「CIRCLE '18」の様子。 (写真提供:CIRCLE)

福岡「CIRCLE」主催者の次の一手は「Q」

“音楽業界の名バイプレイヤー”是澤泰志に、角張渉と聞く

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5年ぶりの復活

──それから「CIRCLE」が再び行われたのが2012年ですよね。音楽ナタリーでは2013年から毎年レポートさせていただいています。

「CIRCLE '12」の様子。 (写真提供:CIRCLE)

「CIRCLE '12」の様子。 (写真提供:CIRCLE)

角張 是澤さんが2回目を断念するときの気持ちも、復活させるときの気持ちも側で聞いていたから覚えています。非常に感銘を受けて、当時ブログとかに書きましたもん。

是澤 そうだったんだ(笑)。でも復活して最初がひどかったんです。思った以上に当日券が売れてお客さんがたくさん来てくれたんだけど、こちらの想定を超えていたからビールが午前中で売り切れて、トイレも満タンになって、最後なんてリストバンドが足りなくなって、途中で買いに行っていますからね。足りないお客さんのぶんは無地のバンドですよ。主催者として、あらゆることが行き届いていなかった。

角張 過去に赤字を出しているから、余分を用意する余裕がなかったんですね。

是澤 そうそう。とにかく赤字にしたくなくてギリギリの準備しかしてなかった。読みが甘かった。落ち込みましたよね。でも、ほんの少しだけ純利益が出たんです。で、終わってからBEAと精算するときに、本当に少額ですけど利益を折半させてもらいました。どういうことかというと、「これは僕の気持ちです。来年以降は御社と、損益折半でご一緒させていただけませんか?」っていうご提案をさせてもらって。それからはBEAと一緒にやっていて、今年で8回目。もちろん収益面では毎回いろいろありますが、順調というか安定して続けてこられました。

角張 「CIRCLE」には出演アーティストのマネージャーという立場のほかに、毎年DJとしても参加させていただいているんですけど。もうすごいですよ。通常は交通費、宿泊費などはギャラにインクルードされていることもあるんです。でも「CIRCLE」は違う。バンドの人気の強弱に関係なく、めちゃくちゃケアがすごいし、気持ちがいいですよ。だから、是澤さんの何かってなったら協力したいってアーティストも多いし、是澤さんの会社に所属したいって人もいる。優しいけれど、厳しいところはすごい厳しいっていうのも信頼感につながっているのかもしれません。

是澤 僕はマネジメントもやっているじゃないですか。だからミュージシャンに付いて各地のフェスに行くんですけど、そこで勉強させてもらったことは実践するようにしているんです。例えば新人の出演者にも多いか少ないかは置いておいて、ギャラはちゃんとお支払いしたいし、交通費も全額支給したいなっていうのはありますね。

角張 あと、アーティストの目線から言えば、あの時期に福岡に行けるのもいいんですよね。春に九州でやっているイベントって、実はあまりないから。あとは出ている人たちがみんな好き。刺激し合える。価値観があまりにも違う対バンとかってたまにありますけど、「CIRCLE」はそんなこともないし、かつブッキングに色があるものだから、お客さんも含めてちゃんと会話ができているような気がするんです。悪い意味ではなく、“ノリの違うものに対して、ちゃんと拒絶反応がある”って言うのかな……これ、悪い意味以外で伝わるかな(笑)。

「CIRCLE」にDJとして出演中の角張渉氏。写真は2017年のもの。(写真提供:CIRCLE)

「CIRCLE」にDJとして出演中の角張渉氏。写真は2017年のもの。(写真提供:CIRCLE)

──今年は「Q」をスタートさせますが、「CIRCLE」も続けていくのですよね?

是澤 はい、あと10回はやりたいですよね。角張さんみたいにセンスのいい若い世代のスタッフが現れて、「今後もやっていきましょうよ」って言ってくれる人がいたら引き継ぎたいなという気持ちがあるんです。福岡にお返しする、じゃないですけど。で、僕は会場で焼き鳥でも売りたいな、と。

角張 それ、ずっと言ってますよね(笑)。

“出演者発表前にソールドアウト”が理想

──では「Q」はどういった理由で?

「Q」ロゴ

「Q」ロゴ

是澤 終活じゃないけど……50歳になって、正直「自分の会社がもっと儲かるといいな」っていうのは、もうどうでもいいなあって。もちろん儲かればいいんだけど(笑)、それよりも、もっとたくさんの人に喜んでもらえる仕事をしたいって思うんですよ。そう考えたときに、「CIRCLE」も安定期に入っているし、東京でもイベントをやったほうがいいのかなって。大学時代からずっと東京にいますしね。

角張 「Q」は是澤さんが出演者を考えているときから話を聞いていたんですけど、もうそれが楽しそうで(笑)。考えてみれば、Corneliusとゴダイゴって本当にすごい組み合わせですよ。すごいバンド同士のぶつかり合い。Corneliusのライブも東京で観られるのがうれしいですね。今、ハンパじゃないんで。

是澤 そうですね。ライブ制作担当としても、Corneliusはたくさんの人に観てもらいたいって思いはあります。

Cornelius

Cornelius

──「CIRCLE」の路線を踏襲するようなイメージですか?

是澤 基本的には「CIRCLE」と同じ感じでいきたいなと思っています。「CIRCLE」って名前を使ったほうがある程度認知されているからいいのはわかっているんですけど、もう福岡以外ではやらないって決めたから(笑)。じゃあどう差別化をしていくかと考えたときに、これは不可抗力的なことだったんだけど、野外ではできないっていう前提がありました。でも屋内だったら見え方も違うと思うし、野外に苦手意識があるお客さんもいらっしゃるだろうし、大人が楽しめるイベントにしたいって思いもありました。

角張 しかも国技館は飲めますからね。

是澤 そうそう。ホールの客席では飲めないですよね。お酒も飲めて色気のあるロケーションと考えたときに、国技館がいい。そうしたらピンポイントで空いていたんですよ、スケジュールが。

──是澤さんにとって“イベントの成功”って、どういったものなのでしょう。

角張 あー、そこは是澤さんは特殊ですよ。普通は売り上げを上げてもっと有名なバンドを呼びたいとか、環境をよくしたいとか、もっと欲が出ると思うんです。是澤さんはそうではなくて、もっと“有限性の幸せの共有”とか、そういったものを目指しているように見える。

是澤 欲、出ていますよ。「Q」を作っていて、「CIRCLE」はユルくやり過ぎたって思っているくらい。だから変な話、「CIRCLE」で稼がなきゃなって思っている部分もあります。「Q」も続けていきたいから。これまで「CIRCLE」ってまったく協賛を入れていないんです。チケットの売り上げだけでやっているイベントなんです。でも、今回は営業をかけていますから。

角張 それ、本当にすごいですよね。ビール会社とか入っているイベントも多いのに。

是澤 いろんなビールを飲みたいじゃない。成功ってところに話を戻すと、1つの例なのですが、「朝霧JAM」は「CIRCLE」の考え方の素になったイベントなんです。始まったばかりの初期に何度か行って、本当に感動してしまって。だからステージ構成も参考にさせてもらってます。あとね、当時の「朝霧」は出演者発表が本番の直前だったんですよ。誰が出るのかもわからないのにチケットが前売りでソールドアウトしていた。それが1つの成功じゃないかなあと。イベントに対する信頼度があって、「誰が出てもいく」みたいな。「絶対に出る人に間違いがない」みたいな。実際にはできないけれど。

──そういえば角張さんは、大きなイベントをやるつもりはないのですか?

角張 僕はやっぱり雑なのと、リスクの背負い方が下手。向いてないと思うんですよね。あと是澤さんを見ていると、「自分はそんなにフェスをやりたいわけじゃないのかも」って思うんです。やっぱりモチベーションが高い人がやるほうがうまくいくし、それであまり成功していないイベントもたくさん見てきましたから。僕は毎年「CIRCLE」に参加しているほうが最高に楽しい(笑)。それに、お客さんはバカじゃないですからね。ZEPPや武道館なんかでワンマンができるようなバンドを2組呼んで対バンをやっても、想定の10分の1くらいしか入らないことだってあります。企業っぽくなればなるほどそういう傾向にあるような気がするし、“定着”も大事。最初に大変な思いをしながら、定着させていかないと。3年くらいは気合いが必要なんじゃないですか? それを考えると……ねえ。

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角張氏へジェラシー

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音楽ナタリー @natalie_mu

角張渉(カクバリズム)と聞く、音楽業界の名バイプレイヤー是澤泰志が新しいイベントを作る理由
https://t.co/qgGU1xyNgC

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