映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月は「オデュッセイア」「
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「月刊おもしろ映画宣伝」7月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「ジュラシック・ワールド/復活の大地」
映画「ジュラシック・ワールド/復活の大地」の日本最速上映ファンイベントが、本日7月23日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、監督のギャレス・エドワーズ、脚本家の デヴィッド・コープ、そして日本語吹替版キャストの 松本若菜、 吉川愛、 楠大典が登壇した。
今月も景気のいいニュースから。ギャレス・エドワーズ監督は新作のたびに日本に来てくれるイメージでしたが、なんと8回目の来日とのこと。一方で大御所のデヴィッド・コープは初来日とのことですが、2人とも名前入りの法被という日本映画宣伝界おなじみの歓迎を受けて楽しそうなのが何よりです。
さらにヒットを祈願し、巨大絵馬に願い事を書く演出も。コープは映画のセリフから「LIFE FINDS A WAY(生命は道を見つける)」を引用。一方のエドワーズは「65MILLION YEARS」に線を引いて「YEN」と書き変え、「恐竜が生きていたのは6500年前だったんですけど、わざと6500万円にしました。でも、それってそんなに大きい数字じゃないので……」と言って再びペンを手にする。そして「OPENING DAY」と付け加え、「初日で6500万円(の興行収入)を目指します!」とちゃめっ気たっぷりに締めくくった。
謙虚かつちゃめっ気もあるけどこだわりも人一倍強いギャレス監督の性格がよく伝わるムーブに笑ってしまいました。
「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」
映像は、速水がヒーローチーム“ファンタスティック4”のキャラクターをイメージして「ファンタスティック4(クアトロ)ピザ」を調理する様子を収めたもの。速水が特殊能力を使う姿が確認できる。アシスタントはファンタスティック4をサポートする高性能ロボット・ハービー(H.E.R.B.I.E.)が担当した。
「こういうものを観るために映画の宣伝を追ってるんだなあ」と改めて感じた素晴らしい特別映像です。お料理と映画を組み合わせるというのはよくありますが、こちらはかなりアイデアが練られたものだと感じました。「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」の予告編にザ・シングとハービーの印象的な調理シーンがあること、アメコミ好きとしても有名な
映画「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」特別映像(速水もこみちによる「ハービーファンタスティック4分クッキング」)
「星つなぎのエリオ」
劇中では、天文学者で作家の故カール・セーガンが「宇宙に存在するのは人類だけか、我々は孤独か」と語る実際の音声が使用されており、野口はその吹替を担う。彼は「我々世代にとってカール・セーガンさんの『コスモス』というテレビ番組は非常に影響力があって、あの番組を見て宇宙飛行士になりたいと、宇宙科学関係で働きたいと思った人はいっぱいいると思うんです。私も高校生くらいの時だったのですが、毎回放送を楽しみにしていたことを覚えています」とコメント。
宇宙が舞台の映画に宇宙飛行士の
「星つなぎのエリオ」については「はるか遠い宇宙の冒険活劇のようだけど、これは孤独と絶望に苛まれる少年エリオが大切な人との心の絆を取り戻す、魂の再生の物語です。さまざまな出会いを通して、姿の違いや意見の衝突を乗り越えながら、エリオは共生することのすばらしさを学んでいきます。誰からも愛されない、必要とされてないと嘆いているあなたにこそ、この映画を観てほしい」と述べた。
映画についてのコメントも素晴らしいですね。ますます映画が観たくなりました!
「オデュッセイア」
「オッペンハイマー」「インターステラー」で知られるクリストファー・ノーランの最新作「The Odyssey」が邦題「オデュッセイア」で2026年に日本公開決定。ビターズ・エンドとユニバーサル映画が配給する。
クリストファー・ノーラン監督の新作の邦題が決定!という個人的にはグッとくるニュースでした。既に同じマット・デイモン主演作で「オデッセイ」(原題:The Martian)という映画が存在するため、この「The Odyssey」の邦題はどうなるんだろうとずっとヤキモキしていたのですが、「オデュッセイア」に落ち着いてホッとしました。数年に一回ぐらい「これ邦題どうするの?」と話題になる映画があり、時には同じ邦題の映画が複数できてしまう、ということがたまにあるのですが、今回はかなり順当な形で着地してよかったと思いました。
「子鹿のゾンビ」
オーストリアの作家フェーリクス・ザルテンの児童文学「Bambi: Eine Lebensgeschichte aus dem Walde」に登場する、純粋無垢な子鹿のバンビ。そのイメージを崩壊させ、ゾンビとして描いた映画「子鹿のゾンビ」のポスタービジュアルが解禁された。
すっかりおなじみとなったパブリックドメイン入りした有名キャラクターをモチーフにして作られるホラー映画シリーズの新たな1作「子鹿のゾンビ」。私が注目したのはそのキャッチコピーです。
ポスタービジュアルには、満月をバックに狂獣化したバンビの姿が捉えられ、「せんべいだけじゃ、生きていけない。」という絶望・怒り・悲しみを包み込んだ怨恨の叫びが文字として添えられている。あわせて解禁された場面写真には、女性がバンビに追われるシーンや、鏡に映る鹿の前でおびえた表情を見せる一幕が切り取られた。
「せんべいだけじゃ、生きていけない。」。牧歌的ながら悲しみも感じるいいキャッチコピーです。記事の「絶望・怒り・悲しみを包み込んだ怨恨の叫び」という表現にも唸りました。このホラー映画シリーズは引き続きこのようなノリで配給され続けてほしいなと思いました。
「バレリーナ:The World of John Wick」
映画「バレリーナ:The World of John Wick」と神奈川県警によるタイアップが決定。映画のビジュアルを使用した防犯ポスターが作成された。
これには驚きました。防犯ポスターと言えば正義の味方とコラボするという思い込みがありましたが、殺し屋たちが防犯を呼びかけるというすごい事態になっています。
防犯ポスターには、鋭い眼光を放つ登場人物たちが集結。「高額報酬」「即日現金」「荷物を受け取るだけ」といった誘い文句に対し、「甘い言葉には報い(コンセクエンス)がある!」とキャッチコピーが添えられた。この“コンセクエンス”は、前作「ジョン・ウィック:コンセクエンス」に由来しており、闇バイトに手を出せば必ず代償があるという警告が込められている。
確かに思い返してみれば組織の掟を破ったことで仲間からも命を狙われ続けるジョン・ウィックや幼い頃から殺し屋として育てられたイヴなど闇社会の恐ろしさを知っているキャラクターだからこそ説得力のあるポスターだと気付きました。ある意味「俺みたいになるな!」ということなのかもしれません。
「ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝」
YouTubeで公開された予告編には、ビル・スカルスガルド扮するボーイが必殺の武器“ブラストナックル”を拳に装備し、敵を一掃していく様子を収録。ナレーションはアニメ「幽☆遊☆白書」の桑原和真や「呪術廻戦」の漏瑚(じょうご)、「ワンピース」のバギー、「北斗の拳」の次週予告ナレーションなどで知られる 千葉繁が担当した。
まずは「ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝」というド派手な邦題に度肝を抜かれましたが、さらにスーパーハイテンションな千葉繁さんのナレーションにも圧倒されました。なんというか「こういう濃い味付けの映画です」ということが邦題と予告編からも十分に伝わって、いい宣伝だと思いました。ぜひこの濃い味付けをご堪能ください。
映画「ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝」予告編
「入国審査」
スペインのサスペンス映画「入国審査」より、特別映像がYouTubeで公開。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗が、入国審査をスムーズに通過するためのコツを伝授している。
こちらは私が大好きな「専門家に聞け!」宣伝の最新作です。実際に映画内で描写されることと紐付けて入国審査での正しい振る舞いについて解説してくれています。こういう動画を観ると映画で描かれていることのリアルさと、自分にも起きるかもしれないという嫌な身近さを感じられていいですね。
映画「入国審査」特別映像(鳥海高太朗が教える“入国審査”をスムーズに進めるためのコツ)
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!
「スーパーマン」
映画「スーパーマン」を監督したジェームズ・ガンが、「ゴジラ-1.0」で知られる 山崎貴とオンラインで対談。スーパーマンとゴジラという、時代を超えて愛されるキャラクターを改めてスクリーンに映し出した2人のクリエイターが互いの活躍を称え合った。現在、その模様を収めた映像がYouTubeで公開されている。
今月のMVPは「スーパーマン」です! 映画も最高だったのですが、こちらのジェームズ・ガン監督×山崎貴監督の対談が本当に素晴らしかったのでぜひ紹介させてください。
アジアの映画として初めてアカデミー賞の視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-1.0」について、ガンから「ここ数年で私の大好きな映画の1つ」と称賛を贈られた山崎。彼はうれしそうに笑いながら、新作の「スーパーマン」を「不思議なものがたくさん出てくる世界が舞台なのに、キャラクターたちの人間らしい行動原理が全部納得できる。そこが集約しているのが本当に見事でした」と絶賛する。これにはガンも「この映画について聞いてきた中で最高のほめ言葉です」と大喜びの様子を見せた。
このコラムでは山崎貴監督とハリウッドのクリエイターとの対談を何度か取り上げましたが、毎回トークの雰囲気がよく、面白い話がザクザク出てくると感じていました。今回の対談動画を観て改めて山崎監督および「ゴジラ-1.0」がリスペクトされていること、そして山崎監督の控えめながら率直な感想を述べたり同じクリエイター目線で気付いた点を指摘したりという柔和な姿勢がいいトークにつながるということに気付きました。特にこの時代に「スーパーマン」を作ることの難しさと、作品に込めたメッセージの話は本当に素晴らしい内容でした。飼い犬の話などクスッと笑えるところもありつつ作品の理解がより深まるというMVPにふさわしい動画ですのでぜひご覧ください。
映画「スーパーマン」対談映像(ジェームズ・ガン×山崎貴)
今月の宣伝を眺めていて感じたのは明るい楽しさでした。アメコミ映画や恐竜映画、宇宙SF映画からゾンビのバンビ、殺し屋組織や近未来アクションや厳しい入国審査などさまざまな映画の宣伝がありましたが、どこか明るく楽しい雰囲気を感じました。私が勝手に感じただけかもしれませんが、夏休みや長期休暇などで映画館がより賑やかになるサマーシーズンだからこそ全体的に明るく盛り上げていくような宣伝が多かったように感じます。しかも作品の魅力をさらに引き出してくれるような宣伝でとても楽しい気持ちになりました。夏本番となりましたが皆さんも体調と暑さ対策には気を付けて映画館に行きましょう!
以上、月刊おもしろ映画宣伝2025年7月号でした。次回もお楽しみに!
- ビニールタッキー
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映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。
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ビニールタッキー @vinyl_tackey
映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」7月号が公開されました!今回はサマーシーズン到来!ということで明るく楽しい映画宣伝が多かった印象です。暑い夏ですが映画を見て楽しみましょう!という記事になりました。ぜひご覧下さい。
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