映画「ChaO」特集 アレン様インタビュー

映画「ChaO」特集 アレン様インタビュー

「鉄コン筋クリート」「海獣の子供」といった話題作を生み出し続けるアニメーション制作会社STUDIO4℃。同社が手がける新作劇場アニメーション「ChaO(チャオ)」が、8月15日に全国公開される。

アンデルセンのおとぎ話「人魚姫」をベースにした「ChaO」は、船舶を製造する会社で働く青年ステファンが、人魚王国のお姫さまチャオに突然求婚されたことをきっかけに物語が展開するウルトラギャグのようなラブストーリー。青木康浩が監督を担い、鈴鹿央士が運命に立ち向かっていくステファン役、山田杏奈が一途に尽くすチャオ役でダブル主演を務める。フランスで行われたアヌシー国際アニメーション映画祭2025では、長編コンペティション部門の最高賞に次ぐ審査員賞に輝いた。

同作の公開を記念して、チャオと同じく「恋も運命さえも自分でつかみ取る」というポジティブな生き方が魅力のマダムタレント・アレン様に、ひと足早く本編を鑑賞してもらった。過去に「ラブロマンスが大っ嫌い」と発言していたアレン様は、ステファンとチャオの純粋かつパワフルな“ウルトラミラクルラブストーリー”をどう観たのか? 本作が持つ魅力をたっぷり語ってもらった。

なお映画ナタリーでは、アーティストやお笑い芸人など著名人から届いた感想・推薦コメントと、映画の見どころを紹介するコラムをまとめた特集を追って公開する。そちらもあわせて楽しんでほしい。

取材・文 / 岡本大介撮影 / 梁瀬玉実

映画「ChaO」予告編公開中

絵の豊かさにアタシの脳が追いつかない

──早速ですが、映画「ChaO」をご覧になった率直な感想からお聞かせください。

アタシ、嘘をつくのはすごく嫌なので、率直に言いますよ。「ChaO」ってラブロマンスじゃないですか? ラブロマンスは普段一切観ないんです。なぜってバカげているから(笑)。しかも今回はそれだけじゃなく、アニメーションでしょ? アニメーションはまったく観ないと言っても過言じゃなくて。

アレン様

アレン様

──世界的に有名な作品などもですか?

そう。例えば「となりのトトロ」「風の谷のナウシカ」とか、もちろん名前くらいは聞いたことがあるけど、中身はまったく知らない。幼少期にテレビで流れているのをたまたま観ていたことはあるんでしょうけど、記憶にもないし。それぐらいアニメとかけ離れた人生を送ってきたのよ。でもだからこそ、今回「ChaO」のお話をいただいたときは、「これは逆にいい機会かも」って思ったんです。

──なるほど。アレン様にとっては、ラブロマンスとアニメという二重のハードルだったんですね。ちょっと聞くのが怖いですけど、実際にご覧になっていかがでしたか?

本当に正直な話をすると、最初の20分ぐらいはちょっとピンと来なかったのよね(笑)。最後まで観れば全部が回収されるんですけど、最初は面白さを理解するまでに少し時間が掛かりました。まず、絵の情報量が多すぎません? 背景も含めて、色彩があまりにも豊かすぎて、「こんなに細部まで描く必要、ございます?」って(笑)。特に印象に残っているのが、ステファンとチャオが結婚前に赤い正装で記念撮影するシーン。あそこまできらびやかに描き込む必要ある? いや、きっとアニメファンからしたら素晴らしいことなのよね? でもただでさえストーリーのテンポが速いから、その絵の豊かさにアタシの脳が追いつかなくて。

「ChaO」より、鈴鹿央士が声を当てたステファン(左)と、山田杏奈演じるチャオ(右)

「ChaO」より、鈴鹿央士が声を当てたステファン(左)と、山田杏奈演じるチャオ(右)

──普通のアニメ映画と比べても、「ChaO」の描き込みは尋常ではないと思います。

そうでしょ? しかもキャラクターの頭身がみんな違うでしょ? おじさんみたいな顔の赤ちゃんが道を歩いてたりして、「この絵は何?」と思いました。しかもキャラクターたちの動きがみんなすごくコミカルで、アタシからすると「これ、笑ってもいいの?」っていう感じ(笑)。ストーリーも、時間軸が未来から始まって過去に飛んだりするから、ちょっと複雑で難しいわよね。たぶん、アタシと同じように普段アニメになじみがない方が観たら、最初は「どういう意味なんだろう?」となるかもしれない。ぶっちゃけて言うと、途中で「アタシには合わないかも」って思っちゃったりもしたんですよ。

──アレン様、正直が過ぎます(笑)。

アニメって、アタシのイメージだと「クレヨンしんちゃん」とか「サザエさん」みたいな感じだったので、それとはまったく違っていて。いきなり最難関に挑戦した気分です。でも、だからこそ言えるのは、この映画は絶対に最後まで観てほしいということ。そうじゃないと物語の本当のよさを完全には理解できないので、最初の戸惑いを乗り越えて、じっくりと観てほしいなって思います。それも流し見じゃダメ、全部に意味があるから。

アレン様

アレン様

ほとんど恋をしないアタシでも、恋愛っていいなと思った

──戸惑いを乗り越えて、物語に引き込まれたのはどのあたりからでしたか?

ステファンとチャオが結婚して、一緒に暮らし始めたあたりかしら。不器用な者同士が、お互いよくわからないまま恋愛をがんばっている姿って言うんですか。それを観て「かわいい」って思っちゃったり。でも、同時にちょっとイラッともきたのよ(笑)。

──イラっときましたか。

そう。「なんでそこしくじるの、チャオ!」みたいな。だって本当にドジなんですもの。「なんでそんなこともわかんないの、この子」って。でも、そのもどかしい気持ちが、だんだん愛情に変わっていく感じがして。アタシ、日常でもそうなんですけど、そういうダメなところも「もう!」って言いながら、かわいくてポンってたたきたくなるタイプなんです。チャオはそういう愛らしさを持ってるなと思います。若い頃の気持ちを取り返したって言ったら大げさだけど、ほっこりする感覚を思い出しました。そこから「この2人の恋模様を最後まで見届けようかしら」という気持ちになって、最後は普段ほとんど恋をしないアタシでも、やっぱり恋愛っていいなと思ったくらいよ。

「ChaO」より、ミスをして涙ぐむチャオ

「ChaO」より、ミスをして涙ぐむチャオ

「ChaO」より、絶叫するチャオ

「ChaO」より、絶叫するチャオ

──もう一方の主人公であるステファンはいかがでしたか? 彼は一見すると自分の意志があまり見えない、巻き込まれ型のキャラクターですよね。

うーん、ステファンのような人生は、アタシは嫌だなって思いましたね(笑)。自分の意志じゃなく、よくわからないまま流されて、気付いたら結婚しちゃってた、みたいな。アタシにはそういう要素がまったくないので。自分の意志がしっかりしてるから。

──アレン様は自分の意志で人生を切り拓いていくタイプですもんね。

そうなの。だから今の若い子たちには、ステファンの姿を見て、嫌なことは嫌だって言える強さを身に付けてほしい。周りに流されるだけじゃなくて、自分の人生なんだから。ステファンは、シー社長や世間に逆らえずに流されていくけど、アタシはそういう生き方はしたくない。ただ、そんなステファンもついに勇気を振り絞るじゃないですか。自分の意志で動いて、失った愛を取り戻そうとする。そういう意味では、同調圧力の中で生きている子たちが観たら、共感できる部分があるのかもしれない。

──登場するキャラクターの中で、ご自身に一番近いと感じたキャラクターはいましたか?

いないザマス! そもそもアタシに類似する人なんてこの世にいないのよ(笑)。ステファンもチャオも全然違うし……。友達のロベルタは、ぶっ飛んでるけど恋愛には臆病だったりして、それもまた違うし。でも強いて言うならシー社長かしら。

「ChaO」より、山里亮太が声を当てたシー社長(奥)

「ChaO」より、山里亮太が声を当てたシー社長(奥)

──彼はビジネスのためなら魂も売る、みたいなキャラクターですが。

「おいしいところはちゃんと持っていきます」みたいな感じがあって、人生をどこか面白がっていて、世の中の波にうまく乗っていくところは、アタシにも当てはまるかもしれないですね。

アタシに合った強い役、面白い役だったらやってみたい

──アクションシーンも多彩でした。カンフーやカーチェイス、ロボットも登場しましたが、そういった映像美あふれるシーンの数々はいかがでしたか?

本当に“素”で言うと、そもそもアニメっていうジャンル自体に触れてこなかったので、そういうものに気持ちが高ぶる感覚がないの。アニメの楽しみ方をまだ知らないって言ったほうがいいかしら。どう受け止めたらいいの?と思って。何しろ、ほぼ初体験ですから。

──ちなみに、ハリウッドのアクション映画などはいかがですか?

それは大好き。「すごいお金を掛けてるなあ」「これ、どうやって撮ってるの?」とか、そういう視点で観てしまうの。いくらCGって言っても、ここまでリアルにするのはすごいなとか。メイキング映像まで観て、「え、ここ本当に飛んでるんだ!」って驚いたり、そういうのが楽しいのよ。

──なるほど。では、アニメにおけるリッチさや豪華さという概念自体が、まだアレン様の中にはなかったということですね。

その通りザマス。だから「ChaO」を観たときは、ハリウッド映画を観るときの感覚とは全然違ったの。とにかく情報量が多すぎて、わけがわからなくて(笑)。

アレン様

アレン様

──ちなみに、本作には俳優やお笑い芸人が声優として参加されていますが、もしアレン様に声優のオファーが来たらどうしますか?

アタシに合った強い役とか、面白い役だったらすごくやってみたいですけど……。

──ぜひ観てみたいです。

でもアタシ、一度だけ映画のナレーションをやったことがあるんですけど、苦手っちゃ苦手な部類なんですよ。何回も録り直しさせられて、アタシ、少しイライラしちゃって。「いいじゃない、これで! これ以上どうしろって言うのよ!」みたいに(笑)。

──アフレコ現場では、一言のために何十回も録り直すこともありますからね。

そうなのよ! そのナレーションのときも、「もっとイントネーションを標準語寄りにしてほしい」とか言われて、内心「やってんだろうがよ!」って叫んでたのを覚えてるから、ちょっとトラウマなの(笑)。

──オファーがあっても少し考えてしまう?

うーん、そうね。まあ演じるキャラクターにもよるけど……でも一番は“金”かしら?

──正直でいらっしゃる(笑)。

金次第ザマス(笑)。

アレン様

アレン様

点と点がつながっていく感覚が本当に面白かった

──本作は観終わったあとにポジティブな気持ちになれる作品だと思いますが、そういったテーマ性はいかがでしたか?

そうね。ハッピーエンドで終わるから、映画館を出るときにはすごくいい気持ちになると思う。ただアタシ自身は、ハッピーエンドは趣味じゃなくて、普段はすっきりした気持ちで終わる映画を選ばないんです。

──もやっとして終わる、あるいは考察できるような作品がお好きだと。

そうそう。ホラーとかミステリーとか、観終わったあとにも「あれはどういうことだったのかな」って考えられるような作品ばっかり観ちゃう人なので。だから、こうやって完全にハッピーに完結する作品って、普段のアタシなら絶対に観ないので、すごく新鮮でした。元気をもらえるし、観てよかったと純粋に思える映画でしたね。

「ChaO」より、チャオ(手前)とステファン(奥)

「ChaO」より、チャオ(手前)とステファン(奥)

──アニメ初心者のアレン様には難しい部分もありつつ、それでも「観てよかった」と思えたという点が重要ですね。

本当にそう。途中で「よくわからないから」と観るのをやめちゃったら、この映画のよさは絶対にわからないまま終わっちゃう。でもそこを乗り越えると、どんどん点と点がつながっていく感覚が本当に面白かった。最後には、すべての出来事が腑に落ちて、すごく気持ちよく終わることができました。

──では最後に、この記事を読んでくださっている方々、アレン様のファン、まだこの映画を知らない方々へメッセージをお願いします。

普段はアニメもラブコメも一切観ないこのアタシが、この映画を最後まで観て、不器用な2人の恋にすごくほっこりした気持ちになりました。ステファンとチャオの不器用な愛の形に注目して、皆さんもぜひ、温かい気持ちになっていただきたいなと思います。アニメが好きな方はもちろん、アタシみたいに普段観ない方も、新しい扉が開けるかもしれないから、挑戦してみてほしいわ!

アレン様

アレン様

プロフィール

アレン様(アレンサマ)

マダムタレント。2014年に「日本一の謎の整形男子」としてデビューし、タレント活動を始めた。整形の総額は1億円以上。3年間の「整形ちゃんねる」への出演を経て、2023年3月には自身のYouTubeチャンネル「アレン様のゥットリ・ブチギレ人生」を開設。美容家としてテレビやYouTube、SNSを通して発信を続けている。2024年10月に公式ファンブック「全てアレン様が正しいでございます」(玄光社)を出版し、2025年9月29日には幸福論をテーマにしたエッセイ本「幸せになりたいとほざくァンタ達へ」(幻冬舎)を刊行する。


2025年8月14日更新