面白さより、柔軟に対応できるシステム
機材の選定については、堀田がスピーカー、マイク、メインコンソールといったPAシステム周り、猪爪がアンプやドラムなど楽器周りを担当。機材リストからはそれぞれのこだわりが感じられる。
スガナミ LIVE HAUSでは当初、珍しいビンテージのアンプを置いたりすることで店の特色を出そうと思っていたんです。でもライブハウスやクラブって、来てくださるお客さんも日々違うし、出演するアーティストも違う。そう考えると、やっぱりみんなが使いやすい機材をそろえることが大事だということに気が付きました。PAの立場からしたら、短いリハーサルの時間や転換中につまみの感じを把握できるのも重要なんだと堀田くんが言っていて、「確かにな」と。あと毎日使うものだから耐久性も重要。例えばビンテージのドラムとかだと、壊れて修理をするときにパーツがなかったりする。そういうことをみんなで話し合いながら音響機器の選定を進めていきました。
堀田 まずメインコンソールは、YAMAHA QL5を選びました。ミキサーを選ぶ際は、まずはアナログ卓かデジタル卓かを考えると思うんですけど、ライブハウスは毎日イベントがあるし、日によっては10組以上のバンドが出演することもある。それを考えるとデジタル卓のほうが設定をリコールできるので便利。それにQL5はスタンダードな機種なので、外部のPAさんでも問題なくオペレーションできると思います。スピーカーはTURBOSOUND Berlinシリーズというラインソースのモデルです。100~200人規模の箱だと、予算や機材導入の時期などの理由からポイントソースのスピーカーを使っているところが多い。でもそれだと、スピーカーの本数を増やしたときに音が干渉するし、無駄な反射が起こりやすいんです。だから若干値は張りましたけど、カバーしたいエリアにしっかりと計算して音を届けられるラインアレイにしました。スピーカーシステムを構築するにあたって意識していたことがほかにも2つあって、1つ目はパワーです。ライブハウスはいろんなジャンルのアーティストが出演するので、打ち込み系などワイドレンジな音源をプレイするDJや高い音圧を必要とするバンドの要望に応えるためにも、パワーに余裕のあるシステムを組みました。2つ目は、細かいニュアンスがわかるもの、という点です。明確に“鳴らしたい音”があるアーティストがライブをする場合に、癖のあるスピーカーで出力することで彼らの表現が曲がってしまうのは避けたかった。細かいニュアンスがわかるスピーカーを選んでおけば、例えばアナログレコードの温かみや、アーティストが作ったサウンドもストレートに再現できるんです。そう考えると、ひと癖あって面白いスピーカーよりも、ある程度どんなものにでも対応できるシステムにしたいなと。
猪爪 堀田くんはいろいろと研究してたし、ライブもDJもやるってことを冷静に考えていました。堀田くんのアイデアがこの店のサウンドに1本筋を通した感じがします。ユウくんのプランのままいくとやばい方向に進む可能性もあったし、僕もユウくんのプランに乗っちゃうしね(笑)。ギターアンプについては、ユウくんから機材選定の話をもらった頃は「つまみの数を減らす」「とにかく屈強なボディにする」みたいなことを言ってたんです(笑)。でも堀田くんが言うように、誰もが表現に取り組みやすい環境を作ろうと考えをシフトさせました。ギターアンプって、同じモデルでも年代によってさまざまなバリエーションがあるじゃないですか。それを掘り下げていって、コンセプトに一番マッチし、さらにキャッチーな個性を持ったモデルをチョイスするように心がけました。例えばROLAND JC-120だとビンテージモデルのコーラスエフェクトや音の質感によさを感じて選ぶとか。FENDERのTwin Reverbも置いているんですが、そのセレクトにはもう1つ念頭に置いていた“仲間感”の部分が色濃く出ています。
スガナミ もう1人の店長である宮川(大仏)くんの私物(笑)。
猪爪 消耗している箇所は多かったですが、そういうものを使わないのは違うだろうと思って、丁寧にチューンナップしました。MARSHALL JCM800に関しては、前期のモデルと後期のモデルでマスターボリュームの有無に違いがあって。さらに50Wと100Wのバリエーションが存在します。LIVE HAUSの規模感を考えると、50Wのほうが小さい音量でもしっかり音を作れてよかったりもするのかなと少し頭をよぎりましたが、今回はみんなになじみがあるという点を考慮して100Wでマスターボリューム付きのモデルを選びました。
スガナミ あとドラムもこだわったよね。
猪爪 そうそう、ドラム。めちゃめちゃ悩んだんですよ。ドラムは交換パーツが一番多い楽器なので、修理することになった際にそのパーツがちゃんと供給されていて、安定したサウンドが約束されているモデルを調べた結果、YAMAHAのYD9000に辿り着きました。これはのちにRecording Customとなる数世代前のモデルで、スティーヴ・ガッドが愛したことでも有名なドラムセットです。彼がレコーディングに使用したドラムセットということなので、これも“みんなになじみがある”という点で考えると、このモデルの音というのはおそらく全世界で一番聴かれたドラムのサウンドなんじゃないかと。
スガナミ ドラマーからの評判もいいもんね。
猪爪 うん。めちゃめちゃ喜んでくれる。やっぱライブハウスのドラムセットがしょぼいと、テンション下がりますからね。
スガナミ 楽器とPA機器、DJ機材を合わせて結果的に1100万円くらいかかったけど、アユくんがリペアしてくれたおかげでかなり費用を抑えることができました。金額以上の楽器をそろえることができたと思う。
猪爪 古いものでも最高に使う、みたいなところでこれまでやってきたので。そのスキルとハートを総動員させてリペアさせていただきました。
堀田 LIVE HAUSの規模だと、音響や機材周りはもっと安く済ませるところが多いですよね。これだけしっかりとお金をかけてる店はあまりないと思います。
スガナミ そうだね。さっきも話したけど、このこだわりは出演者や来場者に伝わると思うから、中途半端な設備にはしたくなかった。それに基本的にアユくんと堀田くんを信頼してるから、2人の説明を聞くと納得しちゃって高くても仕方ないと思えた(笑)。これから営業しながら調整していって「これがLIVE HAUSの鳴りだよね」みたいな、そういう音を作れたらいいよね。初めは音響自体も新人ですから。
猪爪 そうそう。僕が送り出す楽器たちも歴史を持っているけれどどれも新人。それに実際にお客さんを入れてると、だんだんと見えてくるものがあるだろうし。反応を見ながら調整していきたい。オープン後の数日間は気になって見に行っちゃうかもしれないです。
スガナミユウ
自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自の運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末にTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。
堀田昌太郎
1994年生まれのサウンドエンジニア。2016年より東京のライブハウス・下北沢THREE、下北沢BASEMENT BARにてハウスエンジニアを務め、フリーランスとしても各地で活動している。2020年からはLIVE HAUSに所属し、チーフエンジニアを務める。
猪爪東風
2012年、複数のバンドでの活動を経て自身のソロプロジェクト・
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