イラスト / トモマツユキ

ナタリードラマ倶楽部 Vol. 6 [バックナンバー]

「アンメット」の絶妙な距離感に“萌え”、「ブルーモーメント」「花咲舞」「9ボーダー」でドラマの曜日問題を考えてみた

「Re:リベンジ-欲望の果てに-」「アンチヒーロー」「Believe-君にかける橋-」「燕は戻ってこない」…明日菜子×綿貫大介が語る春ドラマ後半戦

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「ブルーモーメント」は安全が約束されている日に観よう

──お二人が「花咲舞が黙ってない」の引っ越しを希望している水曜日には「ブルーモーメント」が放送中です。

ドラマ作品情報

綿貫 「ブルーモーメント」は、「これができるってことはもう……映画化決まってる?」って思うくらい、規模感が大きいです。力を入れて作っているのが伝わるし、内容も面白い。けど水曜に観るには正直重いんですよ! 週の真ん中で人の生死問題をやられると疲れちゃって……。こういう危険が伴うストーリーは、安全が約束されている日に観るのがいい。週の真ん中水曜日はまだ後半戦わなきゃいけないので、安全じゃない!(笑)

明日菜子 私も「ブルーモーメント」は楽しみにしてましたが今のところは「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」と「TOKYO MER~走る緊急救命室」の掛け合わせに見えてしまって。でも数々のヒット作を生み出した山P(山下智久)の主演作なので、ここから二転三転あるんじゃないかなと、希望が捨てきれずにいます。

明日菜子

明日菜子

綿貫 第1話でヘリ出動したしね(笑)。となると月9枠もアリなのか……? 気象の知識がすごく役立つので、私は朝ドラ「おかえりモネ」っぽさも感じています。

明日菜子 「正直不動産」の山下さんはちょっと珍しい役どころだと思いましたが、「ブルーモーメント」の晴原は山下さんの十八番という感じがしますよね。

綿貫 もちろんピッタリだし、安定感があります。

明日菜子 今期のフジテレビは月曜に「366日」「アンメット」、水曜に「ブルーモーメント」、木曜に「Re:リベンジ」と、ちょっとズーンとするようなシリアスなドラマが多いですよね。

綿貫 気楽に観られる作品で言えば他局だけど「ミス・ターゲット」がありますよ。今期のドラマで一番“ラブコメ”をやってくれていると思う。主人公の(松本まりか演じる結婚詐欺師・)すみれは、「やまとなでしこ」の(松嶋菜々子演じる)桜子を彷彿とさせます。ストーリー的にも王道だし、今期は何も考えずに観られる作品が少ないから、貴重な存在です。

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明日菜子 松本さんにぴったりな役ですよね。川西賢志郎さん(演じる謙)と沢村一樹さん(演じる竜太郎)がマッチングアプリをやっていて、しかも沢村さんが超人気会員だという設定は、今までマッチングアプリが登場したドラマの中でもかなりリアリティを感じました(笑)。あと恋愛系で言えば「9ボーダー」について語りたい!

「9ボーダー」のコウタロウはちょっと怖い

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綿貫 これは語りがいありますよ。「9ボーダー」は3姉妹を軸に各世代の悩みを描いているけど、その悩みにリアリティが薄いんですよね。19歳でいきなり交際0日婚!流行ってるよね!みたいな流れだったけど、いや流行ってないでしょ。19歳の悩み、もっとあるよ! Z世代の描写が、ちょっと甘いのかもしれない。(川口春奈演じる)七苗の後輩・(箭内夢菜演じる)双葉も、あんなしっかりした会社であんな態度の社員いないよ! その後成長するけど。

明日菜子 実際に29歳や39歳という大台直前を迎えると悩むことも多いと思うんですけど、ドラマのテーマにされると、すでに語り尽くされている感がありますよね。

綿貫 「29歳のクリスマス」というスーパー名作が存在しているしね。あとは七苗の恋愛ターンになってから、テーマがぼやけたというか。自分の生きる道を模索する話なら、七苗は恋愛で救われちゃダメだと思うんですよ。だから恋愛パートはサブで、最終的には1人で生きていくという結末をイメージしてます。今のところ(松下洸平演じる)コウタロウもちょっと怖いじゃないですか。

明日菜子 わかります!! あ、前提として我々は松下洸平さんが好きだということをしっかり書いてほしいんですけど(笑)。そのうえで、コウタロウがちょっと怖いんですよ……。単語だけで会話するときもあるし。

綿貫大介

綿貫大介

綿貫 でもその怖さは、あえてなのかもしれない。コウタロウは正体不明だし、もしかしたら悪い人かもしれないというくだりもありましたよね。

明日菜子 TBSでは「くるり~誰が私と恋をした?~」が火曜22時枠で放送されていますが、どっちも記憶喪失系なんですよね。「9ボーダー」は“私たちがコウタロウの記憶を取り戻す手伝いをしよう”みたいな展開もあったけど、他人の記憶を取り戻すことがはたして彼女たちの年齢問題にどう作用するのかは謎。(畑芽育演じる)八海と(木戸大聖演じる)陽太の雰囲気は素敵ですね! 妹である八海の陽太への恋心に長年気が付かない七苗は、そりゃ恋に鈍感だろうなとは思います(笑)。

綿貫 セオリー的に言うと(井之脇海演じる)朔が、(木南晴夏演じる長女・)六月といい感じになる流れでしょ? やっぱり女性の自立の話なのに、それぞれに恋人候補がいるから恋愛的解決になっちゃうのかな。だったら最初からもっと三姉妹の恋愛物語に振ってくれたら、火曜22時枠で観たい!

明日菜子 確かに火曜22時枠だったら、こういうテンションのラブストーリーだと思って納得できるかも。逆に「くるり~誰が私と恋をした?~」は恋愛モノのように見えて主人公の自分探し物語なので、金曜22時のほうが合ってそう。もう今回のトピックは、完全に曜日問題ですね(笑)。

「燕は戻ってこない」で現実を見せつけられる

──ドラマファンにとって、いかに放送枠問題が大切かよくわかりました。そのほかにお二人が高評価だったのはNHKの「燕は戻ってこない」です。

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綿貫 第1話から超期待してたんですけど、衝撃的でした。女性の貧困問題と生殖ビジネスが主軸の物語です。例えば同じアパートのヤバいおじさん(※)、本当に怖かったじゃないですか……。あんなのドラマで初めて観たなって。久々に「息をのむってこういうことか」と思いました。

※編集部注:石橋静河演じる主人公リキはアパートの駐輪場で、迷惑な停め方をされた自転車を蹴ってしまう。それをきっかけに、酒向芳演じる自転車の持ち主・平岡とトラブルに。嫌がらせを受けるようになる。

「燕は戻ってこない」より、酒向芳演じる平岡(奥)と石橋静河扮する大石理紀(手前)。(c)NHK

「燕は戻ってこない」より、酒向芳演じる平岡(奥)と石橋静河扮する大石理紀(手前)。(c)NHK

明日菜子 わかります……本当に、本当に怖かった。

綿貫 男性の住人には何も言わず、若い女性であるリキにだけ絡む。弱い立場の人をターゲットにしているということがダイレクトに描かれています。普通だったら、視聴者に嫌な思いをさせたくないと考えて避けるようなシーンじゃないですか。それをガツンと映しているし、こういうことって、本当にあることなんですよね。現実を見せつけられました。リキは北海道出身で「東京に出たらなんとかなる」と考えるんだけど、結局は派遣の仕事しかなく手取りは月14万円。でもこれって相当リアルですよね。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の(有村架純演じる)音ちゃんを思い出す。

明日菜子 女性の貧困問題、女として生まれたことへの嫌悪感、だけど「一度ぐらい女でよかったと思いたい」っていうそれぞれのトピックスがどんどんつながって、“代理母”という選択肢に結びつくのが恐ろしかった。

綿貫 そのセリフ、最初はリキの同僚である(伊藤万理華演じる)テルが言うんですよね。一般的にはドラマだと、女性が得する描写も多い。例えば“女性が美貌を使ってお金を男から巻き上げる”みたいなシーンとか。でも、それって男社会が描く仮想敵というか、幻想ですよね。「燕は戻ってこない」は「しっかり現実を描こうとしたらこうなんです」っていうドラマだから、多くの男性がちゃんと観なきゃいけないと思う。

「燕は戻ってこない」メインビジュアル (c)NHK

「燕は戻ってこない」メインビジュアル (c)NHK

明日菜子 貧富の差の描写も生々しいですよね。リキが履いているスニーカーがボロボロだったり、古い自転車で職場まで通っていたり。1話ではリキとテルがコンビニで全然クリームが入っていないシュークリームを分け合っていましたが、2話では裕福な(内田有紀演じる)悠子が友達とクリームたっぷりのシュークリームを頬張るシーンがありましたよね。貧乏な生活から抜け出すために代理母をやろうとするなんて、ぶっとんだ設定に見えますが、リキと違う環境で生きている人や男性が観ても、理屈が通るわかりやすい作りになっています。

綿貫 “貧富の差”という観点ではリキと悠子は比較対象に見えるけど、実はリキに代理母の依頼をする悠子も被害者なんですよね。彼女も苦しみを抱えるじゃないですか(※)。代理出産がビジネスとして成立していたとしても、劇中のケースで利益をもたらされているのは(稲垣吾郎演じる夫・)基、つまり男性でしかないんです。

編集部注:元バレエダンサーの基と妻・悠子は、長い不妊治療の末に子供を持つことをあきらめる。しかし自らの遺伝子を継ぐ子を望む基は、高額の謝礼と引き換えに子供を産んでくれる代理母を探し始めるのだった。

「燕は戻ってこない」より、内田有紀演じる草桶悠子(左)と稲垣吾郎扮する草桶基(右)。(c)NHK

「燕は戻ってこない」より、内田有紀演じる草桶悠子(左)と稲垣吾郎扮する草桶基(右)。(c)NHK

明日菜子 基が悠子を説得するときに「その人はさ、自主的に代理母やりたいって申し出たんだよね? 俺たちは対価を払う。お互いWIN-WINなんだよね?」と言っていたのがポイントだと思いました。リキは目の前に(代理母になるという)選択肢があるだけで、誰かに命令されたわけじゃない。引き返すことだってできる。でもリキは、社会に強制されているんですよね。

綿貫 本当にそうなんですよ。リキは結局「あなたのせいでしょ」「あなたが選んだんでしょ」と言われるかもしれないけど、そうじゃない。そもそも、なぜリキが貧しい暮らしをせざるを得なかったのかという部分が問題なんです。基からすれば「それもあなたの責任」なんだろうけど。自己責任論ってやつです。

明日菜子 いやー、とんでもないドラマですね。私たちがフィクションを観る理由って、ただ楽しみたいというのもありますけど、自分の人生では経験できないことを知るという側面もあるのだと、この作品で改めて感じました。みんなに観てほしい!

春ドラマで学んだ教訓「頭の事故には気を付けて」

──たくさんお話しいただき、ありがとうございました。春ドラマトークも楽しかったです。

明日菜子 やっぱりこうして振り返ると、NHKのドラマは伝えたいテーマがしっかりしていてずっと面白いですね。今期の民放ドラマから得たメッセージは「頭の事故には気を付けて」ってことなので、常日頃から心掛けたいと思います。

綿貫 本当に記憶喪失系多かったよね。あと、権力と戦っているドラマを数えたらとんでもないことになりそう。これは「エルピス」の功績かもしれないけど、みんな一気にテーマかぶりしすぎ! だから今期は余計に「おいハンサム!!2」みたいな日常系のドラマに目がいっちゃうのかも!

左から明日菜子、綿貫大介。ポーズは、「Re:リベンジ-欲望の果てに-」の海斗と大友をイメージしたもの。

左から明日菜子、綿貫大介。ポーズは、「Re:リベンジ-欲望の果てに-」の海斗と大友をイメージしたもの。

明日菜子(アスナコ)プロフィール

毎クール20本以上のドラマを鑑賞しているドラマウォッチャー。記憶にまつわるドラマで好きな作品は、中井貴一主演「記憶」。

綿貫大介(ワタヌキダイスケ)プロフィール

エンタメを中心としたカルチャー分野で活動する編集者・ライター・テレビっ子。好きな記憶喪失キャラはドラマ「花より男子2(リターンズ)」の道明寺。

記事に登場したドラマの放送日時はこちらから

「アンメット ある脳外科医の日記」

カンテレ・フジテレビ系 毎週月曜 22:00~

木曜劇場「Re:リベンジ-欲望の果てに-」

フジテレビ系 毎週木曜 22:00~

木曜ドラマ「Believe-君にかける橋-」

テレビ朝日系 毎週木曜 21:00~

日曜劇場「アンチヒーロー」

TBS系 毎週日曜 21:00~

土ドラ9「花咲舞が黙ってない」

日本テレビ系 毎週土曜 21:00~

土ドラ10「街並み照らすヤツら」

日本テレビ系 毎週土曜 22:00~

水10ドラマ「ブルーモーメント」

フジテレビ系 毎週水曜 22:00~

日10ドラマ「ミス・ターゲット」

ABCテレビ 毎週日曜 22:00~

金曜ドラマ「9ボーダー」

TBS系 毎週金曜 22:00~

火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」

TBS系 毎週火曜 22:00~

ドラマ10「燕は戻ってこない」

NHK総合 毎週火曜 22:00~

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明日菜子 @asunako_9

俺が赤楚だ!!!!!!!!!!!!!
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