第17回アジア・フィルム・アワード(AFA)で作品賞を含む最多6部門にノミネートされている「
第80回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した本作は、長野県のある町に暮らす巧と娘の花を軸にした物語。ある日彼らの家の近くで、芸能事務所によるグランピング場の建設計画が浮上する。しかし、このプロジェクトは町の水源に悪影響を及ぼす、ずさんなものだった。その余波は、父娘の生活にも及び始める。大美賀均が巧、西川玲が花を演じたほか、小坂竜士、渋谷采郁がキャストに名を連ねた。
石橋が自身のライブに用いる映像の制作を濱口に依頼したことから生まれた「悪は存在しない」。石橋の発案から2年ほどメールでやり取りを重ねたのち、濱口がリサーチやテスト撮影、脚本の執筆という具体的な制作の準備を進めていった。石橋は「当初はサイレントのライブ映像を作る予定だったんですが、撮られた役者の演技、声が素晴らしかった。撮影が終わって編集をしている段階で濱口さんから映画の話をいただきました」と振り返る。
濱口の提案によりライブ映像のために撮られた素材を用いて、まず劇映画の「悪は存在しない」を完成させることに。石橋は「私はすごくうれしくて、いったん自分のライブパフォーマンスも忘れて、まずは映画のための音楽を作ることに集中しました」と述懐。その後、ライブ用のサイレント映画「GIFT(ギフト)」の編集が進められたが、石橋は「私は映画版が完成して満足しちゃった部分がありました」と笑いつつ、「でも山崎(梓)さんが新たに編集してくださったものがすごく面白くて、『悪は存在しない』とまったく違う体験になることがわかった。そこで改めて『GIFT』のための音楽も考え始めました」と制作の経緯を明かした。
「ドライブ・マイ・カー」に続いて濱口と仕事をともにした石橋は、前作との違いを聞かれると、上記のような特殊な経緯を踏まえ「暗闇の中を歩くように、濱口さんと何を作るのかわからないまま時間が過ぎていきました。それを一緒に歩むことができたのが大きな違い。それは面白いし、楽しかった」と答える。さらに今回の制作体制の魅力を「時間をかけて作ると、ちゃんと工夫ができるし、監督と対話を重ねられる。無駄に思えるような話でも、そういうものが積み重なって奥行きがある作品になると信じてます」と話す。
「ドライブ・マイ・カー」のときから共同作業の方法は共通しており、まず石橋が特にシーンを想定せずにデモとなる音楽を作り、それを濱口が求める方向性に調整していく流れ。そして完成した音楽を使うシーンについて、石橋は関与せず、濱口が決めるそう。「最終的に、どこにどんな音楽をどのように使うかは濱口さん次第。私は、その決め方がよかったと思ってます。作っているときは基本的に苦しい。編集が終わって濱口さんが音楽を映像に当てる。その当て方を見て『本当に作ってよかった』と思う。それが喜びです」と明かす。普段の音楽と映画音楽の制作の違いを聞かれ「一番違うのは最終的なジャッジを監督がすること。音楽を作るときの姿勢としてはあまり変わらないです」と語る場面もあった。
映画音楽を作る際のこだわりや気を付けていることを問われると、石橋は「音楽はお客さんの感情をコントロールしてしまう危険性があるもの。作品はお客さんが家に持って帰って何日も考え続けるものになってほしいので、感情を簡単にコントロールする音楽は作りたくない。実際に物語の中で鳴っているわけではない場合を除いて、私は基本的に映画に音楽は入れなくていいと思ってます。でも、そこにあえて音楽をつける。だとしたら、どういう音楽がいいのか。そこは常に厳しく考えているところではあります」と強調した。
詳細な内容は伏せるが、観客からは映画のエンディングについて石橋の感想を尋ねる質問も。石橋は「私も理屈では何が起きているかわからない。とても感覚的に捉えていて、初めて観たときはガッツポーズをしました(笑)。論理的に何が起きているかは説明できないけど、腑に落ちる。すごく自然なことが起きていると私は捉えました」と実感を述べつつ、「お客さんそれぞれが考えることが一番面白いし、皆さんがどう捉えているのか聞きたいです」と呼びかけた。
第17回アジア・フィルム・アワードの授賞式は、香港の西九龍文化地区にある戯曲センターで本日3月10日に開催。「悪は存在しない」は、4月26日より東京のBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」ほか全国で順次公開され、ライブ公演「GIFT」は3月19日に東京・PARCO劇場で上演される。なお「GIFT」は香港でも3月30日に第48回香港国際映画祭で上演。
映画「悪は存在しない」予告編
関連記事
石橋英子の映画作品
リンク
ガシマシネマ @gashimacinema
#ドライブマイカー の
濱口竜介監督最新作
#悪は存在しない
ガシマシネマでも5月G.W.から上映します!! https://t.co/VlenTDUIVu