「子ども達に愛された記憶を残すこと」をミッションに掲げて活動する団体・認定NPO法人チャリティーサンタ。これまでボランティアが子どもたちにプレゼント・手紙を届ける「サンタ活動」をはじめとして、全国の書店と連携して、経済的な理由や被災などで困難な状況にある子どもたちにクリスマスや誕生日に新品の書籍を贈る「ブックサンタ」、誕生日のお祝いをあきらめた親子へ、大人たちが協力してホールケーキをプレゼントする「シェアケーキ」など、さまざまな支援を続けてきた。
そんなチャリティーサンタが、先頃新たなプロジェクト「シェアシネマ」を本格始動させた。これは、経済的な理由などで長期休みに思い出が作れない家庭に、映画館での鑑賞機会をプレゼントするもの。2024年夏のテスト実施を経て、2025年の春休みからゴールデンウイークにかけては、1099家庭・約3000人の親子に劇場での映画鑑賞に使えるデジタルギフトを提供した。今後も映画業界と連携しながら、子どもたちの長期休みに合わせて支援を継続していく予定だ。
映画ナタリーでは、「シェアシネマ」に携わるチャリティーサンタの広報・勝野多喜氏と山越葉奈氏にインタビュー。活動していくうえで大切にしていること、支援家庭や協力企業から届いたうれしい反響、より大きな取り組みへと成長するためにブラッシュアップしたいと感じている点などを語ってもらった。
取材・
「シェアシネマ」とは?
経済的な困難を抱え、長期休みの思い出作りが難しい家庭の親子に、全国の映画館で使えるデジタル鑑賞券を贈るプロジェクト。チャリティーサンタが各家庭への支援を続ける中で「長期休みにおける体験支援の必要性」と「映画館での鑑賞体験のニーズ」を訴える声を、多く受けたことにより立ち上げられた。
支援対象は児童扶養手当、就学援助、生活保護のいずれかを受給している家庭、または同程度の経済状況にある家庭。公式サイトやクラウドファンディングサイトを通じて寄付を募っており、集まった資金はデジタルギフトの購入費や運営費に充てられている。支援者には、毎月のメールマガジンにて活動報告や映画鑑賞を届けた家庭の感想が届けられる。
なお、寄付は通年にわたって募集中。詳細はシェアシネマの公式サイト、またはチャリティーサンタの公式サイトで確認してほしい。
子どもたちがもっと夢を持てる社会になったらいいな
──まずは「シェアシネマ」を主催しているチャリティーサンタに、お二人が仲間入りした経緯から聞かせてください。
勝野多喜 もともと民間企業で働いていましたが、出産を機に社会課題に興味を持って、ボランティアやインターンを経験したあとNPO業界に足を踏み入れました。特に子ども支援に興味があったのと、NPO業界全体が盛り上がる働きをしたいと考えていたところでチャリティーサンタを知ったんです。「自分も楽しめるから」といろんな人を巻き込む感じがすごく素敵だし、可能性がある団体だなと思って1年前に加わりました。
山越葉奈 私は前職では地方紙の新聞記者として働いて、今年の4月にチャリティーサンタに入りました。経済的な理由で何かをあきらめなければいけない子たちがたくさんいることは、記者時代にも知っていて。自分自身、出産・育児を経験して仕事への復帰を考えたときに、通勤に時間が掛かる遠方に住んでいることもあり、それまでのキャリアをあきらめなければならず、悔しい思いをしたんです。“悔しさ”の背景は少し違いますが、そんな子どもたちがもっと夢を持てる社会になったらいいなと感じて、いろいろ探している中でご縁があって働かせてもらえることになりました。
──「シェアシネマ」が映画に関するプロジェクトだということにちなんで、お二人が映画にどのように親しんできたかも伺いたいです。映画にまつわる印象的な思い出はありますか?
勝野 私は群馬出身で、今はもうなくなってしまった映画館に「
山越 子どもの頃に弟と「
──「シェアシネマ」で支援を受けたご家庭のお子さんも、成長してそういう映画との出会いがあるとうれしいですよね。
山越 本当にそう思います。小さな頃に映画に触れるのは、その後の成長の過程でもいい影響になると感じています。子ども時代に楽しんだ映画も大人になって改めて触れたら、また違う見え方をするかもしれないですしね。
募金箱にチャリンとお金を入れるのとは、また違う寄付体験
──では「シェアシネマ」そのものについてお話しいただけますか。チャリティーサンタではいろいろな活動を続けていますが、「シェアシネマ」に限定すると何名くらいの方が関わっているのでしょうか?
勝野 4、5人かな? 基本的にそんなにたくさん人がいるわけではなく……。
──少数精鋭なんですね。
山越 それは私もチャリティーサンタに入って驚きました! 「ブックサンタ」と「シェアシネマ」の両方を担当している人がいたり、基本的にはみんな各プロジェクト専属ではなく、掛け持ちしているんですよね。
勝野 新規事業を立ち上げる際は、まず誰かがプロジェクト立ち上げのために動いて、形になりそうな段階になると携わる人が少しずつ増えていきます。「シェアシネマ」に限らずですが、取り組みについてもっと知ってもらいたいので、「もっと仲間が必要だよね」という話になったタイミングで山越さんが加わってくれて、なんとかがんばっております。私が企業さんとの連携する際の窓口になって、山越さんはプレスリリース作成やSNSなどでの発信を担当してくれています。
──お1人おひとりに重要な役目が任せられているんですね。
勝野 寄付してくださる方の多くが「すごくいい取り組みですね」と言ってくれたり、映画業界の方も賛同して協力的に動いてくださっていることもあり、ここまでは順調に進められているかなと思います。
──お話を聞いていると、すごい働きぶりだなと頭が下がります。正直なところ、運営人数は足りていると感じますか? それとも 「もう少し仲間が欲しい」みたいな気持ちがあったり……。
勝野 仲間は常に大歓迎です! すでに協力してくださっている映画業界の方々のおかげもあり、活動を続けることができています。ですがそのうえで、さらに「シェアシネマ」を成長させるためには、私たちが知恵を絞るだけでなく、業界の皆様の知識やネットワークが必要だなと痛感しています。一緒に映画の感動を1人でも多くの子どもたちへ届けてくれる仲間が増えることは、まさに願ってもないことです。
──なるほど。活動にあたって、「寄付体験をよりよいものにすること」を重要ポイントの1つとして挙げていますが、具体的に大切にしていることはありますか?
勝野 ただ「寄付してください」とお願いするだけではなくて、寄付者の方にも楽しんでもらえる仕組みを作っていくのをすごく大切にしています。例えば「ブックサンタ」は書店で自分の好きな本を選んで寄付できますし、「シェアケーキ」では「ケーキのWA(※編集部注:著名人の誕生日に合わせて寄付を募る活動。
山越 募金箱にチャリンとお金を入れるのとは、また違う寄付体験というところを大切にしているんですよね。
映画業界を盛り上げながら、子どもたちに素晴らしい作品を届けたい
──「シェアシネマ」の活動には、支援を受けた家庭だけではなく、支援者や業界などからも大きな反響が届いているかと思います。
勝野 「シェアシネマ」のメンバーは「映画業界自体を盛り上げながら、子どもたちに素晴らしい作品を届けたい」という思いが強いのですが、最近は協力してくださる企業さんが増えてきて、映画業界の方にも喜んでもらえているのを感じています。
──将来の映画ファンを育てるきっかけにもなるので、長い目で見ると映画業界への貢献につながる活動ですよね。業界の方が手を貸したくなるというか、「何か一緒にやりたい」と感じる気持ちもすごくわかります。特に印象深い声はありますか?
勝野 映画業界の方は、経済的に困難を抱えたご家庭の子どもにも映画を楽しんでもらいたいし、大人になったときに映画ファンになってもらいたいという思いを持っているんですよね。だから「継続すべきいい取り組みだよね」と言っていただけたり、「みんなに知ってもらおうね」と取り組みを進めるうえで一体感が生まれるのがすごくうれしいです。
山越 私は寄付者の方からの「自分は子どもの頃に映画鑑賞をあきらめざるを得ない家庭事情だったから、今の子どもたちのために寄付したい」「つらいときに映画に救われたから、子どもたちにもそういう経験をさせてあげたい」というメッセージがうれしかったです。そういう言葉を読んでいると、「映画ってすごいんだな。映画の力って、目に見えないけどちゃんとあるんだな」と感じます。
“映画館で映画を観る”は宝物のような体験
──2024年のテスト実施、今年の春休みからゴールデンウイークまでの活動を経て、新たな気付きはありましたか?
勝野 “映画館でポップコーンを食べる”というのは、子どもたちが夢に描いた体験だったんだなと改めてわかりました。映画館に行く前から「どこに座る?」とシミュレーションをしているご家庭がたくさんあったり、「映画館に行ってからもう何週間も経ちますが、毎日あの映画の話をしています」という声がたくさん届いたり。「映画ドラえもん」「映画クレヨンしんちゃん」など、新作が必ず上映される映画について「(劇場で鑑賞することに)毎年憧れていました」というコメントも多かったです。やっぱり、子どもたちやご家族にとって“映画館で映画を観る”というのは宝物のような体験になるんだなと実感しています。
──特に子どもに人気の作品は、時間が経ってからテレビ放送されることもありますし、親子で「あのとき観に行ったよね、楽しかったよね」と幸せな思い出を何度も振り返ることができそうですね。
勝野 何度も思い返せる思い出を作ってもらうことを私たちは大事にしているので、映画館は身近にある特別な場所で、いろんなタイミングで思い返せる“家族共通の宝物”が生まれるところだという印象があります。ただ、スキーム(目標達成に向けた具体的な方法・枠組み)がまだまだ完成していないので、まずは多くの人に知ってもらって、「寄付したいな」と魅力を感じてもらえる設計を作るのが課題で、そこをがんばっていきたいなと思います。
山越 映画ファンの方に「寄付したい!」ともっと思ってもらえる機会を作っていきたいですね。「2030年に10万人」という目標を掲げて活動しているので、広報の仕事をしている身としては寄付してくださる方、寄付したいと思ってくださる方、映画業界の方はもちろん、「この映画を観たいけど……」とあきらめてしまうご家庭にも「こういう支援があるんだよ」と情報を届けていきたいです。
勝野 寄付体験の設計の一環として“映画指定の寄付”ができたら素敵だね、という構想がありました。そこで東映さんにご相談したところ、ご協力いただけることになり、今年の夏に「
映画業界の皆さんと広げたい、共感の輪と映画の力
──夏休みの取り組みに向けて、5月半ばまで行われていたクラウドファンディングでは、300万円近い支援が集まりました。親子の招待人数はテスト実施時が380家庭1000人、この春は1099家庭・約3000人でしたが、夏休みはどれくらいを想定されているのでしょうか?(※取材は6月上旬に行われた)
勝野 支援者の方々からのご寄付と、助成金も受けつつ、夏休みには親子4000人を招待できることが決まりました。
──この勢いに乗って、さらに支援の輪が広がるといいなと願っています。今後、より活動の幅を広げていくためにブラッシュアップしたいと感じた点があれば教えてください。
勝野 招待するご家庭は抽選で決めているのですが、もっとたくさんの親子に届けていきたいです。また別事業の「ブックサンタ」ではご家庭に許可を取りながら、子どもがプレゼントを受け取る様子の写真や直筆メッセージを活動報告に掲載しています。「シェアシネマ」でも今後、「どれだけ価値のある寄付をいただいて、価値のあるものを届けられているのか」をリアルに寄付者の方に伝えられる工夫をしていきたいと考えています。
──ありがとうございます。では最後に、活動に賛同する企業が増えているということで、「こういう協力を得られるとうれしい」という思いがあればぜひ聞かせてください。
勝野 映画にはすごい夢があって、ヒーローの活躍には子どもだけじゃなく大人でもわくわくしますよね。この夏に実現する仮面ライダーとのコラボレーションのように、子どもたちに夢と力を与えるヒーローと連携できることは、私たちにとって大きな原動力になっています。今後、こんな素晴らしいコラボレーションをさらに広げていけたらうれしいなと思います。例えば、ヒーローからの音声メッセージといった新たな形の特典を子どもたちや寄付者に届けたり、さまざまなキャラクターとの連携ができたりしたら素敵だなと。寄付者の方々も「シェアシネマ」に関わったからこそ、「特別な体験」ができたと心から喜んでいただけるような形がつくれたらなと思います。
山越 「ブックサンタ」で「この本を読んでほしいな」と寄付をするのと同じで、「この映画を観てほしいな」と感じながら寄付してくださる方もいらっしゃると思うので、そういう方に喜んでもらえるコンテンツを用意したいです。映画業界の方に限らず、こういう文化的な活動を広めたいと思っているほかの業界の皆さんにも、ぜひ興味を持っていただけるとありがたいです。
村上信五のほかの記事
関連人物
杉本穂高@初書籍「映像表現革命時代の映画論」発売中!! @Hotakasugi
“思い出不足”の親子に映画館での特別な体験を届ける、認定NPO法人チャリティーサンタの「シェアシネマ」とは
https://t.co/y5PlFQYRr3