「多彩な才能が集った伝説のクラブ、下北沢SLITS」ビジュアル

渋谷系を掘り下げる Vol.13 [バックナンバー]

多彩な才能が集った伝説のクラブ、下北沢SLITS

元店長・山下直樹が語る独自の“オール・イン・ザ・ミックス”感覚

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当時はロンドンの人たちを意識していた

しかし山下にとっては下北沢から急行で1つ先の渋谷よりも、遥かに離れたロンドンの方が刺激を受ける街だった。

「今となってはカッコ悪い言い方に聞こえるかもしれないんですけど、当時はロンドンの人たちを意識しつつ、『日本でも同じようなことができるんじゃないか』と思ってやっていたんです。ZOOの小さなフロアにいるまばらなお客さんを眺めながら、『パンクの誕生に立ち会った30人もこんな感じだったはず』とか考えたり。ロンドンってすごく大きな都市っていうイメージがありますけど、実際の人口は東京より少ないんですよね。

ソウルセットも当初にあった構想は日本版SOUL II SOULみたいなことがやりたいというものでした。SOUL II SOULの音楽性ってまさにロンドンの街から生まれてきたという感じだったし、バンドというよりは“ポッセ”というか、洋服のブランドを展開していたり、メディアミックスみたいな感じで面白いことをやっていた。ソウルセットのメンバーもアパレル経営者だったり、ばらばらの人たちがポッセとして集まっている雰囲気があったので。まあ、自分が思っていた方向には行かなかったですけど、もちろんそれでよかった。

同じくロンドンから出てきたThe Brand New Heaviesっていたじゃないですか。彼らが90年代初頭に出した7inchシングルが、当時全然手に入らなくて。知り合いにその話をしたら『あのシングルはプレスした1000枚中、300枚を彼らが友達に配ってしまって、残りのうち300枚が日本に入ってきたから、実質半分近くが日本で売れたんだよ』って教えてくれた。海外で新しい音楽が生まれたらいち早く飛びついて、それを理解しようとする人たちがたくさんいる日本って特殊な国なのかなあと思いますね。パンク、ニューウェイブの時代からそうだったみたいで」

当時のパーティの写真を収めたファイル。1992年4月にノーマン・クックがBEATS INTERNATIONALで来日した際にDJを行ったときの写真も。

当時のパーティの写真を収めたファイル。1992年4月にノーマン・クックがBEATS INTERNATIONALで来日した際にDJを行ったときの写真も。

ロンドンにおけるジャンルがミックスされる感覚の背景に移民社会があるとしたら、東京のそれは消費社会だろう。80年代後半に注目を集めた、ジャンルを問わずグルーヴを持つレコードを探し求めるレアグルーヴというロンドン発のムーブメントも、日本ではまず藤原ヒロシのようなトレンドセッターによって紹介された。そして徐々に土着化し、90年代で言えばフリーソウルはその日本独自の発展形だ。渋谷系も日本のミュージシャンたちがバンドのフォーマットでもってレアグルーヴからの影響を消化したと言える。ZOO / SLITSはそういったDJカルチャーとバンドカルチャーの相互的影響関係を生む現場だった。

音楽オタクの溜まり場みたいな感じだった

「音楽やカルチャーをマニアックに掘り下げるという意味で、渋谷系にはオタクカルチャーとの共通性みたいなものもあったんじゃないですかね。ZOO / SLITSにしてもちょうど“オタク”という言葉が一般化し始めた時期にたまたま存在していて、自分はオタクではないと思うんですけど、いろいろつまんで音楽を聴くようなタイプで、たまたまそういう人間が店長だったということなんじゃないでしょうか。そして同じタイプの人が店の雰囲気を嗅ぎつけて集まってきていたんだと思うんですよね。ただ、ダメな人は絶対にダメなんですよ、あの店は。いわゆる遊び人が集まるような店ではなくて、音楽オタクの溜まり場みたいな感じだったと思うし。そもそも下北沢は遊び人が来るような街じゃなかった。

Double Famousがやっていたイベント『ブリリアント・カラーズ』には、レコードも演奏も好きな人たちが作っている空間というか、DJのかける音がバンドの音に吸い上げられていくような雰囲気がありました。自分が10代の頃にバンドの人に対して持っていたイメージって、家にあまりレコードがなさそうな感じ(笑)。もちろん、自分が出したい理想の音がはっきりとあって、いろいろなものを聴いていたら邪念が入ってしまうという人もいると思う。でもSLITSを始めた頃から、たくさんレコードを持っている人が音楽を作り出すようになっていった」

「ブリリアント・カラーズ」フライヤーの貴重な版下。

「ブリリアント・カラーズ」フライヤーの貴重な版下。

「ブリリアント・カラーズ」フライヤー

「ブリリアント・カラーズ」フライヤー

山下は「〇〇〇〇(人の名前)のオールジャンル感」というような言い方をするが、そこには彼の哲学が現れているように思う。人間には1人ひとり、独自の“オールジャンル感”がある。だからこそ山下はそれを世に出すべく、ZOO / SLITSでたくさんのDJではない人にDJを依頼していった。

「『ガレージ・ロッキン・クレイズ』で回していた人たちなんかも、あの場がみんな初めてのDJだったんじゃないかな。イベントの発端としては福岡時代の友達が先に上京して、いわゆるネオGSシーンで活動していたんですよ。ミントサウンドから出たオムニバスアルバムにも参加しているピンキーズというバンドのメンバーなんですが。それで東京のガレージシーンのこともなんとなく知っていたので、ガレージロックをかけるイベントをやれないかなと思って、同じくネオGSシーンで活動していたザ・20ヒッツのジミー益子さんや(ワウ・ワウ・ヒッピーズの高桑圭と白根賢一がやっていた初期)GREAT 3を紹介してもらった。片寄(明人)くんが入る前の、全員革ジャンを着てインストを演奏している頃の。『ガレージ・ロッキン・クレイズ』のみんなは、『俺たちがDJをやっていいの?』みたいな感じもありましたね。東京でバンドをやっていた人たちにとっては『LONDON NITE』の存在が大きくて腰が引けたと思うんですよ。ロックをかけるのは大貫さん、っていうイメージだったかもしれないから。でも自分はそのちょっと前まで田舎にいた人間なので、そういう感覚が全然わからなかったんです」

「ガレージ・ロッキン・クレイズ」フライヤー

「ガレージ・ロッキン・クレイズ」フライヤー

「ガレージ・ロッキン・クレイズ」フライヤー

「ガレージ・ロッキン・クレイズ」フライヤー

お客さんにも「DJやりましょうよ」と声をかけていた

「今だと『DJなんて誰でもできる』というイメージがあると思うんですが、クラブカルチャー以前──ディスコの時代のDJはハコ側が雇っている職業DJだったんですよね。だからミキサーなんかも店で特注して作っていた。当時は(DJがやりやすい)クロスフェーダーもなかったし。で、Vestaxの初期のディスコミキサーが逆輸入で入ってきたときに自分も買ったら、DJの人にすごまれましたから。『お前はDJになるつもりか!?』って(笑)。そういう時代だったんです。でも自分は誰もがDJをやったほうが面白いと思っていたので、お客さんにも声をかけまくっていました。『DJやりましょうよ』って。声をかける基準は踊っている感じを見ると、なんとなくピンとくるんですよね。レコードをどれくらい持っているかはわからないですけど、音楽が好きなことは踊っている雰囲気で伝わってくるじゃないですか。あとはファッションの気合いの入り方とか。『半端ない恰好をしてるな』っていう人には声をかけて。『は?』とか怪訝そうな顔をされることもありましたよ。それで、『DJ? やりたい!』って言ってくれたらノートに名前と電話番号を書き込んで。働いている場所も。今、そんなことありえないですけどね(笑)。

瀧見くんも、もともとは雑誌『FOOL'S MATE』の編集者で、音楽誌のライターにDJをお願いするという企画のもとに、彼の知人であるEMMAが誘ったことでDJを始めた。冷牟田(竜之 / MORE THE MAN、ex.東京スカパラダイスオーケストラ)くんも、DJはうちの店でやったのが初めてじゃなかったかな。当時、彼はスカパラに入る前でブルートニックっていうバンドをやっていたんですけど、スカが好きだって聞いて『やってみれば?』って。最初、自分もレコードをターンテーブルに乗せるのを手伝いました」

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世代を超えた人たちがツルんでる感じがいいなって

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大根仁 @hitoshione

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