のアーティストは小さいライブハウスで、下手すると5人とか10人とか少ないお客さんを前にライブ活動を始めている。そこから何年も下積みを重ねた結果、盤石の人気を獲得してきたわけです。でも、昨今のSNS発のアーティストに関しては、曲は誰もが知っているのに、そもそも誰が歌っているのかすら知られていない。そういう意味では、私がすごくいいなと触発された人たちに声をかけて、ナキボクロの名のもと楽曲を歌ってもらう。もちろん、いろんな人たちに歌ってもらうので、曲ごとにボーカルは変わるわけです。

──昨今のシーンの状況を逆手に取った、新しい形のアーティストなわけですね。つまり、あなたはナキボクロというコンセプトを発案し、シンガーをスカウトする役割を担当している?

そういうことになりますね。

歌っているのは誰だ?

──ちなみに、これまで発表した楽曲ではどんな方がボーカルを担当してきたんですか?

ナキボクロは歌っている方の名前や素性は明かさないことになっていますし、本人もそれを口外しない契約になっているのですが……例えば最初に発表した「シネヨイキロ」(2022年)を歌った初代ボーカルは、実は現在メジャーシーンで活躍しています。

──(そのアーティスト名を聞き)え、そんな人気のあるユニットのメンバーなんですね。

その子はもともとプロ志望だったので、1曲歌ったあとも「一緒に活動を続けたいです!」と言われたのですが、そもそも歌い手を縛りつけるつもりもないですし、変に拘束すると、その人の可能性を潰してしまうかもしれないですからね。結果的に、彼女は自分の力で現在のポジションをつかむこととなりました。

──ということは、2曲目の「222」や3曲目の「抜刀」(2024年)、今年6月発表の4曲目「からっぽの太陽」、そして今回配信される「ワカッテル」と「ヒトリゴト」もそれぞれボーカリストが違う?

そうですね。そこも含めて楽しんでいただけるとうれしいです。

──そもそもなぜ、こうした裏側を世に明かそうと思ったのですか?

今回の2曲同時リリースとこのインタビューを通じて、今の音楽業界の流れに対して「もっと自由でいいんじゃないか」といろんな人に伝えたかったんです。と同時に、このインタビューをネット上にテキストとして残すことで、ナキボクロに興味を持ったまだ見ぬアーティストの方々に興味を持ってもらいたいと……そして、ここから先の流れを作っていくうえで、1つのきっかけにしたかったんです。

──なるほど。

逆に私からもお聞きしたいのですが……正直、曲ごとにボーカリストが違うことを公表することに対して、あなたはどう思いますか?

──これまでも、曲ごとにシンガーが変わるプロジェクトやユニットはありましたが、その多くは「○○○(ユニット名)feat.○○(シンガー名)」のような打ち出し方でしたよね。でも、ナキボクロという名のもと、曲ごとにシンガーが変わり、誰が歌っているかは明言しないというのは面白いと思いますし、先ほどおっしゃったように歌っているアーティストよりも楽曲自体に重きが置かれる昨今の市場を考えれば、現代にマッチしたやり方だと感じました。

ありがとうございます。なので、ナキボクロとしてはライブをやる予定は現状ありません。