ザ・クロマニヨンズが18枚目のアルバム「JAMBO JAPAN」をリリースした。
今回のアルバムには、先行シングル「キャブレターにひとしずく」をはじめ、映画「劇映画 孤独のグルメ」の主題歌「空腹と俺」など全12曲を収録。これまでのアルバム同様、クロマニヨンズらしい勢いとユーモアにあふれた作品となっているが、今回ファンを驚かせたのは、甲本ヒロト(Vo)ではなく真島昌利(G)がボーカルを担当した楽曲が2曲も収録されていることだ。
音楽ナタリーでは甲本にインタビュー。彼は自身のバイク事故と骨折にまつわるエピソードを交えながら、何十年も休まず続けている楽曲制作やライブの楽しさを語り、今回のアルバムでマーシーが初めて歌った理由も明かしてくれた。
取材・文 / 峯大貴撮影 / 横山マサト
「世の中がどんどん壊れていくのはなんでかわかるか?」
──実は以前2回ほど高円寺のバーでヒロトさんと居合わせたことがありまして。
ああ、あの店か。俺酔っぱらってて記憶が薄いんだけど、変じゃなかった?
──そうですね(笑)。ショットグラスでウイスキーを飲まれていたんですが「1センチだけ水入れて」ってオーダーをされていて、こだわりの飲み方があるんだなと思った記憶があります。
氷を入れると薄まっちゃうでしょ。いつもティースプーンで水をちょっとだけ入れて飲んでる。ストレートに近いです。
──7月11日にはそのバーの店主であり、ギタリストのヒロナリさんが高円寺JIROKICHIで開催しているセッションイベントに、ヒロトさんも出演されました。ウルフルケイスケさん、寺岡信芳さん(亜無亜危異)、本田珠也さんという本当に豪華な顔ぶれで……。
あのイベントには何回か出ているけど、ドラムの珠也とは前回も一緒ですごくよかったからまたやろうってヒロナリに誘われたの。寺岡さんもケーヤンも昔から好きだったし。ケーヤンとは出番前の楽屋でずっとジョナサン・リッチマンについてしゃべってて。自分に影響を与えた人物として、やっぱ上位にいるよなあって話でえらい盛り上がった。ライブも本当に楽しかったね。なのにその数日後、バイクで事故って足を骨折しちゃう。
──あら……足の調子は今いかがですか?
もうほぼ大丈夫。今日から松葉杖なしで歩くんです(※取材は9月上旬に実施)。次のツアーまでにはバッチリ。
──今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」にROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAの一員として出演されましたが、松葉杖で現れたのでびっくりしちゃいました。
あんな面白いことになっちゃって(笑)。それまでずっとベッドに寝てて動けなかったし、俺に何ができるのかわからなくて不安はあった。セッションのリハーサルには参加して声は出てるから歌はなんとかなりそうだったけど、出て行ったらみんなが引いちゃうんじゃないかと思うと恐かったですね。
──私は配信で観ていましたが、痛々しくて引いちゃうどころか、ヒロトさんが松葉杖という新しいおもちゃを手に入れたように見えて、むしろ面白かったです。
ハハハ。よかった。喜んでくれたらどんな形でもいいです。
──そのときのMCで「世の中がどんどん壊れていくのはなんでかわかるか? 新しくなるためだ」とおっしゃられていましたが、どういう思いから出た言葉でしたか?
これは僕がいろんなところで言っている話なんですけど、今あるすべてのものは、いずれ次の何かのための材料として分解されるんです。例えばレゴブロックっていろんな形のものを作れるけど、そこにあるブロックの数自体は増えたり減ったりしないでしょ? レゴブロックで恐竜を作ったあと、それをバラバラにしてスポーツカーを作る。これを地球は連続でやっていて、そこにあるものは常に新しいんです。新しいんだけど、それを作るための材料は何十億年も前からあったもの。俺の骨も壊れたけど、そもそも親からもらった骨がそのままあるんじゃないんだよ。バラバラになって、また新しくなる。それでしか世の中は進んでいかないんです。無駄な破壊はやっちゃいけないと思うけど、壊れゆくものが壊れることはちっともダメではなくて、何か新しいものを生み出すための準備だと思っています。
──そう考えることができれば、自分が多少窮地に追い込まれてても、少しは安心できそうですね。
子供の頃、ファーブル昆虫記とか、生き物の図鑑とか好きだったから、その影響ですね。
「関係ねぇよ、ぶちかまそう!」っていうのがロックンロールの醍醐味
──今回のアルバム「JAMBO JAPAN」の1曲目「キャブレターにひとしずく」にも「ぶっ壊れても知らないぜ」というフレーズが出てきます。
骨折前にレコーディングは全部終わってましたけどね(笑)。「限りある資源」とかよく言うけど、いいじゃん使い切りゃって。最後のひとしずくまで使い切ってやるぜ、行けるとこまでぶっ飛ばそうぜ、という感じです。環境をめちゃめちゃにしようぜってことを言いたいんじゃない。ただみんなが同じことしか言わなくなってるのは気持ち悪い。たまにはこういうことを口にしてみる。そういう遊びがあってもいいんじゃないですか? 僕はそれが面白いと思った。それだけ。
──なんとなく世の中に漂う閉塞感から開放されて、楽しいこと面白いことに全振りしてみようという考えですね。
自分のリミッターを外して「関係ねえよ、ぶちかまそう!」っていうのが、ロックンロールの醍醐味の1つなんです。その瞬間くらい、周りの目とか気にする必要ないよ。「デカい声でそれを言ってみたらどんな気持ちがする? それをやってみよう」っていう。だってロックンロールバンドだぜ。デカい音出して、デカい声で歌っているだけ。ただの不謹慎な悪ふざけです。誰かの頭の上に爆弾落っことしたりするわけじゃない。というか実際は何も考えてないです。曲作りもレコーディングも、とにかく面白がるだけ。
僕がステージの上で弾けられるのはバンドの演奏ありき
──自分たちから出てくるものを面白がってるという感覚ですかね?
出てくるというか、レコーディングのときにはもうそこにあるんですよ。ろくろの上に土が乗っかってるんです。それを面白い面白いって言いながら、みんなで回すんです。「変な形になった!面白い!」「これはイマイチだ! もう1回やろう!」って(笑)。同時にみんなでその土に手を置く瞬間が楽しい。アレンジもそうだし。一発録りも楽しい。
──土の上に手を置く感覚なんですね。もうちょっと衝動的なものかと思いました。
衝動的ですよ。衝動的で激しいから、陶芸に例えたんです。
──メンバーから出てくるものを面白がる感覚でしょうか?
もちろん。最高ですよ。僕がステージの上で弾けられるのはバンドの演奏ありきです。特等席でエレキギターとベースとドラムの爆音を聴いた瞬間に「よっしゃ、俺も俺も!」って興奮してくるんです。
──その興奮するポイントは、思いもよらない音を出してくれてるときなのか、「こう来たらこう来るよな」みたいなときなのか。
両方両方! 「だよなー!」ってときと「なんだこれは!」ってときと両方なきゃダメです。「なんだこれは!」ってときは、どんなにビックリして、たとえうろたえたとしてもSHOW MUST GO ONでなんとかしようとする。その土から手を離さないで自分なりの力を入れる。そうすると思いがけず変な形になるんですけど、それが面白いんだ。
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マーシーがクロマニヨンズで初めて歌った理由




